H23年11月20日 経絡治療を始める方へ〜証の決定と治療の進め方〜

宮下 豊子


経絡治療は、"気"の調節を行います!!

<証の名前>
        〜本治〜       〜標治〜
1. 肝虚証 : 肝経、時に腎経    亜門・腰陽関
2. 脾虚証 : 脾経、時に心包経   脊中
3. 肺虚証 : 肺経、時に脾経    大椎・脊中
4. 腎虚証 : 腎経、時に肺経    腰陽関・大椎
それぞれに、陰証(虚症・慢性)と陽証(実症・急性)があり、合計八つの証が成り立ちます。
相克関係より、夏は腎虚証、冬は脾虚証、土用は肝虚証がありません。
春(例外)と秋は全証使います。
〜虚証とありますが、その経(臓)が虚しているわけではありません。その経を補う事で、生体のバランスを整える事を意味します。例えば、寒熱で考えた場合、寒に傾いていたならば熱へ、熱ならば寒へというように逆方向へ向かわせます。
<本治法の使用経穴>
本治穴は、栄火穴・兪土穴・経金穴・合水穴を使用します。
相克関係により、春は経金穴、夏は合水穴、秋は栄火穴、冬は兪土穴を使用しません。
土用は四穴とも使用します。井木穴はどの季節も使用しません。
本治穴は基本1穴片側のみ 
ex)健側か患側か 
  男:左
  女:右 
 浮脈:左
 沈脈:右

◆ 五行穴 ◆
陽 経
経絡 井 栄 兪 経 合
五行 金 水 木 火 土
胆経 竅陰 ?谿 臨泣 陽輔 陽陵泉
小腸経 少沢 前谷 後谿 陽谷 小海
胃経 ?兌 内庭 陥谷 解谿 三里都
大腸経 商陽 二間 三間 陽谿 曲池
膀胱経 至陰 通谷 束骨 崑崙 委中
三焦経 関衝 液門 中渚 支溝 天井
陰 経
経絡 井 栄 兪 経 合
五行 木 火 土 金 水
肝経 大敦 行間 太衝 中封 曲泉
心経 少衝 少府 神門 霊道 少海
脾経 隠白 大都 太白 商丘 陰陵泉
肺経 少商 魚際 太淵 経渠 尺沢
腎経 湧泉 然谷 太谿 復溜 陰谷
心包経 中衝 労宮 大陵 間使 曲沢

※モデル点ではなく、反応点へ施術!!


<本治法の使用経穴の決定(ツボだし)>
四季の運行では2月4日が立春で、その後3ヶ月間を春、次の3ヶ月間を夏、次の3ヶ月間を秋、次の3ヶ月間を冬としていますが、さらに3ヶ月間の中を6つに分け、1年間を6×4=24分割したものを二十四(にじゅうし)節気(せっき)と言います。1節季が約15日(14〜16日)で春分、夏至、秋分、冬至が天文学的に一致するように振り分けます。その節変わりの初日に陰と陽の性質を持った経穴を探して決定します。土用の時期(4回)は、節気の途中から始まりますので、合計で28回のツボだしを行います。これが、本治法で使用する栄火穴
・兪土穴・経金穴・合水穴になります。

◆二十四節気とその特徴 ◆
節気名 入節日 干支 特徴
立春(りっしゅん)
2(旧正月)/4前後
寅 正節 天は春に入る。寒さは厳しいが日が長くなり始める
雨水(うすい)
2(旧正月)/19前後
寅 中気 凍りついていた水分が雨となり降る様になる
啓蟄(けいちつ)
3(旧2月)/5前後
卯 正節 冬眠していた虫が地中よりはい出して来る
春分(しゅんぶん)
3(旧2月)/20前後
卯 中気 昼夜の時間が同じ長さになり次第に昼が長くなる
清明(せいめい)(土用)
4(旧3月)/4前後
辰 正節 天地万物が清浄明潔で生き生きして来る
穀雨(こくう)
4(旧3月)/20前後
辰 中気 全ての穀物を潤し芽を出させる
立夏(りっか)
5(旧4月)/5前後
巳 正節 天は夏に入る。爽快な夏の気が立ち始める
小満(しょうまん)
5(旧4月)/21前後
巳 中気 万物が一応満足な大きさに成長する
芒種(ぼうしゅ)
6(旧5月)/5前後
午 正節 禾(のぎ:穂の垂れた粟の意)の有る穀物の取り入れ
夏至(げし)
6(旧5月)/21前後
午 中気 最も昼が長く夜が短い。暑さはまだ本格的ではない
小暑(しょうしょ)(土用) 7(旧6月)/7前後
未 正節 暑さが徐々に増してくる
大暑(たいしょ)
7(旧6月)/21前後
未 中気 暑さが本格的になってくる
立秋(りっしゅう)
8(旧7月)/7前後
申 正節 天は秋に入るが地は暑さのピークである
処暑(しょしょ)
8(旧7月)/23前後
申 中気 暑さがやむという意味。朝夕は涼しさが加わる
白露(はくろ)
9(旧8月)/7前後
酉 正節 野の草に白く露が付いて、秋の気配が濃くなる
秋分(しゅうぶん)
9(旧8月)/23前後
酉 中気 昼夜の長さが同じになり次第に夜が長くなる
寒露(かんろ)(土用)
10(旧9月)/8前後
戌 正節 朝露を踏むと冷たく秋の深まりを感じる
霜降(そうこう)
10(旧9月)/23前後
戌 中気 朝露が降り始める
立冬(りっとう)
11(旧10月)/7前後
亥 正節 天は冬に入る。秋の気配が残るが日足が短くなる
小雪(しょうせつ)
11(旧10月)/22前後
亥 中気 初雪の便りが入るようになる
大雪(だいせつ)
12(旧11月)/7前後
子 正節 山に雪が降り冬景色となる
冬至(とうじ)
12(旧11月)/22前後
子 中気 最も昼が短く夜が長い。寒さはまだ本格的ではない
小寒(しょうかん)(土用) 1(旧12月)/6前後
丑 正節 寒さが日増しに強くなる。雪も降る様になる
大寒(だいかん)
1(旧12月)/21前後
丑 中気 寒さが本格的になりしばしば雪が降る

<標治法の使用経穴>
標治穴は、督脈の?門穴、脊中穴、大椎穴、腰陽関穴を使用します。
相克関係により、春は大椎穴、夏は腰陽関穴、冬は脊中穴、土用は?門穴を使用しません。秋は四穴全て使用します。
症状によっては、督脈以外の経穴も使用しますが、標治法の一貫として捉えます。
※モデル点ではなく、反応点へ施術!!

<治療の進め方>
1. 患者の受療姿位
基本的には、仰臥位からスタートします。
患者の頭上、足元、左右にスペースがあるのが理想です。
2. 術者の施術姿位
患者の左右どちらかに立ちます。(男性:左、女性:右)立ち位置は、患者の腰くらいで術者の体の正面を患者に向けます。
3. 診察法(=切診)
特徴的な診察法として、尺膚診(肘窩横紋から手関節までの前腕前面の切診)と脈状診(橈骨動脈拍動部の切診)があります。患者の左側に立った場合は右手で、右側に立った場合は左手で脈をみます。両側の脈を同時にみても可。脈状診で、六祖脈(浮沈・遅数・虚実)や脈の形状をみます。
4. 治療の手順
診察により、証の決定から仰臥位で本治法を施します。本治法では陰経の五行穴(井木穴以外)を使用し、生体の陰陽バランスを整えます。次に伏臥位の状態で標治法を施します。標治法は、督脈上の経穴を使用し気血水の流れを整えます。
督脈上は流れの中心であり、流れを乱している原因がここにあります。症状が悪化すると川幅が広がるように、症状の反応も外側に現われます。最後にまた仰臥位に戻ってもらい、本治法で脈と尺膚の微調整をして治療を終了します。

<補法と瀉法>
鍼灸治療の対象は気血の虚実です。虚とは邪気によって精気が弱った状態で、実とは邪気の侵入を拒むか、もしくは侵入した邪気と精気が闘っている状態です。
虚に対しては、補法を、実に対しては瀉法を行います。取穴を中心にした方法と、手法を中心にした方法があります。しかし、ここで紹介するのは学術的に言われている方法であって、その方法を行えば、必ず補や瀉が成立するわけではありません。実際には受け手である病体が施術者の行った治療を補と取るか、瀉と取るかになりその判別を術者がしなくてはいけません。ここにあげる補法と瀉法は病体の状態と季節や気候に応じて選択することで、より理想に近い形で補や瀉を成立させるための一つの手段であり条件の一つでもあります。そして最終的にはドーゼ(刺激量)のコントロールという技術へと発展させることや、患者と向かい合うという心によってその理想が達成できます。

◆取穴の補と瀉◆ 

(難経六十九難より)
虚経     補法の取穴     実経     瀉法の取穴
木経  自経の水穴、水経の水穴  木経  自経の火穴、火経の火穴
火経  自経の木穴、木経の木穴  火経  自経の土穴、土経の土穴
土経  自経の火穴、火経の火穴  土経  自経の金穴、金経の金穴
金経  自経の土穴、土経の土穴  金経  自経の水穴、水経の水穴
水経  自経の金穴、金経の金穴  水経  自経の木穴、木経の木穴

◆手法の補と瀉◆
手法
補法
瀉法
呼吸
呼気に刺入し、吸気に抜刺
吸気に刺入し、呼気に抜刺
迎随(げいずい)
鍼を経絡の流注に沿って刺入
鍼を経絡の流注に逆らって刺入
提按(ていあん)
刺鍼前に取穴部位を軽く切按し押手の指先を密着させて刺入
押手の拇指と示指を緩めて鍼を刺入
開闔(かいごう)
抜鍼した直後に鍼口を押手で抑え軽く揉む
抜鍼後、鍼口に触れない
出内(すいだい)
徐々に刺痛なく刺入し、徐々に抜鍼する
すばやく刺入し、すばやく抜鍼する
弾爪(だんそう)
取穴した所を押手の爪でロックし刺入後刺手で鍼柄を弾く
切皮後、押手で鍼口を拡げるようにする
細く柔らかいもの
太く固いもの
寒熱(浅深)
緩やかに深めに刺入し、緩やかに抜く
浅く速く刺して、速く抜く
転鍼
鍼の刺入後、鍼体を抵抗の無い方に回す
鍼の刺入後、鍼体を抵抗の有る方に回す

手法
補 法
瀉 法
艾の質
良質
粗質
  硬さ
柔らかい
硬い
  底面
狭い
広い
  大小
小さい
大きい
燃焼
火が自然に消えるのを待つ
火を吹いて速く燃焼させる
速度
ゆっくり間隔をあける
素早く間隔をあけない
続行
灸灰の上に重ねてすえる
灰を取り除いてすえる

<ドーゼ>
運動能力に対する体力と鍼に対する体力は異なります!!

<使用する鍼>
・ 豪鍼:長柄鍼(鍼柄八分・鍼体八分)、銀鍼
鍼:金鍼、銀鍼、銅鍼

<養生>
夏にアイスクリームを食べすぎた女性と冬にしっかりと防寒をした女性について

以上