05-10/16 血の損傷(内感)による下痢 加藤秀郎
- 下痢をしやすい人、便秘をしやすい人がいる。便の含水量が多いと下痢、少ないと便秘である。現代医学では便秘を疾患と見る傾向は少なく下痢の方を重要視する。それは下痢の原因を感染症としているからで、そのうえで菌の検出のないものは神経性もしくは機形性的特異例として区分している。
〜では下痢とはどのような状態なのか〜
- なぜ便が液状になるのか?
- それは菌やウイルスの感染とされているが、実際はその逆である。
- そのため便が緩くなって液状化する。
- それが下痢である。
- そして腸液の分泌は腸腺が行う。
- 腸液の分泌は副交感神経支配下にあるマイスネル神経叢によって腸腺が機能すると言われているが、食中毒時に汗をかき鳥肌が立ち脈拍が早くなっているのになぜ腸腺が分泌を行うのかは不明である。ただ腸に繋がる神経のうち、交感神経も副交感神経も混在する腹腔神経節を経由したものが一部あるため、あらゆる条件下で腸はどちらの影響も受けやすいとされる。ただ腸管に関しては、
- 交感神経ー蠕動運動抑制ー便秘
- 副交感神経ー蠕動運動亢進ー下痢
といわれている。
- 例えば緊張したときに、便意が止まる事もあれば下痢になる事もある。普通、夜間の就寝中は便意をおぼえず、朝起きて朝食後に便意を催す。就寝中の便意は下痢であることが多く、朝食後に便意を催さなければ便秘であることが多い。つまり良くも悪くも、自律神経の働きの通りには行かないのである。
- そして自律神経というものは、交感神経、副交感神経のどちらかのみが常に働いているわけではなく、お互いが拮抗しながら働き在っている状態にある。状況に応じて拮抗比率を常に変化させながら、微妙なバランスで人体生理を営ませている。だから交感神経が働いているだけだから便秘、副交感神経だけが働いたから下痢ということにはならない。
つまり |
何かの状態があって腸腺の分泌機能が促進したと言える。 |
〜何かの状態とは?〜
- 「腸内汚染の洗浄」というのが1つあるが、その他に下痢の原因と言われていることは「冷え」「食べ過ぎ」「過労や体調不良」「アレルギー」「体質」「沈思悲観」などである。うち現代医学では「食べ過ぎ」は消化器官への過剰な圧迫伸展反射による副交感神経の過亢進、「アレルギー」は腸内洗浄作用の誤作動と言われているが、「冷え」「過労や体調不良」「体質」「沈思悲観」については不明である。しかし鍼治療の臨床現場においては「アレルギー」も含めた原因不明の「冷え」「過労や体調不良」「体質」「沈思悲観」についての下痢症が多く、当然、感染症による下痢はほとんどない。感染症による場合はロタやノロといったウイルスの風邪であるが、それも「冷え」や「過労や体調不良」からの複雑にこじれての来院が多い。間違いなく言えることは、下痢をすると体力が落ちると言うことである。
-
〜その理由は東洋医学で考える〜
- 例えば「冷え」「過労や体調不良」「体質」「沈思悲観」と「腸内の汚染」「アレルギー」との排便時の違いは、「冷え」「過労や体調不良」「体質」では排尿があって「腸内の汚染」「アレルギー」では、ない。物理的には腸内に分泌される水分量が多すぎて、尿が作られないのである。なぜそうなるのかと言えば「腸内の汚染」「アレルギー」は必要なために腸内分泌が起こるからで、対して「冷え」はついでに起こるのであり「過労や体調不良」「体質」「沈思悲観」ではそういったコントロールがうまく働かなくって起こるのである。
- このような体の内部の出来事を東洋医学ではどうあつかっているのか?
黄帝内径では下痢を‘泄’というが「難経」にはその分類がある。
- ◆五十七難曰.
- 泄凡有幾.皆有名不.
- 泄は凡(一般的に)幾くつか有るが、皆の名は不有か。
- 然.泄凡有五.其名不同.有胃泄.有脾泄.有大腸泄.有小腸泄.有大
泄.名曰後重.
- 然るに一般的に泄は五つ有る。其の名は不同にて胃泄、脾泄、大腸泄、小腸泄で大
泄は名に後重と曰う。
- 胃泄者.飮食不化.色黄.
- 胃泄は飮食が化ることがなく色は黄である。
- 脾泄者.腹脹滿.泄注.食即嘔吐逆.
- 脾泄は腹が脹満し泄注して、食せば即して逆し嘔吐する。
- 大腸泄者.食已窘迫.大便色白.腸鳴切痛.
- 大腸泄は食が已(止)み窘迫(忙しくトイレに行く)し、大便の色は白(白と透明の両方)にて腸が鳴り切(ないがしろにできない程に)痛い。
- 小腸泄者.溲而便膿血.少腹痛.
- 小腸泄は大小便に血膿が混ざり少腹(脇腹)が痛む。
- 大
泄者.裏急後重.數至
而不能便.莖中痛.
- 大
(か;きず)泄は裏急(肛門付近の奥の方が引きつる)というタイプの後重にて數至
(何度もトイレに行く)が、便は不能す(出ず)莖(陰茎)の中が痛む。
- 此五泄之法也.
- 此れが五泄の法なり。
- 胃の下痢の便は食べたものがあまり腐熟せずに鮮明な黄色のままだという。
- この状態で多いのは食べ過ぎの時の腹下しで、同時に夏場の水分の取り過ぎや急な冷えなども鮮明な黄色の便を排泄する。
- 脾の下痢は腹が張ってトイレに駆け込めばすぐにシャーという感じで排泄するタイプで、しかも食はあるが食べるとすぐに嘔吐する。
- 胃泄の進んだものが脾泄である。この二つの特徴は、飲食することが出来ると言うことである。
- 明記はないがおそらく便色は同じに鮮明な黄色であると思う。便色は腹の中で腐熟されて焦茶色になると思われていたであろうから、鮮明な黄色とは脾胃が働かなくて腐熟が進まないことと、黄という色そのものから胃泄脾泄となったと思われる。
- 大腸の下痢は食が止まるが忙しくトイレに行く。大便の色は白か透明で子供の場合は白く大人は透明になってしまうのが排泄される。腸が鳴り普通生活が営めないほどに痛い。
- 胃泄脾泄とは別のタイプで食中り、食中毒もしくは感染症などの症状である。食が止まりながらも排便があるのは大腸の過剰な働きと考えたことと、白色便から大腸泄となったと思われる。もしくは胃泄が脾泄にならず相生的に大腸泄へと、すすんだものとも考えられる。基本的に白いのは子供の白色便性下痢で、大人は食が止まって下痢をし続けると便が水のように透明になる。
- 小腸の下痢は大小便に血膿の混ざって横腹が痛む。
- 大腸泄がすすんだ下痢で‘溲(そう;大小便。とくに、細長くしぼり出す小便)’とあることから血膿の混入が小便にもあると考えられる。血膿で赤いため小腸泄だと思われる。そのうえで大腸泄で過剰に働いていた大腸が、相剋側である小腸に抑えられ、病気の状態を起こしている働きの中心が小腸に移行したからとも考える。感染性の腎炎や痔瘻、もしくは尿路結石とそれによる腎炎。その腎炎のための腎の機能低下からの余剰水分が、腸に排出された状態などが考えられる。
- 大
の とは、玉を加工する際に着いたその玉が使い物にならない様な傷の事。肛門付近の奥の方が引きつる感じの状態を後重という。何度もトイレに行くが便意はあっても排便はなく、陰茎の中が痛む。
- これは漢方理論の範疇に入らないが、診ることの多いものとして「後重」の紹介をしたのだと思う。罹患原因の一部は小腸泄のすすんだものも含むであろう。感染症による下痢がかなり続いた後のようにも思うし、前立腺肥大や痔瘻なども症状の中にあると考えられる。ただ言えることは症状としてすでに下痢ではない。
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- ‘泄’の原因を言及せずに症状だけを言っている。上記のうち現代でも経験しうるものは、胃泄モ脾泄と大腸泄である。
- 小腸泄、大
泄は馴染みのない内容であるが、終末医療や特老の現場などではあるのかもしれない。ただ下痢という症状を起こす中心は六腑の胃、小腸、大腸にあるといえる。
- ‘6’という数字で表されたものは、
- 都合に応じてかなり自由な汎用性を持って、その使用法を展開することが出来る。
- 六腑とは六つあるわけだが、
- その分類についてこの様に
- 考えてみた。
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-
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- 気、血、水とは人体を機能させる構成要素である。
- 気は体外に向けた働き
- 血は体内での働き
- 水は状況に応じた調節
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素問の靈蘭秘典論篇第八 第一章 に
- ◆胆は、
- 膽者, 中正之官, 決斷出焉.
- 胆は中正の官にて決斷これ(焉)に出ずる。
- 中にあって正しきものは決まっていて、侵入してきたものがその中正にそぐわなければ断じて排出する。
とあって、内から外へと向いたベクトルが、外との関係性を調節するという気としての働き。
ヨこれに「三焦ー膀胱」と「胃-小腸-大腸」が加わります。
◆三焦は、
- 三焦者, 決
之官, 水道出焉.
- 三焦は決
の官にて水道これ(焉)に出ずる。
とは小さくは排水溝を意味し水路となるが、大きくは河川を指して汚濁を浄化することも意味する。
- 決とは刃器で抉(えぐる)る動作を言い、初意は洪水の時に氾濫を防ぐため、堤防の一部を削ることで、後にその判断を決心と言う。
- 健康な時や疾病の時に、もしくは環境対応時に体内水分をどう活用するか、その調整を行う。
- ◆膀胱は、
膀胱者, 州都之官, 津液藏焉, 氣化則能出矣.
- 膀胱は州都の官にて津液これ(焉)を蔵し、氣化させ則ち出すことを能す。
- 州とは水流によって自然に区分された土地。都はそれを人工的に利用区画した大きさの意。体内水分を集め、気化(働きを変えて)させ体外に排出させる。
この二つは扱いが水で、水は上からしてへと流れるものとすると、組合せは上下となる。自然排出として膀胱が下になり、上から膀胱までを三焦が受け持つ。
◆胃は、
- 脾胃者, 倉廩之官, 五味出焉.
- 脾胃は倉廩の官にて五味これ(焉)に出ずる。
- 倉の元々は、青い新米や青草をしまいこむ納屋のこと。廩は役所のくらから支給されてもらいうける食いぶち。五味が出るとは、味を感じ食を欲する働き。
- ◆小腸は、
- 小腸者, 受盛之官, 化物出焉.
- 小腸は受盛の官にて化物これ(焉)に出ずる。
- 受は受け入れる。体内に取り入れる。盛はある器を満たすこと。化物とは食物から抽出された必要栄養素。
- ◆大腸は、
- 大腸者, 傳道之官, 變化出焉.
- 大腸は傳道の官にて變化これ(焉)に出ずる。
- 傳は伝であり人と專であるが、專は大きな袋に物を入れる意。それを人が背負うと傳となる。罪人に遠方へと運ばせ刑罰とし、それに伝葉を入れた。それが通る道であり、その際に食物を変化させ排出させる。膀胱は気化、つまり質気、形気が化することに対し、大腸は変化、つまり形質が化する。
この六腑のバランス図は病症箇所を示す物ではなく、状況に対応する六腑の連携を示している。
小腸の受盛は、体の状態によってその受け入れる器の容量と、受け入れる内容を変えて対応する。その対応によって、飲食する量と質、排出する量と質が変わる。そのため小腸を中心に、脾胃と大腸のバランスをコントロールする。
- 人体は、その時の体調と環境への対応という二つの状態から‘胆’が適切な中正で審判する。その結果から小腸が三焦ー膀胱の上下の位置、脾胃ー大腸の左右バランスの中点を作る。
- 夏の暑いとき、体内の水分量が多く循環が盛んで汗を多くかく場合は、上下軸の上の方に小腸点が位置しこれを上焦とする。
- 喉が渇くことで水分を欲し、そのため胃の機能が亢進する。しかし体温生産が落ち必要カロリーが低下するため、摂取する食べ物が減るので必然的に、排出物も減り大腸の機能は低下する。胃ー大腸の左右バランスは胃が上がって大腸が下がり、胃が前へと出てきて大腸が後ろへと下がる。例えば人体が急激に冷やされた場合は、上下軸の小腸点が膀胱よりへと下がり排尿を促して体内水分量を減らすが、それでも間に合わない場合は大腸の機能を亢進させて大腸が水分を受け取り下痢の形を取って、更に水分を排出して体を冷えから守る。
- そのとき胃ー大腸の左右バランスは
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- 大腸が上がって胃が下がり、大腸が前へと出てきて胃が後ろへと下がる。
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- ○
- 〜ではこのバランス模型から五十七難の泄を考える〜
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- 胃泄は、上下軸は限定できないが、胃ー大腸の左右バランスの胃が上がって大腸が下り大腸が前に来た状態。
- 脾泄は、上下軸がより膀胱へと下がり、胃ー大腸の左右バランスは胃の方がやや上がったまま、状況に応じてクルクルと回転している
- 大腸泄は、上下軸は低く、胃ー大腸の左右バランスは、大腸が上がって胃が下がり、大腸が前へと出てきて胃が後ろへと下がる。
- 小腸泄は、胆の審判から中点を作るという小腸の働きが、壊れてきた状態。
- 大
泄は、六腑そのものの連係機能が壊れた状態。後重とは異常知覚だと思われ五臓の損傷。
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胃泄が食べ過ぎや冷たい飲食からの冷えだとすれば、摂取した物の負担から消化器を守るための瀉的現象といえる。栄養摂取を捨ててでも大腸に水分を回して排出を促進させる理由はそこにある。この段階の時に胃ー大腸の左右バランスを平均化して前に出てきた大腸を戻すようにすれば、次の脾泄へと進行せず体調も正常化していく。
- 脾泄は消化器保護から胃が受け入れ拒否を始めた状態。飲食が入らず栄養が足りなくなって次第に体力が衰えていく。胆から受けた判断を小腸が忙しくこなしていくので、胃ー大腸の左右バランスがクルクルと回る。体力を温存させ、上下軸を上げる。
- 大腸泄は大腸の機能抗進を抑える。胃が物を受けて働くようにするために、水分を多く取る。排泄物の状態を注意しながら小便が出るようになってきたら、少しずつ固形物を食べる。
- 小腸泄と大
泄は、五臓への治療になるかと思う。小腸泄は六十九難での効率的自然治癒力の発揮を、大
泄は七十五難による自然治癒力への直接のコントロールが望ましいのではないだろうか?
六腑のバランス模型図に三陽を配当すると左図になる。
- 上は手の少陽ー下は足の太陽、外へは足の少陽ー出た物は手の太陽、左右は手足の陽明でバランスを取る。
- 上下軸の上ほど少陽となって、体温生産などの体内活動量が減る。手と足というのはこの場合そのまま上下を表す。
- また外へとの対応を計るのは足の少陽であるが、その働きが確認される外へと出た物は手の太陽である。足の少陽の働きは肉体を通じて診察という形で確認でき、手の太陽は症状という現象で確認できる。
- 手足の陽明で体内への出し入れがわかる。足の陽明で体が物質を取り込む様子がわかり、手の陽明でそれが体内で排出されるように進められていることが、体表反応の現象を通じてわかる。
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經脈別論篇第二十一
第四章
黄帝曰: 太陽藏何象.黄帝曰く太陽が藏するは何の象か。
岐伯曰: 象三陽而浮也.岐伯曰く象は三陽にして浮なり。
黄帝曰: 少陽藏何象.黄帝曰く少陽が藏するは何の象か。
岐伯曰: 象一陽也, 一陽藏者, 滑而不實也.
岐伯曰く象は一陽なり、一陽が藏は滑にして不実なり。
- 黄帝曰: 陽明藏何象.黄帝曰く陽明の藏は何の象か。
岐伯曰: 象大浮也, 太陰藏搏, 言伏鼓也. 二陰搏至,
腎沈不浮也.
- 岐伯曰く象は大浮也なり、太陰が藏する博(拍)は言うに伏せた鼓なり。二陰に博(拍)が至るは腎沈にて浮にならぬなり。
少陽は一陽であり、太陽は三陽であるとありすると陽明は二陽である。
- 陰陽離合論篇第六
- 第二章
黄帝曰: 願聞三陰三陽之離合也.
黄帝が曰く願わくば聞きたい、三陰三陽の離合はなにか。
岐伯曰: 聖人南面而立, 前曰廣明, 後曰太衝,
太衝之地, 名曰少陰,
- 岐伯が曰く聖人が南面に立つと前が曰く廣明、後が曰く太衝、太衝の地、名は曰く少陰。
- 少陰之上, 名曰太陽, 太陽根起於至陰, 結於命門,
名曰陰中之陽.
- 少陰の上、名は曰く太陽、太陽の根が起きるは至陰に於いて、結ぶは命門に於いて、名は曰く陰中の陽。
- 中身而上, 名曰廣明, 廣明之下, 名曰太陰, 太陰之前,
名曰陽明, 陽明根起於勵兌, 名曰陰中之陽.
- 身の中より上、名は曰く廣明、廣明の名は曰く太陰、太陰の前、名は曰く陽明。陽明の根が起きるは勵兌に於いて、名は曰く陰中の陽。
- 厥陰之表, 名曰少陽, 少陽根起於竅陰, 名曰陰中之少陽.
- 厥陰の表、名は曰く少陽。少陽の根が起きるは竅陰に於いて、名は曰く陰中の少陽。
- 是故三陽之離合也, 太陽為開, 陽明為闔, 少陽為樞。
- 是れ故に三陽の離合なりて太陽が為すは開、陽明が為すは闔(こう;閉ざす扉)、少陽が為すは樞(すう;扉の回転軸)。
○
- 少陰の上は太陽、太陰の前は陽明、厥陰の前は少陽とあり、上記の三陽図に三陰を配当した図である。
- 六腑と五臓の経絡表裏と一致する。
- 上は手の厥陰ー下は足の少陰、外へは足の厥陰ー出た物は手の少陰、左右は手足の太陰でバランスを取る。
- 上下軸の上ほど上焦、下ほど下焦となって体内の水分状態を示す。
- 左右の手足の太陰は体内に取り入れた物の状況を示す。形があって直接の栄養となる物が足の太陰、情報や環境などの形のない物が手の太陰。
- 形ある物を取り入れて働きへと変えるのが足の厥陰。その働きを現象として表現するのが手の少陰。形のない情報を処理して体に入れるのが手の厥陰。それを肉体へと取り込まれることが足の少陰。
- 陰陽離合論篇第六の第三章の「太陰が為すは開、厥陰が為すは闔、少陰が為すは樞」で太陰は出し入れを、厥陰は取り込みや閉鎖を、少陰でドアの表現で言うドアそのものの働きを言っている。
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- 第三章
黄帝曰: 願聞三陰.
- 黄帝が曰く願わくば聞く三陰とは。
岐伯曰: 外者為陽, 内者為陰, 然則中為陰,
其衝在下, 名曰太陰, 太陰根起於隱白, 名曰陰中之陰.
- 岐伯が曰く外を為すは陽、内を為すは陰、然るに則ち中を為すは陰、其の衝が在る下の名は曰く太陰。太陰の根が起こるは於いて隱白、名を曰く陰中の陰。
- 太陰之後, 名曰少陰, 少陰根於涌泉, 名曰陰中之少陰.
- 太陰の後、名を曰く少陰、少陰の根を於いて涌泉、名を曰く陰中の少陰。
- 少陰之前, 名曰厥陰, 厥陰根起於大敦, 陰之絶陽,
名曰陰之絶陰.
- 少陰の前、名を曰く厥陰、厥陰の根が起こるは於いて大敦、陰の絶陽、名は曰く陰の絶陰。
- 是故三陰之離合也, 太陰為開, 厥陰為闔, 少陰為樞.
- 是れ故に三陰の離合なり。太陰が為すは開、厥陰が為すは闔、少陰が為すは樞。
同じ‘6’で集められた物に六淫がありバランス図に配当すると
- 上下軸の上は暑ー下は寒。外に出るのが風で出た物が火。
- 左右バランスは燥と湿である。
- 上下軸は外環境の状態であり、それに体内においては左右の燥湿で対応する。体の内外をつなげるのが風である。季節には正風がありその暑さ寒さから、体が発する蒸散量を燥湿で表す。それの対応が火である。
- 順当には変化しない四季の気候に、春なら東風、夏なら南風といったようにその季節の風に当たることで、体温生産量や毛穴の開閉量、しいては体内水分量を季節に対して適切に設定していく。生体は風を感じるために外へとアクセスしている。
- そのアクセスの目的であり第一要素が風なため風邪が邪の主となる。
- 毛穴の開閉量が平であれば燥も湿もないが、外気の湿度に対して毛穴が放出しているほどに蒸散がうまくいかなければ湿となり、蒸散しすぎてしまうと燥となる。
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症例 |
- 陽
- (天)
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四時 |
- 毛穴
- 開
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- 体温
- 下降
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飲食 |
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水分上 |
昇 |
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ヨ |
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ユ |
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ユ |
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ヨ |
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ユ |
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- (人)
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- →
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- 六淫
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- フ
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- 三陽
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- フ
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- 六腑
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- フ
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- 三陰
|
- フ
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- 五臓
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- 陰
- (地)
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ユ |
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ヨ |
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ヨ |
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ヨ |
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ヨ |
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- 六気
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- 毛穴
- 閉
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- 体温
- 上昇
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排泄 |
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水分下 |
降 |
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- ○
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- 慢性の腹痛 24才-男性 職業;工場勤務 施術日;05-09/27~数回。継続中
- かねてより遊興的な深夜まで及ぶ飲食が多く、半年ほど前から腹痛をおぼえる。内科では慢性の胃炎との診断。胃酸を抑える薬を処方、効果を感じず来院。元々腹が緩く、一日おきくらいに下痢のような状態。
- ◆視覚所見
中肉中背であるが、腹部がふくらんで張っている。顔には吹出物が多く目の下にクマが診られる。
◆触覚所見
小腹が冷たくここだけ急激に弾力がない。腹は全体がザラッとした感じ。
◆脈の所見
脈は突き上がりが薄く、途中で広がってしまう感じ。下痢をしているためか、拍動に不安定感がある。
- また引き下がるときに急に下がる様な感じがある。しかし脈は全体に太さがある。
◆尺膚の所見
尺膚だけではないのだが、皮膚は荒れている。肌肉は固いがしっかり握ってみると奥の方が軟らかい感じがする。
状態は?
脈の突き上がりが途中で広がるようにして上りきらない感じのこの脈を「沈脈」としている。
- 動脈そのものの拍動が抑制されているようで、生体の働きを制限して保護しているようである。患者は24才の若さで受答えも明瞭で動作も機敏なため、考えられることが過労か寝不足になる。脈には太さはある。
- 数日間の寝不足の時などは、逆に激しく突き上げるような脈がよく診られるが、睡眠不足が習慣化している場合、この様な下の方で膨らんで萎むような脈がよく診られる。もしくは食欲のある人の過労である。
- 患者の主訴は慢性的な腹痛でそれは胃酸過多によるものだが、体質に近い形で下痢症がある。そのため脈の頂点に当たる部分が薄い感じがして揺れているように感じる。しかしその後に急な引き下がり感がある。この感じを「滑脈」としている。
- 腹痛とあるが原因は寝不足も含めていわゆる飲み歩きであるため、栄養は満ち足りている。しかし生体機能が低下していて、その栄養を消費することと摂取することがかけ離れている。そんな不完全燃焼な状態がこの脈から診られる。
- 飲食が過剰で消費活動が少なく、それでいて起きている時間は長いため、適切な水分の分配や燃焼力が低下している。肌荒れは血の濁りと言うが、それは水分の分配がうまくいかず養分も適切ではないことである。摂取しても余ってしまった飲食物を排泄するしかないため、下痢が慢性化しているのである。しかし急激で多量な飲食の摂取が突然始まり胃は忙しく働き、さらに飲酒による嘔吐も重なって胃酸の分泌が休まらず痛む。
- つまり状況に応じて忙しく胃と大腸が交互に機能の上げ下げしているので、この状態は軽い「脾泄」のなごりといえる。
- 尺膚も肌自体は荒れているが、肌肉は堅く張り荒れている割には艶やかである。この尺膚も「滑」である。
処置は?
- 目標は、脈の太さを抑え、スムーズに付き上がって引き下がるようにすることである。
- 蛇足ではあるが1度や2度の治療では不可能である。患者には生活不摂生を抑え、12月の暴飲暴食時期に向けて周に一度くらいのペースでの来院を奨めた。
- この生体は機能の亢進と衰退がバラバラである。まずは消費能力の改善であるため「足の厥陰経」を使って左右の五兪穴を触りながら、脈の太さと「沈脈」が改善反応をする経穴をさがす。
- 証は右の太衝。
- 補佐的に同経同側の行間穴を使う。
標治として督脈の亜門穴、陽関穴。
- 脈の太さが修まりきちんと上まであがるようになったらその後は「滑脈」に対しての処置をする。
- ここまでの治療期間で生活改善も為されたので、滑脈らしさは薄らいでいる。今の生活パターンを受け入れ維持するように「足の少陰経」を使う。生活環境からの情報を肉体が取り込めると慢性的な寝不足が改善され、栄養の摂取と消費の連動が効率よく行われる。
- 証は右の復溜。
- 補佐的に同経同側の太谿穴を使う。
標治として督脈の陽関穴、 大椎穴。
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