2016-8/21 天地人~時空と人体~ 発病の理由 加藤秀郎 インフルエンザの発病はウィルスの感染です。しかし同じ環境下にあって、感染する 人もしない人もいます。発病をするかしないかの違いは、個々の免疫力の差です。 また、感染症以外の病気も多く、生活習慣病といわれるものがあります。全く同じ食 生活と運動習慣だったとしても、おそらく個々によって血液数値などの違いがあります。 いわゆる体質の違いというものですが、この体質の違いからの病気でも、自己免疫疾患 という病気は特定原因がまるでわかっていません。原因がわからないという点では癌も 同じですが、癌の場合は状況にある程度の共通性が見られます。 状況の共通性は見られても体質が原因とはならない病気に精神性疾患があります。 伝染病、生活習慣病、癌、自己免疫疾患、精神性疾患。 全く種類の違う病気ですが、人体に起こるため こういった病には共通した要因があります。 それは 症状の憎悪や寛解に、自律神経の状態が影響します。 自律神経とは、 循環、呼吸、消化、発汗・体温調節、内分泌機能、生殖機能、および代謝のよう な不随意な機能を制御し、内分泌系と協調しながらホメオスタシスの維持に貢献し ている神経系です。自律神経系と内分泌系と免疫系で「ホメオスタシスの三角形」 とも言われ、自律神経学と神経免疫学や精神神経免疫学などと共有された研究も されています。 交感神経と副交感神経の2つの神経系からなり、双方がひとつの臓器を支配する二 重支配や、ひとつの臓器に及ぼす両者の作用が拮抗的に働く相反支配があります。 人体生理の核となるものは、この自律神経が守るがホメオスタシスです。 例えば体温37度。あらゆる環境変化からこの恒温を守る機構が自律神経です。 自律神経の働きのメインは適応です。人は熱帯で進化した生き物で、温帯域は適合地ではあ りません。熱帯にいた数百万年の間に様々な天変地異に見舞われて、その適応の証が二足歩 行や雑食性といった進化です。それでも生き物としての核である、ホメオスタシスは変わり ません。37度の恒温は脳や内臓機能と母体維持に不可欠だからです。そして限られた食物 で恒温の維持をしながら巨大化した脳と生きるには、温度の高い熱帯が適正だったのです。 しかしヒトは氷河期や居住域争いの果てに、温帯域へと行き着きました。この不適合地での ホメオスタシス安定の大活躍が自律神経だったのです。適合とは身体機能をほとんど使わず に、健康に過ごせる状態です。今の我々のような気候変動などに気を配りながら意図的に健 康維持を図るのは、不適合地に暮らすからこそなのです。 病原体への抵抗力の低下は、 疲れやストレスや飲食の不適切からの自律神経の乱れが原因です。 生活習慣病は飲食の不適切が主要因ですが、 病が発する病状の変化は自律神経の乱れによるものです。 生活習慣病患者であっても仕事や生活などの暮らしがあって、 いわゆる普通の暮らしの中では、健康体の人よりも自律神経は乱れやすくなります。 自律神経の乱れやすさというのは、個々の体質差が関係します。逆に体質が原因とされる自己免疫疾患も癌も生活習慣病も、病状変化 には自律神経が大きく関わります。病気の有無に関わらず普段は気にならない不調も、自律神経が乱れればその症状は明確化します。 いわゆる伝統医学と言われる療法の基本は 「鎮静」と「興奮」という働きかけからの、バランスが乱れた自律神経への処方です。 それは加持祈祷や呪いの類も同様です。自律神経を刺激し活性化を促して、次第にその環境への適合を図ります。 近代医学までの医療は 疲れやストレスや飲食の不適切などが原因で起こる、自律神経の不活状態への対処でした。 近年、この自律神経の乱れや不活状態が起こす生理変化への対処が生まれます。 薬理学というものです。 科学を根拠としたEBMという医療で、自律神経の不具合から起こる内分泌の過不足を、中和するという手法です。生体への内分泌や 免疫機構の量や質の不適切さが、病理の科学的な根拠となります。そのため原因療法という見方になるのですが、内分泌や免疫機構の 不適切さは自律神経の不具合が原因です。科学が進んで細かいことが把握でき、多大な対応もできるようになったことが現代薬理の発 展となりました。しかし体調変化の原因が環境変化からホメオスタシスを守る自律神経の状態である以上、現代医学の手法は常に対処 療法という展開となります。 自律神経への処方は、施術者が主導的に行うものではありません。 理論と技術に加え、経験と患者との人間関係から導き出されるものです。 ですので自律神経への処方には具体的な科学根拠や手法は見出しづらいのですが、術者が患者と向き合った時の観察眼や、そこから情 報を集取して状況を見出す想像力と理論と方法の選択が施術行為というコミニュケーションとなって、治癒効果という結果となります。 例えば食品が体を「冷やす」とか「温める」という考えに 科学的な根拠はありません。 しかし健康管理や体調維持にはよく使われる論理です。ただ料理となった時には熱かったり冷たかったり、また温や冷という性質の様々 な食材が混在し、これでは温めるの冷やすのか作用がわからない状態です。なのに多くの人が活用し体調維持の成果を上げています。 それは料理を提供したり味わったりというコミュニケーションであり、食べる人にとって美味しくしようとする、料理人の観察眼と想 像力の表れです。仮に自炊であったとしても気候や風土が育んだ食材と適度な調味料が、調理のあり方を通じて自律神経を適度な状態 へと整えてくれます。 このいわゆる食療法の対象も自律神経です。 そして自律神経は環境に対応する機能です。 つまり何かを食べたから、もしくはどんな療法を受けたから交感神経を高められたとか、副交感神経が高まったとかいう法則性ではあ りません。夏でしたら機能を下げて体温を作りすぎないように、冬なら上げて少し余計に体温が作れるようにと食品機能や治療理論を 使っての、いわば環境対応機能を利用した刺激なのです。 生存環境があって、その中に人体のホメオスタシスがあります。 環境とは時間と空間が作る状況変化であり、それに対処するのが自律神経という人体の生理です。 この、時空変化と人体生理の生存環境と種の繁殖レベルでの法則性が「天地人」です。 黄帝内経はシャーマニズムベースだった伝統医療を、この天地人を軸に「陰陽」や「五行」で理論医学へと発展させました。 天の作用に対して地が反応する主従の関係。上下論 天→地 天は地に一方的に作用を与え、地は受けるがままに反応します。太陽光をたくさん受ければ 気温は上がり、水を蒸発させて雨を降らし植物は繁茂します。太陽光が減れば気温は下がり、 水の動きは止まり植物は枯れます。 天の作用に対しての地の反応を自然環境と言います。言葉を変えれば「地」は「環境」です。 長期的、短期的、そしてその瞬間、全ての人を包む環境を「地の様相」として考えます。 地フ人 互いが真逆の反応をし合ってバランスを取る相互の関係。左右論 「人間」:「自然」。人から見た地は、人体のホメオスタシスと自然の淘汰性との対立。 自然からの人は、太陽から受けた作用に対しての、従属か反発かという対象。 地が太陽から作用を受けて起こした反応が「地の様相」で、それに人体が適合していれば、 人は自然と共に健やかに暮らせます。暑い赤道直下で冷却能力の高い人体が暮らしていたか らこそ、人は自然と適合していました。しかし温帯域の暮らしで農耕を起こし、年間推移す る気候と自己都合を優先させた植栽で、自然との対立が明瞭化します。その明瞭化した対立 状態の一つが、温帯域という不適合地に生きることで起こる、自律神経の乱れからの病です。 天フ人 個体の性質とその内的な活動、意志と情報の交流。前後論 地にとっての天とは、太陽からの作用です。しかし人体はその地とは真逆の反応をします。 それは地にとっての太陽とは違う、独自の反応源があるからです。それが人の中の天です。 人の体は奥に天を持ち、その天に肉体が従属することで人体が生理現象を起こします。 地の天が太陽であったのに対し、人体の天が五臓です。奥フ外、後フ前。五臓から肉体を経 由して外(前)へと向かう意志、外(前)から肉体が感受して五臓へと向かう情報。五臓が五臓と して動作していることがホメオスタシスです。その五臓を今この瞬間、あるいは生涯にわたっ てどう守っているのか、もしくはどう守り方が乱れたのか、その生理状態を三陰三陽や陰陽 五行論で観察し結論付け、治療法則を導き出そうとしたのが古典医学です。 つまり黄帝内経とは、この天→地をベースに地フ人からの対比を陰陽で考え、 天フ人とはどういうことであるのかをシャーマニズムから論理化に移行させた医学書です。 「地」→「人」の具体的活動 「地」は太陽からの強い作用を受けて     反応が強〜気温が上昇〜 「人」は気温が上昇し「暑い」     この情報を五臓が受けて     生理活動を下げろという指令     体温の産熱量が下がり   人体は体温37度をキープ この働きが自律神経     「地」→「人」とは 「自律神経の働きがありますよ」という様相 その自律神経の働きで守られているのが ホメオスタシス そのホメオスタシスを守っている自律神経の 働きの具体的な活動が「天」フ「人」 この「自律神経の働きの具体的な活動」の 「動作不良」が「発病の理由」 その「不良」への対処が東洋医学です。 では「働きの具体的な活動」とか「動作不良」とは何なのか? 「天」フ「人」とは 「五臓」フ「六腑・経(気血)」 六腑とは、栄養の供給と消費や水分の摂取と使用の状態。 経とは皮膚、筋肉、感覚器、受容器とこれら各器官の 形質(血)と働き(気)の状態。 また、これら各器官へ供給される血である滋養と 気である五臓からの意志(指令)。 しかし「疲れ」「ストレス」「飲食の不適切」で、これら器官の指令や滋養の受け方や状態そのものに不具合が生じる。それが自律神経の乱れであり「発病の起点」である。 例えば急な温度上昇ー【それまで気候の不安定な日が続いて「疲労」で毛穴の開きが不充分】ー ー体温の蒸散量が足りず体内温度が上昇の危惧】ー ー【五臓は喉を渇かせ水分を多く取って体を冷やさせたり、体内温度上昇の防止防に筋肉をさらに弛緩させる】ー このとき体を支える筋力も低下してダルさを感じ、自律神経の動作に「ストレス」も干渉する。 筋肉の弛緩の追加で体温生産量は低下。ただ取っていた水分が多ければ体を冷やして、今度は五臓から六腑に余剰水分の排出の指令ーそれが冷えからの尿意 この喉の渇きを感じたときの冷水の摂りすぎが「飲食の不適切」。これがさらなる不具合要素の追加。 しかも体内の状態がそんなときに冷房の中に入り込めば、急な室内温度の低い環境に生理対応が間に合ず、より早急に体内の水分を捨る必要性ーそれが冷えからの下痢 もうこうなると立派な病ですが、そうやってでも人体は体内温度37度キをープするのです。 この症例での「働きの具体的な活動」は(皮膚の毛穴を開いて体温を蒸散させ気温の上昇に対処し、追加として筋肉を弛緩させ産熱量を減らす)でした。 その上での「動作不良」が(皮膚の毛穴の開きが不充分)です。 病証の見立てと治療は、病傷箇所は皮膚「金・肺」。施術対象は筋肉の弛緩状態の適正化「木・肝」 「治療は肝経への補法」となります。