2001-10/21 二十五難 C班発表 

【はじめに】
 今回私たちがこの難を取り上げた理由としては、この何で述べられている内容は、国家試験のための勉強をする際にはじめから12経あるものとして何の疑問も持たずに経穴名や、流注・要穴などについて勉強していた私たちには発想できないようなことだったので、新鮮であったため。全部で81難ある中で、このようなところはたくさんあると思われるが、この25難が比較的取り掛かりやすそうであったためにこの難を選んでみました。

【原文】
◆二十五難曰.有十二經.五藏六府十一耳.其一經者.何等經也.
然.一經者.手少陰與心主別脉也.心主與三焦爲表裏.倶有名而無形.故言經有十二也.

【訳文】
経絡は12経あるが、五臓六腑をあわせると11しかない。残りの1経は難なのか?答え:この1経とは手の少陰と、心包絡の別脈である。手の厥陰心包経と、手少陽三焦経は、互いに表裏であり、どちらも長くて形がないので合わせて12経としたのである。

【要点】
十二経脈の数を説明し、さらに、五臓六腑にさらに心包絡を加えている。

【疑問点】
・手の心主という言葉については、おそらく手厥陰心包経のことだと思われるが本当にそうなのだろうか。
・心包は、心を守るための者であるのに39,38難で、臓腑の説明をしているのに心包経の記述がないのはなぜか。
・この難で述べられている三焦とはどのような意味があるのだろうか。

Aに対する先生方からの意見:
「心包」の初出は足臂十一脈灸経や陰陽十一脈灸経ではないか。また三陰三陽説の前には一陰三陽という考えがあった。また手の心主とか手の少陰といっているものが内臓とは全然関係ないという記述がある。これは三陰三陽は体表を区分するもので、内臓とは結びついていなかった。霊枢で初めて体表と内蔵が関連しているという生理学が完成した(霊枢経脈篇)。難経は霊枢の流れを受けているので体表と内蔵が関連していることを基本に書かれている。今の経穴の本は十四経発輝が元になっている。だからそこで初めて「心包」の語が使われたのかもしれない。
霊枢経脈篇に「心包絡」という言葉が出てくる。これを元にして十四経発輝で十二経にまとめる時に「心包経」と位置付けた。歴史的には霊枢の段階で「心包」という言葉は出てきている。また素問にもでていたかもしれない。

霊枢 經脉第十.
・・・
心主手厥陰心包絡之脉.起于胸中.出屬心包絡.下膈.歴絡三ウ.
其支者.循胸.出脇※.下腋三寸.上抵腋下.循臑内.行太陰少陰之間.入肘中.下臂.行兩筋之間.入掌中.循中指.出其端.其支者.別掌中.循小指次指.出其端.是動.則病手心熱.臂肘攣急.腋腫.甚則胸脇支滿.心中憺憺大動.面赤.目黄.喜笑不休.是主脉所生病者.煩心心痛.掌中熱.爲此諸病.盛則寫之.虚
則補之.熱則疾之.寒則留之.陷下則灸之.不盛不虚.以經取之.盛者.寸口大一倍于人迎.虚者.寸口反小于人迎也.

三焦手少陽之脉.起于小指次指之端.上出兩指之間.循手表腕.出臂外兩骨之間.上貫肘.循臑外.上肩而交出足少陽之後.入缺盆.布オ中.散落心包.下膈.循屬三焦.
其支者.從オ中.上出缺盆.上項.繋耳後.直上出耳上角.以屈.下頬.至吹D其支者.從耳後.入耳中.出走耳前.過客主人前.交頬.至目鋭眥※.是動.則病耳聾渾渾ララ.S腫喉痺.是主氣所生病者.汗出.目鋭眥痛.頬痛.耳後肩臑肘臂外皆痛.小指次指不用.爲此諸病.盛則寫之.虚則補之.熱則疾之.寒則留之.陷下則灸之.不盛不虚.以經取之.盛者.人迎大一倍于寸口.虚者.人迎反小于寸口也.

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(素問では、検索の結果見つかりませんでした。)

歴史的に医学を五という数字で展開させる学派(五行説)と三陰三陽で展開させる学派が混ざりながらもあったようである。だから手の太陰肺経という言い方自体が東洋医学の集大成とも言える。

【疑問点その2】
Bこの難で述べられている三焦とはどのような意味があるのだろうか。

Bに対する先生方の意見:
 今の中医学的に見た三焦は気血の灌流の作用をもつ。もう1つの機能として水道を疎通するが、この2つの間には歴史的にだいぶズレがある。素問では「三焦膀胱」といって三焦と膀胱をセットにしている。これは概ね口から入った水穀が上焦・中焦・下焦を経る水分の流れを扱うのが三焦膀胱である。霊枢でもこの考え方に近い。ところが難経になると、生体の気血というエネルギーを後天の気に変えて循環させるという方にウェイトがかかってくる。このように「三焦」が表す意味が時代によって若干違うという背景がある。
 書物で見ると「三焦」は、「史記」の「扁鵲壮行列伝」に出てくる。

『扁鵲倉公列伝』
・・・
拷薯經維絡.別下於三焦膀胱.是以陽脉下遂.
陰脉上爭.會氣閉而不通.
陰上而陽内行.下内鼓而不起.上外絶而不爲使.上有絶陽之絡.下有破陰之紐.
破陰絶陽.之色已廢脉亂.故形靜如死状.太子未死也.夫以陽入陰支蘭藏者生.
以陰入陽支蘭藏者死.凡此數事.皆五藏蹶中之時暴作也.良工取之.
拙者疑殆.

・・・

 治療の観点からいえば、湯液では気・血・水で病気の分類をするが、鍼灸はこの分類に加えて気・血・水を動かしている五臓六腑の変調がどこかを探し、十二経で調整することが必要となる。このような治療法の違いで三焦に対する生理学の違いが出てくる。
 三焦は気街とも言う(難経31難)。
 難経では、三消はエネルギーに関した使われ方をしているように思われる。
ここまでで、疑問点の@、Bは解決できたように思うが、Aが残っている。これについては、今回のまとめに書いたように私達は結論付けた。

疑問点:キーワード:「心主」、「三焦」の言葉に付いて難経での解釈のされ方を考えてみる。
・心主
18:心包と置き換えられる。
23:これも心包と置き換えられる。
25:心の機能の一つを受け持っている。心包ととっても良いだろう。
40:これは、心が主るということ。前後の関係から、心包ととるとおかしくなるだろう。
49:40難と同じように、心の主るものととる方が自然であるだろう。
79:基本的には心包のことをいっているだろうが、心ととってもおかしくはないのかもしれないが、もしかすると、この難より前に、心の病に対しては心からアクセスするのではなく、心包からアクセスしていく方が良いという事が述べられているのかもしれない。
・三焦
8:脈の説明で生理学的意味を持つだろう。 
31:三焦の生理学。
38:腑の中に三焦がある。
39:臓が六あるといっているが、その六つ目の臓が腎のことをいっている。
45:|中穴の部位の説明の中で三焦を用いている。
62:ここでは補瀉のことについて書かれているようだが、なぜここに三焦がでてくるのかが今の私たちでは、よくわからない。
66:62難に続けて、原穴のことを述べているために、経絡としての意味と三焦そのものの存在を機能について述べられているらしいが詳しいことはよくわからない。

心包経の治療について先生方の意見:
  精神的な疾患に対しては、心包経が有効であるように思われる。また、このような疾患は、気泄や世界情勢など回りの環境とも関連しているように思われるが、もう少し研究していくべきところであるだろう。

【今回のまとめ】
 私たちは、今回の25難で、述べられている12番目の経絡についてすぐに心包経をイメージしていたが、難経の他の難を調べても心包という言葉はでてこない。心主という言葉で、心包のことをいっているようであるため、心包という考え方はあったものの、心包として形づけられていなかったのだろう。ただ、難経が作られた時代に心包という形づけられたものがあったのかもしれないが、特に難経の中では心包という言葉では用いなかったのかもしれない。
 この25難の中では、経絡のことをいっているようであるが、心包を、心主の別脈という言い方をしていることから心包という考え方は、心の働きをサブで受け持っているものではないかと思われる。