10-02/21 頚椎症 造田豊子

頚椎症とは種々の加齢変化により,脊髄や神経根が圧迫されて麻痺が生じた状態です.圧迫される部位により頚椎症性脊髄症と頚椎症性神経根症に分けられ,症状も異なります.

頚椎と脊髄(頚髄)
 クビの骨の中には脳からつながる脊髄神経が脊柱管という管の中を通っており,四肢に脳からの電気信号を伝えています.
脊柱管を構成する頚椎や椎間板が加齢や外傷により変性,変形すると,神経が圧迫され,脊髄本体が圧迫されると頚椎症性脊髄症,脊髄から枝分かれした神経の根元(神経根)で圧迫されると,頚椎症性神経根症を起こします.

頚椎症の症状
 頚椎症性脊髄症は手指のしびれ,こわばり,もつれで発症するものが多く,クビをそらすと手足に電気が走る事もあります.この電撃性ショックは病状の進行につれて消失することが多く,受診を遅らせる原因になります。
 進行期では,階段が降りにくい,足がもつれるなど,下肢症状や排尿障害も出てきますが,頚からの症状と思わず,これも治療が遅れる原因となります.
 頚椎症性神経根症は,頚から肩,腕から手にかけてのしびれ,痛みで発症し,比較的早期に激痛を起こすことが多く見られます.腕を上げると楽になるので,手を頚の後ろに回したまま,受診される患者さんが少なくありません.

頚椎症の原因と病態  
 頚椎症の原因は頚椎や椎間板の加齢変化による変形です.
骨棘や,椎間板が弾力を失い,骨が刺のように変形します.頸椎の前方に巨大な骨棘ができても,物が飲み込みにくくなるだけですが,脊柱管のそばに骨棘ができると,場所により数ミリでも頚椎症を起こしてしまいます.
 脊髄を圧迫するものは骨棘に限らず,椎間板で圧迫される頚椎椎間板ヘルニアも,頚椎症性神経根症に含めることがあります.

脊柱管狭窄症
 脊柱管周囲に頚椎をつなぐ,靭帯があり,この靭帯が肥厚して脊柱管狭窄症(後縦靱帯骨化症)をおこして頚椎症を発症することがあります.さらに,頚を前後屈したときだけ,頚椎同士がずれるためにおこる(動的脊柱管狭窄)場合もあります.
ようするに,神経の周りにあるものすべてが頚椎症を引き起こす原因になり得ます.

頚椎症の診断と治療
頚椎症は病態そのものをあらわしている病名なので,基本的な神経学的検査(筋力低下,知覚鈍麻,腱反射異常など)や頚部圧迫テストで判断できますが,原因を特定するにはレントゲン検査やMRI検査が欠かせません.(脳外科で"あなたの診断は頭痛"ですというのと似たようなもの).
頚椎椎間板ヘルニアによる神経根圧迫に比べ,骨棘による圧迫では,潜行性に進行する傾向があるので原因の特定は治療に欠かせません.
 頚椎症の治療は,初期であれば,頚椎牽引等の物理療法や,理学療法を行います.急性増悪期では頚椎カラーの装着による頚部の安静,入院による頚椎牽引やステロイド剤を投与します.
頚椎症性神経根症は保存療法が原則ですが,軽症の頚椎症性脊髄症(骨性圧迫)では,徐々にあるいは急激に麻痺が進行し,悪化することが多く,手術療法が発達した現在では,早期に手術を勧めることが多くなっています.

                     手 術
頚椎前方固定術

脊髄や神経根を前方から圧迫する病変に対し、前方からのアプローチで病変を直接切除し、脊髄や神経根の圧迫を取り除くことにより、症状の改善を図る手術です。
アプローチの際に、病変レベルの椎間板が摘出されるため、手術終了時に椎間板の無くなったスペースを、骨や金属製のネジなどで充填して脊椎を固定することが必要になります。
後方からアプローチする椎弓形成術に比べて、圧迫病変を直接取り除くことができるので、よりよい症状の回復が期待できます。

手術手技

全身麻酔下に、頚部の皮膚をしわに沿って5D切開します。気管と頸動脈との間のスペースを開いて、頸椎の前面に到達し開創器をセットします。ここから手術用の顕微鏡を用いた細かな手技となります。
まず、圧迫のある部位の椎間板を摘出して、そのスペースから後方の骨棘と肥厚した靭帯を観察できるようにします。次に術野を顕微鏡で拡大しながら脊髄を圧迫している骨棘を、高回転ドリルで慎重に切除します。続いて肥厚した後縦靭帯を切除して脊髄を包んでいる硬膜を露出し、脊髄の圧迫が除去されていることを確認します。
この時点で脊髄や神経根の圧迫は取り除かれていますが、摘出した椎間板の部分に空隙が残ってしまいます。以前はこの部分に腰から取った骨を移植していましたが、最近はチタンという金属のケージ(直径7〜12…度の中空のネジ)を使ってネジ固定しています。ケージの中に、人工の骨や自分の骨片を詰めておくと、1年程の経過で自分の骨によって上下の椎体が固定されます。