<はじめに>
生体は自然の時間と空間の中に存在し天地自然の気と交流しながら生命現象を営んでいます。
そして、漢方医学では自然を大宇宙とするのに対し、生体を小宇宙という風に考え、生体内にも自然と同様の時間・空間が宿っているという天人合一の思想が根底にあります。
しかし、天人合一・自然と生体は一体だと言われても漠然としていて中々イメージが掴めません・・・
そこで今回は、自然における時空とは何かを考えた上で、生体内における時空とは何か?時空の盛衰と共に生理活動に盛衰現象を起こす要素とは何か?を「難経」を基にして、自然(時空)と生体の関係性について考えていきたいと思います。
<自然における時空について>
※前提条件として、人が南面していると考えます。
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・時間は夏至と冬至を結ぶ縦軸を中心に して「左右」に分かれる。 ・時間=左右は 「膨張収縮」という空間的要素 「陽盛陰盛」という時間的要素 「有形無形」という人間的要素 含む。 |
・空間は東と西を結ぶ横軸を中心にして 「上下」に分かれる。 ・空間=上下は 「天地」という空間的要素 「昼夜」という時間的要素 「動静」という人間的要素 含む。 |
視点 | 時空 | 属性 | 特徴 | コメント |
時間 (公転) |
時間 | 一年・四時 | 四時という時間の影響を大地に与える。時間の法則。 | 時間という視点では、四時という時間の経過・盛衰に伴う空間(形)の消長変化に着目している。 時間の流れは避けることが出来ない。 否応なく時間は経過し形は変化する。 (時間視点=形体的要素を見ている。) |
空間 | 消長変化 | 四時という時間の影響を受け 消長変化(生長収蔵)する大地。 |
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空間 (自転) |
時間 | 一日・昼夜 | 空間上における昼夜という時間の中の活動現象。 | 空間という視点では、天空と大地という空間での 太陽の出入による昼夜の活動現象(性質)の違いに着目している。 空間での日々の活動は生物の意思・欲求が関わると考える。 どの様に振る舞うか選択できる。 (空間視点=性質的要素を見ている。) |
空間 | 内外出入 | 天空・大地という空間で活動現象がおきる。 |
※「時間」にも時空があり、「空間」にも時空があります。
「時間視点」から時空をみているのか?「空間視点」から時空をみているのか?で違いが出てきます。
表では時間・空間を分けて考えていますが、実際は時間と空間は一つのもので表現されています。
一つのものを二つの違う視点から見ると、同じ時間空間という言葉を使っていても持つ意味が変化します。
<難経における生体と時空との関わり>
難 | 生体内 の時空 |
キーワード | コメント | |
総論 | 一難 | 十二経・寸口・五臓六腑・死生吉凶・一呼一吸・ 脈行一日一夜 |
天地自然と生体との関わりについて。 生体(五臓六腑)は時間(死生)と空間(吉凶)の中に存在している。 そして「呼吸」を通して自然と交流して、生命活動を営んでいる。 |
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二難 | 空間 | 尺寸・陰之所治、陽之所治・一寸九分 | 空間の規定。具体的な場所での生命活動 | |
三難 | 時間 | 太過不及・陽之動、陰之動 | 時間の経過による生命活動の盛衰 | |
空間 視点 |
四難 | 空間 | 呼出心与肺、吸入腎与肝、呼吸之間脾受穀味 心肺倶浮・腎肝倶沈・脾者中州 六脈(一陰一陽〜一陰三陽、一陽一陰〜一陽三陰) |
空間上における五臓を中心とした日々の生理活動(肉体・精神)。 |
五難 | 時間 | 軽重・皮毛血脈肌肉筋骨 | 日々の活動によりエネルギーが消耗、蓄積される。 日々の活動により処理されるエネルギーの保管場所。 |
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六難 | 反応 | 陰盛陽虚、陽盛陰虚・陰陽虚実 | 日々の生理活動による物質の過不足(虚実)の反応。 |
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時間 視点 |
七難 | 空間 | 少陽陽明太陽、太陰少陰厥陰・旺脈・三陽三陰 | 先天のプログラムに従い、季節の巡りと共に盛衰変化する肉体。 先天の能力に従う後天的要素。 |
八難 | 時間 | 諸十二経脈者皆係於生気之原謂十二経之根本也。 謂腎間之動気也。 |
季節の変化を受け止め、対応する根本の力。 腎間之動気を中心とした先天的要素。 |
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九難 | 反応 | 臓腑・遅数・寒熱 | 季節という時間の流れに順応しているかの反応。 現在の季節より遅れているか(寒)先走っているか(熱)。 |
※一難から九難までの基本原理から、一つの生体には
日々の生理活動を起こす「五臓(七神)」と、
時の経過への対応力・成長発育を促す「腎間之動気(原気)」の二つの視点があると考えます。
五臓と原気のどちらの視点に由来するかを分けることにより、どの生理の性質を見ているかを判断します。
<生体内の時空の上下左右について>
視点 | 時空 | 特徴 | コメント |
空間視点 五臓 (七神) |
空間 ‖ 「上下」 |
天地という空間での日々の生体活動(精神・肉体)。 天地人の気の影響を受ける。 五臓(七神)の生理活動との関わり。(上=神 下=精) |
五臓(七神)と構成要素(気血等)との関わり。 日々の生理活動による代謝。代謝により生成、消費される 構成要素との関わり。 生理活動をすることにより能力を保つ又は消耗する。 物質の過不足を表す「虚実」という反応が根本にある。 |
時間 ‖ 「左右」 |
天地人の気を生体活動により消耗、蓄積した状態が表現される。 消耗した要素により反応に左右差が生じる。 「左=血」「右=気」という構成要素の消耗。 |
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時間視点 腎間之動気 (原気) |
空間 ‖ 「左右」 |
四時の時の流れによって膨張収縮という形体の盛衰変化を起こす。 「左=膨張(陽盛)」「右=収縮(陰盛)」という盛衰反応。 |
腎間之動気(原気)と性質要素との関わり。 時間の流れを受け止め時々刻々変化する形体。 持って生まれた先天要素を土台にして後天要素を蓄積しながら形体を生長発育させる。外界の変化に対応する力があるので、時間の盛衰と共に形体を変化させることが出来る。 性質の盛衰を表す「寒熱」という反応が根本にある。 |
時間 ‖ 「上下」 |
四時という時の流れを受け止め、外界の変化に対応するための根本の力。 原気(腎間之動気)という不変の先天要素との関わり。 (上=先天の精 下=後天の精) |
※「上下」は外界からの影響を受ける生体内の場・現象を起こす基準と考えます。
「左右」は生体内の「上下」から影響を受ける要素と考えます。
よって、「上下」という基準が決まることにより、「左右」がどの様な要素になるのか違いが出ます。
空間視点から見た上下・左右なのか?時間視点からみた上下・左右なのか?により上下左右の意味が変化します。
<時空と生体の陰陽盛虚図>
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