障害年金の基礎知識

 この文章は、北毛病院医療活動委員会が、1996年秋、病院職員向けに企画した障害年金学習会の講演原稿に全面的な加筆修正を行って、一般向けに書き直したものです。

障害年金

 年金は申請主義の権化です。老齢年金でさえ、手続きしなければもらえませんし、もらえる歳になっても通知一つ来ません。しかし申請主義は、逆に知識がある人にとっては得する面も少なくありません。「知識は力なり」を実感できるこの分野は「勉強する価値があります」。これは、税金や広く法律一般にいえることです。

 以下の話は、障害年金についてごく大雑把な知識をまとめたものです。

 年金の種別に関係なく、年金を掛けている人ならば受給対象になるのが基礎年金です。基礎年金には、老齢、障害、遺族の3種類があります。老齢年金や遺族年金については、病院ではちょっと相談をお受けしかねますが、身体に障害を有する方が受給対象となる障害年金については、病院の出番です。以下の文章に照らして、もしかしたらということでしたら、かかりつけの先生にご相談されることをお勧めします。

 厚生年金・共済年金に加入しているひとならば、障害基礎年金に加えて、障害厚生年金・障害共済年金をもらえます(無論条件付きです)。先に書いたことと重複しますが、国民年金が、全年金の共通の基礎としてあり(基礎年金)、これに厚生年金や共済年金が上乗せされる仕組みになっているのです。

 さて、障害年金はどういう方が受給対象になるのでしょうか。障害年金の受給には障害についての診断書が必要です。診断書代は結構高いので、闇雲に申請してもお金の無駄です。どういう条件に該当される方が、実際の手続きを進めて行くべきでしょうか?

 障害年金という以上、障害を有する方が対象になります。申請できる障害はおおきく7つあります。
 

  1. 眼の障害
  2. 聴力・鼻腔・口腔(そしゃく・言語)の障害
  3. 肢体の障害
  4. 精神の障害
  5. 呼吸器疾患
  6. 心・腎・肝疾患、高血圧、糖尿病
  7. その他
一覧表はもちろんありますが、かなり膨大なものです。当然、全部を把握している必要はありません。おそらく病院も全部は知らないはずです。要は、年金が取れそうかどうか(つまりは、診断書を頼むべきかどうか)が解ればいいのです。何級になるとか、実際にいくらもらえるかといったことは本職(診断書を作成する医師、さらには受給の可否や障害等級を決定する社会保険事務所など)に任せておきましょう。

 現在私の勤務先では、1、3、4、5と6の心・肝について、実際に申請の経験があります。

 概ね、身障手帳の1・2級が障害年金の1級に、3・4級が2級に相当します。原則として、身障手帳の方が障害年金よりも前に取得できます(障害年金は初診から1年6ヶ月後の障害認定日の症状で診断書を作成するためです)。既に手帳を持っているのでしたら、現在の等級と、先にあげた条件から障害年金が取れるかどうかある程度判断できますね。また、手帳をお持ちでない方は、担当の先生に身障手帳が取得できるかきいてみましょう。
 これで、呼吸器疾患と心疾患と肢体の障害は概ね解決です。

 肝臓病はちょっと大変です。通常、肝硬変の方が対象となり得ます。肝機能障害や慢性肝炎では、ちょっと難しいでしょう。例えば、肝硬変で腹水や食堂静脈瘤があると2級を取れる可能性があります。

 人工肛門は造ったその日から障害認定されます。ただし、等級が3級と低いので、見返りは少ないです。3級では国民年金のひとには無縁ですし、厚生年金ならば障害年金が支給されますが、額は微々たるものです。

 台風の眼が、眼の障害でしょう。認定基準は実にシンプルで、両眼の視力(当然矯正視力です)が0.08以下ならば、2級になります。

 高血圧、糖尿病は、それ単独では障害として認められません。合併症の程度が障害の等級を決めます。

 次いで、他の年金との絡みで、年齢が大きなファクターです。
 基礎年金はどれか一つしか受けられません。ですから、現在既に年金を受けている方は対象外です。例えば65才以上の場合、通常老齢年金を受けていると思いますから、障害年金は対象外です。逆に、60才以下であれば他の年金は受けられないので、ぜひとも申請すべきです。
 難しいのは60から65才の間です。原則としては障害年金を申請すべきです。ただし、老齢年金の繰り上げ請求を利用して既に老齢年金の受給が始まっている方は、残念ながら対象外です。
 また、途中で年金の種類が変わった場合など、障害年金を受けない方が年金が高くなる場合もあるようですから、相談してからの方が無難です。

 以上を簡単にまとめますと、まず、65才以上は対象外、60才以下ならば受給手続きを勧めるべきです。そして、単純に判断しかねるのが60から65才の間です。この年齢層でなんらかの身体障害から受給の可能性がある場合、専門家(病院のケースワーカーや社会保険事務所の担当係など)に相談して判断を仰いで下さい。

 以上のような、手続きを勧めていい場合でも、実際は細かい例外が結構あります。年金をかけていない場合は受給は基本的に無理です。難しいのは(あるいは扱いが面倒なのは)「年金に入ってはいるが、きちんと保険料を払っていたわけではない場合」です。
 残念ながら、実際に書類を受けて受給するかしないかを決めるのは病院ではありませんから、病院職員は一つ一つの細かい規則。例外のすべてを把握しているわけではありません。ただ、年金についてはいろいろなところで相談にのってもらえます。

 まず社会保険事務所へいってみましょう。
 社会保険事務所の年金担当窓口にどういうひとが座っているかが、結構大きなポイントかもしれません。そもそも、どこに最寄りの社会保険事務所があるのかすら、年金に縁がでるまで知らないひとが多いのではありませんか?

 次いで、銀行です。
 年金は銀行振り込みですから、銀行は年金で得をする企業です。だから、銀行の窓口では、結構親身に年金の相談に乗ってくれるようです。これを積極的に利用しない手はありません。最寄りのいくつかの銀行(これは住宅地図で簡単に分かりますね)に相談してみて、親切で正確なアドバイスをもらえたところと年金口座の契約をしましょう。年金の制度は時々大きな変更がありますから、後々もいろいろな相談にのってもらえるような頼れる銀行との契約をお勧めします。

 年金についてはいろいろな書物が出ていますが、多くは老齢年金についての記述で占められています。障害年金については、対象者が相対的に少ないためか、簡単に触れられている程度のものが多いようです。拙文も決して詳しくはありませんが、少しでもみなさんのお役に立てれば幸いです。

 この文章の作成に当たり、以下の文献を参考にさせていただきました。この場を借りてお礼申し上げます。
 


 拙文を公開後、社会保険労務士(社労士)の方からメールをいただきました。「障害年金の相談には、社労士もお役に立てますよ」とのことです。情報ありがとうございました。
 蛇足ながら補足しますと、社会保険労務士(社労士)とは「年金相談のプロフェッショナル」というべき方々です。前掲のものを含め、年金関連の書籍のほとんどは社労士によるものです。仕事柄、オフィスは社会保険事務所の周辺にある場合が多いようです。


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