脳梗塞:標準的治療とその評価法
1) 気道の確保
意識レベル3-100以上で呼吸状態に異常を認める時は意識障害に伴う舌根沈下、誤嚥防止のために気管内挿管を積極的に行う。挿管しない時はSims体位とする。
2) 血管確保
- 脳浮腫を抑えるため5%ブドウ糖の単独投与は避け、必ず電解質入りの輸液を使用する。
- 発症第1日目は輸液量を1000〜1500mlとし、翌日は1500〜2000mlとする。
グリセオールによる利尿効果を考えて適宜増量する。
3) 脳浮腫、脳圧亢進対策
- グリセオール 200ml/1〜2時間 点滴静注
間欠投与 500〜1000ml/日
- 発症早期より開始。グリセオールはマニトールと比べリバウンド現象が少ない。
- CTにおける病巣の大きさ、浮腫の程度、また患者の年齢、心疾患、腎疾患、DMの有無で加減。
- 副作用として高Na血症、低K血症、溶血、高浸透圧性非ケトン性昏睡、腎障害、心不全、血色素尿
- 脳浮腫の極期をすぎたら約1週間で漸減して中止する。
- 脳浮腫は発症2〜3日で極期に達し、2〜3週間で消失する。
- ステロイド剤は効果がはっきりせず、消化管出血などの副作用も多いので原則として使用しない。
- 20% D-マニトール 300ml/1〜2時間 3〜4回/日
- リバウンド現象が強いが即効性があるので、脳浮腫の著しいものや脳ヘルニアの切迫する症例で用いる。作用時間は3時間
- 血液粘稠度を下げる。
Ht値45以上ならば血流改善を目的として、低分子デキストラン500ml点滴静注。以後250〜500ml/日 1〜2時間 5日間まで。
4) 急性期脳血栓症の改善にトロンボキサン合成阻害剤
カタクロット(オザグレルナトリウム) 4V(80mg)+生食100ml ×2/日
- 脳血栓症では1日2時間かけて1日2回2週間連続。
- Caを含む輸液との混注で白濁
5) 脳代謝賦活剤
- ニコリン(シチコリン)500〜1000ml/日 点滴静注
- クロキセート(塩酸メクロフェノキサート)1日250ml 1日1〜3回静注
6) 誤嚥が疑われる時
発熱は肺炎、尿路感染症を疑い、抗生剤を投与する。
ABPC,CEZ, etc
7) 消化管出血予防
- ガスター(ファモチジン) 2IU(20mg)1A×2/日
- マーロックス 30〜60ml/日 3〜4回に分けて内服
8) 血圧の管理
- 降圧剤使用の前に血圧上昇の原因となりうる呼吸障害、膀胱充満、脳圧亢進、不隠、興奮に対する処置を行う。
- 脳梗塞の場合は原則として急性期には降圧しない。
- 上限値は200/100mmHg位とし、これを越えれば降圧する。
アダラート(ニフェジピン)10mg 1/2〜1Cap.舌下
- 脳卒中急性期の血圧上昇は一種の代償機転であるため、無理な降圧な行わない。降圧は180/110mmHgを目標とし、出血性脳梗塞や脳浮腫の進行を考え、過度の降圧は避ける。
- 血圧上昇が持続する場合は脳浮腫の進行や出血性梗塞への移行を考える。
- 血圧低下をきたす例は心脳卒中(心筋梗塞、消化管出血、肺塞栓)も疑って検索する。
- 長時間にわたり昇圧が必要な症例の生命予後は不良。
- 収縮期血圧130mmHg以下では150/85mmHg以上になるようコントロールする。
9) 急性期脳梗塞の治療法
1) 脳血栓・・・血栓の進展阻止、側副血行の改善が重要で、脱水の改善、抗血小板療法が主となる。
血栓溶解療法・・ウロキナーゼ6万単位点滴静注(発症5日以内の症例で7日間の静脈内投与が認められている。なお、一日6万単位では血栓を溶解するとは考えられず、微小循環改善が主体と考えられるので第一選択とはならない。梗塞巣が小さい場合にのみ適応。)
ヘパリン 5000単位静注後、ヘパリン1万単位+5%ブドウ糖500ml 20ml/時間 持続点滴
その他 塞栓症、Progressing Strokeで適応となるものに
- Full dose法:ヘパリン3000単位静注後、15000〜20000単位/日で点滴静注し、APTTで正常の1.5〜2.5倍にコントロール
- Low dose法:ヘパリン9000〜15000単位を一日で点滴静注。APTTのモニター不必要。
注意! 活動性胃・十二指腸潰瘍、重症高血圧では禁忌。
2) 脳塞栓
大多数は心臓由来の血栓であるが、頭蓋内外のアテローム硬化性血栓の剥離による塞栓の場合もあり、心エコー図を取り頚部雑音をドップラーでチェックする。発症10時間後CTにて出血性病変を否定した後ヘパリン5000単位静注。ヘパリン1万単位+5%ブドウ糖500mlを20ml/時 持続点滴。約3週間後症状が落ちついてからワーファリン(ワーファリンカリウム)6〜10mg連日経口投与に変更。PT比1.5〜2.0にコントロールする。
出血性梗塞は発症後2週間以内に起こることが多く、心臓由来の脳塞栓は発症後3週間以内の再発が多い。従って抗凝固療法をいつから開始するかが問題となる。
10) 完成した脳梗塞に対しての治療
- 脳血栓、TIA(Transient ischemic attack)
小児用バファリン(アスピリン)1T(81mg)1×
または
チクピロン(塩酸チクロピジン)200mg 2×経口
- 脳塞栓
発症約3週間後、症状が落ちついてから
ワーファリン(ワーファリンカリウム)6〜10mg 連日経口投与に変更。
PT比1.5〜2.0にコントロールする。
- 心弁膜疾患のある場合はトロンボテストで8〜15%、ない場合15〜30%にコントロールする。月最低1回はトロンボテスト
- 脳梗塞の治療は生涯継続する必要がある。
11) 脳外科へのコンサルテーションのタイミング
頭部内径動脈の高度狭窄例やその他の脳血管の主幹動脈の高度狭窄例で梗塞巣が比較的小さく、いわゆる misery perfusinの状態の症例はSTA−MCAanastmosisが考慮されることがある。再発予防にcarotid arteryendoarterectomyも考慮される。
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