痛みとは?
2008.8.17 井上雅雄
1.「痛み」の背景
医療機関受診の患者の7割に痛みの訴えがあると言われる。痛みは個人的かつ主観的な感覚であるため、他の人が的確にその状態を理解し、評価することは難しい。このことが患者のQOLを低下させ、社会生活を困難にすることもある。特に慢性難治性疼痛では、治療に難渋する場合も少なくないなど深刻で複雑な問題となっている。一方、近年の痛みに関する様々な受容体が発見され疼痛メカニズムも解明されてきている。
2.痛みとは?
■打たれたり切られたり、身体の内部に故障があったりして、我慢できないほど苦しいこと 「新明解国語辞典」より
■「広辞苑」には
(1)(病や傷などによる)肉体的な苦痛
(2)悩み、悲しみ
(3)腐敗
(4)破損 とある
■組織の実質的あるいは潜在的な障害に結びつくか、そのような障害を表す言葉を使って表現される不快な、感覚、情動体験である。
(世界疼痛学会IASPの痛みの定義) IASP:International Association for the Study of Pain
■侵害受容、体の生存そのものに関わる刺激に対応する最も基本的な機能 (Sherrington)
■(1)パーソナルでプライベートな痛いという感覚
(2)組織の損傷が切迫しているか既に進行しつつあることを告げる有害な刺激
(3)有機体を損傷から守るための反応パターン、等に関連した抽象概念
(疼痛学者Sternbackの言葉)
■また疼痛の疼は「体がいたむこと、うずき」、疼痛は「ずきずきと疼くような痛み」(携帯新漢和中辞典)
■難経には32箇所に「痛」の字が見られる。素問陰陽応象大論篇に「寒傷形、熱傷気。気傷痛、形傷腫。故先痛而後腫者、気傷形也。先腫而後痛者、形傷気也。」寒は形を傷り、熱は気を傷り、気傷れば腫れる。故に先ず痛みて後腫れるは気、形を傷るなり。先ず腫れて後痛むは形、気を傷るなり。
■東洋医学では、痛みの性質により脹痛(実際に腫れて痛むこと、または脹った感じがして痛むこと)、灼痛(痛むところに灼熱感のあるもの、鬱火が陰を傷ることによる胃カン痛、熱毒のある瘡瘍,火傷などに見られることが多い)、冷痛(痛むところに冷感のあるもので、裏寒の症状、胃痛・腹痛などの時本症を呈する)、絞痛(痛よりも甚だしいもの、しぼるような痛み)などがある。
3.痛みの性質
■急性の痛みは生体の警告反応として重要で、常染色体劣性遺伝の先天性痛覚不感症では受傷しても痛みを感じないため、外傷や熱傷を繰り返し、炎症や潰瘍を容易に引き起こす。
■痛みは感覚としての性質とともに、情動や体験が大きく関係すると言われる。古代哲学者のアリストテレス(B.C.384~B.C.322)は痛みを苦痛や快楽と同じような「情動」と考えていた。
■痛みにはケガをした時のように体の組織が損傷されたために生じる場合と痛みの原因が消失した(と思われる)後にも痛みのシステムに変化が生じ、障害の原因がなくても痛みが続くことがある。慢性痛は組織の障害が消失した後でも、痛みがずっと続き、軽い刺激や交感神経の興奮、心理的要因でも痛みが増強し、慢性痛は生体の警告反応としての意味は少ないと考えられる。
4.痛みの分類
(1)原因による分類
1)侵害受容性疼痛:組織に対する侵害刺激により起こる
2)神経因性疼痛:神経の障害でおこる、侵害刺激無くても起こる
3)精神心因性疼痛:原因が身体的に存在しない
1)侵害受容性疼痛
侵害受容器に対する侵害刺激により起こる。
侵害刺激 生体を傷つけるような刺激
a.機械的刺激 b.熱刺激 c.化学刺激
侵害(痛覚)受容器:刺激の種類・強度により異なる
a.高閾値侵害受容器:強力な機械的侵害刺激
b.ポリモーダル受容器:機械的、熱的、化学的侵害刺激
c.熱受容器:熱刺激
a.高閾値侵害受容器
機械的侵害刺激と熱刺激に反応し、刺激の強度が強まるほど興奮性が高まるが、持続的加熱に対しては感作を示し、閾値が低くなる。侵害刺激が消失すると受容器の興奮は消失する。「瞬間的な痛み」に関与し、生体に「逃避反射」を引き起こす。6-30m/sの有髄のAδ線維により脊髄後角に伝えられる 。
b.ポリモーダル受容器
機械的、熱的、化学的侵害刺激に反応し、全身に分布(深部組織、内臓等にも分布)し、組織の異常を知らせる警告係として働く。侵害的な刺激を同じ強度で同じ部位(受容野)に繰り返すと、_閾値の低下、_刺激に対する反応性の増大、_受容野RFの拡大、_自発放電の増大などの現象を示す=感作を生じる。伝導速度3m/s以下の無髄のC線維により脊髄後角に伝えられる。
2)神経因性疼痛 neuropathic pain
神経の損傷や機能異常によって起こる疼痛や知覚異常を伴う疾患。侵害刺激がなくても起こる。視床痛、幻肢痛、カウザルギー、脊髄損傷後の麻痺性疼痛などがこれに含まれる。特効的治療法がない(消炎鎮痛剤が効かない!)
a.末梢神経の損傷・機能異常
末梢神経の損傷(圧迫・絞扼・切断・脱髄)、末梢神経の過敏化、遮断痛、交感神経依存性疼痛
b.中枢神経の損傷や機能異常=中枢痛 Central pain
求心路遮断痛、交感神経依存性疼痛
a.末梢神経の損傷
末梢神経の軸索が切断された後の再生過程で障害され、外傷性神経腫が形成されると痛みを生ずる。
神経腫からの痛みの原因は _再生線維の側芽からの自発放電の増加 _機械的刺激に対する閾値の低下_交感神経線維の異常興奮 などが考えられる
■腕神経叢の引き抜き損傷
一般的に脊髄神経節より遠位で障害を受けた時は神経腫が形成され、痛みも徐々に軽減する。
求心性線維が後根神経節から脊髄に入る後根で引き抜き損傷が起こると灼熱痛や激痛に悩まされる。
■反射性交感神経性ジストロフィー(RSD:Reflex Sympathetic Dystrophy)
1994年世界疼痛学会はカウザルギーとRSDをCRPS Complex regional pain syndromeとして統一し、タイプ_をRSD,タイプ_をカウザルギーとした。ともに交感神経の機能異常を伴う組織の栄養障害と痛みを引き起こす難治性の疾患である。RSDは四肢の外傷に引き続き見られる四肢の交感神経の機能異常と組織の萎縮を伴った疾患で、カウザルギーの軽症型と考えられている。
■カウザルギー
神経の急激な変形によっておこる激しい、灼けつくような痛みと組織の栄養障害を呈する疾患で、RSDと異なり、末梢神経の部分損傷により、交感神経の機能異常を引き起こす。発汗、循環異常が認められ、肉眼的または電気診断学的に神経損傷を有している。
b.中枢性疼痛 central pain
中枢性疼痛は脳または脊髄に障害があり、末梢の侵害受容器からの入力がなくても、あたかも強く刺激されたかのような激しい疼痛が生じる状態で、脳の障害により生じる視床痛や、脊髄の障害により生じる対麻痺性疼痛症、無知覚性疼痛症、幻肢痛などがある。
一般に感覚情報を脳に伝える経路が中枢神経内で遮断されることによって発生する求心路遮断痛である。
中枢性疼痛には薬物療法や神経ブロックなど様々な治療法が試みられるが、いずれも通常の治療法が奏功しない頑痛である。
■中枢性疼痛の臨床的特徴
_疼痛は、神経障害直後ではなく、しばしば時間をおいて出現する
_疼痛は通常異常感覚のある部位に生じる
_疼痛は自発性定常痛(灼熱痛)、間欠性電撃痛、誘発痛の3つの要素に分 けられる
_脊髄視床路、およびその大脳皮質への投射路の機能異常と関連して出現し、時に交感神経系の機能異常を伴うことがある
■視床痛
求心路遮断痛のひとつで、障害が視床に生じたことによる痛みで、脳の対側の身体における感覚障害部位に発生する持続的・発作性の疼痛。求心路遮断痛とは脊髄視床路及びその入力が遮断された時に支配領域に生ずる激烈な自発痛と異常な誘発痛。
■幻肢痛
手足を切断されたがまだ存在するかのように感じ、その部分に痛みを感じる。
発生機序は
_切断された神経線維が再生するときに発生する自発放電の増加
_脊髄神経節細胞にアドレナリン作動性α受容体が発現し、ストレスなどにより交感神経活動が亢進して細胞体が興奮
_痛みの記憶
などが考えられている
■脊髄損傷後の痛み
麻痺部の触覚・温度覚などの感覚が完全に麻痺した状態でも分節痛や帯状痛に苦しむことが多い。損傷部位のすぐ上位の脊髄分節ニューロンの異常興奮によると考えられている。脊髄損傷後の痛み部位に時間的変化はない。
3)精神心因性疼痛
痛みの原因が身体的に存在せず、精神心理的要因によって生ずる。うつ性疼痛、ストレス、精神心理的葛藤などがこの範疇には入るが、有効な治療法が確立されていない。
WHOによる国際疾病分類: ICD-10 (International of classification of Disease)では「身体表現性障害 」と表される。
(2)痛みの臨床経過による分類
1)急性痛:時間経過は短期間で治まり、組織障害部の損傷により起こり、警告信号としての意義が深い。オピオイド(麻薬)性鎮痛薬が有効なことが多い。心拍数や心拍出量の増加、血圧上昇、瞳孔散大、手掌部の発汗など交感神経興奮の症状を呈する。
2)慢性痛:長期に(持続的あるいは間欠的)わたり、組織の障害が消失・存在しなくても痛みを感じる。交感神経の興奮や精神的な状態によって修飾を受け、痛みの受容野の拡大を起こすこともある。不眠、食欲減退、便秘、精神機能の低下、運動の減退、痛みに対する耐性の低下をおこす。
(3)病因による分類
1)一次痛(原発痛):侵害刺激を受けた直後から痛み、局在性が明確で鋭い、刺すような痛み
2)二次痛(続発痛):侵害刺激を受けてしばらくしてから痛み、局在性が不明確で鈍い、うずくような痛み
一次痛と二次痛の違い
一次痛 | 二次痛 | |
感覚の性質 | 判別性感覚 鋭い、刺すような痛み | 原始性感覚 鈍い、疼く痛み |
情報の精度 | 高い:刺激の部位,期間について | 低い |
修飾作用 末梢、中枢刺激に対して 心理的要因に対して |
なし なし |
抑制される 増強される |
受容器 | 高閾値侵害受容器または熱受容器 | ポリモーダル受容器 |
適刺激 | 侵害的機械刺激または侵害的熱刺激 | 侵害的熱、機械的、化学的刺激 |
神経線維 | Aδ | C(皮膚) C、Aδ(深部組織) |
脊髄後角ニューロン | 辺縁細胞(L1) | 膠様質細胞(L_)→広作動域ニューロン(L_、_、_、_) |
上行路 | 脊髄視床路 | 脊髄視床路、脊髄網様体路 |
視床投射部位 | 外側腹側部(腹側基底核被殻部) | 内側部:束傍核、束傍下核、外側中心核 |
大脳投射部位 | 皮質感覚領野 | 皮質下核 |
(4)部位による分類(侵害受容性疼痛)
体表痛と深部痛を会わせて体性痛somatic painと言う
1)体表痛(表面痛/表在痛) superficial pain:皮膚・粘膜などに生じる痛み, 高閾値侵害受容器、熱受容器、ポリモーダル受容器
2)深部痛 deep pain:筋肉や関節に生じる痛み, ポリモーダル受容器
3)内臓痛visceral pain:内臓に生じる痛み, ポリモーダル受容器
1)表面痛(表在痛)superficial pain
a.皮膚や粘膜の痛み
b.侵害性機械刺激、侵害性冷刺激(15℃以下)、侵害性熱刺激(43-5℃以上)、侵害性化学刺激によって生じる
c.いずれも組織を傷害するか、長時間持続すると組織を障害する可能性がある
d.限局性の痛み
e.早い痛みと遅い痛み:表面痛は_速い痛みと_遅い痛みに分けられる
_速い痛み= Aδ侵害受容線維の興奮によって生じる。刺す痛み(pricking pain)で、鋭く、局在が明確である刺激を止めると直ちに消失する。
_遅い痛み=C侵害受容線維の興奮によって生じる。速い痛みに引き続いて起こる灼けつく痛み(burning pain)で、鈍く、局在がはっきりしない。刺激を止めた後も続く耐えがたい痛みである。
2)深部痛 deep pain
a.骨膜、靭帯、関節嚢、腱、筋膜、骨格筋の痛み
b.限局性の痛み
c.速い痛みと遅い痛みの区別が明確ではない、疼く痛み
d.侵害性機械刺激による深部痛の閾値は骨膜でもっとも強く、骨格筋でもっとも高い
e.骨格筋の痛みは、血行障害のある骨格筋が持続的に収縮するときに現れやすい
3)内臓痛 visceral pain
内臓痛は内臓にある侵害受容器の刺激によって起こり、速い痛みと遅い痛みの区別が明確ではない、疼く痛みで、体性痛に比べて分布や性質がはっきりしないことが多い。
内臓の痛覚受容器の分布が粗なため、脊髄内での終末分布が広範囲になるために、局在性がはっきりしないと考えられている。
内臓からの侵害受容線維もAδ侵害受容線維とC侵害受容線維があるが、大部分がC侵害受容線維である内臓を支配する自律神経と一緒に走っている求心性線維によって痛みが伝えられる。
内臓痛を起こす組織のうち、壁側胸膜や壁側腹膜は非常に敏感で、弱い機械刺激によって容易に痛みが起こる。
正常な管状器官(胃、腸、胆道、尿管など)は、切られても焼かれても痛みは生じないが、閉塞などの際、内容物を移送するために、強い収縮や伸展が起こると、強い痛みが起こる。
粘膜に充血や炎症があるときには弱い機械刺激や、酸、アルカリの希釈溶液によって、痛みが起こる。
腹痛には、内臓痛だけではなく、体性痛もある。腸管膜、小網、横隔膜、壁側腹膜などの病変によって生じる。限局性、非対称性、持続性である。
■関連痛 referred pain
関連痛とは原因が生じた部位から離れた場所に感じる痛みで、連関痛または投射痛とも呼ばれる。例えば、心臓から起こる痛みは胸壁から上肢の下面に沿って表れる。内臓性求心性線維と体性求心性線維が同一の脊髄後角ニューロンに収束しているために、関連痛が生じる。内臓に原因がある関連痛は、痛覚過敏を伴わない関連痛と痛覚過敏を伴う関連痛に分けられる。
痛覚伝導路の同一ニューロン群に内臓器官からの求心性線維と皮膚からの求心性線維が収束し、それぞれがこのニューロン群を興奮させる。内臓器官に異常がないとき、このニューロン群はもっぱら皮膚からのインパルスによって興奮し、脳はこのニューロン群の活動を皮膚の痛みと結びつけることを学習する。内臓に異常を生じて、インパルスが送られ、ニューロン群が興奮すると、脳は過去の学習に基づいて判断を下し、このニューロン群にインパルスを送る皮膚に痛みを感じる。
■痛覚過敏を伴なう関連痛の考え方--Mackenzie (1893)の収束促通説
皮膚に痛覚過敏があるとき、しばしば紅潮や浮腫を伴う。内臓に侵害刺激が加わると、内臓にも側枝を出す皮膚を支配する痛覚ニューロンが、軸索反射によって皮膚にニューロペプチドを放出するために生じる。これに伴って、対応する脊髄内にもニューロペプチドが放出されて過敏性焦点ができる。この焦点にある広作動域ニューロンに非侵害受容性インパルスが送られてくると、正常時に侵害受容性インパルスが送られてきたときのように興奮して痛覚過敏として感じられる。
(5)刺激の有無による分類
1)自発痛
刺激非依存性の痛みで、持続性の自発痛や発作性の電撃痛が強く、数秒間持続する痛みで周期的なこともある。
*痛みの種類は千差万別、針を刺したような痛み、切り込まれるような鋭い痛み、疼くような深部の痛み、じんじん、びりびりする灼熱痛---火箸をつっこんだような痛み
2)誘発痛
刺激依存性の痛みで、衣服の接触や日常生活動作による誘発痛が生じる。
■痛みに対する可塑性
痛覚受容中枢の可塑性とは、痛みの刺激が長期に持続すると、末梢からの痛み刺激の消失あるいはブロックされた場合でも、中枢においては痛覚の過敏状態が作り上げられ、痛みが細胞レベルで記憶として残っている状態とも考えられる。侵害受容器の熱感作が生じた状態で、脊髄に痛みに対する可塑的な変化が起こると、脊髄内の侵害受容ニューロンの活動の亢進が持続する。この現象には興奮性アミノ酸受容体が大きく関与すると考えられるが、この受容体は脊髄後角のNMDA受容体に働きかけ、カルシウムイオンを選択的に透過させる。カルシウムイオンが増加すると細胞性癌遺伝子であるc-fosやc-junを発現させる。これらは刺激に対する短い細胞性応答を長期間の応答に変換する働きがあり、これが痛みの記憶形成に関与すると考えられている。関節リウマチ、幻肢痛、癌性疼痛などの患者は末梢の痛覚過敏現象とともに中枢において可塑的な変化が生じていると考えられる。
■NMDA(N-methyl-D-asparatic acid)受容体
侵害性入力の持続は脊髄の痛覚系活動の亢進状態を生じる。NMDA受容体は中枢における代表的な興奮性神経伝達物質グルタミン酸の受容体の一つで、グルタミン酸受容体はグルタミン酸の結合部位とイオンチャネルが共存しているイオンチャネル型と代謝調節型に分類されるが、NMDA受容体はイオンチャンネル型受容体の一つである。持続的侵害性入力によって生じる脱分極と神経ペプチド遊離によってNMDA受容体チャネルは活性化される。結果細胞内に流入するカルシウムCaイオンが各酵素を賦活し、一酸化窒素NOやプロスタグランジンPGが産生される。NOやPGは拡散し、周囲の神経細胞の興奮性を上げ、過興奮状態を広げる遺伝子c-fosを発現させ、痛みに対する長期的な可塑的な過敏状態を創出する。
■アロディニア Allodynia
通常では痛みを引き起こさない刺激によって生じる痛みで、軽い接触や圧迫、適度の温熱や冷却などの非侵害刺激によって痛みを生じる。
アロディニアには、Aβ線維が痛覚伝導路を経由して痛みを伝える場合と、Aδ線維の閾値が下降した場合が考えられる。
5.痛みの機序
痛みを感じる過
(1)痛み情報の発生
侵害刺激:侵害性機械・熱刺激、化学的刺激(発痛物質)
(2)痛みの伝導系
刺激はインパルスとして痛みの伝導路を様々な修飾を受けながら伝導する
(3)痛みの認知
脳の広範な部位が活動して痛覚を認知される
(4)鎮痛の機序
痛覚入力は痛覚形成に働くだけでなく、ネガティブフィードバック的に痛覚を抑制する内因性鎮痛系を発動し、痛覚系の働きを修飾する。
■発痛物質
内因性発痛物質:
K+、H+、5HT(セロトニン)、ヒスタミン、アセチルコリン、プラズマキニン、ATP
外因性発痛物質
カプサイシン
発痛増強物質
プロスタグランジン
■陽イオン
1.H
侵害受容器の酸感受性イオンチャネルASICやバニロイド受容体TRPV1に作用して脱分極させる
2.K
細胞の損傷により遊離し、侵害受容線維の電位依存性K+チャネルを脱分極させる
■アミン類
1.セロトニン 5‐HT
血小板の凝集や細胞障害に伴い、血小板や肥満細胞から放出される。侵害受容器に発痛物質として作用し、炎症の際痛みを増強する
2.ヒスタミン
炎症時にプラズマキニンが肥満細胞のB2受容体に結合すると、ヒスタミンなどが遊離される。低濃度で表皮では痒みを、高濃度では真皮で痛みを惹起する
■その他
1.プラズマキニンーブラジキニンBK/カリジン
組織が傷害されるとBKが遊離され、侵害受容器のBK2受容体に作用する。炎症が加わると大量にBKが放出され、BK1受容体が発現する
2.ATP
細胞から漏出したATPは侵害受容器のイオンチャネルに作用して脱分極させる
3.アセチルコリン
発痛作用弱いが、ヒスタミンの発痛作用を増強する。内臓痛に関与する
4.カプサイシン
末梢神経に働き、脊髄内週末からサブスタンスPを遊離し、強い、焼付くような持続的な痛みを生ずる
5.プロスタグランジン
それ自体は痛みを誘発しない。ブラジキニンの痛みの誘発反応を増強する。
■痛覚系ー痛みの伝導路
伝導路
1.脊髄視床路(脊髄の反対側を走行)
受容器→脊髄後角→ 脊髄視床路(前外側索) →視床→大脳感覚野・連合野
脊髄の前外側を走行する新脊髄視床路(_、_〜_)と旧脊髄視床路(_〜_)
2.脊髄網様体路(大部分が脊髄の同側を走行)
受容器→脊髄後角→ 脊髄毛様体路(前外側索) →毛様体→視床→大脳感覚野・連合野
受容器→脊髄後角→ 脊髄毛様体路(前外側索) →毛様体→視床下部→辺縁系
■痛覚の神経伝達物質
■サブスタンスP SP
機械的侵害刺激を脊髄後角に伝えるといわれる。脊髄後角の_、_層に多数見られる。
末梢神経では神経性炎症を生じ、脊髄後角ではNMDA受容体を活性化し、中枢性の過敏化する。
■CGRP(カルシトニン遺伝子関連物質)
脊髄後角にインパルスが達すると放出され、2次ニューロンを興奮させる
SPを分解するエンドペプチダーゼの阻害し、SP作用を増強する
■脊髄後角細胞について
感覚神経一次ニューロンは脊髄後角でシナプスする
後角細胞は_〜_に分類され、痛覚に関わるものは_(辺縁細胞)、_(膠様質細胞)
Aδ線維は_、_外側部の特異的侵害受容ニューロンにシナプスを形成
C線維は特異的侵害受容ニューロンの他に_、_、_、_、_の広作動域ニューロンにシナプスを形成
広作動域ニューロンは筋、内臓など深部組織の侵害・非侵害刺激の入力を受ける
■Loserによる痛みの多層モデル1
痛みには、侵害受容 、痛み知覚 、苦悩 、痛み行動 の4層構造がある
1.侵害受容 nociception
侵害刺激により神経自由終末にある侵害受容器に電気的インパルスが生じること
2.痛み知覚 perception of pain
侵害受容によって、複数のニューロンを経由して大脳皮質に到達したときに様々な程度の痛みとして認識される。
3.苦悩 suffering
痛み知覚により引き起こされる、人間が感じる様々な苦しみの全てであり、痛みに伴う不安や恐怖、抑うつなどに伴う苦しみ陰性感情
4.痛み行動 pain behavior
苦悩により引き起こされる、言語的・非言語的表現、および痛みを回避するための行動。
*痛みの多層モデルは、認知行動療法の基礎となる考え方である。
■Livingstonの痛みの悪循環説
Livingston (1943)の著書:"Pain Mechanisms"の中で、カウザルギー(=CRPS Type II )のメカニズムを「痛みの悪循環説」として説明した
感覚線維を巻き込んだ末梢組織の基質的障害は、慢性疼痛の刺激源となる
この発痛点を出た求心性インパルスが、脊髄灰白質内の「介在ニューロンからなる中枢」の異常活動状態を創出する
引き換えに、介在ニューロン群の撹乱が、一つまたはそれ以上の分節の前角の運動ニューロンと側角の交感神経節前ニューロンの異常反応に反映される
脊髄ニューロン活動の混乱が、末梢における筋攣縮、血管運動機能の変化その他をもたらし、痛みと新たな反射のもとになって、悪循環が創出される
撹乱を継続させると、新しい場所に痛みが波及する。しかもはずみがついて、次第に解除困難になる
悪循環を抑えるには
1.発痛点を早期に取り除く
2.刺激源を取り除く
3.反射回路の重要な成分を遮断する
(4)鎮痛の機序
疼痛抑制系
1.下降性疼痛抑制系
2.内因性鎮痛物質
3.ゲートコントロール説
■下降性疼痛抑制系
侵害刺激は大脳で痛覚として認識されるとともに、痛覚を抑制するネガティブフィードバックが働き、下降性疼痛抑制系という。
この系が作用すると脊髄後角で神経伝達物質の遊離を抑制、末梢からの侵害刺激に対する脊髄後角の反応が低下する。
■内因性鎮痛物質
中枢神経内の内因性物質が強烈な痛みから生体を保護する。
βエンドルフィン(μ)、エンケファリン(δ) 、ダイノルフィン(κ)
( )内は受容体
脊髄後角、中脳灰白質、視床下部、視床内側部、尾状核などに受容体が存在する。
■ゲートコントロール説
1965年Merzack&Wallが提唱
脊髄後角細胞で太い神経線維が細い神経線維に対してシナプス前抑制をかける。
■修正ゲート・コントロール説
組織のその傷害の情報は、細い線維(Aδ線維とC線維)によって中枢に伝えられるが、これには2種類あって、傷害のみに反応するものと、より低い刺激閾値を持つが、刺激の強さが侵害刺激のレベルに達すると興奮頻度を増すものとがある。
脊髄後角や三叉神経脊髄路核には傷害信号を運ぶ末梢神経のインパルスによって興奮するニューロンがあり、その興奮は非侵害性信号を運ぶ末梢神経のインパルスによって変えられる。
傷害信号を中継するニューロンの興奮は、脳から下行する制御系によって変えられる。
脳は、侵害受容性信号、非侵害受容性信号および下行制御の影響下にあるゲートコントロール系を経由したメッセージを受け入れる。
細い侵害受容線維の興奮が常に同じ感覚を引き起こすとは限らず、侵害受容に直接関与しない神経線維の興奮や、脳の状態によって強調が加えられる。
【参考図書】
理学療法ハンドブック3版 第1巻 細田多穂・柳沢健編集 共同医書出版
疼痛の理学療法 黒川幸雄他編 三輪書店
痛みの心理学 丸田俊彦著 中公新書
Morecular Medicine Vol41 No.6 2004 特集 痛みの分子メカニズムと臨床 中山書店
他