これから経絡治療を始める方へ 平成23年10月16日

〜四診法〜 宮下 豊子

四診法とは、望診・聞診・問診・切診を言い、これらによって得られた情報を
陰陽(脈状診)または五行(六部定位脈診)に分類する。

1:望診 視覚によって病態を診察する方法
a)神をみる−顔面の光沢や目の光彩などを観てその状態をうかがう
b)色をみる−顔面全体や各部分、全身の皮膚の色沢をみる
c)形態をみる−体格や動きの状態をみる
d)舌をみる−舌の色や形、舌の表面に付く舌苔をみる
顔面全体や全身の色と五臓の関係
五行 木 火 土 金 水
五臓 肝 心 脾 肺 腎
五色 青 赤 黄 白 黒

2:聞診 聴覚・嗅覚によって病態を診察する方法
患者の呼吸音、発声、発語、口臭、体臭をきく。
五行 木 火 土 金 水
五臓 肝 心 脾 肺 腎
五声 呼 笑 歌 哭 呻
五音 角

か行 た、な、ら行 あ、や、わ行 さ行 は、ま行
牙音 徴 舌音 宮 喉音 商 歯音 羽 唇音


五香(臭) 羶
あぶらくさい 焦
こげくさい 香
かんばしくさい 腥
なまぐさい 腐
くされくさい

・呼−人を呼びつける、大声で威張る、病気の苦痛を強く訴える
・笑−多言になる、言葉の間違いが多くなる
・歌−鼻歌を歌い、いつも歌を口ずさみ、歌うように話しかける
・哭−泣き言を言う、泣きやすくなる
・呻−うめき声またはうなり声をあげる、体力が伴わず欠伸が出やすくなる

・羶−羊の生肉のにおい
・焦−鶏を焦がしたにおい
・香−お香のにおい、ミルク臭い
・腥−生肉の脂や鶏の脂のにおい

3:問診 問いかけと応答(Q&A)によって病態を診断する方法
a).現病歴−病気の経過や生活環境、飲食起居、他の治療の経過などを聞く
b)現在症−現在の症状を聞く 病人の症状に基づいて系統的に質問する
明代の張景岳『十問歌』
1に寒熱、2に汗、3に頭身、4に便、5に飲食、6に胸、7に聾、8に渇、9
に脈色により陰陽を察し、10に気味により神見を章かにする。

4:切診 触覚によって病態を診察する方法
術者の手掌を用いて行う診察法であり、切経・候背・腹診・脈診・尺膚診に分か
れる。
a)切経
各経絡を触診する。経絡そのものの膨満したカ所、毛穴の開きやざらつき、皮膚
の温度や硬さなどの他に経穴もみる。
異常所見としては、寒熱、虚(陥下・浮腫・枯燥)実(腫脹・圧痛・硬結)が現
れる。
(1) 全身の経絡上をみる。
(2) 上下のバランスをみる。
(3) 組織の変化をみる。
皮膚
肌肉/筋肉
骨/血脈
b)候背腹診
(1) 兪穴・募穴の寒熱・虚実をみる
(2) 五臓六腑の診察部位の寒熱・虚実・積聚をみる
平人無病(健康)の人の腹
心窩部はやや低く、小腹はふっくらとしており任脈と臍はやや陥凹している。
腹部全体としては暖かく潤いがあって軟らかさがある。
c)脈診
左右の橈骨動脈拍動部をみる。
(1)脈状診:脈全体の浮沈・遅数・虚実・左右差などを見て、邪気に対する生
体の反応をみる。
どちらか片方もしくは両方の橈骨動脈拍動部の脈状態その物を診察する。どこか
の脈と比べて強いとか弱いとかでは無く、今現在、指頭が触れている脈がどうか、
と言うのが診察対象になる。
 脈状診によって生体が季節の変化に順応しているかどうかや、傷害された邪気
の内容や五臓の状態などを知ることが出来る。
 漢方医学では各季節には五臓のうちのいずれかが、中心となって働くと考える。
春には肝が夏には心がと言う様に、その臓が受け持つ脈が脈状として現れる。

五行 木  火 土 金 水
五臓 肝 心 脾 肺 腎
四季 春 夏 土用 秋 冬
五脈 弦 鉤(洪) 緩(代) 毛(渋)(浮) 石(滑)(沈)

・弦脈−力強く速い脈(弓弦の張った感じのする脈)
・鉤脈−万物が茂る状態、陽気が溢れている状態(力のある脈)
・洪脈−波が打ち寄せるように勢いがよく、洪大で力強い脈
・緩脈−緩んで締まりがなく緩慢な脈
・毛脈−浮いて底に力が無い脈 → 浮脈
・石脈−沈んで堅い脈 → 沈脈
・六祖脈:浮・沈・遅・数・虚・実、と言う脈状を一般的には六祖脈とすること
が多い
(2)比較脈診(六部定位脈診):脈診部位を寸口・関上・尺中に分け、十二内
臓を配当し、それぞれの虚実をみる。
左 沈 浮 右 沈 浮
五行 五臓 六腑 定位 五行 五臓 六腑
火 心 小腸 寸口 金 肺 大腸
木 肝 胆 関上 土 脾 胃
水 腎 膀胱 尺中 心包 三焦
d)尺膚診
肘窩横紋から手関節前面にかけて尺膚と呼び、外界からの影響を受けにくい場所
とされている。その部分の皮膚や筋、肌肉を触って観察することで寒熱や滑渋な
どを診察する。
尺膚診は、中国最古の歴史書である「史記」の倉公列伝の中にも記載されており、
  「素問」を経て、「霊枢」の邪気臓腑病形篇、同じく論疾診尺篇にいたる。
さらに、「難経十三難」においてもその記載をみる事ができる。切診の一手段で
ある  尺膚診は、脈診、腹診と並び、有用な診察法の一つであったことがわか
る。

【文鍼研における尺膚診】
 「霊枢」・「難経」では、色・脈・尺膚の相関性を述べ、尺膚のみかたとして
は、緩急・ 大小・滑渋をみると表現されている。いわゆる脈診でいうところの
脈状診に当たる見方であり、患者の病性(寒熱)病勢(虚実)を弁じる。当会で
はこれに加えて五主(五組織)の所見により、五臓の生理機能をみることで病証
部位の特定をしている。

【尺膚診の特徴】
1)脈診に比べ、前腕内側の?理・五主の状態は客観的に把握しやすい。   
   消去法により、治療の証の決定が容易である。
2)鍼のドーゼの適否が、直ちに尺膚所見に反映されるため、治療効果を容易に
  確認することができる。
3)複数の術者が左右同時に?理・五主の変化を確認できる。
4)尺膚診をする事により、基本的な触診の技術が修得できる。

【尺膚診のすすめ方】
 前腕内側を術者の手掌をもつて肘から手首にむかい軽く切診する事により、?
理や 五主の状態を通じて、患者の寒熱や気血の状態、五臓の虚実を決定する。
?理とは、術者の手が患者の前腕に触れるか触れないかの部分を言い、汗腺の 
 開閉・温度・艶の有無などをみる。
五主とは、皮毛・肌肉・筋・骨・血脈のことであり、前腕内側の部位にてこれら
を最も良く観察することができる。

1.肺(皮毛)
前腕内側の皮膚の枯燥、潤沢、寒熱、などの状態が季節に合っているか否かをみ
る。季節にあっている状態を良しとする。

2.脾(肌肉)
前腕屈筋群の筋腹の部位にて肌肉の栄養状態、硬軟をみる。ふっくらと柔らかい
状態を良しとする。

3.肝(筋)
手関節の腱の部位にて筋(スジ)の状態、硬軟をみる。筋が硬く皮膚を押し上げて
いるような状態は悪く、皮膚上、軽く、柔らかく触れる状態を良しとする。

4.腎(骨)
橈骨と尺骨と手根骨の骨(コツ)の充実度をみる。重すぎず、軽すぎずを良しと
する。

【九星体質】       大       肌肉       小
・木の人 3と4          土・金   火・水   木
全体的には肌肉の柔らかいスリムな感じの人が多い。
太っていたとしてもボリュウム感が余り無い。
・火の人 9
中肉で肌肉の感じが外に向かった柔らかい感じ。太さも細さも張りも感じない。
・土の人 2と5と8
脾肉が豊満で柔らかく痩せていてもふくよかな感じがある。
・金の人 6と7
肌肉が豊満で硬く筋肉質な感じがする。張りの強い感じがある。
・水の人 1
中肉で皮膚がなめらかな感じの人が多い。肌肉の感じが内に向かった柔らかい感
じ。太さも細さも張りも感じない。