2014-5-18 対症治療の解説と実際 加藤秀郎

対症治療とは症状軽減を目的とした医療的施術をいいます。
または、直接治療ともいいます。
直接治療に対してが、間接治療です。間接治療は病体そのものの様相に対応した病体治療です。
この二つは互いに独立した治療手段ではありません。患者の苦痛を軽減する対症治療も根本原因への病体治療も必要です。経絡治療では対症治療を標治法、病体治療を本治法と分けていますが、実際には本治法を対症治療寄りに使って標治法のサポートをしたり、その逆の標治法を病体治療的に使うなどがあります。まずは治療対象である患者の体を把握して、どのような比率で対症と病体を考え原因と要因の関係を解いていくかが重要です。
病体、症状それぞれが原因を持ち、互いが要因となり助長し合うと診て関係を解きます。
治療対象の把握
病体とは、ホメオスタシスを守るために起こる生理状態の異常(自律神経の乱れ)
症状とは、生理状態の異常がある肉体に外因が加わって起こる、何らかの自覚的他覚的所見
症状だけを考えた場合の原因;大気の内容(温度、湿度、気圧、汚染)、感染、短期的な疲労とストレスと不適切な飲食
病体だけを考えた場合の原因;中長期的な疲労とストレスと不適切な飲食、体質
症状の助長要因は病体の様相、病体の助長要因は症状の原因
症状と病体、原因と要因の関係
症状の原因
要因
病体の様相
病体となった原因

症状(患者本人の知覚と他者の所見)
痛みやだるさなどの自覚症状
下痢や鼻水、心拍数や顔色、皮膚の荒れや筋肉の堅さなどの自他両認識の所見
体臭や所作の異常、バイタル数値や問診結果などの他覚所見

症状を起こす原因
大気の内容
感染症
短期的な疲労と
ストレスと
不適切な飲食
症状で考えると「病体と確認できる様相」は“要因”
病体で考えると「症状を起こす原因」は“要因”

病体と確認できる様相

病体となった原因
疲労
ストレス
不適切な飲食
体質
ホメオスタシス
何か症状を自覚した人は、医療機関に治療を求めます。そしてその症状が起こるには必ず原因があります。このときに患者は症状の軽減を願い、医療機関は原因を探って病気の駆逐を目指すという双方の立場が存在します。
ところが医療機関がいくら原因を探ろうととしても、今時の病というのはなかなか簡単には原因の限定をさせてくれません。それでも急性的な感染症でしたら原因菌というものがありますが、生活習慣病や自律神経の乱れ、精神科や婦人科的な疾患は原因が多岐にわたるため不明瞭なのです。こういった原因が不明瞭な病は、食生活の乱れやストレスや過労が元になっているといえます。
しかし菌を駆除して休んでいれば完治する感染症とは違って原因を断定しづらいタイプの病は、症状の微細な軽減に一喜一憂する慢性病という扱いで、長い通院生活を余儀なくされます。なぜなら現代医療の機関で定める病名というのは、症状を中心に診断されたものだからです。たとえば最近疲れやすいといって受診したところ、血圧が高いと診断されだるいのは高血圧だからということになります。高血圧の論理的原因は塩分の過多と運動不足ですが、無理な運動や減塩食がストレスとなって、なかなか状態が改善されません。そのため降圧剤の服用をしつつ長期通院となります。
そして論理的原因ではなく本来の原因は、体質や生活習慣など多岐に及んでいて個々それぞれが違います。
そうなると対応方法が無くなるので、医療機関の意義を残すために自覚症状を減らして、苦痛の極力少ない生活を送れるように施すのが、対症療法です。対症治療は症状そのものの軽減を中心に、その症状を起こさせている原因の駆逐が含まれます。代表的には投薬療法で麻酔やステロイドや抗神経薬などですが、依存性が高く体にも耐性がつきやすいという点があります。
我々鍼灸師は薬品の取り扱いができませんので、鍼を使った施術で患者の不快症状と向き合わねばなりません。そういったときに社会から鍼治療へと託された疾患のほとんどが「整形外科的疾患」つまり骨格系の症状です。主に関節の痛みや運動の不具合、痺れや重さや違和感です。最近ではアレルギーや更年期障害、高血圧の様な生活習慣病で鍼治療を受ける人も多くなってきました。現代医学の認識ですと投薬しかない様ですが、鍼の場合は病体そのものに向き合うことができます。
ですが分かり易さのため、対症治療を骨格系に限定して解説します。また、骨格系に限定した理由はもう一つあって「なぜ痛む箇所に直接鍼を刺入する治療をしないのか?」に答えるためです。
痛む箇所に鍼を刺しても対症療法にすらならないという現状を理解してもらいます。

もっとも経絡治療から遠い疾患「打ち身」の対症療法について

打ち身は転倒や落下やどこかに体をぶつけた時など、外からの力で痛めた状態です。骨折や脱臼には至りませんが関節は捻挫している場合があります。その痛い部分をどうにかしてくれというのが主訴です。
この場合、基本的には外科の病院に外来します。そして骨折や脱臼がなければ湿布などをして温存となります。
当事者でなければ、それでよいと思ってしまいます。本人も痛めたんだから、病院のような処置で仕方がないんだろうと、湿布のみの温存療法を受け入れます。つまり傷めたところが痛いので、その痛い箇所の処置をしただけです。
ところが一週間たってもほとんど痛みが引かなかったり、体の他の箇所が痛くなったりします。傷めた箇所の痛みが引かない状態への処置は病院で考えてくれて、痛み止めか心の要因があるという可能性で精神科系の薬が処方されます。しかしそれ以外の箇所が痛くなってきた場合は、あまり積極的に治療を進めていくことはありません。
この時に鍼治療へと期待を向ける方がいるわけです。
打ち身で鍼治療を受ける理由は二つです。
傷害箇所の痛みが引かず、しかし薬の投与は受けたくないという場合
傷害箇所以外が痛み、病院では原因がわからないといわれた場合
しいていえば、この両方
傷害箇所の痛みが引かない場合
なぜ骨折もしていないのに、温存されている箇所の痛みが引かないのか?
もっとも考えられる発痛元は筋肉です。筋肉に微細な筋断裂があるため発痛をしています。
ある程度の大きさの筋束が切れたのでしたら、傷害箇所の形や触診でわかります。しかし数本程度の筋繊維が切れた場合ですと、わかる手段がありません。ですので病院では原因不明となります。
温存とはいっても固定はしていませんので、生活中である程度は動きますから、打ち身で痛めた筋肉は動かされています。動かされた筋肉は打ち身で筋断裂していますから、傷めた箇所は動いただけで負担です。すると生体はこの傷めた箇所に負担がかからないよう、断裂のある周囲の筋肉を堅くして保護しようとします。一種の筋性防御反射です。この防御反射で堅くなった筋肉が必要以上に堅くなり過ぎて、断裂箇所を締め付けていつまでも痛いのです。
ですからこの場合の対症療法は、堅くなり過ぎた筋肉を正常な堅さにするのが目的です。
つまり
対症療法=直接治療とは、痛い箇所に対して闇雲に何かを施すことではありません。
痛み(症状)を起こさせている直接の原因に対処する施術です。
対処とは、人間が理知を持って自覚的に対応できる手段をいいます。
決して「なんかこうやると良いんじゃないか」とか「とりあえずやってみれば良い」とか「よく解らないけどこうやることになっている」とかは、対処ではありません。
正常な堅さにするという対処の目的は、断裂した筋繊維周辺の筋肉の過剰な堅さをどうやって緩めるかです。

筋断裂とか筋性防御反射とか考えず「痛いところに直接鍼を刺入したらどうなのか?」
痛い箇所にさらに瞬間的な刺激を加えると、元の痛みが感じなくなります。生理的には神経域値が上がった状態です。痛いところに鍼を刺入するという行為は、まさにこの生理を応用したものです。細い金属を痛い箇所に刺入れれば治るなどとは、普通は考えられることではありません。しかし痛みは軽減していますので、何らかの作用はあったと考えられます。その作用が神経域値の上昇、つまり麻痺です。痛い箇所に刺入した鍼の刺激で、麻痺をさせているのです。ですから痛みを起こさせてる状態は何ら改善されてはいません。改善されてはいないまま傷んでいる箇所を動かしてしまうので、状態は悪化します。処置を受けた後、しばらくすると神経域値は元に戻りますので、痛みはまた継続されてしまいます。これは病院の処方にもいえます。
ですので 痛い箇所にとりあえず鍼を刺してみるという行為は、 まるで治療になっていない のです。
この痛みを痛みで分からなくするという方法が、いつまでも痛みの軽減しない理由になります。
外科処置でこのような状態になり困っている人が、せっかく鍼治療に期待を寄せてくれても、鍼灸師がまた同じことをしてしまっては我々の存在意義がありません。これが「痛む箇所に鍼を刺しても対症療法にすらならないという現状」です。

さて、痛む箇所をさらに締め付ける「過度な防御反射の適正化」ですが、
一般的には完全固定が理想的です。しかしそれでは関節が硬直し筋力低下も起こします。そのため温存療法となるのです。すると温存状態では動作負荷を招いてしまうのですが、あらゆる動作が負荷を招くのではありません。ある特定の動作のみが負荷として支障します。
それは幹部付近をよく触ればわかります。筋肉は起始部と停止部の二点間を縮めるのが仕事です。硬くなっている筋肉の走行を知れば、その方向のみが動くときの動作が原因とわかります。
1.
この筋肉の硬さをたどり、起始部か停止部に近い部分をゆったりと指圧します。それで指先で筋肉の緩むのが確認できたようでしたら、次第に幹部に指圧動作を近づけます。
2.
次に、硬くなっていた筋肉の起始部と停止部が離れるように関節を動かし、痛みが出ないようなストレッチをします。
この二つの施術で痛みが軽減するようでしたら、打ち身の対症治療は充分といえます。ただどうしても鍼が使いたいのでしたら、硬くなっていた筋肉に鍼先を軽く当て、ほうきで掃くように起始部と停止部の方向に往復させて散鍼をしてみてください。
これで局所への対症治療となります。
傷害箇所以外の痛みの場合
打ち付けた箇所が痛いのは誰でも理解ができます。しかしそうでない箇所にまで痛みが起こると、自分の体は思っていた以上に悪くなっているのではないかと不安になります。
なぜ損傷箇所以外にまで痛みが起こるのか?
仮にその打ち身が転倒や落下であった場合、致傷時の様子を思い出すとその原因がわかります。
武術では受け身というものがありますが、受け身とは受けた技の方向に身を転がしながら、衝撃を吸収する方法です。しかし訓練を受けていないと、なかなか出来るものではありません。武術者でない人が身を守ろうとすると、転がる方向に逆らって力を入れてしまいます。転倒や落下は緊急事態で、普段は使わない筋肉が行います。さらに入れた事のない力で筋が収縮し筋肉痛をおこします。
ただ致傷時から数日間は、損傷部位の痛さでこの筋肉痛はわかりません。また普通でしたら損傷部位の痛さの軽減と共に、知らないうちにこの筋肉痛も消えてしまいます。
しかし打ち身で筋肉を痛めたので、日常の動作バランスが変わってしまうことがあります。
どういう事かというと、打ち付けて痛めた筋肉は使わないようにする動作を知らないうちにしているのです。その動作は今までとは違い、それまであまり使うことのなかった筋肉で行うことになります。その日常動作で新たに使うようになった筋肉が、致傷時に無理に体を守ろうとして使った筋肉の一部と一致していると、傷害箇所以外の傷みとして現れるようになります。
一般的な筋肉痛は時間がたてば和らぎますし、痛くても使うことで解消されます。しかし急激に強い力で収縮すると、打ち身と同じように微細な筋断裂を起こします。打ち身箇所ほどの筋断裂ではないので、始めのうちは損傷箇所の痛みの強さでわかりません。しだいに損傷箇所の痛みは和らいで来るのですが、その間に日常動作として使っているこの筋肉は、過度な防御反射で微細な筋断裂を締め付けているのです。
つまり打ち身で傷めた筋肉は補養のため使わない。動作が変わるので、それまで使わなかった筋肉が働き出す。すると筋肉痛が起きる。このように急に使われた筋肉が何カ所もあると、全身を痛みが回っているように感じられる。
これが「傷害箇所以外が痛み、病院では原因がわからないといわれた場合」といえます。
傷害箇所以外の痛みの対処は?
傷害箇所の痛みでしたら一カ所でした。その箇所を丁寧に触り緩い指圧とストレッチ、それに散鍼で防御反射の強い張りの緩和を目指しました。しかし傷害箇所以外の痛みというのは数カ所あります。さらにこれから痛み始める箇所もおそらくあります。
それらを一つ一つ丁寧に診ていても、患者の体を疲れさせるだけです。
ましてこれから痛む箇所まで探すとなると、術者にも患者にも負担です。ですから全身の過度な筋緊張を一気に緩められる方法が必要となります。
では「どうやったら全身の筋緊張を一気にゆるめられるのか?」と、考えなければならないのですが、その前になぜ同じタイプの打ち身であっても、順調に回復する場合といつまでも痛みが残る場合があるのか?を考える必要があります。

なぜ順調に回復する場合といつまでも痛みが残る場合があるのか?
その理由の一つとして、打ち身をしてしまったときの体調はどうであったか?があります。
実は傷害箇所の痛みの継続や傷害箇所以外の痛みの理由は?などと考えるのは人体に対して機械的な発想です。何故なら致傷したことでしか、その患者の状態を把握していないからです。実際には生きて暮らしている中で起こった出来事ですから、必ず体そのものの状態はどの様であったか?と考える必要があるのです。
同じ転倒であっても体調が良ければ打ち身にすらならず、悪ければいつまで経っても痛みも腫れも引きません。それに働いている大人が転倒や落下をするような場合は、疲労が重なった上でのことと考えられるのです。
つまり 何かの理由による疲労やストレスで、不調があったため致傷した と考えます。
その何らかの不調が「病体」という捉え方の対象です。
病体というそもそもの状態があったから、打ち身となり痛みの抜けない現状があるのです。ですから打ち身となったのは病体といえるそもそもの状態があったのです。その病体の様相が症状を起こさせる原因を助長させます。即ち病体の様相が症状原因の要因ということになります。
打ち身で痛みがあるという主訴へは、転倒や落下で体を打ち付けたのが原因と言えます。そしていつもならこんなにひどい打ち身にはならないのはなぜか?と考えた場合の理由は「疲労を抱えた病体」であったからなのですが、それは打ち身という症状の度合いを説明する助長要因です。
「転倒したため打ち身で痛いのですが、元々体調がよくなかったのでいつまでも治らなかったんですね」ということです。
しかし本質的な治療をする場合、転倒という出来事を「きっかけ」と捉え、そもそも病体であったことが転倒を打ち身にまで発展させた原因と考えます。
この「症状」と「病体」、「原因」と「要因」の関係が、最初のページの色の着いた表です。
ですから本来、治療をするための対象観察は「症状」、「病体」、「症状→病体」、「症体→病状」の4つを診ていかなければなりません。
この4つのうちの「症状」だけしか考えないと症状軽減を目指す対象治療のみになります。それを直接治療と呼んでいます。そして症状軽減の原因を考えず方法論で対処したら、直接治療にもなりません。
鍼治療の現状として、直接患部に鍼を刺すか経穴そのものに治効があるとする方法が一般的です。それを対象治療と称していますが、原因究明のない当てずっぽうなやりかたです。そこで原因も考えようとする動きが出て、痛みの箇所と同一経絡上の別の箇所に施術するという行為が起こり、これを間接治療と言うようになりました。
経絡を使った間接治療なので、これが経絡治療なんだと言われていたこともあります。
しかし脈診の収得や古典の解明を避けたため、病体という概念がなかなか根付きませんでした。
病体に対しての治療が「病体治療」=「間接治療」です。
間接治療のためには「症状」と「病体」の関係性の把握が必要です。その関係性の把握方法の入り口が、症状と病体の視点の変えたときに起こる「原因」と「要因」の立場の入れ替わりです。
症状が示す病状や様態は、病体の様相が「要因」となります。つまり疲れていたことで、打ち身の症状の難治や悪化があったということです。それに対して病体の様相は、症状の原因が「要因」となります。元々疲れていた体に転倒などで損傷を受け、より疲れが緩和せず治癒力の低下を招いた、ということです。
「症状」と「病体」の両方を知りその関係性を把握して患者の体を理解し、適切な証によって病体の様相を改善していくのが、病体治療といわれる間接治療です。

この間接治療という

2~3箇所の鍼の施し

で、

傷害箇所以外の痛みの緩和

ができます。