<巨刺の臨床>

           日 時:平成14年3月17日(日)
           発表者:小山 昇

 本日の慰安の発表は、礼枢の官鍼編第7に「病左にあれば右にとり、病右にあれば左にとる。」の巨刺についての一行から、臨床で応用していて、相当の治療効果が上げられている事から発表とした。
 その内容は、特に急性であり、靱帯をも含む、骨格筋に疼痛を伴っている炎症所見、すなわち陽実証である。
 ここで少し、巨刺の治療について考える。
それは、このような記述に対し、教員はただ文章を読み、内容の紹介をしたに過ぎなかった。それは、いかに臨床をしていなかった事であり、今振り替えってみても気が付いた。
 また、私が今まで在籍した会でも、この種の内容について、具体的な紹介に出会った記憶がない。ただ、一指導者が某息子さんがスキーで足首を痛めた際、どのように対処したかの紹介話しをしただけで、その方の実例でなかったし、残念ながら、私が、ここに発表した内容には役立たなかった。

症例1  氏名:松●延× 女性 年齢:57才 
経過所見、平成13年7月29日(日)に、家で、左足首を捻り激痛、整形受診。
XPにより、捻挫と判明。湿布・固定をしている。
 現状は、両松葉杖を使用し、2動作歩行で、完全免荷。
他動で、右足首を内返し、外返しをすると、内踝、外踝の直前に激痛を訴えている。

治療及び経過:平成13年7月31日(火)
右の足関節、内踝の前下方1横指と、外踝の前下方の1横指の虚に、持続的な充分な補鍼を施す。(←まちがっても急いだ抜鍼をしない)
 治療をしている際、左足関節を自ら動かしてもらい疼痛の程度を確認を促す。
この治療を連続で4日間施し、疼痛が完治。

症例2  氏名:畑●エツ× 女性 年齢:58才
経過所見:平成13年8月2日(木)の夕方、自営の仕事をしている際、自動車から荷物の出し入れをしていて、右側胸部を痛める。
3日に整形受診し、XPを撮り、肋骨骨折なし。急性筋肉炎。湿布固定。

経過及び治療:平成13年8月3日(金)
左側胸部の、第7肋間の反応点に充分な補鍼を約10分施す。
痛みが消失した状態で抜鍼。

症例3  氏名:鈴● ×子  年齢:63才
経過所見:平成13年8月28日に、自転車どうしでの事故後、頸椎捻挫の治療を受けているが、右足の接触に際し、右アキレス腱部の疼痛をかなり訴えている。

経過及び治療:平成13年10月1日(月)
左アキレス腱部が通常より硬く、弾力性がない。
アキレス腱の上部、承筋、承山から踵に向かって、交互に挟むように、約7分補鍼を施す。
疼痛消失。治療後、歩行をしてもらうも、踵の接触でまったく疼痛を訴えない。

症例4  氏名:小●東×● 女性 年齢:59才
経過所見:平成13年10月14日(日)に、西新井大師に行き、右膝関節の外側に、激しい疼痛を覚える。

経過及び治療:平成13年10月16日 (火)
上記症状の反対側、すなわち左膝関節の外側、胆経上で関節裂隙の中央の圧痛に対し、充分な連続補鍼で約10分。
治療後、膝関節の屈伸、歩行をしてもらうも、疼痛が完全に消失。

考察:これらの症例に共通している内容は、実証、すなわち急性炎症が、皮膚、
筋組織、筋幕、靱帯に発症した事である。
 このような状態に対し、鍼治療でどのように施すかについて、かつて“散鍼”をすると良いと言う抗議を聞いた事がある。
 これは、患部が実証状態であるから、散鍼の瀉鍼をすると言う考えであろうが、意外の他、治効は難しかった。
 また、私が今まで遭遇していないだけかも知れないが、このような症例に応用できそうな、古典で対応の記述に出会っていない。
 それより、生体は、妊脉特脉を中心とした、反対足の同一部位が、虚証状態に陥っている事を“巨刺”の概念が教えている。
 これを、術者が修めた学術で応用し、虚証を的確に触診、虚に対する補鍼、的確なドーゼ、すなわちこの三っつが相まって、激的な治効が上げられる。
 ここで紹介した虚に対する補鍼は、刺入程度から考察すると、決して浅鍼でなく、どちらかと言えば、やや深めとなり、鍼先から感じられる生体の反応は、キャラメルに歯がくっつくがごとく、容易に抜去をさせないような反応を、竜頭から感じ取れる。
 また、刺入の際、深部でやや硬い組織が感じられる。この部まで、刺入をするのが適切であり、この部を斑抜くことは、治効にマイナスとなるので留意する。
 本日発表した治療方法は、あくまで、私の臨床上からであり、より良い施術法があれば御教示をお願い致します。