今月の五四難・五五難の発表では、下記の点について述べてみたいと思います。


1・臓病、腑病とは何を指すかを、五一難、五二難も振り返りながら、三焦論から考える。(五臓六腑ではない)――

三焦論では、生体を3層構造と考えています。すなわち、最外層が気、次が血、そして最も内部にあるものが臓腑です。当然ながら病症は、外から内に向かって進行します。

ここでいうところの臓腑とは、五臓六腑ではありません。臓腑経脈学説的には臓腑病は五臓六腑個々の病症ですが、三焦論では臓腑とは内部にあって体の元気を維持しているもの、そして精神を宿す、一つの機能集合体です。これだと、あまりに大くくりなため、上焦・中焦・下焦の分類はありますが、ここでも個々の臓腑名ではなく各焦の働きです。

難経においては、五一難・五二難さらには九難に見られるように、臓腑病の中で、冷えるもの、動かないものが臓病であり、熱なもの、動くものが腑病です。

くれぐれも、五臓六腑とは考えず、ブラックボックスの中の陰性の病症が臓病であり、陽性な病症が腑病と認識してください。。



2・五四難の臓病難治、腑病易治は、五三難同様に七伝は正規虚、間臓は正規実として考える。――

臓腑病症といえども、予後には良不良があります。

生体が生気実の場合は邪気に抵抗し打ち勝つことができます。あるいは、昼夜や四季の巡りにより助けてくれる時期になれば生体に回復力が戻り、治癒に向かいます。これらの病症をを間臓伝変する腑病としています。(五三難では、気・血の病症段階で、同様の事が述べられています)

一方、正気虚の場合は病症は、正気虚に応じて五臓六腑個々の病症へと進みます。たとえば、形寒飲冷の金の正気虚の場合は肺臓病症を起こします。

正気虚がさらに広がると、複数の臓腑が同時に病症を発生し、最終的な死病の段階に至ります(後述)。これが七伝伝変する臓病です。(五三難では、気・血の病症段階で、同様の事が述べられています)

ここで注意をしておかなければならないことは、五一難・五二難では病症の陰性陽性を臓病腑病としていましたが、伝変論においては、臓病は七伝の正気虚パターン、腑病は正気実の間臓伝変パターンとしていることです。同じ文字を違う意味で用いているのですね。


3・臓病七伝したものが、五臓六腑個々の病症を経て、最終段階の死に至る病となる。――この過程が五六難から六〇難に述べられています。

五六難では、五臓のシャクが現れることが述べられています。内容から五臓個々の死病もあります。

五七難では、五泄が述べられています。これは中焦の栄養ができず死に至る病症です。

五八難では、広義の傷寒が述べられています。傷寒は血を損ないます。下焦の血が損傷して死に至る状況が述べられています。

五九難は狂癲の病症です。精神活動は上・中・下焦がすべて関与して営まれています。その精神活動が崩壊する二つのパターンが述べられています。

六〇難は頭痛と心痛に厥と真があると述べられています。頭痛とは脳梗塞や脳出血、心痛は心筋梗塞のようですから、最重要臓器の死病です。



4・五五難のシャクとシュウは、臓腑病段階の診察所見である ーー

臓腑病において、七伝伝変すなわち正気虚が起きた場合、単一の正気虚の場合は、該当する五臓または六腑に病症が起こる。その腹部所見として五臓のシャクと六腑のシュウがある。

シュウは腹壁表面の所見であり陽性の反応を呈する。シャクは押圧して診られる所見であり陰性の反応である。五六難では五臓個々のシャクが述べられているが、五五難では表陽は腑病、裏陰は臓病とおおくくりな記述にとどまっている。


通常は腹診所見であるが、臨床を考えた時、候背所見としても拡大解釈可能では?



発表手順


1 マクラ~1986年(田中)


2 五四難の読みと現代語訳(田中)


3 七伝と間臓伝変は、正気虚と正気実の病態である


4 臓腑病とはーー病症の展開、五一難・五二難・九難をみる(読みと現代語訳 田中)、その解釈


5 三焦論における臓腑病の展開――五四難の解釈、腑病易治と臓病難治、五臓六腑病から、死病へ


6 シャクとシュウ ーー 五五難の読みと現代語訳(田中)、シャクとシュウは臓病腑病段階の腹診所見である。