2012年10月21日 「時空の構造と構成:1・2・3と2・4・8」 相原黄蟹


*/ はじめに */
漢籍を読解するためにはいくつかの基本ルールとそれを活用するためのスケール・ツールが必要となる。
これまで『類経:図翼』の一文より「医易」の思考方法を起点として論述してきたが、
それらをさらに発展展開して立体構造モデル(以後キューブと略称する)を創始した。
このキューブは治療の証を得るための簡易計算機ではなく、どのような状況・状態に置かれているかを認識するためのツールとして機能する。
以下、このキューブの意義と使用方法を構造要素と構成要素の二つの視点から解説を試みる。

1. 構造要素(structure)・構成要素(component)とは何か?
概括すると構造要素とは縦・横・奥行きをもった位置関係を示す空間的要素(space)視点であり、
構成要素とは事象の認識処理(役割)過程を示す階層構想(hierarchy)を時間的(time)視点からとらえたものである。
両者は、分離独立して機能するのではなく、有機的相互補完関係で存在機能している。
簡略すれば構造とは思考範囲を限定する枠(frame)であり、構成とはその中に内包された役割(factor)だといえる。


2. 1・2・3とは何か?
注:以下取り上げる’数’とは一般で用いられる基数・順序数の意ではなく、古代中国哲学に元ずく象徴数の意である。

☆「1は原理条件を規定し、2は要素条件を規定し、3は現象条件を規定する。」

は気、万物の始まり」とあるようにすべての起点として原理原則並びに存在の意を帯する。
易では1は、陽数であり男性を表す。
また宇宙を構成する要素である時間(縦軸)・空間(横軸)が対立相関する原理原則としてそれぞれ一の属性として一翼を担う。
後述するが×(たすき)は2本線の交差であるが一の属性を持つ

は陰陽万物の道路である」
易では、二は陰数であり女性を表す。
二は、一で規定された原理原則条件の下で、陰陽相互の対立・相関などの属性の象徴変化をもたらす場を規定する。
また二は、一つのものを二つに分けるという意味と二つのものを一つに合わせるという意味もある。
一では、時間と空間は独立したものとしてとらえるが、二では時空と一つのものとしてとらえる。

は、現象を表す実態である」
三は、三才(天人地)・三宝(精気神)・3D(XYZ)・三焦(上中下)・松竹梅…などと目的別に階層化された条件を提示している。
また三は、 1+2=3 というように一の要素と二の要素を内包した数としてとらえる視点も必要である。
これは、三角柱という現実を現象として認識する場合、横からの視点をとると二つの側面が見えるときと一つの側面しか見えないときがある。
つまり現象をとらえる場合一視点と二視点の二つの異なった情報認識処理をしていることになる。
例えば、神(性質)と気(エネルギー)があってもそれを表現する精(容器)がなければ能力を発揮できないし、
物を握るための性質(神)と手指(容器)があってもエネルギー(気)がなければ目的を達成できない。
後述するが、十字形・たすき型それぞれ一の性質要素と二の性質要素を共有している。
また三は、思考機序(Process)における条件階層構造(hierarchy)を三段階に区分整理する意味をも有している。
(付録:八卦の三爻についての項を参照)

例: 気: 気 → 陰陽 → 五行
   陰陽:  基軸(縦横) → 場面(左右・上下) → 方向(昇降・右旋左旋)
       時間 左右 → 四季・四時 → 八時
       空間 → 四正・四偶 → 八法


3. 2・4・8とは何か?
「2・4・8」とは、上述の陰陽の条件の三階層構造を数字表記した物である。
 2×1=2 ・ 2×2=4 2×2×2=8
易では、陰陽両義・四象・八卦と著されている。

「二」とは、縦時間軸・左右場面・昇降方向か横空間軸・上下場面・左旋右旋方向かの視点と十字形属性かたすき型属性かという
二つの視点がある。
後者は二つの線分によって四つのエリアに分割されているように見えるが、ここでは線分軸についてのみ着目しているため二属として扱う。
さらに、十字形は縦時間軸と横空間軸の二つの要素の組み合わせとして二としてとらえるのに対し、
たすき型は2本の線分ではある物の一の単体としてとらえる。
注:現在処理している対象テーマが何であるのか?によって線分軸について思考しているのか場面の区分エリアを思考しているのかを
明確化 しなくてはな らない。もし怠ると得られる結果の一属性と二属性が逆転してしまう。
注:四の場面においては一と二は十字形・たすき型それぞれ逆になる。(後述)


「四」とは、二つの線分軸によって分割されたエリアとその線分軸の四つの先端の示す属性によって分割分類する理法である。
ここでも十字形とたすき型の二属に類別される。
「十字形」は、時間軸型と空間軸型の二属に類別される。
さらに、時間軸型は’時間/時間’と’空間/時間’に、空間軸型は’空間/空間’と’時間/空間’に細分化される。(詳述略)
「縦時間軸」は、上下に伸びた線分が左右場面を区分し左昇右降の方向性を示す。これに横空間軸の左右に伸びた線分が
左昇右降の場面を上下に二分し場面は四分割される。
四つの軸端は、それぞれ下端:子・冬至・水、上端:午・夏至・火、左端:卯・春分・木、右端:酉・秋分・金であり、二至二分を示す。
二つの線分軸に囲まれた四つのエリアは、それぞれ左下:春・生・木、左上:夏・長・火、右上:秋・収・金、右下:冬・蔵・水であり、四季を示す。
従って、軸端は一属・二軸に囲まれたエリアは二属となる。
「横空間軸」は、左右に伸びた線分が上下場面を区分し下左旋上右旋の方向性を示す。
これに縦時間軸の上下に伸びた線分が左旋右旋の場面を左右に二分し場面は四分割される。
四つの軸端は、それぞれ左端:卯・東・木、右端:酉・西・金下端:子・北・水、上端:午・南・火であり、四正を示す。
二つの線分軸に囲まれた四つのエリアは、それぞれ上左:東・日出・木、上右:南・南中・火、下右:西・日入・金、下左:北・深夜・水であり、
四方である。

「たすき型」も、変傾縦軸型と変傾横軸型に類別される。
「変傾縦軸型」は、左下から右上に伸びる斜線分が区分する左右の場面を、左上から右下に伸びる斜線分によって四分割されるエリアである。
四つの軸端は、それぞれ左下端:丑虎・立春・木、左上端:辰巳・立夏・火、右上端:未申・立秋・金、右下端:戌亥・立冬・水であり、
四立を示す。
二つの線分軸に囲まれた四つのエリアは、それぞれ左:春・生・木、上:夏・長・火、右:秋・収・金、下:冬・蔵・水であり、四時を示す。
「変傾横軸型」は、左上から右下に伸びる斜線分が区分する上下の場面を、左下から右上に伸びる斜線分によって四分割されるエリアである。
四つの軸端は、それぞれ左下端:丑虎・東北・木、左上端:辰巳・東南・火、右上端:未申・西南・金、右下端:戌亥・西北・水であり、
四偶を示す。
二つの線分軸に囲まれた四つのエリアは、それぞれ左:東・朝・木、上:南・昼・火、右:西・夕・金、下:北・晩・水であり、四方を示す。


「八」とは、十字形四とたすき型四を組み合わせた理法である。
すなわち、時間条件と空間条件を加味した時空条件「現実を反映した条件要素」である。
漢籍には、’八卦’’八風’’八時’’八方’’八正’などと枢要な位置を占めている。
ここでもまたこれまで同様に二つの視点があることを注意しなければならない。
それは、十字軸2本とたすき軸2本によって作られる8本の腕がもたらす8点の線分先端部分が意味する視点と、
それに区切られたエリア部分が意味する視点の二つである。
<腕:線分先端>
置数 = 1・2・3・4・5・6・7・8
時間 = 冬至・立春・春分・立夏・夏至・立秋・秋分・立冬
空間 = 北・東北・東・東南・南・西南・西・西北
八卦 = 乾・兌・離・震・坤・艮・坎・巽(付録参照)

このように軸となる線分は、何かを分ける基準線であり、時空の分岐点であると同時に終始点でもある。
それ故に<はじめに>で述べた’構造要素視点’の意味合いが濃い。(フレーム)
それに対して線分によって区切られたエリア部分は各条件の下で表現される現象であることから’構成要素視点’(factor)の意味合いが濃い。
すなわち、1の冬至点(時間)は一年の起点(一陽来復)であり、北点(空間)は太陽黄道南回帰点であり共に陰陽降昇の分節点であるの対して、
そこから左回りに広がるエリア部分は諸現象が段階的に表現されていく過程・実態を意味している。
そして諸現象を理解するためにはこれら「二分割」(1/2:half) 「四分割」(1/4:quarter) 「八分割」(1/8:octant)を加えながら細分・統合関係を
構築していく。


4. 'cross model' 'diagonal model'の'point''elijah'
以下便宜上、十字形(crossmodel)・たすき型(diagonal model)軸端をP(point)・線分に囲まれた部分をE(Elijah)と表記する。(左回りに表記)

'1/2(helf)'
cross model1:
<time>
left:up ↑(wood): P1 E1 P2 E2 P3 E3 P4 E4
right:down ↓(gold) P5 E5 P6 E6 P7 E7 P8 E8
<space>
top:right →(fire) P3 E3 P4E 4P5 E5 P6 E6
bottom:left ←(water) P7 E7 P8 E8 P1 E1 P2 E2

diagonal model1:
<time>
left:up ↑(wood) P8 E8 P1 E1 P2 E2 P3 E3
right:down ↓(gold) P4 E4 P5 E5 P6 E6 P7E7
<space>
top:right →(fire) P2 E2 P3 E3 P4 E4 P5E5
bottom: left ←(water) P6 E6 P7 E7 P8 E8 P1E1

'1/4:quarter'(point=4 Elijah=8)
cross model2:
<time>
wood: E1 E2 P3
fire: E3 E4 P5
gold: E5 E6 P7
water: E7 E8 P1
<space>
wood: P3 E3 E4
fire: P5 E5 E6
gold: P7 E7 E8
water: P1 E1 E2

diagonal model2:
<time>
wood: E8 E1 P2
fire: E2 E3 P4
gold: E4 E5 P6
water: E6 E7 P8
<space>
wood: P2 E2 E3
fire: P4 E4 E5
gold: P6 E6 E7
water: P8 E8 E1

'1/8 octant'(point=8 Elijah=8)
croos model3
<time>
wood: E1 P2 P4 E4
fire: E3 P4 P6 E6
gold: E5 P6 P8 E8
water: E7 P7 P2 E2
<space>
wood: P3 E3 P6 E6
fire: P5 E5 P8 E8
gold: P7 E7 P2 E2
water: P1 E1 P4 E4

diagonal model23
<time>
wood: E8 P1 E1
fire:E2 P3 E3
gold: E4 P5 E5
water: E6 P7 E7
<space>
wood: E2 P3 E3
fire: E4 P5 E5
gold: E6 P7 E7
water: E8 P1 E1

以上が想定されるモデルの総パターンである。
これらを演繹し漢籍において必枢常用される五行分類要素がどのような条件・視点で論じられているかどうかというかが重要となる。
例えば、標準条件レベル1の場合’腎’は水行に属するが、条件レベル2「腎に両蔵あり。左腎右命門」とあるように水の中に火水の相反する
要素を内包していることを著している。
従って簡易鑑別法(後述する)により仮に左側足厥陰肝経にて病理的生理反応が改善されるとき、そのような結果をもたらすメカニズムの中の
何れの条件に該当するのかを知る必要がある。
施術部位つまり’治療の証’を選択したとき、その経・穴が有するどのようなメカニズム有効機能特性を期待しているのか?を
理解する一助となる理論である。

前述したとおり我々が接する実態現象を反映しているのが線分軸で囲まれたElijahであり、そのElijahを主催管理する要素が軸となっている。
上記表の'1/4:quarter'cross model2<time>のwood Elijahを主催管理しているのがP2の線分軸であり、同じくdiagogal<space>のwood Elijahを
主催管理しているのがP3の線分軸である。
これら'1/4:quarter'のelijahはその線分軸によって異なる要素に二分されている。
つまりcross model elijahはdiagonal modelpointの軸によって、
<time>wood elijah;E1water E2wood: fire elijah;E3wood; E4fire: gold elijah;e5fire E6gold: water elijah;E7gold E8water:
<spass>wood elijah;E3wood: fire elijah;E5fire E6gold: gold elijah;E7gold E8water:

diagonal model elijahはcross model pointの軸によって
<time>wood elijah;E8water E1wood: fire elijah;E2wood E3fire: gold elijah;E4fire E5gold: water elijah;E6gold E7water:
<space>wood elijah;E2water E3fire: fire elijah;E4wood E5gold: gold elijah;E6fire E7water:
に分割されている。


5. 三才との融合'cube'
以上陰陽理論の展開を説明してきたが、これら原理法則を時空に表現するとき天人地の三才の思考が必要となってくる。
ここで述べられる三才とは、広義の宇宙論’天地人’の展開ではなく、人を中心に置いた’天人地’視点での思考である。
つまり任意の点である人は大地の上に前後左右上下に広がりを持つ立体三次元であり、紙上に図示される二次元図表では
表現しがたく理解しがたい。
そこで人と天地自然との関係性を示す構造構成標準モデルとして三次元的広がりを持った立方体'cube'を用いた。

まず立方体の状の二階建て家をイメージして欲しい。
各壁面は四方に正対しており、上下階正方形の部屋が四つありそれぞれの部屋には四方に向けて二つの窓が開口している。
屋上は八時(冬至・立春・春分・立夏・夏至・立秋・秋分・立冬)天空に繋がり、敷地は八方(北・東北・東・東南・南・西南・西北)大地に繋がる。
上下階共に床が大地を天井が天空を意味する。
一階は大地との関わりが強く、二階は天空との関わりが強い。(上下論)

上下階共に東側に北部屋南部屋・西側に北部屋南部屋・北側に東部屋西部屋・南側に東部屋魅し部屋がある。
上下階共に東側部屋には東向き窓が二つ南北に向いている窓が一つずつ・西側部屋には西向き窓が二つ南北に向いている窓が一つずつ・
南側部屋には南向き窓が二つ東西に向いた窓が一つずつ・北側部屋には北向き窓が二つ東西に向いた窓が一つずつある。
合計16の窓がある。
屋内の仕切り壁は二至二分・四正軸と一致しており各部屋はcross modelelijahに相当する
建物の四隅の対角線は四時・四隅線に一致しており、各壁面はdiagonal modelelijahに層等する。

このことから上下階の支視点・屋内の東西南北側の視点・壁面の東西南北の視点・各一部屋ごとの視点・
更に窓一つ一つの視点をそれぞれ区別して分析・認識することが重要となる。
その根拠となるのが、上述の陰陽理論である。
ここで注意しておかなければならないのは、我々が関知しうる諸現象はこのcubeの外部から望見しているのであって
内部における様々な諸要素の関係・属性は思考の中にのみ存在しているのである。


6. 簡易鑑別法を用いた臨床応用
簡易鑑別法とは、被験者の四肢・躯幹に直接触ることによって
特定の生理的病理反応が改善するのを観察し生理活動の現状を、上下・左右・前後に概括して分類整理し把握する方法である。
大きく
diagonal model type(top left; bottom right: top right; bottom left)
cross model type(top; bottom: left; right)
body & extremities type(front; back)

に概括される。
今回は、詳述略。


/* おわりに /*
縷々述べてきたが、一貫していえるのは階層構造や分類要素それぞれいかなる位置に該当しているのか?
対象となる事象について対称性は保たれているか?視点方向性は明確であるか?
ということに尽きる。
一つの名詞は多くの意味を包含し、一つの現象は様々な要素の働きによって生み出された総合効果による。
見えない隠れた部分に対して如何にアプローチできるかがより正確な状況判断と高い臨床成績を上げられるかの鍵を握っている。

☆参考資料として、『易経:繋辞上伝』・『類経図翼:医易』・『黄帝内経:陰陽応象大論・五運行大論・六微旨大論』・『難経』・wikipediaより
一部引用。


<語釈>

「回帰線」
太陽が地表を照らす角度(太陽高度、仰角)は季節と時刻によって変化する。
いちばん角度が大きくなる正午ごろの場合(このときの太陽の角度を南中高度という)、春分と秋分の日には赤道上で鉛直に照らす。
また北半球の夏至には北緯23度26分で、北半球の冬至には南緯23度26分で太陽が鉛直に照らす。
この緯度が最も高緯度で太陽が天頂に来る地域であり前者を北回帰線、後者を南回帰線、あわせて回帰線と呼ぶ。

付録:『易経:繋辞上伝より』
<八卦>
後天図:巽・離・坤・震 兌・艮・坎・乾
先天図:兌・乾・巽・離 坎・震・坤・艮
<六十四卦>
上経(1〜30)
下経(31〜64)

1. 八卦(はっけ、はっか)は、古代中国から伝わる易における8つの基本図像。
すなわち、乾(カン) 兌(ダ) 離(リ) 震(シン) 巽(ソン) 坎(カン) 艮(ゴン)坤(コン)の八つ。
卦は爻と呼ばれる記号を3つ組み合わた三爻によりできたものである。
爻には─陽(剛)と--陰(柔)の2種類があり、組み合わせにより八卦ができる。
なお八爻の順位は下から上で、下爻・中爻・上爻の順である。
また八卦を2つずつ組み合わせることにより六十四卦が作られる。

2. 卦象
後天八卦図
八卦は伏羲が天地自然に象って作ったという伝説があり、卦の形はさまざまな事物事象を表しているとされる。
下表のように方位などに当てて運勢や方位の吉凶を占うことが多い。
八卦 卦名 和訓 自然 性情 家族 身体 方位
乾(ケン) いぬい 天 健 父 首 西北
坤(コン) ひつじさる 地 順 母 腹 西南
震(シン) - 雷 動 長男 足 東
巽(ソン) たつみ 風 入 長女 股 東南
坎・戡(カン) きた 水 陥 中男 耳 北
離(リ) - 火 麗 中女 目 南
艮(ゴン) うしとら 山 止 少男 手 東北
兌(ダ) - 沢 悦 少女 口 西

3. 次序
なお朱子学系統の易学における八卦の順序には「乾・兌・離・震・巽・坎・艮・坤」と「乾・坤・震・巽・坎・離・艮・兌」の2通りがある。
前者を「伏羲八卦次序」、後者を「文王八卦次序」という。
伏羲八卦次序は繋辞上伝にある「太極-両儀-四象-八卦」の宇宙の万物生成過程に基づいており、陰陽未分の太極から陰陽両儀が生まれ、
陰と陽それぞれから新しい陰陽が生じることによって四象となり、四象それぞれからまた新しい陰陽が生じることによって八卦となることを、
乾(カン) 兌(ダ) 離(リ) 震(シン) 巽(ソン) 坎(カン) 艮(ゴン)坤(コン)の順で表している。

朱熹『周易本義』
伏羲八卦次序図より
1 2 3 4 5 6 7 8
八卦 乾 兌 離 震 巽 坎 艮 坤
四象 太陽 少陰 少陽 太陰
両儀 陽 陰
太極
拡大

「先天図における八卦の生成分化」
一方、文王八卦次序は上記のような説卦伝で説かれた卦の象徴の意味にもとづいており、
父母((乾・坤)陰陽二気を交合して長男長女(震・巽)・中男中女(坎・離)・少男少女(艮・兌)を生むという順を表す。
ここで子は下爻が長子、中爻が次子、上爻が末子を表し、陽爻が男、陰爻が女を象徴している。

「八卦の歴史」
八卦爻と太極
占筮では筮竹を算数的に操作していった結果、「卦」と呼ばれる6本の棒(爻)からできた記号を選ぶ。
易経では全部で六十四卦が設けられているが、これは三爻ずつの記号が上下に重ねられてできていると考えられた。
この三爻で構成される記号が全部で8種類あり、これを「八卦」と称している。
いわばおみくじを選ぶための道具であるが、易伝ではこの八卦がさまざまなものを象っていると考え、特に説卦伝において八卦が
それぞれ何の象形であるかを一々列挙している。
漢代の易学(漢易)ではさらに五行思想と結合して解釈されるようになり、五行を属性としてもつ五時・五方・五常…といったものが
八卦に配当され、さらには六十干支を卦と結びつけて占う納甲が行われたりもした。
また1年12ヶ月を卦と結びつけた十二消息卦など天文・楽律・暦学におよぶ卦気説と呼ばれる理論体系も構築された。
伝説によれば、『易経』は、まず伏羲が八卦をつくり、周の文王がこれに卦辞を作ったという。
この伝承にもとづき南宋の朱熹は繋辞上伝にある
「太極-両儀-四象-八卦」の生成論による「乾兌離震巽坎艮坤」の順序を伏羲が天地自然に象って卦を作ったことに見立てて
伏羲先天八卦とし、説卦伝にある「父母-長男長女-中男中女-少男少女」の生成論にもとづく「乾坤震巽坎離艮兌」の順序を
文王が人々に倫理道徳を示すために卦辞を作ったことに見立てて文王後天八卦とした。
これにもとづいて配置された図を先天図・後天図という。
後天図はもともと説卦伝で配当されていた方位であるため従来からのものであるが、
先天図系の諸図は実際は11世紀の北宋の邵雍の著作『皇極経世書』が初出であり、邵雍の創作と推測されている。

<先天図>
兌(ダ)   乾(ケン) 巽(ソン) 離(リ)
坎(カン) 震(シン) 坤(コン) 艮(ゴン)

<後天図>
巽(ソン) 離(リ)  坤(コン) 震(シン)
兌(ダ)  艮(ゴン) 坎(カン) 乾(ケン)

朱熹は八卦の手本となったという伝説上の河図洛書を陰陽を表す黒白点による十数図・九数図と規定するとともに、
周敦頤の太極図、邵雍の先天諸図を取り入れ、図書先天の学にもとづく体系的な世界観を構築した。
清代になると実証主義を重んじる考証学が興起し、神秘的な図や数にもとづいた宋易は否定され、漢代易学の復元が試みられた。
黄宗羲は『易学象数論』において宋易の先天諸図が繋辞上伝の「太極-両儀-四象-八卦」を1爻ずつを2進法的に積み重ねたものと解釈して
「太極(1)→両儀(2)→四象(4)→八卦(8)→16→32→六十四卦(64)」とし、陰陽2爻を2画組み合わせたものを四象とするなど経文に基づかない
無意味なものを描いていることを批判した。
黄宗羲は「四象」は三画八卦を、「八卦」は六十四卦を表していると解釈し、これにより六十四卦は三画の八卦の組み合わせであって
爻の積み重ねではないとし、宋易の図説が根拠のない創作であることを主張した。
これをうけて胡渭は『易図明辨』において宋易が重んじた図像は道教に由来することを著し、図書先天の学を厳しく攻撃した。

「風水」
風水の八卦鏡に使用された先天八卦図
易を先天易と後天易に分ける考え方以外に、連山易・帰蔵易(歸藏易)・周易の三易に分ける考え方もある。
風水において連山易は神農もしくは夏王朝の易、帰蔵易は黄帝もしくは殷の易とされることが多く、
また連山=天・帰蔵=地・周易=人の三才に当てられることもある。
その方位図は風水の道具、羅盤などに使用されている。
なお帰蔵については『歸藏』とよばれている竹簡文書が王家台秦墓から発見されている。
爻辞は易経のものと異なっているが、この『歸藏』が帰蔵易のテキストかどうかははっきりしていない。
三易の違いは八卦および六十四卦の配列方法であり、連山は艮(山)を、帰蔵は坤(地)を首卦とする
(ただし、連山易は乾坤を除いた六芒星(ヘキサグラム)に配列したものとされたり、連山易=先天易=伏羲の易として先天図とされることもある)。
なお先天易と帰蔵易の八卦図は河図洛書と関わる数字を配した場合、魔方陣となる(なお図は風水参照)
なお、風水羅盤の八卦図であるがこれは南を上にしてある。これは昔の中国(その他の国)においては、地図を含め南を上にすることによる。
従ってこの伝統に基づき表記された八卦図はこの図とは反対になっている。