2018-12/16 「尺」の古典記載 片山龍一 素問、霊枢、難経の順番です。 素問は以下の5つ 陰陽応象大論5 按尺寸.觀浮沈滑濇.而知病所生. 尺膚や脈を診察して、その浮沈滑濇を見ることによって、病の生じた原因を了解します。 脈要精微論17 尺内兩傍.則季脇也. 尺外以候腎.尺裏以候腹. 中附上.左外以候肝.内以候鬲.右外以候胃.内以候脾. 上附上.右外以候肺.内以候胸中.左外以候心.内以候膻中. 前以候前.後以候後. 上竟上者.胸喉中事也. 下竟下者.少腹腰股膝脛足中事也. 魚際から肘の間を3つに分ける。魚際よりを上附上(上にして上につくる。手首より)、次い で中附上(真ん中)、肘よりを下竟下(肘より)に分ける。 尺部の両側(両肘よりの内側)で季肋部の状態を診断し、尺外(両肘より外側)で腎を診 断し、尺裏(肘よりの中心)で腹部の状態を診断します。真ん中の部分、左腕外側を肝、内 側を膈、右腕外側を胃、内側を脾とする。手首より、右腕の外側を肺、内側を胸中、左腕外 側を心、内側を膻中とする。前では身体の前面を診、後では身体の後面を診る。一番手首よ りの所で胸や喉を診断し、一番肘よりの所では、少腹・腰・股・膝・脛・足を診る。 平人気象論編18 人一呼脉三動.一吸脉三動而躁.尺熱.曰病温.尺不熱.脉滑曰病風.脉濇曰痺. 一呼で脈が3回拍動、一吸で脈が3回拍動すると脈の打ち方は躁で、尺膚に熱があれば、温病 である。尺膚に熱がなく、脈が滑であるものは、風病である。脈が濇であるものは痺症であ る。 尺脉緩濇.謂之解エキ.安臥脉盛.謂之脱血.尺濇脉滑.謂之多汗.尺寒脉細.謂之後泄.脉尺麤常熱者.謂之熱中 尺膚が緩やかで脈の打ち方が濇であるものは気血不足を意味し、倦怠脱力感が強く、しょっ ちゅう横になりたがる。脈の打ち方がさかんであるものは火がうちに盛んであるということ で、大脱血があることを示す。尺膚に潤いがなくその脈が滑であるものは容器がうちに有余 であることを意味し、汗が多いことを指名sています。尺膚が冷たく脈が細であるのは寒気が 内にこもり、下痢症であることを示しています。脈の打ち方が粗・第で尺膚が常に熱をもっ ているのは熱気が内にこもっていることを表しています。 方盛衰論編第80 按脉動靜.循尺滑濇寒温之意.視其大小.合之病能. 逆從以得.復知病名. 脈息の様子を考え、尺部の皮膚の滑・濇・寒・温の状態を探り。大・小便の変化を見て、症 状と照らし合わせる。
こうして逆なのか順なのかを知り、同時に病名も知る。 通評虚實論篇第二十八. 經絡皆實.是寸脉急而尺緩也.皆當治之.故曰.滑則從.濇則逆也. 夫虚實者.皆從其物類始.故五藏骨肉滑利.可以長久也. 帝曰.絡氣不足.經氣有餘.何如. 岐伯曰.絡氣不足.經氣有餘者.脉口熱而尺寒也.秋冬爲逆.春夏爲從.治主病者. 帝曰.經虚絡滿何如. 岐伯曰.經虚絡滿者.尺熱滿.脉口寒濇也.此春夏死.秋冬生也. 帝曰.治此者奈何. 岐伯曰.絡滿經虚.灸陰刺陽.經滿絡虚.刺陰灸陽. 帝曰.何謂重虚. 岐伯曰.脉氣上虚尺虚.是謂重虚. 帝曰.何以治之. 岐伯曰. 所謂 氣虚者.言無常也. 尺虚者.行歩恇然. 脉虚者.不象陰也. 如此者.滑則生.濇則死也. 黄帝曰く「経と絡とがともに実とはどのようなものか。どのように治療するのか」 岐伯がいう「いわゆる経と絡とが共に実というの、寸口の脈が急で尺膚が弛緩しているこ とを指します。当然、経と絡のいずれをも治療することが必要です。そこで滑であれば順 で渋滞するのは逆である、と言われています。一般に虚実というのは、人も物も同じであっ て万物生気があればなめらかであり、死にかけたものは、枯れてなめらかでなくなります。 人の五臓や骨肉がなめらかであれば、精気は充実し、生気も旺盛で、いつまでも健康です」 黄帝が言う「絡気が不足して経気が有余である状態とはどのようなものか」 岐伯が言う「絡気が不足して経気が有余であるというのは。寸口の脈が滑で尺膚が冷たい 事をさします。秋や冬にこのような現象が見られれば百であり、春夏にみられれば順です。 この療法は主に病気と季節の虚実を根拠とします」 黄帝がいう「経が虚し、絡が満と言うのはどういう状態か?」 岐伯がいう「経が虚し、絡が満と言うのは、尺膚は熱があって充実しているが寸口の脈は 遅く渋滞している状態をいいます。この現象が春や夏にみられるときには死んでしまいま すが、秋や冬に見られるときには生きられます」 黄帝がいう「この2つの病床はどのように治療するのか」 岐伯がいう「絡が満ちて経が虚するときには、陰経に灸、陽経に刺鍼します。経が満ち絡 が虚するときには、陰経に刺鍼し、陽経に灸をします。」 黄帝がいう「重虚とはどのようなものか」 岐伯が言う「脈虚・気虚・尺虚のあることを重虚といいます」 黄帝がいう「気虚というのは、生気が虚脱しているため声が弱弱しく(言葉が)続いてゆか ないことを言います。尺虚というのは尺膚が脆弱で行動に力がないことをいいます。脈虚 というのは陰血が虚しているため、陰の脈象がないようでもあるものをいいます。このよ うな症状のものは、脈が滑利であれば死にませんが、渋滞していれば死んでしまいます」 霊枢は4つ 邪氣藏府病形第四 夫色脉與尺之相應也.如桴鼓影響之相應也. 病人の顔色と寸口の部における脈の状態と尺膚の状態の変化には、相応じたきまりがあります。 岐伯荅曰. 脉急者.尺之皮膚亦急.脉緩者.尺之皮膚亦緩.脉小者.尺之皮膚亦減而少氣.脉大者.尺之皮膚亦賁而起.脉滑者.尺之皮膚亦滑.脉濇者. 尺之皮膚亦濇. 凡此變者.有微有甚.故善調尺者.不待於寸.善調脉者.不待於色. 岐伯が言う。脈が急であるものは、尺膚もまた灸。脈が緩であるものは、尺膚も緩。脈が小で あるものは、尺の皮膚も気力が減少し、しぼんでいる。脈が大であるものは、尺膚も気力が増 大して盛り上がっている。脈が滑なものは、尺膚もまた滑である。脈が濇のものは、尺膚もま た渋ってかさかさしている。しかしこれらの現れ方には明瞭な場合もあれば、不明瞭な場合も ある。尺の状態をよく見ることができるものは、寸口の脈をしらべなくてもその脈状がわかり ます。よく脈をみられるものは、顔色を診なくても診断できる、 終始第九 少氣者.脉口人迎倶少.而不稱尺寸也. 如是者.則陰陽倶不足.補陽則陰竭.寫陰則陽脱. 如是者.可將以甘藥.不可飮以至劑. 如此者.弗灸.不已者.因而寫之.則五藏氣壞矣 元気の少ないものは、寸口と人迎の脈がいずれも虚少でありまして、寸口の脈と尺膚の調和が うしなわれています。このようなものは、陰陽ともに不足しています。陽を補ったら、陰が損じ ます。陰を瀉せば陽がぬけます。甘味の薬物を用いて、作用の激しい薬物はのませてはなりませ ん。又、灸をしてもいけません。もし誤って瀉法をしてしまうと。五臓の機能がやられます。 邪客第七十一. 持其尺.察其肉之堅脆小大滑濇寒温燥濕.因視目之五色.以知五藏而決死生. 尺膚を診て、その部分の肌肉の堅柔、気力の大小、皮膚の滑渋、寒温、乾湿を調べて、さらに 目の色沢を観察して、これらを総合して五臓の状態を察知し、病人の生死を判断するのです。 論疾診尺第七十四. 黄帝問於岐伯曰.余欲無視色持脉.獨調其尺.以言其病.從外知内.爲之奈何. 岐伯曰.審其尺之緩急小大滑濇※.肉之堅脆.而病形定矣. 視人之目窠上.微癰如新臥起状.其頚脉動.時欬.按其手足上.窅而不起者.風水膚脹也. 尺膚滑其淖澤者.風也.尺肉弱者.解漁安臥.脱肉者.寒熱不治. 尺膚滑而澤脂者.風也. 尺膚濇者.風痺也. 尺膚粗如枯魚之鱗者※.水泆飮也. 尺膚熱甚.脉盛躁者.病温也.其脉盛而滑者.病且出也. 尺膚寒.其脉小者.泄少氣.
尺膚炬然.先熱後寒者.寒熱也.
尺膚先寒.久大之而熱者.亦寒熱也. 肘所獨熱者.腰以上熱.手所獨熱者.腰以下熱. 肘前獨熱者.膺前熱.肘後獨熱者.肩背熱. 臂中獨熱者.腰腹熱.肘後麤以下三四寸熱者.腸中有蟲. 掌中熱者.腹中熱.掌中寒者.腹中寒.魚上白肉.有青血脉者.胃中有寒. 尺炬然熱.人迎大者.當奪血.尺堅大.脉小甚.少氣悗.有加立死 黄帝が岐伯に問うて言われる。余は顔色の望診や人迎・寸口脈の切診とは別に尺膚の 診に よって診断をくだしたい。これは体表の状態から体内の異常を推察するものであるが、その 方法はどうか?
岐伯が言う 尺膚は肘関節前面横紋から腕関節前面横紋までの間の皮膚ですが、この酌婦の緩緊・尺膚の 気力の大小・尺膚の滑渋・尺の肌肉の堅軟をつぶさに調べますと、体内の異常がわかるので あります。しかし、他の色々な体表に現れた異常ををあわせ、注意深く観察する必要がござ います。たとえば、病人の目のふちが少しはれて寝ぼけ眼の状態で、頸動脈の拍動が荒々し く、ときには席をすることもあり、さらに手足の皮膚をおさえるとくぼんでなかなかもとに 戻らぬものは、風水病の為のむくみであると診断します。尺膚がなめらかで潤ったような光 沢のあるものは、風病であります。尺の肌肉が軟弱で体がだるくていつも横になるのを好み、 やせこけていて発熱悪寒を伴うものは、不治です。尺膚が滑らかで脂のようにつやつやして いるものは風病であります。尺膚が渋っているものは風にあてられて陰陽ともに病んだ風痺 であります。 尺膚があらくて干魚の鱗のような者は、あい(サンズイに利益の益)飲といって、飲んだ水 が手足にたまったまま汗になって出ないので体が痛む病です。 尺膚がひどく熱っぽいくて寸口脈が盛大で荒々しいものは、温病といって、冬に寒にあてら れて直ちに発病せず、春の陽気に発動されておこった熱病であります。もし盛大で滑のときは、 病がまさに発動しようとしているものであります。 尺膚が冷たくて寸口脈が小である者は、下痢の為に陽気が少なくなったものです。尺膚が はじめて燃えるように熱く、しばらくしてから冷たくなるものは、寒と熱をともなう寒熱病 であります。 尺膚がはじめ冷たく、だいぶん時間がたってから熱くなるものもまた、寒熱病です。肘の 部分の皮膚だけが熱い者は、腰から上に熱がある証拠であります。手首の部分の皮膚だけが 熱い者は、腰から下に熱がある証拠です。 肘の部分の前面だけが熱い者は、胸に熱がある証拠です。 肘の部分の背面だけが熱い者は、肩背部に熱があるます。 肘から手首までの中間の部位だけが熱い者は、陽腹部に熱があります。 肘のかどから約3・4寸下方の部分だけが熱いのは、腸中の寄生虫のためであります。掌心が 熱しているものは、腹の中に熱があります。掌心が冷たい者は、腹の中が冷えています。手魚 とよんでいるてのひらの母指の付け根の白肉の部に、青い血管が見えるものは、胃の中が冷 えています。
尺膚が燃えるように熱くて人迎脈が大である者は、多量に出血したものです。 尺膚が固く、気力が大きくて噴記しているのに、寸口脈は調和せずにかえって小さく、気力 が衰えて煩悶状態にあるものは、死の直前であります。 難経は1つ 十三難曰. 五藏有五色.皆見於面.亦當與寸口尺内相應. 假令 色青.其脉當弦而急. 色赤.其脉浮大而散. 色黄.其脉中緩而大. 色白.其脉浮濇而短. 色黒.其脉沈濡而滑. 此所謂五色之與脉.當參相應也. 脉數.尺之皮膚亦數. 脉急.尺之皮膚亦急. 脉緩.尺之皮膚亦緩. 脉濇.尺之皮膚亦濇. 脉滑.尺之皮膚亦滑. 五藏各有聲色臭味.當與寸口尺内相應.其不相應者病也. 五臓には五色がある。みな顔面部にはっきりと現れ、また寸口の脈や尺部の皮膚と相い照 応しなくてはならない。例えば青色が現れ脈は弦急、赤色ならば脈は浮・大で散。黄色な ら脈は中・緩で大、白色ならば脈は浮・濇で短、黒色ならば脈は沈・濡で滑。これは五色 と脈が相い照応することである。脈が数だと尺膚も数。脈が急だと尺膚も急。脈が緩だと 尺膚も緩。脈が濇だと尺膚もざらつく。脈が滑だと尺膚も滑。五臓は各々声・色・臭・味 があり、寸口と尺内は相応している。そうでない場合は病気である。