2017.5.21. 古典研究

難経七十五難


① 七十五難に曰く、経に言う、東方実し、西方虚せば、南方を瀉し、北方を補うとは、何の謂ぞや。


現代語訳

 医学経典では、東方が有余<実>で西方が不足<虚>であれば、南方を瀉して北方を補するという方法を応用して治療すると述べているが、これはどういうことか。


Q1. 六部定位脈診の虚実の並び方をもって、七十五難型は特殊な病症であって、六十九難と異なるものとする説があるが・・・。


A1. 難経の時代には、六部定位脈診は無い。虚実は病態であり、補瀉は治療法である。それらを脈診の虚実に置き換えてはならない。




② 然り。金・木・水・火・土、当に更相(こもごも)平らぐべし。東方は木なり、西方は金なり。木実せんと欲せば、金当にこれを平らぐべし、火実せんと欲せば、水当にこれを平らぐべし、土実せんと欲せば木当にこれを平らぐべし、金実せんと欲せば、火当にこれを平らぐべし、水実せんと欲せば、土当にこれを平らぐべし。


現代語訳

 答え。金・木・水・火・土の五行の間には、相互に制約関係があって平衡状態を維持している。東方は木に属し、西方は金に属しており、木が有余の状態になろうとすると、金の制約を受けて平常となる。同時に、火が有余の状態になろうとすると、水の制約を受けて平常となる。土が有余の状態になろうとすると、木の制約を受けて平常となる。金が有余の状態になろうとすると、火の制約を受けて平常となる。水が有余の状態になろうとすると、土の制約を受けて平常となる。


Q2. 五行の相剋関係における相互制約のメカニズムが乱れた旺気実の病態とするが、それと金・木・水・火・土の並び方は異なっている。


A2. 六十九難にも、旺気実はある。七十五難の病型そのものが、六十九難とは異なるものである。方角による虚実・補瀉は空間五行であり、金・木・水・火・土の順序がそれを表わしている。




③ 東方は肝なり、則ち肝実を知る、西方は肺なり、則ち肺虚を知る。南方の火を瀉し、北方の水を補う。


現代語訳

東方は肝に属し、西方は肺に属しており、東方が有余、西方が不足すると、すなわち肝実肺虚の病症となり、その治療には南方の火を瀉して北方の水を補する方法を採用する。


Q3. 木は肝と金は肺、臓の名称が出てきたことは何を表わしているのか?


A3. 木と金は病態であり、水と火はそれを起こした原因に対する治療である。方角と五行で表されているが、両者の指しているものは同じではない。




④ 南方は火、火は、木の子なり、北方は水、水は、木の母なり、水は火に勝つ、子能く母をして実せしめ、母能く子をして虚せしむ、故に火を瀉し水を補い、金をして木を平らぐることを得ざらしめんと欲するなり。


現代語訳

これは南方が火に属して、火は木の子であり、北方は水に属して水は木の母であり、水は火に勝るからである。子は母に有余にし、母は子を不足にするので、瀉火補水<火を瀉して水を補う>すると金は木の反侮を受けなくなり平常となる。


Q4. 木の子は火、母は水。病態の形成としても、治療のメカニズムとしても、「子能く母をして実せしめ」、「母能く子をして虚せしむ」には、矛盾が生じる。


A4. 「子能く母をして実せしめ」は病機の形成、「母能く子をして虚せしむ」は病因に対する治療メカニズムとすれば、「水は火に勝つ」を含めて理論は成り立つ。




⑤ 経に曰く、その虚を治すること能わずんば、何ぞその余を問わんとは、これをこれ謂うなり。

 

現代語訳

医学経典には虚を治療する要領を知らないで、どうしてその他の疾病の治療ができるだろうかと述べているが、これはすなわちこの道理によるのである。