06-10-15  五行大義の相剋  加藤秀郎
第十、論相剋
五行雖爲君臣父子、生王不同。
五行というのは(たとえ)君と臣や父と子を爲しているの(だとしても)(すい;たとえ…だとしても)、生まれや王(旺=応;盛んになる事)する時期は不同。
逐忌相剋。剋者、制罰爲義。
(ちく;追う)を忌(き;こばむ)して(勢いを抑え込むを)相剋(対立)すという。剋(相手にうちかつ)とは、罰(ばつ;小罪にたいしてのとがめ。大罪は刑)を制して義(社会的によいと公認されているすじ道。ことばや行いに含まれている理由)を爲す。
以其力強能制弱故、木剋土、土剋水、水剋火、火剋金、金剋木。
以て其の力は強ければ弱きを能(よ)く制す故に、木剋土、土剋水、水剋火、火剋金、金剋木。
白虎通云、木剋土者、專勝散。土剋水者、實勝虚。水剋火者、衆勝寡。火剋金者、精勝堅。金剋木者、剛勝柔。
白虎通徳論の『五行篇』に云うは、
木剋土とは、
(ひとすじ。ひたすら)が散(固まりをほぐす。とりとめのないさま)に勝つ。
土剋水とは、
(中身がつまる)が虚(中身がうつろ)に勝つ。
水剋火とは、
(おおくの臣下)が寡(け;減らす。謙遜の言葉)に勝つ。
火剋金とは、
(すみきった光。エキス)が堅(こちこちに充実するさま)に勝つ。
金剋木とは、
(かたくてつよい)が柔(曲げても折れない。ねっとりしている)に勝つ。
春秋繁露云、木者農也、農人不順如叛、司徒誅其率正矣。故金勝木。火者本朝有讒邪。惑其君、法則誅之。故水勝火。土者君。大奢侈過度失禮。民叛之窮。故木勝土。金者司徒。弱不能使衆、則司馬誅之。故火勝金。水者執法。阿黨不平、則司寇誅之。故土勝水。
春秋繁露の『五行相勝篇』に云う、
木は農にて、農人が不順(規則に従わず)して如(もし;仮定をあらわすことば)(はん;そむく。反逆する)、金である司徒が其の率正(その反逆を先導したもの)を誅(皆ごろしの刑罰)すること矣(となるぞ)。故に金が木に勝つ。
(司馬=軍)が本朝(天子が政治を行うところ。また、その支配した時代)に讒(ざん;中傷)(軍隊の為、その力で朝廷制圧などの目論見)が有れば、其の君を(乱し惑わす)したなら、(水である執法が)法に則りて誅しに之(ゆ)く。故に水が火に勝つ。
土は君。(君主が)大いに奢(しゃ;ぜいたく)(し;むだづかい)の過度があり禮(=礼れい;人の守るべき正しい行い)を失う。民が叛(はん;反逆)して窮(追求)して之(ゆ)く。故に木は土に勝つ。
金は司徒。(司徒の力が)弱く衆(民衆)を使うことが不能なら、則りて司馬が誅しに之(ゆ)く。故に火が金に勝つ。
水は執法。阿(原則を曲げてつき従う。迎合する)(とう;人間の集まり) が不平なれば、則っりて司寇が誅しに之(ゆ)く。故に土が水に勝つ。
司馬
(軍事を掌握する官)
農民
君主
(刑獄を主る官)
執法
(司寇?警察を掌握する官)
司徒
(教育を掌握する官)

勝者爲君、爲夫、爲官、爲吏、爲鬼。
勝は君と爲し、夫と爲し、官(役人の上級職)と爲し、吏(り;役人の下級職)と爲し、鬼と爲す。
負者爲臣、爲妻、爲財。
負は臣(じん)と爲し、妻と爲し、財と爲す。
君以威嚴尊高。夫以徳義隆重。官以能有賞伐。吏以刑法裁斷。鬼以剋殺病喪。竝爲勝者也。
君は以て威嚴(威厳;威圧的できびしい感じ)尊高。
夫は以て徳義(道徳上守らなければならない事柄)を隆重(尊重し盛んになる様に取り扱う)
官は以て能を有し賞伐(手柄を立てて褒美をもらう)する。
吏は以て刑法にて裁斷(取り締まる)する。
鬼は以て剋殺(打ち殺し)して病喪(も;ほろびる)(病を起こさせて死に至らせる)する。竝(へい;ならぶれば)勝を爲すなり。
臣以畏伏其上、妻以敬從其夫、財以休彼制用。竝爲負者。
(じん)は以て其の上(かみ)を畏伏(畏れてひれ伏す)し、妻は以て其の夫を敬從し、
財は以て彼(あ=that)の制用を休む(蓄えとして使わない様にされている)。竝(ならぶれば)負を爲す。
凡上剋下爲順、下剋上爲剥。喩如君有刑臣之法、臣無犯君之義、父有訓子之道、子之無教父之方。
(一般的)に上が下を剋するを順と爲し、下が上を剋するを剥(はく;小人の勢いに押されて、君子が悩むさま)と爲す。
(例える)に君が臣(じん)を刑する法が有り、臣が君を犯すという義は無く、父が子に訓する道が有り、子に父に教える方は無きが如し。
所以上之剋下、順理而行、下之剋上、乖理而剋。
所以(ゆえに)上の下に剋するは、理に順じて行い、下の上に剋するは、理に乖(かい;そむく)して剋。
故白虎通云、陽爲君、陰爲臣、水以太陰之氣、制太陽之火、金以少陰之氣、制少陽之木。
故に白虎通徳論の『五行篇』に云えば、
陽は君を爲し、陰は臣を爲し、
水は以て太陰の気、太陽の火を制し、
金は以て少陰の気、少陽の木を制す。

喩如失道之君。若殷湯放桀、周武伐紂。此皆誅有罪也。凡卜筮得其所剋者凶、得所受制者吉。
(例える)に道を失った君の如し。若(もしくは)殷の湯(王)(夏の)(王)を放(追いやる-追放)ち、周の武(王)(殷の)(王)を伐(うつ。敵をうちやぶる)す。此れら皆(の出来事)(君主に)罪が有り誅したなり。
(一般的)に卜筮(ぜい;筮竹。うらない)で其の剋する所を得る者は凶、制を受ける所を得る者は吉。
五行之道、子能拯父之難。故金往剋木、火復其讎。
五行の道、子は能く父の難を拯(しょう;救う)す。故に金は往きて木を剋し、火は其の讎(しょう;あだ。かたき)に復す。
火既消金、水雪其恥。然當衰氣者、反爲王者所制。如鼎鬲中水爲火所煎。
火が既に金を消(溶かす)すは、其の恥を水が雪(よごれを去ってきれいにする。清める)す。然るに衰気に当たる者は、反して王(=旺=応;盛ん)を爲す者に制される所。鼎鬲の中の水は火が煎(せん;にる。水分がなくなるまでにつめる)るに爲すが所に如く。

鼎鬲=かなえ(ていかく)
;三つの足と二つの耳のある器。もと、なべや食器として用いたが、のちには王侯の祭器、礼器となった。▽夏(カ)の禹(ウ)王は九州から金(銅)を集めて九つの鼎をつくり、王位伝承の宝器とした。▽のちには、四足のものがあり、それを方鼎(ほうてい)という。
白虎通云、火熱水冷。有温水、無寒火何。明臣可爲君、君不可爲臣。火煎水爲湯者、不改其形、但變其名也。水滅火爲炭者、形名倶盡也。亦如君被廢而不存、臣有罪而退職也。
白虎通に云う、火は熱く水は冷たい。温かい水は有るが、寒(冷たい)火が無ないのは何か。
明らかなるは臣は君を爲すは可、君が臣を爲すは不可。火が水を煎て湯と爲すは、其の形が改まらず、但し其の名が変わるなり。
水が火を滅して炭を爲すは、形と名が倶に盡(じん;残りなく出して費やす)なり。亦(また)君が被れて廢せられれば而(そうして)(その存在)を不(無くす)すが、臣に罪が有れば退職をするが如くなり。
五行相剋、木穿土不毀、火燒金不毀者、皆陽氣仁、好生故也。金伐木犯、水滅火犯者、陰氣貪、好殺故也。
五行の相剋は、木が土に穿(せん;穴をあける)しても不毀(き;穴があいてこわれる)、火が金を燒いても不毀は、皆が陽気の仁にて、生を好む故なり。金が木を伐(ばつ;刃物で二つにきる)して犯し、水が火を滅して犯すは、陰気の貪にて、殺を好みが故なり。

至如山崩川竭、木石爲災、天火下流、人火上燎、水旱鬲并、風霜爲害、此竝失政於人、天地作譴。
山が崩れ川が竭(げち;干上がる)、木石は(崩落して)災を爲し、天火(雷や隕石)が下流し、人火は上燎(りょう;もえひろがる)し、水旱(かん;天地がかわく状態)が鬲(かく;=隔。間をおいて別になる)(へい;あわせる)(水害と干ばつが交互に起こる)、風霜が害を爲すに至るが如くは、此れ竝(=並ぶ)べば人に於いて政を失うこと、天地が作譴(けん;罪をせめとがめる)す。
爲五行相者、乖不和之義。以其氣衝相、不名剋也。
五行が相(れい;やぶれる)を爲すは、乖(かいれい;道理に反した)不和の義。以て其の気が衝(しょう;ぶちぬくような勢いで物にあたる)して相(あいれい)するは、剋とは名のらずなり。
亦廢也。於木則南宮極震、於水則三川竭、於火則宮室災。於金則九鼎震、於土則齊楚山崩。木金水火倶土者、地動分折、是也。故五行氣衝、而有六、大概如斯。
はまた廃なり。木に於ける則ち南宮(木造の城)が極わめて震(ふるえ)し、水に於ける則ち三川(代表的な三つの川)が竭(げち;干上がる)、火に於ける則ち宮室が災い、金に於ける則ち九鼎(きゅうてい;王位伝承の宝器)は震(ふるえ)し、土に於ける則ち齊(さい)や楚(そ)の山は崩れる。木金水火が倶に土を(れい;やぶる)するは、地が動き分れて折れる、是れなり。故に五行の気が衝(しょう;ぶちぬくような勢いで物にあたる)して、六(りくれい)が有り、大概(おおよそ)(これ=この場合、相剋の事)の如し。

=れい;やぶれる=戻;もどる。戸口の下に牲犬を埋めて、呪除けとした文字。道理や人情にそむいて、むちゃである。逆らう。<対>正・当。「乖戻;かいれい。道理に反している」