2014-11-16 五行でとらえる三十四難 加藤秀郎 茂木翔

三十四難は、十三難の構造説明と考えられる。


十三難曰

経に言う、其の色を見ても其の(色に相当する)脈は得られず、反して(その色に対して)相勝の脈を得るは即ち死。相生の脈を得るは即ち病は自ら已()む。色の脈に与(よ;合わす)するは、当(まさに)相応(お互いに反応し合う)に参(さん;交わる)ずる。為(い;そのあり方、その物の性質)するは何か。

然るに、五藏に五色が有り、皆面()に於いて見る。亦(また)(まさに)(よ;合わす)するは寸口と尺内に相応する。

(かり;仮)に令(れい;例)すると

色は青にして、其の脈は当(まさに)弦で急。

色は赤にして、其の脈は浮大で散。

色は黄にして、其の脈は中緩で大。

色は白にして、其の脈は浮渋で短。

色は黒にして、其の脈は沈濡で滑。

此の所に謂う五色の脈に与(よ;合わす)するは、当(まさに)相応(お互いに反応し合う)に参(さん;交わる)ずるなり。

脈の数、尺の皮膚で数。

脈の急、尺の皮膚で急。

脈の緩、尺の皮膚で緩。

脈の渋、尺の皮膚で渋。

脈の滑、尺の皮膚で滑。

五藏の各に声色臭味が有り、当(まさに)(よ;合わす)するは寸口と尺内に相応する。其の不相応が病なり。

経に言う、一を知るは下工を為し、二を知るは中工を為し、三を知るは上工を為す。

上工は十のうち九が全(欠けず)して、中工は十のうち八が全(欠けず)して、下工は十のうち六が全(欠けず)する。此れの謂うなり。


十三難は、顔色で五臓を伺いそれは脈と相当するという内容である。また脈は尺膚とも相応し、同じ様に声も臭いも味も脈にも尺膚にも相当しているので組み合わせた診察により、治療精度が上がるといった内容である。

では、なぜ色や声や臭いや味で判るのか?それが三十四難である。

三十四難


三十四難曰.五藏各有聲色臭味.可暁知以不

然.十變言.

肝色青.其臭(操の月偏).其味酸.其聲呼.其液泣.

心色赤.其臭焦.其味苦.其聲言.其液汗.

脾色黄.其臭香.其味甘.其聲歌.其液涎.

肺色白.其臭腥.其味辛.其聲哭.其液涕.

腎色黒.其臭腐.其味鹹.其聲呻.其液唾.

是五藏聲色臭味也.

五藏有七神.各何所藏耶.

然.藏者.人之神氣所舍藏也.

肝藏魂.肺藏魄.心藏神.脾藏意與智.腎藏精與志也.


五臓

神気

操の月偏

意智

精志


三十四難に曰く、五臓の各に有すは聲(声)-色-臭-味。

可にするは暁かにして知るか、それとも以って不か。

五臓というものは体の奥のブラックボックス内にあって、人知の届かない位置での生理活動で、生命の根幹を支えている。しかしこの五臓が体外に向けてその様相を発信するシグナルとして、声や色、臭いや味というものがある。

シグナルとしてのこれら要素によって、五臓の状態を量ることは可能なのか?

然るに十変に言う。

十難には「一脉爲十變者.何謂也」とあるが、これは現象変化のパターンと考える。どちらかというとかつて『十変』という書物があって、この書物の記載内容のうちの五臓への配当例だけを示したものが下記の分類であるとする。

三十四難の問いかけには声---味とあるが、十変の配当例はこれに液を加えて五つにして、各五臓に配当している。

この五つにしたものに{体内から外}と{体外から内}という二通りの変化観察を記した書物と思われるので、5×2=10で『十変』という名前になる。『十変』が現存していれば、おそらくその詳細に書かれた内容で当時の認識を伺い知ることになるのだろうが、現在は推察の範囲である。

{体内から外}は発信

{体外から内}は感受

と考える。もしくは生理と病理と考えても良い。

また、この変化のステージが肉体と精神であるため、その肉体と精神を形成する五精と七神がこの難の後半部分に連結される。

観察対象と五臓の意味合い。

色とは何か? 色は太陽光があって初めて認識できる物で、白日の下で解る天がもたらす現象の確認

臭いとは何か? 臭いはそのものの内部の活動から生じた特徴

味とは何か? 味はそのものを崩して内部の様子や特徴が解るもの

声とは何か? 声は意志が外に出たもの

液とは何か? 液は内容物が出たもの

これらの五臓への属性は四十難にある

經言.肝主色.心主臭.脾主味.肺主聲.腎主液.鼻者肺之候.而反知香臭.耳者腎之候.而反聞聲.其意何也.

然.肺者西方金也.金生於巳.巳者南方火也.火者心.心主臭.故令鼻知香臭.腎者北方水也.水生於申.申者西方金.金者肺.肺主聲.故令耳聞聲.


経に言う、肝 心 脾 肺 腎

     色 臭 味 聲 液

これは相生相剋の五行ではなく、四時四方の陰陽五行の回転で「生む」という言い方がされていて、「情報→受容器」となっている。

“心→肺→腎”は肺の魄が中心の入力方向。

また、味は水に解けなければ感じられない。

臭や声は空気伝達であるが、味は水と言う媒介を経由する水溶伝達である。そのため体内に入るのを受け入れるため、“腎→脾→心”という三焦の縦軸の逆並びとなる。木は独立している様だが、体色は顔面(火)に投影される


鼻は肺の候であるが香臭を知り、耳は腎の候であるが声を聞く。其の意は何か。

然るに肺は西方にて金。金は巳に於いて生ず。

巳は南方にて火。火は心。心が主るは臭。故に鼻が知るは香臭と令する。

腎は北方の水。水は申に於いて生ず。

申は西方の金。金は肺。肺が主るは声。故に耳が声を聞くと令する。




北-水

液-





(い、がい)

(ね、し)

(うし、ちゅう)




(いぬ、じゅつ)

腎-冬

(とら、いん)


西-金

(とり、ゆう)

肺-秋

口-脾-味

肝-春

(う、ぼう)

東-木

-

(さる、しん)

心-夏

(たつ、しん)

色-目



(ひつじ、び)

(うま、ご)

(み、し)






南-火

-舌





この場合、肺-金は五行説では相剋関係にある“火”から生じるとあるが、腎-水はそのまま相生関係の“金”から生じると成っている。相生相剋の五行説で考えると矛盾と成るが、四時四方の陰陽五行で考えれば素直に正方向の回転を示していると分かる。

つまり五臓が季節や方角で表されている場合は、陰陽五行の四角形の五行で考える。だから軸と成る「脾」の記載はない。

このことからも「心」を“陽”とし、この“陽へと向かう”を「肝」、「腎」を“陰”とし、“陰へと向かう”を「肺」とし、この回転の軸であり回転のエネルギーの内容を「脾」とする考えであって、相生相剋の五行ではない。


陰陽五行で五臓を考えると、

肝は陰から陽へ

内から外へ、下から上へ

心は陽

そのものの現れ

脾は情報、飲食、呼吸、活動の内外入出の中核

腎は陰

生体活動の本質

肺は陽から陰へ

外から内へ、上から下へ

となり、そのまま三焦の季節対応の回転となる。

観察対象での発信は、五行が陽方向へと動く。

色は体色で現われる(木→火へ)。臭は全身から体臭で(火)。

声は音や話し方として口や舌から(金→土・火)

味は飲食が口に入ってからで、唾液を出し味を舌が感じて風味が加算される(水→土→火)。

回転で言うと、色は正方向、臭、味、声は逆方向である。

発信は意識が伴うので陽方向へと動く。この働きは魂で、もう一層下の五行の働きである。

では感受は、

無為に肉体が受け入れる魄の働きで、金を中心に陰方向へと動く(火→金→水)。

色は目が(木)、臭は鼻が(火→金)、味は口が(土)、声は耳が(金→水)受けての感情や生理反応の変化。色と味はそのまま。臭と声は回転としては正方向。

液は体内に留まる状態と流出の二つで、留まりにも流出にも生理と病理の理由がある。

また五行の働きは何層をも成して、体外観察できる体内生理や外表現象にまで構造化している。

色は外世界の五行での“木”であり、次に人体の外表の五行として“木”で、目と言う“木”の受容器から入力された情報が、更に次の五行として青や赤、黄色や白や黒として分別される。

ここまでの一連は“金”の「魄」が行い、分別以降の分析や整理や思考や記憶などは“土”の「智」に託され、意思や知識、反応や表現などの出力は“木”の「魂」を経て“火”の「神」の形で社会表明され、社会的生物の“ヒト”として集団認知の中で生きて行ける。また“土”の「意」の形成で独自の発想や視点を身につけたり、環境対応のための体質などを培って行く。

記憶や経験、社会還元された人としての在り方などは“水”の「志」の形成を促進し、独自の判断や認識からより健強な“個”を確立して、社会の彩りの一端を担って行く様になる。また、人が肉体と社会形成で成長して行く一方で、本来の生まれ持った“水”の「精」という心身の質がある。

性差や民族性、血筋や地域性などを含めながら「志」の補充により個体を健生する。

このことを上記の表に当てはめたのが下記である。

色-木(→陽)-目

色は表面から外へ向かう形でしか存在しない。

色を診る意味は生体変化の予見。主の色にどのような色が含まれているかで、予後を判断。


青・木-木

熱や実へと向かう要素が強い色。環境や状況に対して、機能亢進が足りないと体表色は青味を帯びる。青の中に赤味があれば亢進方向に、黒味は衰退方向に。

赤・火-木

生理機能の過亢進の色

その時の環境や状況に対して、生理状態が亢進している。艶やかであればより亢進し、黒味があれば衰退する。また亢進を予後した場合は更にその後の極端な衰退も予見する。

黄・土-木

体表色が淡い赤味を帯びた黄色が色判断の軸。赤があるほど熱や実、黒があるほど寒や虚。

白・金-木

寒や虚へと向かう色

白の中に赤味があるのは通常で、黄味があると不要な亢進の可能性がある。黒味は予後が悪い

黒・水-木

生体機能の過衰退の色

寒というよりほぼ虚であると推察でき、他の色が認められない場合が多く、あったとしても別臓への伝変という予後となる



臭-火(陽)→鼻(金)

臭いは内部にあって、外へと漏れ出て「解る」になった物。臭を診る意味は現状況の判断。


操の月偏・木-火

油臭さは生理機能が高まりながらも、エネルギー源である油脂の燃焼が不完全な物。

燃料供給はあっても燃焼力が伴っていない状態。

焦・火-火

焦げた臭いはその時の環境や状況に対して出来うる最大の燃焼状態でありながら、過大な燃焼状態に対して燃料供給が伴わない状態。

香・土-火

誰にとっても不快にならない体臭

体臭を決定づけるのは食べ物の内容で、特定の地域内ではほぼ同じ様な物を食べているので、誰もが気にならない臭いとなる。

腥・金-火

生臭いとは、生き物の体の中の臭い

体内活動による蒸散量に対して、毛穴が開き過ぎて体内臭が漏れている状態。また閉じ過ぎていると鼻や口、耳から漏れる。

腐・水-火

腐れ臭いとは、生体組織が崩れた臭い。状態悪化で肉体形成の維持が危うい状態。


味-土(軸)→舌(火)

味は口と言う体内へと取り込んで分かるもの。味を診る意味は腑と臓の連結様相を知るため。


酸・木-土

胃酸の味でもあり、五臓から六腑への指令の過不足で、好んだり嫌がったりする味。

苦・火-土

五臓からの指令に対して六腑の反応の過不足で、好んだり過敏に拒否したりする味。

甘・土-土

ほのかな甘味を美味しいと感じるのが正常という基準。しかし味覚で体調の悪化が起るのは過度の甘みで始まる。

辛・金-土

体調や外環境と、飲食の必要量の調整を五臓が判断できない場合。六腑からの情報を五臓がうまく受けられていないと、辛さに敏感になったり鈍くなったりする。

鹹・水-土

塩辛さは血の味でもあり、体内に本来ある味。

命を維持する最低限の味で、肉体を酷使すれば塩気が欲しくなり、生体維持が危ういと塩気が解らなくなる。

声-金(陰←)→口(土)→耳(水)

声は外界では形として存在せず、耳に入って意味を成す物。声を診る意味は経過の推察。


呼・木-金

呼ぶとは、声をかける対象よりも遠くに声が届いている、又は届かせている声。

強い口調の場合が多く、現在の状態に至るまでが威圧的な気分や態度であった場合が多い。

言・火-金

言うとは、抑制のかからない物言い。思った事を言うのに傾き、言い方や言い回し内容の選別や組み立てなど、相手への配慮に気を回さずに現在に至っている場合。

歌・土-金

その話す声が、ほんのりと心地よく、何も気にならないのが歌。それでいて言いたい内容は、しっかりと伝わる。過度の配慮をして来た人は、声は心地よくても内容が伝わらない。

哭・金-金

哭は対象に届かない声。もしくは話し始めても、直ぐに話の場を他人に奪われる話し方。

意思伝達に躊躇があり対人に拒否感を抱いて過ごして来た可能性がある。

呻・水-金

呻は声がほとんど口から出ないモゴモゴとしたもの

肉体の機能低下で発声の構造そのものもうまく働かなくなっている


液-水(陰)

液は常に内にあり、感情と肉体状況の異変によって現れる。

泣・木-水 涙を出す、もしくは出方

汗・火-水 全身の皮膚から分泌

涎・土-水 唾液を出す、もしくは出方

涕・金-水 涙の目の中での様相、もしくは状態

唾・水-水 唾液の口の中での様相、もしくは状態

五臓に有るは七神。各に何に所する臓か。

然るに臓は、人の神気を所舍す藏なり。

肝-魂、肺-魄、心-神、脾-意と智、腎-精と志なり。


肝;陽へ向かう、肺;陰へ向かう、心ー脾(後天)ー腎(先天);陽ー中ー陰の縦軸


七神と五精の違い

五精;肉体を中心に内が陽、外が陰

肝、魂:情報の受け入れや指令を各器官に分配

肺、魄:体質や生理などの肉体表現

心、神:自分であるという認識や心

脾、意:情報の整理と指令の作成

腎、精:肉体のあらゆる性質の根在


七神;自己意識を中心に対社会が陽、個人の肉体とその意識内部が陰

肝、魂;意思や感情を言葉や所作や表情などで、社会や世間へと向ける

肺、魄;無為な状態で入る肉体形成とその受容構造。耳は聞く、目は見るなど

心、神;対社会により認識されたその人らしさと、認められた内容から形成された自己

脾、意;生後環境から獲得した認識と、外に向かう思い

  智;学習により獲得した思考や知恵

腎、精;“ヒト”という種として持つ、肉体と精神の性質

  志;種として肉体と精神が持つ性質で対社会や文明に在ろうとする働き


“五”は東西南北の四方に、その中点が加わって・五

物的な森羅万象の中心に基準点を設ける事で、比較によりその性質を観察し知覚し利用する事が出来る。その方法論が五行

“七”は上下・左右・前後の六方にあらゆる陰陽現象を観察する意識体の中点を加えて・七

意志を持った中点を中心に精神活動を象徴する数字


こういった五行の有する構造が、四十九難の病理展開へと繋がり、具体的な病証特定が七十四難と成る。


難経という書物の目的は、五臓の虚実の把握と治療実践による延命である。健康維持や浅層的な疾病対応などはいっさい書かれていない。だから顔色や味覚の違いで体質や体調をあたかも占いに見立てる記述や行為はあるが、そのように使っても結論が出る事はまず無い。つまりこの内容を身近な物で把握しようとしても、重症患者の治療経験が幾度もなければ、記載の認識は不可能なのである。


外界

陰陽五行は階層を成して


各行が陰陽の性質を持つ。

体表


色-木→目-木









臭-火→鼻-金

そう









味-土









声-金→耳-水









液-水


体内











意・智

精・志

流出

理由

分配

状態

留滞







意・智

精・志

発声

特徴

情報

印象

判断







意・智

精・志

食欲

味覚

食事

嚥下

認識







意・智

精・志

放出

特徴

情報

吸引

認識







意・智

精・志

血流

発色

栄養

識別

体質