2010-8/29 臨床に役立つ東洋的養生法

“養生”とは何か?

五行の性質である
のうちの‘木’の“生”を養うと言う意味の言葉でしたが、
そのスタートである「‘生まれる’を養う」から展要され、今では「‘生きる’を養う」として使われています。

‘生きる’を養うとは、 病気をしないで健康に過ごせる事だと思います。

では、‘病気’とか‘健康’とは何なのか?
それは古今東西の全ての医学が、おそらくは“ホメオスタシス(体内生理の均衡)”と言う考え方から発展した物と思えます。

では東洋医学が考えたホメオスタシスとは?

それが“天・地・人”です。
天地人とは“天”からの絶対作用に対しての、
“地”と“人”の相対反応を言います。
“地”は天の作用に準じた反応をしますが“人”は逆の反応をします。特に“地”と“人”の正逆の反応がこの医学の中核にあります。
夏、太陽は高く昇り日照時間も長くなります。地表はたくさんの太陽エネルギーを受ける事で、気温が上昇します。
‘天の作用’とは太陽の働きです。その働きのエネルギーが、増大すれば‘陽’、減少すれば‘陰’です。
“地”は太陽エネルギーの増大では温度上昇を、減少では温度は低下します。つまり天の作用が‘陽’なら“地”の反応は‘陽’で‘陰’ならば‘陰’となります。
↓絶対作用↓

相対反応→
その地が作った環境に
対して逆の反応を
する事で、体内生理を
均衡させる。
←五臓

天からの絶対作用を
受けた地が反応して
作った環境
“天”の陽に反応して気温が上昇すると、その高い温度の中にいる“人”は、体内生理の活動を下げます。
例えば人体の体内温度は必ず37度です。これもホメオスタシスの一つです。外気温が40度でも0度でも体内温度は37度です。
外気温が高(陽)ければ、人体内は生理活動を抑えて産熱量を減らし(陰)ます。低ければ(陰)、産熱量を増し(陽)ます。こうして外気温がどんな温度でも、体内温度は37度に保たれます。
これらを一般的には外気に対する体温調節と言いますが、疲れたり生活のリズムが崩れて体調を壊すと、なかなか丁度良く調節できません。産熱量が多いとのぼせとなり、少ないと冷えとなります。

「鍼灸師は冷えとのぼせの専門家」と、言えます。

冷えとのぼせには特有の症状があります。
冷えの症状
痛み・痺れ・下痢・咳・意識高揚・空腹感・鼻水・動作不良
のぼせの症状
だるさ・めまい・食欲不振・嘔吐・頭重感・意識沈滞・口渇・全身倦怠
しかし、冷えだけのぼせだけと言う状態はありません。
冷えれば人体は無理に体温を作り、その無理に作った体温は過剰なため今度はのぼせになります。
のぼせれば一気に体温生産をやめるため、今度は冷えになります。
疲れが癒されず、食事や睡眠の時間も一定せず、体調が不安定なまま冷えとのぼせを繰り返す事でホメオスタシスが崩れていきます。
昨今、様々な健康法がありますが、きちんと食べてきちんと睡眠をとれれば、これに叶う健康法はありません。
しかし人間は生きていれば都合もあって、健康ばかりを気にできないのも実情です。そこでまず基本的な事として、環境から受ける損傷に対応して体調の維持を考えました。それが“天・地・人”というホメオスタシスの把握です。つまり人体と自然との関係と対峙の在り方です。
「人体と自然との関係と対峙」の基本は四季の過ごし方です。常に変化する自然に人体をどう沿わせるか?
それが
東洋医学的養生法
となります。

素問;四氣調神大論篇の四時(四季)の過ごし方

各季節の、睡眠の取り方とそれ以外の基本的な過ごし方が明記されて居ます。
季節名の横の、上が‘睡眠の取り方’で、下が‘基本的な過ごし方’となります。

夜は眠くなったら眠り朝は早く起きて庭などをゆっくりと歩く
春は暑くなっていく季節です。春は肝とは三焦の上焦へと働きが向き、体表へと水分が移動します。
人体は春に応じて毛穴は開きやすく、産熱は控える様にしていきます。しかし毎日少しずつ夏に向けて暖かくなっていくという春はありません。突然暑い日になったかと思うと、急に冬の戻ったようになります。変化が激しい毎日に皮膚は毛穴の開閉に忙しく応じ、それに伴って筋肉の産熱量も常に変化させます。特に産熱は控える方向に向かっていて、急な寒さによる産熱は大変疲れるので‘夜は眠くなったら眠り’が適切となります。そしてまず朝一番はその日の気候に身体を慣らすために‘朝は早く起きて庭などをゆっくりと歩く’となります。
冬の不自由さをゆったりと解放する様に勤め、増えていく外仕事を緩やかに行う。調和の精神で暖かくなる自然を社会と共に向き合う
暖かくなる事で人々は活動的になり、伴って外部情報が増えます。忙しさや慌ただしさで筋肉は余分な熱を産みのぼせやすくなります。そのため「ゆったり」や「緩やか」さを大切にします。気候が不安定な時期ですので、身体ものぼせたりその後に冷えたりと安定していなければ、体調を悪くしていく事になります。

夜は眠くなったら眠り朝は早くに起きて昼間の長さを充実する様に活用する
夏は暑さが中心の季節です。夏は心とは三焦の働きが上焦で、水分が体表にあります。
毛穴は開き産熱は抑えられ、人体は冷えやすい状態で暑さに対応します。少しでも活動が過ぎれば産熱量は余りのぼせます。できるだけ疲れを残さないためと、冷えやすい身体を夜の涼しさに晒さないために‘夜は眠くなったら眠り’となります。逆に夏は朝から暑いですから、なるべく早いうちからその暑さに身を置くことで夏に準じた状態が維持できます。それが‘朝は早くに起きて昼間の長さを充実する様に活用する’です。
長い昼を、気持ちを奮い立たせることなく、本来持つ伸びやかさを外に解放する様に過ごす
興奮状態にあれば余分な産熱をし、のぼせ←→冷えの、悪循環が始まります。暑い昼が長いですから一度悪循環に陥りますと、より悪化へと進む可能性が出てきます。ゆったり伸び伸びとした気分で過ごす事を心がけ、身体の活動だけではなく感情の起伏も平坦に保つ事で、夏を順当に過ごせます。

鶏と過ごす様に、夜は早く寝て朝は早く起きる
秋は寒くなっていく季節です。秋は肺とは三焦の下焦へと働きが向き、体の奥へと水分が移動します。
急に寒くなる事で毛穴は活発に開閉を繰り返し、産熱も増えていきます。夕方の日の落ちるのがはやくなり、伴って夜は思う以上に寒くなります。春と同じに毎日の気候に差があり、やはりその日の気候に慣れるために朝ははやく起きますが、寒さの早まる夜に身を晒さないために、早寝を心がけます。逆に昼間はきちんと活動します。
収穫や冬への準備をあくせくせずに、穏やかに行う
秋は厳しい冬を迎えるための季節です。気候が涼しく過ごしやすくなるので、あくせくと冬支度をしてしまいがちです。特に冬支度に限定しなくても、春から夏へと活動的に過ごした事で、寒くなっていく事を忘れて活動を続けてしまいがちです。
寒くなる事で産熱量が増え、それだけでも生理的活動が増えて体力を浪費します。そこに夏からの活動量が加わる事で、冬に向けた体力の温存が失われる事にもなりがちです。それを防ぐために‘あくせくせずに、穏やかに行う’とあります。

夜は早く寝て朝は必ず日の光を待って遅く起きる
冬は寒さが中心の季節です。冬は腎とは三焦の働きが下焦で、水分が体の奥にあります。
下焦で水分は身体の奥底へとしまわれ、冷えにくい体となってはいてもとにかく寒さに身体を晒さないとうのが、冬の基本です。極寒の夜には活動せず、寒い朝も無理には起きない様にします。人体が寒さに慣れると言う事はありません。寒さに対しての敵応力は上がりますが、少しでも身体が衰えれば、寒さは体に浸食し体調を狂わせてしまいます。ですので寒さに身を晒して強くなると言うのは、一時的な対応に過ぎません。人体がどんなに頑張ってぴったり毛穴を閉じても、カロリーを燃やして産熱を増やしても、10度以下の外気の中で体温を37度に保つのは物理的に不可能です。そのため衣服や暖房があるわけですが、それよりも基本は寒さを避ける事となります。
意欲を抑え行動には出さず、寒さを避け常に体を温める。体力を浪費して汗をかかない様にする
寒い季節では、毛穴を閉じて産熱するだけでもかなりの活動量となります。さらに意欲を昂ぶらせ活動的になればより疲れますし、そこに汗をかけば体温は奪われ、より体は冷やされてしまいます。寒い季節での、冷え←→のぼせの悪循環は、致命的です。のぼせの時にかいた汗で冷やされ、さらに冷えが助長します。ですので‘寒さを避け常に体を温める’事が大切となるのです。

「養生法」とは、常に次の季節を見越した暮らし方と言えます。