07-4.15、5.20 、6.17 「季節と治療」 の資料 相原黄蟹

七十難

七十難曰.經言.春夏刺淺.秋冬刺深者.何謂也.
七十難に曰く、経に言う、春夏に淺く刺し、秋冬に深く刺すは、何を謂うや。
然.春夏者.陽氣在上.人氣亦在上.故當淺取之.秋冬者.陽氣在下.人氣亦在下.故當深取之.
然るに、
春夏は、陽気が上に在り、人の気もまた上に在る。故に当に淺く取る。
秋冬は、陽気が下に在り、人の気もまた下に在る。故に当に深く取る。
春夏各致一陰.秋冬致一陽者.何謂也.
春夏は各に一陰に致り、秋冬は一陽に致るは、何を謂うや。
然.春夏温.必致一陰者.初下鍼.沈之至腎肝之部.得氣引持之陰也.
然るに、
春夏は温にて、必ず一陰に致るは、初めて鍼を下すは、沈めて腎肝の部に至り、気を得て引き陰の持するなり。
秋冬寒.必致一陽者.初内鍼.淺而浮之.至心肺之部.得氣推内之陽也.
秋冬は寒にて、必ず一陽に致るは、初めて鍼を内するは、淺くまた浮べて心肺の部に至り、気を得て陽の内に推すなり。
是謂春夏必致一陰.秋冬必致一陽.
是れに謂う春夏は必ず一陰に致り、秋冬は必ず一陽に致る。
春夏;陽気が上にあるとは、
働きが肝によって上げられ心に在るを
言うと思われる。
腎肝に到って肝の働きにより陽を引き上げ、
陰を持して調和させると考えられる。
秋冬;陽気が下にあるとは、
働きが肺によって下げられ腎に在るを
言うと思われる。
心肺に到って肺の働きによって陽を内に推し、
調和させると考えられる。

七十四難

七十四難曰.經言.春刺井.夏刺.季夏刺兪.秋刺經.冬刺合者.何謂也.
七十四難に曰く、経に言う。春には井を刺し、夏にはを刺し、季夏には兪を刺し、秋には経を刺し、冬には合を刺すは、何を謂うや。 
然.春刺井者.邪在肝.夏刺者.邪在心.季夏刺兪者.邪在脾.秋刺經者.邪在肺.冬刺合者.邪在腎.
然るに、
春に井を刺すは、邪が肝に在り、
夏刺を刺すは、邪が心に在り、
季夏刺兪を刺すは、邪が脾に在り、
秋刺經を刺すは、邪が肺に在り、
冬刺合を刺すは、邪が腎に在る。
五穴と四季と五臓の関連
土用
霊枢、順氣一日分爲四時第四十四では「冬は井を刺す。」
のように一つずつずれている。
其肝心脾肺腎.而繋於春夏秋冬者.何也.
其の肝心脾肺腎、而(そうして)春夏秋冬に於いて繋がるは何や。
然.五藏一病.輒有五也.假令肝病.
然るに、
五臓の一病に、輒(ちょう;すなわち)五つ有るなり。仮に肝の病を令(例)にすると、
色青者肝也.臭者肝也.喜酸者肝也.喜呼者肝也.喜泣者肝也.
色の青たるは肝なり。
の臭いは肝なり。
(味)を喜するは肝なり。
(声)を喜するは肝なり。
(=涙)を喜するは肝なり。
其病衆多.不可盡言也.
其の病は衆多(しゅうた;多く集まる。一臓に二病も三病も。もしくは二臓も三臓も病む。)にて言い尽くすは不可なり。
四時有數.而竝繋於春夏秋冬者也.鍼之要妙.在於秋毫者也.
四時に数(かず;巡り会わされる法則)有りて、而(そうして)春夏秋冬に於いては竝(=並び)繋がるなり。
鍼の要妙(創意工夫とそこから発せられる神秘性)
秋毫(しゅうごう;秋に生え変わる長く細い毛=細長いため密集して、毛の中に多くの空気を含んで保温力を高める。季節に対応しているものの現れの一つ。その意味や極意の様なものを「鍼の要妙」にみたてる)
於いては在るなり。

七難

七難曰、経言、少陰之至、乍大乍小、乍短乍長。陽明之至、浮大而短。太陽之至、洪大而長。太陰之至、緊大而長。少陰之至、緊細而微.厥陰之至.沈短而敦.此六者.是平脉邪.將病脉耶.
七難に曰く、経に言う、
少陰の至る、乍大乍小(〜乍〜乍-〜かと思えば〜で;大かと思えば小)、乍短乍長(短かと思えば長)
陽明の至る、浮大で短。
太陽の至る、洪大で長。
太陰の至る、緊大で長。
少陰の至る、緊細で微。
厥陰の至る、沈短で敦(とん;あつい=厚)
此の六つは、是れ平脈か将(それとも)病脈か。
然.皆王脉也.
然るに、皆が王脈なり。
其氣以何月各王幾日.
其の気が以って何月の幾日に各の王(応)じるか。
然.冬至之後.得甲子少陽王.復得甲子陽明王.復得甲子太陽王.復得甲子太陰王.復得甲子少陰王.復得甲子厥陰王.
然るに、冬至の後の、
甲子に少陽の王を得、
(次の再び)の甲子に陽明の王を得、
(次の再び)の甲子太陽の王を得、
(次の再び)の甲子太陰の王を得、
(次の再び)の甲子少陰の王を得、
(次の再び)の甲子厥陰の王を得る。
王各六十日.六六三百六十日.以成一歳.此三陽三陰之王時日大要也.
王ずるは各に六十日。
六六(60×6)三百六十日、以って一歳(一年)を成す。
此の三陽三陰の王(応)ずる時日(ときじつ)の大要なり。

三陰三陽
少陽
陽明
太陽
太陰
少陰
厥陰
王(旺)脉
小大短長
浮大短
洪大長
緊大長
緊細微
沈短敦
期間 冬至の後の
甲子の日から
六十日間
次の甲子から
六十日間
次の甲子から
六十日間
次の甲子から
六十日間
次の甲子から
六十日間
次の甲子から
六十日間
陰陽離合論篇
陰中の少陽 陰中の陽 陰中の陽 陰中の陰 陰中の少陰 陰の絶陰

十五難

十五難曰.
經言.春脉弦.夏脉鉤.秋脉毛.冬脉石.是王脉耶.將病脉也.
十五難に曰く、経に言う、春の脈は弦、夏は脈は鉤、秋の脈は毛、冬の脈は石。是れ王(旺)脈か、将(それとも)病脈か。
然.弦鉤毛石者.四時之脉也.
然るに、弦鉤毛石は四時の脈なり。
春脉弦者.肝東方木也.萬物始生.未有枝葉.故其脉之來.濡弱而長.故曰弦.
春の脈は弦とは、肝は東方で木なり。万物は始まりを生じ、枝葉は未だ有ず。
故に其の脈の来るは、濡弱で長.故に曰く弦。
夏脉鉤者.心南方火也.萬物之所盛.垂枝布葉.皆下曲如鉤.故其脉之來疾去遲.故曰鉤.
夏は脈は鉤とは、心は南方で火なり。万物の盛んなる所。枝が垂れ葉は布(ふ;広く行き渡る)く。
皆が下(た)れて曲がりて鉤(釣り針)の如く。故に其の脈の来るは疾(はや=速)く去るは遲(おそ)い。故に曰く鉤。
秋脉毛者.肺西方金也.萬物之所終.草木華葉.皆秋而落.其枝獨在若毫毛也.故其脉之來.輕虚以浮.故曰毛.
秋の脈は毛とは、肺は西方で金なり。万物の終る所。草木華葉(そうぼくかよう)、皆が秋に落ちる。
其の枝は独(ひと)り在ること毫毛の若くなり(水分の抜けた枯れた感じの枝が、風に揺れながら空中にある様子)
故に其の脈の来るは軽虚に以って浮。故に曰く毛。
冬脉石者.腎北方水也.萬物之所藏也.盛冬之時.水凝如石.故其脉之來.沈濡而滑.故曰石.此四時之脉也.
冬の脈は石とは、腎は北方で水なり。万物の蔵(しま)う所なり。
冬の盛んなる時、水は凝(かたま=固)って石の如く。故に其の脈の来るは沈濡で滑。
故に曰く石。此れ四時の脈なり。
如有變奈何.

変の有るが如くは何か。
然.春脉弦.反者爲病.
然るに春の脈は弦。反するは病と爲す。
何謂反.
何を反すると謂いうか。
然.其氣來實強.是謂太過.病在外.氣來虚微.是謂不及.病在内.氣來厭厭聶聶.如循楡葉曰平.益實而滑.如循長竿曰病.急而勁益強.如新張弓弦曰死.春脉微弦曰平.弦多胃氣少曰病.但弦無胃氣曰死.春以胃氣爲本.
然るに、
其の気の来るが実にて強。是れ太過と謂い、病は外に在る。
気の来るが虚微。是れ不及と謂い、病は内に在る。
気の来るが厭厭聶聶(えんえんしょうしょう;覆い尽くされた木葉にそよ風が当たって、さわさわとした軽やかな様子)として楡(にれ;寒地に産する落葉高木)の葉を循(したが=撫でる)うが如くを曰く平。
(ます;内実を増やす感じの)実で滑、長竿を循(したが=撫でる)うが如くを曰く病。
急で勁(けい;強く張ってたわみのない様子)で益(ます;内実を増やす感じの)強。新しく張った弓の弦の如くを曰く死。
春の脈は微弦を曰く平。弦が多く胃気の少きを曰く病。但だし弦で胃気の無いのを曰く死。春は胃気を以って本と為す。
夏脉鉤.反者爲病.

夏の脈は鉤。反するは病と爲す。
何謂反.
何を反すると謂いうか。
然.其氣來實強.是謂太過.病在外.氣來虚微.是謂不及.病在内.其脉來累累如環.如循琅かん(珠)曰平.來而益數.如鶏擧足者曰病.前曲後居.如操帶鉤曰死.夏脉微鉤曰平.鉤多胃氣少曰病.但鉤無胃氣曰死.夏以胃氣爲本.
然るに、
其の気の来るが実にて強。是れ太過と謂い、病は外に在る。
気の来るが虚微。是れ不及と謂い、病は内に在る。
其の脈が来るは累累として環(たまき)の如く。琅かん(ろうかん;玉に似たもの=珠)を循(したが=撫でる)うが如くを曰くを平。
来るのが益(ます;内実を増やす感じの)して数。鶏が足を挙げるが如くは曰く病。
前が曲がり後が居る(普通の状態に治まる)、帯鉤(おびばり;一つの釣り糸に何本も針がついているもの)を操(あやつ)るが如くを曰く死。
夏の脈は微鉤が曰く平。鉤が多く胃気が少くを曰く病。
但だし鉤で胃気の無いのを曰く死。夏は胃気を以って本と為す。
秋脉微毛.反者爲病.

秋の脈は微毛。反するは病と爲す。
何謂反.
何を反すると謂いうか。
然.氣來實強.是謂太過.病在外.氣來虚微.是謂不及.病在内.其脉來藹藹如車蓋.按之益大曰平.不上不下.如循鶏羽曰病.按之消索.如風吹毛曰死.秋脉微毛爲平.毛多胃氣少曰病.但毛無胃氣曰死.秋以胃氣爲本.
然るに、
其の気の来るが実にて強。是れ太過と謂い、病は外に在る。
気の来るが虚微。是れ不及と謂い、病は内に在る。
其の脈が来るは藹藹(あいあい;荷車の幌が風ではらんだ感じ)として車蓋(しゃがい;=幌)の如く、按ずれば益(ます;内実を増やす感じの)して大が如くを曰くを平。
上がるでも下がるでもなく、鶏の羽を循(したが=撫でる)うが如くは曰く病。
按ずれば消索(しょうさく;雲がまばらに浮かんだ様子)、風が毛を吹が如くを曰く死。
秋の脈は微毛を為すが平。毛が多く胃気の少くを曰く病。但だし毛で胃気が無いのを曰く死。秋は胃気を以って本と為す。
冬脉石.反者爲病.

冬脉石。反するは病と爲す。
何謂反.
何を反すると謂いうか。
然.其氣來實強.是謂太過.病在外.氣來虚微.是謂不及.病在内.脉來上大下兌.濡滑如雀之喙曰平.啄啄連屬.其中微曲曰病.來如解索.去如彈石曰死.冬脉微石曰平.石多胃氣少曰病.但石無胃氣曰死.冬以胃氣爲本.
然るに、
其の気の来るが実にて強。是れ太過と謂い、病は外に在る。
気の来るが虚微。是れ不及と謂い、病は内に在る。
脈が来るは上が大にて下が兌(えい=鋭;するどい、尖っている)。濡にて滑で雀(すずめ)の喙(かい;くちばし)が如くを曰くを平。
啄啄(たくたく;小鳥がついばむ様子)と連属(=連続)し、其の中の微曲(わずかまがりのあるもの)は曰く病。
来るの如くは解索(かいさく;紐の解けた感じ)。去るのは弾石(だんせき;石と石が弾けあった感じ)が如くを曰く死。
冬の脈は微石が曰く平。石が多く胃気が少くを曰く病。但だし石で胃気の無いのを曰く死。冬は胃気を以って本と為す。
胃者.水穀之海也.主稟四時.故皆以胃氣爲本.是謂四時之變病.死生之要會也.

胃とは水穀の海なり。四時から稟(ひん;さずかる)することを主(つかさ)る。故に皆が胃気を以て本と為す。是れを四時の変病、死生の要会(予後の見通しの要)と謂うなり。
脾者.中州也.其平和不可得見.衰乃見耳.來如雀之喙.如水之下漏.是脾之衰見也.
脾とは中州なりて、其の平和を見て得るは不可。衰えて乃(すなわ)ち見える耳(のみ;言い切りの末尾語)。来るは雀(すずめ)の喙(かい;くちばし)が如く、下漏(げろう)する水の如く。是れ脾の衰えを見えるなり。

五行 脈状 脈名 平脈 病脈 死脈
東方で
万物は始まりを
生じ枝葉は
未だない。
来るは、
濡弱で

微弦

風が軽やかに
楡の葉を撫でる感じ

弦が多く胃気の少き

実が益して滑、
長い竿を撫でる感じ

弦で胃気が無い

新しく張った弓の
弦の様に、
強く張った感じが
益したもの。
南方で
万物は盛ん。
枝が垂れ
葉は行き渡る
下れて曲がり
て鉤の如く。
来るは疾く
去るは遲い。

微鉤

環を撫でる感じ

鉤が多く胃気が少く

鶏が足を挙げる様に、
来る感じの増えた数脈。

鉤で胃気が無い

前が曲がり
後が普通の状態に
治まる感じで、
帯鉤を操る様。
西方で
万物の終る所。
草木華葉、
皆が秋に落ちる。
枯れ枝が
毫毛の様に。
来るは軽虚、
浮の感じ。

微毛

荷車の幌が
風にはらんだ感じで、
按ずれば大が益す。

毛が多く胃気が少く

上がるでも
下がるでもなく、
鶏の羽を撫でる感じ。
毛で胃気が無い
北方で
万物の蔵う所。
水は凝って
石の如く。
来るは
沈濡で滑。

微石

上が大、下がするどい。
濡で滑。
雀のくちばしの感じ。

石が多く胃気が少く

小鳥がついばむ様子が
連属し、中がわずかに
曲がりの感じ。

石で胃気が無い

来るは紐の
解けた感じ。
去るのは石が
弾けあった感じ
脾・中州
平の時で身体が
和んでいれば見えない。
来るは雀のくちばしの感じ。
下に漏れる水の様子。
胃の水穀の海とは四時との対応を言う。その時の様子が胃気で、四時に対しての変病や予後の見通しを知る。