08-01/20 感冒の仕組み 加藤秀郎

感冒とは、
現代医学の定義では「ウィルスによって起こる呼吸器系の炎症の総称」とある。
一般感冒もしくは尋常感冒をいわゆる風邪、流行性感冒をインフルエンザとする傾向が高い。
「influenza(インフルエンザ)」の名称は1358年にイタリアでおこり、
日本では「印弗魯英撒」の用語が1835年に、「流行性感冒」が1890年に初めて使用されたことは定説。
感冒という言葉の使用の古くは、鎌倉時代(1192-1333)の医師;梶原性全(かじわらしょうぜん、1265-1337)の著の
「頓医抄(とんいしょう1304年頃の完成)」漢字かな交じりで『感冒』が1か所記載
「敗毒と五積という薬を半分ずつ合わせて服用すると寒さ熱に効果がある・・・」
「万安方(まんあんぼう1315年頃の完成)」全文漢字で計7か所に記載
「参蘇飲という薬が感冒の発熱、頭痛、鼻流、喀痰に効く・・・」
平安時代(794-1192)の「医心方(984年刊)」にはない。
中国では北宋の時代(960-1127)の「仁斎直指(じんさいじきし)」という医学書に
『感冒』があり、“ガンマオ”と発音する。
「医心方」の原典の隋の時代(581-618)に書かれた
「諸病源候論(しょびょうげんこうろん;610年、巣 元方著)」には『感冒』は見出せない。

感冒の医学的考察
現代認識の確認
 〜その原因は?〜  現代医学ではウィルス起因説。(ところがウィルスは、暖かく湿った環境を好む)
〜感冒の流行期は?〜 寒く乾燥した冬。(インフルエンザの流行期は12月から2月、しかし沖縄では7月) 
ウィルス起因説の理由として、
病名を付けるため、一般の風邪とインフルエンザを区別するため、ワクチンによる予防のため。
しかし同一環境に居て感染する人と感染しない人がいて、感染しても発病する人としない人がいる。
なぜか?.....  それは個体差があるからです。     

  

ではその個体の「差」とは何か?
感冒の季節は冬としましたが、意外にもずっと寒い日が続いているとあまり風邪をひかないものです。
真冬でもむしろ暖かい日が来た後などに爆発的に流行します。
病気になるとは「何かのダメージで体を痛めたこと」ですが、この感冒の原因とは気温差で、
外気の気温差に体温調節が伴わないと感冒が起こります。
問題は気温差ではなく「体温調節が伴わない人が居る」という個体差にあります。急激な気温差が起きた中で感冒にかかる人とかからない人が居るという個体差の生じる理由が『感冒の仕組み』になります。

東洋医学で『感冒の仕組み』を考える
〜外界環境と人体の様子を知るには、特に天地人が有用〜
天は絶対作用、地と人はその作用に伴った相互の相対反応。
天が暑くなる作用(陽)をすれば、
地は温度が上がって草木は繁茂(陽)し、人は体内環境安定のために生理機能を下げ(陰)ます。
天が寒くなる作用(陰)をすれば、
地は温度が下がって草木は枯れ(陰)て、人は体内環境安定のために生理機能を上げ(陽)ます。
「人体の体表も天の作用を直接受ける」ため、地と同じ反応をします。
地と同じ反応をする範囲を‘表’といい、その逆の反応の範囲を‘裏’といいます。

人が内部環境安定のために‘地’と逆の反応が出来るのは?
「天の絶対作用」に対しての
「五臓の相対作用」を体内に持つから
です
五臓
水分放散
水分上昇
(三焦)

気血の働き

体温の
生産量下降
(陰)
五臓
水分下降
(三焦)
水分固定

気血の働き

体温の
生産量上昇
(陽)
つまり絶対作用が(陽)-気温が高ければ;体温生産量は下降-生体機能が低下-気血は‘寒’
となり絶対作用が(陰)-気温が低ければ;体温生産量は上昇-生体機能も上昇-気血は‘熱’
になって、冬は基礎代謝が進み体内は体温生産を含めて大いに働いている。
外界環境の変化に対して生体機能が適切に応じて、内部環境を安定させれば健康状態といえる。
また同一環境にいても感染や発症が無いのは、生体機能が適切に対応しているからとも言える。

では発症するとは何なのか?〜発症するとは‘感冒’の始まり〜
それは内部環境の不安定さの起こであり、気温の変化に対して生体機能の対応のズレである。
このズレを「冷え」もしくは「のぼせ」という。
「冷え」とは、体温生産量上昇の不足、もしくは下降の過剰。
「のぼせ」は、体温生産量下降の不足、もしくは上昇の過剰。
発症は体温生産量の不適切から始まる
体が起こす大部分の症状は、「冷え」と「のぼせ」によって生ずる。
(体温が39度をこえる場合、もしくは体温が35度以下の場合は五臓の病で、冷えやのぼせを超えた『重い状態』)
冷えの症状 のぼせの症状
痛み・痺れ
下痢・咳
意識高揚
空腹感・鼻水
動作不良
だるさ・めまい
食欲不振
嘔吐・頭重感
意識沈滞・口渇
全身倦怠
なぜズレが生ずるのか?
人体は内部環境の安定のため、外気の変化を体温生産量で対応させる。しかし環境変化に曝された生体が、
たまたま
疲労やストレスなどで対応能力が伴えなくなった時
に、冷えやのぼせという‘ズレ’が出てしまう。
そしてこの同一環境内に居ての個々の疲労やストレスの
程度と体質の違いが「個体差」
である。

個体差は、発症するかしないかだけではなく、程度や症状もその身体状態に応じて違う。
この気温変化の対応を失調した場合が‘感冒’である。特に冬場であるため冷えの症状が伴う。
‘痛み’や‘痺れ’‘動作不良’は筋肉が等長性収縮をして産熱したための症状。
‘下痢’は余剰水分の排出による冷えすぎの防止。‘意識高揚’は機能抗進に伴う興奮。
‘空腹感’は体温生産のためのカロリーの要求。‘鼻水’は吸気への加湿機能の亢進。
‘咳’は乾燥が原因ですが、この乾燥というのは温度変化があって生じます。
(ただし湿度は空気中の水分量。湿気は人体の蒸散量の状態)

症状とは、その生体の安全確保や内部環境安定に向かうための、不適合環境からの回避や休息を促す信号。
外界環境から寒さを受け人体の表は‘寒’となりその対応のため裏は‘熱’となる。この対応の不適切さが「冷え」や「のぼせ」となって症状を起こします。この不適切さを起こす前に原因となる疲れやストレスを除去するか、適応能力の乱れを補助することで‘感冒の予防’が可能です。

‘表裏’‘寒熱’を現代医学に転用すると、
〜暖かい日の後の寒い日に、もしくはさらに寒くなった時に‘感冒’は発症し易い〜
現代医学で言う器官としての肺は、温度37度-湿度100%の空気が流入する事で順調なガス交換が可能です。
冬の寒い日には体の内側である‘裏’が‘熱’の状態となり、鼻から気管支までの粘膜に血液を送り機能を亢進させて吸い込んだ空気を加熱し、また粘液の浸出量を増やして加湿して肺にまで送ります。
寒さに慣れた時に暖かい日が来ると‘裏’の‘熱’の状態が緩みます。粘膜の血流量が減少するわけですが、そのため浸出液の量も減ります。この時に疲れやストレスで血流量や浸出量の不適切が起こります。つまり減り過ぎた状態‘寒’な訳です。そして、さらに吸入した空気は暖かさはあってもやはり冬なので湿度は低く、浸出液の過減少もあり加湿の必要量が得られません。そのため粘膜細胞自体の保持水分が吸気に奪われてしまいます。そのことで細胞膜は傷つき粘膜は荒れた状態になります。
そこに寒い日が来て、その対応のために生体機能が亢進して‘熱’となり、よって粘膜の血流量が増加しそのことで傷ついた細胞は過反応を起こして‘炎症’となります。この炎症によって生体は‘咳’という症状を発する訳です。これが‘尋常感冒’なのですが、人体が対応しきれる以上の外界環境の変化があったり、この状態時にウィルスの付着があれば、さらに重い感冒や‘流行性感冒’となります。

つまり『感冒の仕組み』とは、
急な暖かい環境が起こり、その時その生体に疲れやストレスがあることで暖かさへの適応がうまく行かず、生体機能を下げ過ぎてしまう。これはこの時の適応動作が、必要よりも働きの低下があるため‘寒’となる。これは熱量だけではなく、粘膜の浸出液分泌の低下にも言える。
充分な浸出液の分泌が得られない時に、乾いた空気の吸入により粘膜の細胞壁を傷つけ、その後の寒い日に機能が上がりすぎて、傷ついた粘膜細胞への血液の流入量が多くなり過ぎて‘炎症’を生じさせた結果だと言える。

予防として、
最も必要な物は休息や養生とリラックスです。素問の四氣調神大論篇第二に“冬は意欲を抑えて行動には出さず、寒さを避け常に体を温める。体力を浪費して汗をかかない様にする”とあります。疲れやストレスを持たないことが感冒予防の真義となります。
しかし常に疲れやストレスのある現代人にとって必要な物は『適応能力の乱れの補助』です。
ポイントは疲労やストレスの程度と体質の把握をしたうえでの、急に暖かくなったり寒くなった時の対応です。
急に暖かくなった日こそマスクをして加湿器をかけ、極端に乾いた空気を吸い込まないようにする。
寒さに気を付けながら、軽く外気に触れる。
寒さが増した時にはより防寒を心がける。衣類や空調をコントロールしてむしろ返って暖かさを感じる位にする。
気温差に関係なく冬場は、入浴時には深く蒸気を吸い込む。そのうえで感染症を防ぐために、外出後にはうがい手洗いと、特に粘膜の近い顔を触らないようにする。