「易の陰陽二元論的自然観を漢方医学基礎理論と臨床実践に展開応用」

(2013/09/15)
相原 黄蟹




index


  1. はじめに
  2. の陰陽二元論を解釈展開
  3. 抽象概念 abstraction 1 2 3 の解釈展開
  4. 全ての事象の元素となる三角形
  5. 結論
  6. 漢籍に散見されるabstraction 1 2 3 の応用記述例
  7. abstraction 1 2 3 の臨床への適応と実践例(SDDM)
  8. まとめ
  9. おわりに
  10. 語釈
  11. 参考文献・資料(reference materials)



はじめに

研究者・学生医療従事者の中でも煩雑難解と思われがちな漢方医学。 そのバイブルとされる『黄帝内経』・『難経』の背景に流れる古代中国当時の自然観。 この自然観を哲学という俎上に載せて研究論じられてきた気・陰陽・五行思想学説。 これら思想学説の根底に埋設された礎石として貫かれているのがの事象の見方考え方である。 この思想である「陰陽二元論的自然観」を研究して行く内にふと腑に落ちた目から鱗の一つの抽象概念を基礎医学(生理・病理・治療)・臨床実践に応用展開してみた。 するとこれまで煩雑難解であった学術書の理解や臨床上の行為など様々な疑問点が一つまた一つと連鎖反応式に解消してゆくのに驚かされた。 以下、現時点まで私なりに理解納得し分類整理できたものをテーマ内容別に縷々論述して行く中でその中核を成す概念を明らかにする。 更に論末で漢方医学の現況・問題認識把握・対策方針についても一考することとする。


1.0 ''の陰陽二元論の解釈展開

とは、古代中国で生まれ育まれた森羅万象を陰陽二元論によって理解しようとする、最古の自然観である。 その思想の集大成ともいえるのが『周易』であり儒教の重要な経典の一つとなっている。 また『周易』は卜筮の経典としての方が有名であるが、今回は自然観についてのみ取り上げ、主要部の卜筮に関しては省略する。

1.1 の説く(tao)”

おそらくはを源泉とし、道家や儒家によって説かれて浸透伝播していったと思われるの思想。 そのの根幹を成す思想であり、この時空を構造し・森羅万象を統べる仕組みの真理であり本質であるとする。 がしかし、とは見たり聞いたり触ったりできない茫洋なものでありながらあらゆる事象に存在するもので、人知では計り知れず認識は遠く及ばない。

『周易』 繋辞上伝 「形而上者謂之道 形而下者謂之器」

とある。


つまり真理であるによって生み出されるこそ我々が認識し存在する世界である。 このに統べる仕組みを「陰陽二元論的自然観」という filter を通すことによって、ある種の整然たる秩序を見出すことができる。 その秩序について論述することにする。

1.2 の説く陰陽二元論

前述のように我々が存在する世界は、という要素によって構成されている。 そのという要素が、陰陽という性質能力を発揮することによって森羅万象が生み出される。 そして我々人間は、森羅万象の一つ一つをそれぞれ異なる存在として区別し認識している。 そこで、対象とした任意の事象とその他の事象とを区別するための必要な条件要素として、

  1.  <性質・状態>(陰)の要素
  2.  <関係・方向>(陽)の要素

の二つに大別する。


これはつまり、前者A.は、一つの任意の対象そのものの<性質・状態>についてのみ認識を向けられた構成条件要素であるのに対し、後者B.は、任意の対象と他者の両者との空間的・時間的な関係性・方向性に認識を向ける構造条件要素で有ることを意味している。 また、 A. を陰とするのは、存在点・静的・物性的な image であり、 B. を陽とするのは方向(vector)・動的・展開の image から理解できる。

1.3 の宇宙生成の概略

太易 a. 太初 太始 太素 太極 b. 両儀 四象 八卦

  1.  起源要素:万物の根源で実体を伴わない虚量、気・形・質の元素
  2.  展開構造:万物の発達展開段階を示す虚構、1(線分)・2(平面)・3(立体)次元的な広がり

(伏羲八卦次序) より)

上記のように起源要素が段階を経て分化し八卦という現象を生み出す性質の基本単位となる。 この基本単位を組み合わせることによって、更なる分化を経て六十四卦となり森羅万象が説明される。 この八卦は、陽爻(剛)-(一本線)と陰爻(柔)- -(二分線)の二種の何れかを選び下段(初爻)・中段(二爻)・上段(三爻)に積み重ねられた三層構造となっており、その現象の本性を司る。 つまり1の陽爻と2の陰爻の組み合わせによって3爻という現象の本性が形作られることになる。

この二つの視点

  1. 両儀 四象 八卦 1 2 3
  2. 下段(初爻) 中段(二爻) 上段(三爻) 1 2 3

から重要な抽象概念である abstraction 1 2 3 が導き出される。


2.0 抽象概念 abstraction 1 2 3 の解釈展開

このabstraction 1 2 3 は、中国古典籍は無論のこと数物系から社会文化に至るまで広範囲な分野に渡ってものの見方・考え方の礎石として埋伏していることが理解できる。 以下に幾つか代表的な項目について例を挙げて説明する。

2.1 abstraction 1 2 3 category 別構成要素( constituent )

abstraction 1 2 3 の総合一覧表( lateral viewpoint )

項目*系統

備考

イメージ・シンボル

(円)

(方)

☆(星)

系統のイメージを図案化したもの

思想

陰陽

五行

東洋哲学において基本となる思想

陰陽(下中上)

abstractionの原点

展開

事象の発展段階

分数

4/8

2/8

1/8

事象の基本となる構成要素の単位

三才

宇宙を構成する三大要素

構成

事象を構成する基本要素

三宝(気)

人間を構成する基本要素

人気

邪気(適応変化)

正気(安定供給)

神気(不変堅持)

人の生理活動の基本機能、中心と成る気

構造

起点(素因)

ベクトル(原因)

結果(現象)

事象が出現するまでの過程、段階構造

思考

一次元:線分

二次元:平面

三次元:立体

思考のベクトルや広がりを表現したもの



abstraction 1 2 3 category 別基本構成要素( constituents )一覧表( vertical viewpoint )

1 天円

2 地方

3 人星

1

十干

天気(寒暑燥湿風)

2

十二支

地気(五香五味)

3

九星

人気(喜怒哀楽)


2.2 図表解説

上図の 1 2 3 は、abstraction(抽象概念)である故、種々の異なる理論・思考の視点・ category に対しても一貫して解釈しうる有効 tool であることを示した一例である。

この極めて汎用性の高い抽象概念は、横条件 lateral と縦条件 vertical の二種の異なる思考方法によって構成されており、様々なシュチュエーションにおいて無意識の内に運用駆使され、判断を下す規準となっている。

・横条件 lateral とは、数学における集合のように事象を一要素として取り扱うるもので、一つの視点を全体集合(U)とし、その集合を構成する部分集合 A B C を格差のない並立要素としてとらえる。 その並立要素は、一つの目的や役割を有機的にシェアしているものであって高低の位置づけや先後の順序視点は持ち込めない。(三位一体)

・縦条件 vertical とは、理数の entropy (S)理論の如く時空の進行方向に単純から複雑なものへと logical に展開するもので、その事象に至るまでの過程を三段階の役割ごとに異なった性質・機能や位置・方向における序列の視点を持つ。

これら縦横条件の視点はそれぞれ分離独立して存在機能しているものではなく、横条件の一つ一つに縦条件視点を包含している。 従って重要なことは、「現在対象としている事象を、果たしてどの思考法を用いて認識しているのか?」という視点を明確化しなくてはならない点にある。

注:上記の vertical lateral は、巷間流布されている Logical thinking lateral thinking とはその意味を異にする。

2.3 1 2 3 fractal 構造

この 1 2 3 の系統構造とは全体を統べるもので、
1系の天円(circle)・2系の地方(Square)・3系の人星(pentagram)の三項目を最高の第一階層(素因・起点)とし、
その下位に第二階層(原因・展開)としてそれぞれの系統に1(2・気)・2(4・形)・3(8・質)の三項目を内包し
更にその下位に第三階層(現象・実態)としてそれぞれの系統に1(天・気の陰陽)・2(地・精の陰陽)・3(人・神の陰陽)の三項目
と下ってゆく fractal 構造をなしている。
(1/3 1/3 1/3 : 1/27)

そして我々が実際に現象として感知できるのはこの第三階層による表現系の<実>のみであり、上位の二階層は理法としての認識の仲でのみ存在しうる<虚>ということになる。 ただし注意しておかなければならないことは、樹形図に記された各項目はあくまでも思考の流れの中の可能性であって、実際現実に対象とするのは1/27の一つの項目のみに限定されることになる。

因果

素因

原因

結果

ベクトル

起点

展開

現象

例:1-1-1 = 天-気-天_陽、寒邪による全身の発熱。


2.4 1系・2系・3系のイメージ・シンボル(image symbol)

1系2系3系は、イメージ・シンボル(image symbol)としてそれぞれサークル(circle)・スクエアー(Square)ペンタグラム(pentagram)と表現される。 (以後、1 circle ・2 Square pentagram と表記する。)

:これとは別に、正円に内接するそれぞれ1系は正方形・2系は正菱形・3系は正五星形とも表記される場合もある。

circle とは、文字通り円形・環状線であり一方向に無限(∞ infinite)に循環を繰り返すもので天文(時間)を示している。 (線形) これは時空における因果律が一次関数条件に支配されていることを意味する。 従って、現象は大過(+)・不及(-)現象として認識される故に異常現象・病症(症=証)は、その状態の順逆を改めること(迎随)によって正常を回復できる。 (難経六十九)

Square とは、文字通り方形・平面空間であり四方向に有限(limited)な広がりを持つもので地理(空間)を示している。 (線形) これは時空における因果律が二次関数(X・Y)条件に支配されていることを意味する。 従って、現象は呼吸(出入)・昇降(虚実)現象として認識される故に異常現象・病症は、その状態を引き起こしている因素である陰陽双方の虚実を改めること(補瀉)によって正常を回復できる。 (難経七十五)

pentagram とは、外宇宙という時空の諸現象を知覚・認識する存在であり、生命という他己を区別した小宇宙を内包している。 (人事・精神) 大小・外内宇宙の相似相関関係からその象徴として五芒星を用いている。 (非線形) 従って現象は、個人の人生すなわち生老病死として認識される故に異常現象・病症は、その人の先天・後天の原気の損耗を抑制し増強に努めることによって正常を回復できる。( 干支・九星)

2.5 2 4 8 の意味と 1 2 3 への応用展開

前述のように 2 4 8 とは、両儀・四象・八卦に由来するもので、陰陽の2を1乗・2乗・3乗したものでもある。 これは対象とする任意の事象を、その持つ構成要素数によって三段階の階層に分けてとらえるものでその本性因果を理解すると言うことは、1/2(4/8)1/4(2/8)1/8(に対象を絞り込んだことを意味する。

:万物は八卦の展開の結果であるため分母数は常に8となる。

注:ここで取り上げられている数字は、考え方を象徴するものであってカウントされる実数ではない。


2.6 1 2 3 異相性(toporogy異質性(heterogeneously)

ここまで abstraction 1 2 3 の広範囲にわたる汎用性を示してきたが、このように異なる対象・外形・視点・ category であってもその枠組みの個々に内在する同質性が普遍であることは、数物系の異相性(同相写像)幾何学の視点を取り入れることによって証明される。 しかし、ここまで幾つか指摘してきたように 1 2 3 は、verchiclにしてもlateralにしても全く均一・均質ではない。 結論から言えば、 1 2 では根本的な点で異質である。

概説すると、

  1. 1 2 は線形であるのに対し、 は非線形である。
  2. 1 2 は観察対象であるのに対し、 は観察者自身をも含む。
  3. 1 2 は客観的であるのに対し、 は主観的である。
  4. 1 2 は思考認識の中に存在するのに対し、 は感覚認知上に存在する。

などのような異質性を有している。


故に種々の場面において情報や認識を、

ということになる。


このように異相性「一見異質に思えてもその本質は同質」と異質性「一見同質に思えても異質」は、表裏の関係にある。 従って、問題の本質を見誤らないためにも、観察・思考する対象をどのような視点(stage)に立脚しているのかを常に明確化する必要性を認識しておかなければならない。

注: 1 2 3 というように順序があるのではない。 また、 1 2 3 を明確に区別することもできない。 曖昧であることの正常性を許容することが求められる。

2.7 abstraction 1 2 3 からabstraction 1 2

ここまで abstraction 1 2 3についての論を進めてきたが、 我々が実際に思考の process において行っているのは yes no 左右といった二者択一法、つまり陰陽論の仕組みによってである。 これは、関与する条件は常に三要素の可能性としてあるが、 ある任意の事象に対し何かの判断をしようとするとき、 その条件を指定することが abstraction 1 2 3 を陰陽二要素に絞り込むことになる。 これを abstraction 1 2 と呼ぶ。

この abstraction 1 2 は、指定条件によって同じ対象に対してその属性 1(陽) 2 (陰)が逆転する。 前項で述べたように abstraction 1 2 3 1 2 3 に類別されるのだが、 要素数の視点では前者が 2 であり、後者が 1 となる。 しかし、線形か非線形かの視点では前者が 1 後者が 2 となる。

更に要素数 2 も、 形質視点か機能視点かによって 1 2 は逆転する。 つまり、指定条件視点の 1 2 があり、更にその中に要素視点の 1 2 がある。 であるから、対象とする事象が何れの視点に立脚した物か明確にしておかなければならない。

3.0 全ての事象の元素となる三角形

三角形は円に次いで最も基本で安定した形であり、他の多角形はその組み合わされた図形であることから、全ての事象の根源を表した図形とされている。 これはつまり、森羅万象を構造要素・構成要素に再分化してゆくと最終的には、前述したabstraction 1 2 3 を根拠とした一陽二陰によって構成された三角形モデルに行き着く。 以下にその三角形の構造と構成について詳述する。

3.1 三角形(直角二等辺三角形)の構造と構成の意味

万物は、陽を意味する一(2点1辺)現象と陰を意味する二(2辺1点)原因の一対からなる三角形(直角二等辺三角形)を元素とし、それが複雑に組織化された結果構造体として表現されたものである。

この三角形は直角二等辺三角形 ABC a(BC) b(AC) c(AB) であり、 A の対辺(斜辺) a(BC) は陽で現象 A (直角)と短い等辺2辺 b(AB) c(AC) は陰原因によって構成されている。

「1(2点間1辺)は現象の陽・2(2辺の交点1)は原因の陰」とあるが、これは、現象として感知しうる明確な実態現実である陽を意味する1、それに対し原因とは実態がなく思考認識の上にのみ存在しうるので本性の陰の陰であり、その内容は陰陽両者の偏傾に基づくことから2と表現される。 また、現象は感知した表現そのままをとらえるので陰陽どちらか一報を指すのに対し、原因は陰陽のバランスの偏傾状態双方を認識対象とするため両者を示すことになる。

更にその陰陽の偏傾を引き起こした切っ掛けとなる素因を起点 A として、現象を意味する斜辺 a(BC) の対角となる。 つまり、前項では「現象=1、原因=2」と示したが、ここでは「現象=2、素因=1」と示していることになる。 何故このような相反対象が並存するかというと、前者は現象そのものの因果を説明するものであるのに対し、後者はその現象を規定する場の因果を説明するものであるからである。 つまり「現象=2」というのは、現象を現象として認識しうる時空の領域範囲を規定しなければならない。 それが B C の存在である。 更にその2点を規定する条件を設定している存在こそ対角である素因・起点の A である。

陰: 1 → 2 = 場(対象)  ・  陽: 2 → 1 = 現象(変化)

注:前述2.のイメージ・シンボルとは立脚視点が異なり、1系・2系・3系はそれぞれこの直角二等辺三角形を基礎とした組み合わせた構造として論を進める。 ただし、これは思考モデルとして取り扱うものであり、現実は角度を異にする三角形によって構成されている。

3.2 折り紙によるモデルパターン

理解を容易にするため3枚の正方形の折り紙を用いて説明を試みることとする。

注:シンボルイメージは、1系- circle ・2系- Square ・3系- pentagram であるが、ここではいずれも Square を基本形とし、それぞれ1系を正方形・2系を正菱形・3系をその複合形として取り扱う

<手順>

  1. 正方形の対角線に沿って二つ折り大きな直角二等辺三角形ができる。(1/2)180
  2. この直角二等辺三角形の長辺の両端を重ね合わせるように二つに折りたたむ。(1/4)90
  3. 更にこの直角二等辺三角形の長辺の両端を重ね合わせるように二つに折りたたむ。(1/8)45

A.=気・B.=形・C.=質は、前述の1系・二2系・3系それぞれ同様に当てはまる。


紙片を折りたたむという行為が何を意味しているかというと、対象とする事象を陰陽1/2何れかに要素を絞り込むことに他ならない。 つまり A.は気の陰陽何れかを、B.は形の陰陽何れかを、C.質の陰陽いずれかを絞り込むことである。 ここでいう気・形・質とは、対象とする現象の構成要素について着目したものであり、浅深軽重の意味は持たせない。

前述のように直角二等辺三角形が直角点・等辺・斜辺と三つの要素からなることを説明したが、これは、素因を起点として→それが陰陽の偏傾を生み出し→その結果現象として認識される仕組みについて述べたものでもある。 このことを踏まえた上で、紙片の折りたたまれ方を観察すると、次のようなことが理解できる。

当然のことながら折りたたまれる以前の正方形には直角二等辺三角形は存在しない。 それを対角線上で1/2におりたたむと、対角線を斜辺に持つ二つの直角二等辺三角形(A.)ができる。 素の正方形に展開すると対角線を軸にした線対称の直角二等辺三角形が確認できる。 これは二つの異なる素因が共通の現象を示していることを意味している。 更に素因起点が外周に存在するのに対して現象は内部に展開していることが理解できる。

次に、更に斜辺の両端を重ね合わせるように折りたたむと、素の正方形の1/4の直角二等辺三角形(B.)ができる。 これはA.の斜辺の1/2の等辺を持った直角二等辺三角形であり、A.の現象が陰陽いずれかの状態に二分されたことを意味する。 また内部に同一の素因起点を持ち、外周にある現象は異なった様子を示すことが理解できる。

ここまでは、折り目線が素の正方形の対角線上を軸に回転してできた直角二等辺三角形であり、時間や空間の軸・電磁波の波動軸のように互いに直交(90度)している関係性がある。 それに対し、次に述べるC.の直角二等辺三角形は、その性状背景を異にする。

同じようにB.の斜辺の両端を重ね合わせて折りたたむ。 そして素の正方形に展開するとユニオンジャック(英国旗)の様な中心から8条の放射線が視認できる。 それを中心点を規準にA.=180°B=.90°C=.45°であるととらえる。 この45°とは、1系- circle ・2系- Square の図形の差異と等価である。 (正方形を45°傾けると菱形となる。) 即ち categorise の境界領域であることをも意味している。

また、現象の場を規定する斜辺の両角は、A.の因素起点Bの因素起点.であり内外を結ぶ線ともなっている。 つまりA.B.両者を踏まえ更なる第三の視点を持つ必要性を示している。

以上、折り紙を用いて解説を試みたが、これはあくまでも思考方法を視覚化しただけのものであって何かの答えを出すための tool ではない。 発想の転換の切っ掛けであるとか、ブレーン・ストーミングなどの素材として役立てば良いと考えた。


4. 結論

以上、各項目ごとに論を展開し積み重ねてきたが、以下の如く集約できる。

  1. の陰陽二元論的自然観は、 1 2 3 の抽象概念に集約できる。
  2. 全ての事象は、三つの要素にカテゴライズできる。
  3. 事象に対する視点・思考は、lateralVertical何れであるかを明確化する必要がある。
  4. 全ての事象は、三階層の fractal 構造を成している。
  5. 全ての事象をcircle∞ infinite)・Square(limited)pentagram(individuality)imagefilterを通して観察・思考する。
  6. abstraction 1 2 と3の異相性・異質性に留意する。
  7. 事象の対象とする自体そのものの要素(因果)に着目しているのか?それともその事象の存在する場の要素(因果)に着目しているのか?を明確化する必要がある。
  8. 事象には、因果律に従う線形のものと、因果律には従わない非線形のものの両者が存在する。
  9. 3は感知できる現象の実であり、 1 2 は思考・認識の中にのみ存在する虚である。

これらの要素は、abstraction 1 2 3 の視点や考え方を tool として運用する上で押さえておかなくてはならない重要な項目である。

この論文の本旨であるabstraction 1 2 3 は、1項目目にあるようにの陰陽二元論的自然観から派生展開してきたのであるが、その適応範囲は極めて広く無限と言っても過言ではない。 なぜならばまさに「自然観」というように現実世界の現象を観察してきた先人の知恵の結晶であるからにほかならない 我々の眼前で繰り広げられる現象に、刻々と揺れ動く情動に、思考の過程にと気付かなければ意識しなければその存在が知り得ない共通の秩序。 その秩序の一つが abstraction 1 2 3 である。 この秩序を理解して更に通暁することができれば、 様々な局面でその問題の本質を理解するために必要な 視点 angle の確保・ 解答にたどり着く思考の process に役立つ有効な tool となるはずである。

従って、我々が日々研究する漢籍の読解や、研鑽を積み重ねる医療現場においても問題解決や理解を助ける有効な優れた tool として機能することが期待される。 以下に、学問・医療それぞれの分野においてどのように有効に機能するかを項を設けて概説する。


5. 漢籍に散見されるabstraction 1 2 3 の応用記述例

ここでは、我々が接する機会の多い典籍の中から『黄帝内経:素問』・『難経』を代表とし、 ”abstraction 1 2 3 ”の思想がどの様に取り入れられ、単語・文章・説や論の配置・配列などの文書構成に反映されているかを幾つか取り上げてみる。 そして、その様な配置・配列が、著者編者のどの様な意図に基づいて成されたのかを推察してみる。

5.1 用例の概説

用例1

これまで述べてきたように”abstraction 1 2 3 ”には、 lateralverticalに関わらず異相性と異質性の二つの視点がある。

  1. 前者は、三つの要素が同格で扱われるため ABC 1set で一つ category を象徴する。
  2. 後者は、線形の AB(BC AC) 1set と非線形の C(A B) 1unit  として一つ category を象徴する。

特徴的な例としてA.「天・人・地」とB.「天・地・人」の区別が挙げられる。


用例2

同じように、2.3 image symbol で詳述した中の circle square の違いによる陰陽の二つの視点がある。

  1. 前者は、条件や状態の存在することだけを示す単体の名詞として記述される。
  2. 後者は、提示された条件の範囲を規定する陰陽二つの熟語として記述される。

特徴的な例として

  1. 「故積陽爲天.積陰爲地.陽化氣.陰成形.寒極生熱.熱極生寒.」と
  2. 「萬物之綱紀.變化之父母.生殺之本始.」

の違いが挙げられる。


用例3

用例1で示した A. B. は、記述の仕方や文章そのものが異なっていたのに対し、ここで示す用例は、同じ本文においても読み手側(受け手)側の視点の違いによって浮かび上がる理論背景が異なる。

特徴的な例を挙げると、王冰の編纂による『黄帝内経』:素問の冒頭からの十一論篇は、次のように三巻にまとめられている。

  1.  上古天眞論篇 四氣調神大論篇 生氣通天論篇 金匱眞言論篇
  2.  陰陽應象大論篇 陰陽離合論篇 陰陽別論篇
  3.  靈蘭祕典論篇 六節藏象論篇 五藏生成論篇 五藏別論篇

この巻一・巻二・巻三を視点の違いによって

-

巻一

巻二

巻三

視点A. 三宝から

精: 人の定命と自然

気: 事象の変化の仕組み

神: それぞれの個性の素となる性質

視点B. abstraction 1 2 3

circle: 回り続ける無限の環

square: 四方の空間に展開

pentagram: one andonly 性質

のように内容の解釈が変わってくる。

用例4

同じ一つの要素名でありながら、背景となる文章の consept が異なると categorige も異なる。

1

2

3

構造要素(素材視点)

構成要素(能力視点)

前者は天地の視点から人を三要素に分けているのに対し、後者は人の生命活動の役割により三要素に分けている。

以上、紹介したのは極一部だが、色々な場面で新しい見方・解釈を促してくれる tool として有用である。

5.2 abstraction 1 2 3 で解釈

2.4 image symbol の項で述べたように、些かの粗暴感はぬぐえないが、 circle を六十九難的視点 square を七十五難的視点 pentagram をその他(先天精・原気)の視点と整理し直してみた。 理由の一端を前項にて既に述べたが、論拠となる幾つかの注目点について概説すると次のようになる。

六十九難

七十五難

その他

原文

虚者補其母.實者瀉其子.當先補之.然後瀉之.不實不虚.以經取之者.是正經自生病.不中他邪也.當自取其經.故言以經取之.

東方實.西方虚.瀉南方.補北方.何謂也.

省略

要約

子 事象が時系列

東西 左右; 北南 上下; 縦 事象の関係性が空間的

-

image symbol

circle

square

pentagram

挙動

一方向 円運動

二方向 往復運動

不定

揺らぎ

先後 + 大過 - 不及

出入 昇降の偏在 虚実

寿命 老化

手法

迎随

補瀉

滋養 強壮

ある程度 image できただろうか? おそらく違和感や抵抗感を持つ人もあろうが、ここで用いられている用語は限定的な意味合いで使用してはいない。 例えば「迎随・補瀉」であるが、鍼の用い方を意味する単語としてではなく、問題の事象の発生機序に対し「どの様な解決姿勢で臨むべきなのか?」という観点から用いたものである。

「如何にして鍼灸治療を向上させるのに有効な文章を見つけ出し読み解くか?」ということに止まらず、このように全体の構造や文字の配列などに組み込まれた秩序を abstraction な観点から取り組むのも新たな発見があると思う。

最後に一言説明を加えておくと、上記の難経六十九・七十五は、二律背反ではない。 あくまでも考え方・視点の違いであって、一つの事象や人体に置いてさえ共存しうる。 というより仕組みは厳然として機能していることを付け加えておく


6. abstraction 1 2 3 の臨床への適応と実践例(SDDM)

一般的に経絡治療による臨床現場では、

  1. 患者の主訴を聞く
  2. 四診法(望聞問切)による状態の確認把握
  3. 十九箇条の弁証の症候分類により病症の証を決定
  4. 治療の証(施術経絡・経穴)の決定
  5. 治療施術
  6. 軽快改善反応を確認して終了

の様な手順で行われるのが普通であると思われる。


しかしここでは簡易鑑別診断法(Simple Differential Diagnosis Method)"(以後SDDMと略記する)による手順とその仕組みについて論述する。

6.0 総論 general remarksan outline

”SDDM”とは、四診法(望診・聞診・問診・切診)内の切診法を特化させたものであり、一般的な弁証論治の手法とは異なる。 観察対象を上肢・下肢・躯幹に大きく三区分し、その部位に対する接触反応(呼吸五主脈状の改善)に従って治療対象経絡経穴を決定施術する方法である。 従って症状を観察分析し証を立て経絡経穴を選択する必要手間がなく、膨大な知識や長年にわたる技の錬磨も不要と言うことになる。 良いことずくめのようであるが、重要な問題点はこのような生体反応を引き起こす機序について思考理解を深めることである。 その根拠となるのが abstraction 1 2 3 であり、この consept の習熟こそ運用展開の鍵を握ることになる。 誤解を招きかねない表現を用いたが、豊富な経験や知識を全面否定しているのではない。 実際に眼前で起きている現象の改善変化を通じて生体生理がどのような状況にあるのか?を認識するという現象から仕組みへの発想の転換が必要であることを述べたものである。

注:巷間言うところの「反応点療法」とは全く意味を異にする。

6.1 手順 process

SDDMの手順の概略は以下の通りである。

  1. 主訴を聞く:個別の症状に着目するわけではなく概観を知ることに主眼を置く。
  2. 呼吸(気・点)・組織(形・地)・脈状(質・人)のcheckpointの状態を観察する。
  3. 四肢(左右の前腕・下腿)と躯幹(胸腹部背部)に手掌で触れながらcheckpointが最も良好変化する場所を特定する。
  4. 更に特定した場所の区域中にある最良のpointを指端で探しだし刺鍼する。
  5. checkpointが平常に復したことを確認して治療終了。その時点で主訴は消失もしくは軽快している。

checkpointの呼吸・組織・脈状は、漢方医療におけるvital signsであり、どのような病名が宣告されていたとしても・どのような症状を呈していたとしてもそれらに影響されることなく忠実に正確な生命活動状況を反映していることから SDDMでは重要な役割を果たしている。 のみならず、漢方医学上重要な意義を持つfactorであることは言うを俟たない。

6.2 分類 classificationgrouping

SDDMでは、観察する対象の左右の上肢と下肢・躯幹をそれぞれ組み合わせ方によって、

  1. 1系のたすき型(diagonal type) <×
  2. 2系の十字型(cross type) <+>
  3. 3系の四肢躯幹型(periphery & core type) <○>

の三つのCategory typeに類別する。


このCategory typeは、切診部位は勿論・施術対象経絡経穴・反応様式・予後経過などの違いに現れる。 同じような病名・症状であっても三種類のapproachがあると言うことは、それだけの生理活動の仕組みに違いがあることを意味している。 そのような仕組みの違いを理解・把握・運用することで、現在「生理活動の仕組み状況はどの様になっているのか?」・「どの様な生理活動の仕組みを利用して調気しているのか?」がより一層明確になる。

分類表

-

×

type name

diagonal

cross

periphery & core

pattern

左脚右腕・右脚左腕

脚左右・腕右左

四肢・躯幹

connection point

五行穴

五行穴

募兪穴

陰陽

判りやすい

判りにくい

どちらともいえない

reaction

迅速・顕著

緩慢・充実

どちらともいえない

check point

五主

五華

五官

purpose

邪気(病院)の除去

正気の充実

神気の調整

注:SDDMの三分類は、 1 2 3 abstractionを一部用いた≒であって=ではない。


6.3 仕組み  system

SDDM は、 lateral condition の三つの category vertical condition の三つの comstituent system を用いて現象・反応を把握している。

哲学視点の lateral condition 3 category は、

abstraction

1

2

3

symbol image

circal

square

pentagram

三才

天円

地方

人星

構成要素

三宝

担当

真理 法則

時空 現象

感覚 認識

である。


それに対して現象視点では、その現象を引き起こすsystem の各 category に加え 更に vertical condition 3 comstituent が必要となる。 個別の事象を取り扱う臨床実践を例示すると、

  1. 生理活動上異常現象を引き起こしている原因となる system rateral category comstituent (天気・地形・人質)の中の一つを特定する。
  2. 次に vertical condition に基づいて更に、 その一つの category の中の comstituent (気形質・気血津液・精気神)の中の一つを特定することが必要となる。
    表示すると 
  3. category 1
  4. category 2
  5. category 3
  6. symbol image
  7. circle
  8. square
  9. pentagram
  10. comstituent 1
  11. comstituent 2
  12. comstituent 3
  13. 津液

  14. となる。
    上記の一覧表の category とは、 
  15. という規準に由来する。
    それに対し comstituent 1 2 3 とは、 category に共通する condition であるのだが、明確な回答を提示できない。 誤解を恐れずあえて提示するとすれば、次のような image としてとらえることができる。 
  16. 繰り返すが、これはあくまでも参考までに提示したまでに過ぎない。 以前中国北京社会科学院東洋哲学科で配付された資料では、 1. energy 2. form 3. information と記載されていた。
    以上、ここまではあくまでも comstituent 分類 classificationgrouping を再分化したに過ぎない。 問題は、この comstituent を現象とどのように関係づけ解釈するかにある。
    それには、 category 2 3 の何れかの絞り込んだ対象 comstituent が「どの様な状況下に存在するのか?」という更なる条件付けが必要となる。
    どいうことかというと、 仮に category2 の<気>を例にとると、
    <気>は人を構成する energy 的な comstituent であるが、 その<気>は「、<天気>・<地気>・<人気>何れに由来するものなのか?」 という状況を特定する必要がある。
    また、 category 3 の<精>を例にとると、
    その<精>は、人の能力性質の 1 comstituent であるが、 その<精>は果たして「<気>・<形>・<質>の何れに由来するものなのか」? という状況を特定する必要がある。
    このように comstituent を相互に関係づけることによって対象を絞り込むことができる。 そして、その対象が「陰陽何れの反応現象を示しているか?」によって治療の対象・目的・方法が理解される。
    system
    における思考の process
    1. declare category :どの様な視点から対象を分析するのか? category を宣言する。
    2. cull comstituent :その対象 category の中から該当する comstituent を選択する。
    3. identify the cause comstituent :その comstituent に影響を及ぼしている comstituent 中から一つを特定する。
    4. discrimination :その特定された comstituent が陰陽何れの振る舞いをしているかを区別する。
  17. 6.4 実行 carry out
    再確認するが、 SDDM は、その現時点における test subject が置かれた生理活動状況を改善することを目的としており、 疾病そのものに直接 access comtrol するものではない。 しかし、漢方医学における本治法を離れる物ではない。 あくまでも生理機能の imbalance を回復逆転する本来備え持つ自然治癒能力を acist しているのに過ぎない。
    前述した6.2の classificationgrouping と6.3の system は必ずしも合致する物ではない。 前者は、 SDDM carry out して行く上で必要な項目であるのに対し、 後者は、その背景を理解する上で必要な項目である。 そこで両者を結ぶ架け橋として重要となるのが、 test subject のどの様な data をどの様に comstituent と関連づけるか?」という観点である。
    data
    前述のように基本となるのは vital signs の呼吸(気)・組織(形)・脈状(質)であるが、 そのほかに醸し出す気配・眼光面貌・言行挙措なども参考となる。 いずれにしても陰陽属性が偏傾したものでなければならない。 その中から一例として組織について論述する。
    組織は人体くまなく分布して通常五主として表現されるが、 SDDM では分割せず一体の物としてとらえる。 そして組織には、分布領域による区分と性状による区別がある。
    分布領域による区分は、全身・上下半身・左右半身・顔面・四肢・胸部・腹部・背部などの区別がある。
    性状による区別は、 
    1. 気質(き):機能的な変化が主
    2. 形質(血):形態的変化が主
    3. 水質(津液):性質性状の変化が主
  18. に三分される。
    更にそれぞれ 
    1. 陽:単純な性質要素
    2. 陰:複雑な性質要素
  19. に分け、それぞれ陰陽相反の反応に分かれる。
    組織の性質別陰陽反応表
  20. 気質(き)
  21. 形質(血)
  22. 水質(津液)
  23. 1. 陽
  24. 寒熱
  25. 虚実
  26. 滑渋
  27. 2. 陰
  28. 緩急
  29. 大小
  30. 濡牢

  31. これはあくまで一つの観点であって絶対的な物ではない。
    6.2の classificationgrouping の項目中 
  32. は、組織上の反応・変化について述べた物だが、 もう一つ重要な観点として、組織の正常変化が「移動するのか・移動しないのか」が挙げられる。 気・血・津液いずれにしろ
    1. 天円によるものは、移動し変化す。
    2. 地方によるものは、移動せずその場にて変化する
    3. 人星によるものは、何れとは分かちがたい
  33. という違いがある。
    以上のように SDDM を実行するには、反応・変化をより性格に捕捉し追求できるかにかかっている。 そしてその成否は abstraction 1 2 3 を融通無碍に使いこなせるかにかかっている。
    7. まとめ
    以上述べてきたようにabstraction 1 2 3 の持つ意味と重要性そして多岐に渡る汎用性は、今のところとどまることを知らない。 私自身10年程度このことに取り組んできているが、興味や意識の及ぶ範囲には自ずと限界があり、道半ばにしてまだまだ未知の領域は広大である。 背景となる理論・知識を身につけるのは物理的にも精神的にもかかる負担は大きいものとなるが、現象・現場を通じてabstraction 1 2 3 に習熟することはさほど抵抗なく行えるのではないかと推察できる。 しかも、難解な用語を用いずにもすむので互いに知識や意思を伝えやすいというメリットもある。 今後一人でも多くの人が、このようなabstraction 1 2 3 についての研究に興味を持ち、更なる解明・発展がなされることを希望する。
    免許取得以前からこの業界に身を投じこれまで私なりに研鑽を重ねてきたつもりなのだが、当初身の回りのの知人・同業の先人先輩の文言や教育・保険などの社会環境を眺めてきた中、何ともいえない不満・物足りなさ・無理解など不完全燃焼な感を否めない時を過ごしてきた。 周囲では、各先生が主催する勉強会や団体に参加し、主要必須漢籍の読解・臨床成績を向上させるための診断治療の方法とそのひな形を如何にして手間いらずに習得できるか?という風潮が蔓延し続けるのにも疑問を感じていた。
    当時は現在のITとは程遠く、日本点字図書館から借りだした『典籍修正』を十年一日の如く寸暇を惜しんでまさしく写経三昧に明け暮れル毎日を送っていた。 そのような日々、人語には左右されない普遍的で本質に迫りそれでいて当たり前に眼前に存在する単純にして判りやすい甚だ都合の良い方法はないものだろうか?と試行錯誤している内に巡り会ったのが「縦と横の陰陽」である。 そしてその内『淮南子』・『類経』・『易』に記されている内容が、集約された考え方のエッセンスとして『黄帝内経』・『難経』などのの文章中に知らなければ全く判らない形でそこここに鏤められていることに気付いて行くことになる。 やがて臨床現場においても「これまで学習してきた知識のどれに該当するのか?」という「知識から現象を推し量る」というアプローチではなく、現象を上下・左右・内外や寒熱・虚実と眼前の現象を陰陽何れかに分別してゆく「現象から状態を論理する」というアプローチへと移行して行った。
    余談ではあるが、近年の業界を取り巻く環境をを見るに様々な懸念を覚える。 現状を無視した国家資格を取得する教育養成機関の乱立・丸暗記中心の国歌試験合格に特化した学習カリキュラムなど、粗製乱造のそしりを免れない。 それに臨床現場において病症のパターン化・チェックリストやルーティンワークの採用が推奨されているようだが確かに事務効率の向上・利益率の上昇は期待できるかもしれないが、本来漢方医学が目指すオーダーメイド医療とはかけ離れたものとなりつつあるようである。 田作の歯ぎしりではあるが、誠に嘆かわしくゆゆしき自体と言わざるを得ない。
    そこでこれから学習研究される方へ少しでも参考になればと思い、老婆心ながら重要なポイントを以下に挙げてみた。
    ・固定観念からの脱却(break away from stereotyping)
    例え偉大な先人の言葉や行い・一般に流布している常識であっても鵜呑みにはせず、先ずは疑ってかかり他のやり方を試すなどして事の真偽を確かめる。
    ・視点の多角化:diversification
    同じものでも視点が変われば全く景色は変わってしまう。複数の観点から物事をとらえるようにする。
    ・思考の単純化(occam razor)
    より正確に事象を捉えようとして条件付けを増やしかえって問題を複雑化して判りにくくしてしまうことがある。 その論理が破綻しない最小限度の要素に切り詰めることで本質を明らかにする
    abstractionの導入
    問題となる事象の要素をできるだけ抽象化することによって構造や関係性がシンプルになり、ものの本質がとらえやすくなる。
    以上のような取り組み方は、最近もてはやされている lateral thinking の範疇に属するのであろうが、別の言い方をすれば何事も無駄と思わず手間を惜しまず工夫することが必要であるということに落ち着く。

    おわりに(closing address) 先人からの遺産を未来へ継承(succeed)
    有名な『黄帝内経:素問』の上古天真論の冒頭の一説を引き合いに出すまでもなく、人を取り巻く自然環境・風俗習慣は時と共に移りゆくものであっても生命の営みを成す根幹の原理は普遍である。 だからこそ我々は眼前の事象や流行に惑わされることなく、かといって定型化された方式を鵜呑みにするのでもなくその底流にある問題の本質に迫ってこそ、本当の意味において数千年棺営々と継承され続けてきた先人の知恵を生かすことができるのではないだろうか。
    最後に、本論の作成に当たり、異なる第三者の見地から忌憚のない疑問・意見などを寄せ尽力してくれた鈴木一馬氏に感謝すると共に、今回論文発表の機会を与えてくれた当会並びに役員の皆様に感謝御礼を述べて筆を置くことにする。

    注:執筆者の許可なく、この論文全文もしくは一部記述の無断転載登用を禁止する。

    連絡先: E-mail address 
  34. mailto:kikani@ae.wakwak.com


    語釈
    ・陰陽
    陰陽とは、森羅万象、宇宙のありとあらゆる事象をさまざまな観点から陰と陽の二つのカテゴリに分類する思想。陰と陽とは互いに対立する属性を持った二つの気であり、万物の生成消滅と言った変化はこの二気によって起こるとされる原初は混沌(カオス)の状態であると考え、この混沌の中から光に満ちた明るい澄んだ気、すなわち陽の気が上昇して天となり、重く濁った暗黒の気、すなわち陰の気が下降して地となった。この二気の働きによって万物の事象を理解し、また将来までも予測しようというのが陰陽思想である。受動的な性質、能動的な性質に分類する。具体的には、闇・暗・柔・水・冬・夜・植物・女、光・明・剛・火・夏・昼・動物・男などに分けられる。これらは相反しつつも、一方がなければもう一方も存在し得ない。森羅万象、宇宙のありとあらゆる物は、相反する陰と陽の二気によって消長盛衰し、陰と陽の二気が調和して初めて自然の秩序が保たれる。重要な事は陰陽二元論が、この世のものを、善一元化のために善と悪に分ける善悪二元論とは異なると言う事である。陽は善ではなく、陰は悪ではない。陽は陰が、陰は陽があってはじめて一つの要素となりえる。あくまで森羅万象を構成する要素に過ぎない。戦国時代末期に五行思想と一体で扱われるようになり、陰陽五行説となった。
    ・『易経』
    儒教の基本書籍である五経の筆頭に挙げられる経典であり、『周易』(しゅうえき、Zh?u Yi)または単に『易』(えき)とも呼ぶ。通常は、基本の「経」の部分である『周易』に儒教的な解釈による附文(十翼または伝)を付け加えたものを一つの書とすることが多く、一般に『易経』という場合それを指すことが多いが、本来的には『易経』は卦の卦画・卦辞・爻辞部分の上下二篇のみを指す。三易の一つであり、太古よりの占いの知恵を体系・組織化し、深遠な宇宙観にまで昇華させている。今日行われる易占法の原典であるが、古代における占いは現代にしばしば見られる軽さとは大いに趣きを異にし、共同体の存亡に関わる極めて重要かつ真剣な課題の解決法であり、占師は政治の舞台で命がけの責任を背負わされることもあった。
    この書物の本来の書名は『易』または『周易』である。『易経』というのは儒教の経書に挙げられたからで、他の五経が『書経』・『詩経』・『礼経』・『春秋経』・『楽経』というように「経()」の字を加えるのと同様である。
    構成:
    (1)
    「経」には、六十四卦の図像である卦画像と、六十四卦の全体的な意味について記述する卦辞と、それぞれの卦を構成している6本の爻位(こうい)の意味を説明する384の爻辞(乾・坤にのみある「用九」「用六」を加えて数えるときは386)とが、整理され箇条書きに収められ、上経(30卦を収録)・下経(34卦を収録)の2巻に分かれる。「経」における六十四卦の並び方がどのように決定されたのかは現代では不明である。また六十四卦の卦辞や爻辞を調べる場合、「経」における六十四卦の並べ方そのままでは不便であり、六十四卦を上下にわけることで、インデックスとなる小成八卦の組み合わせによって六十四卦が整理された。その後、小成八卦自体が世界の構成要素の象徴となって、様々な意味が付与されることとなった。
    (2)
    「伝」(「十翼」)は、「彖伝(たんでん)上・下」、「象伝(しょうでん)上・下」、「繋辞伝(けいじでん)上・下」、「文言伝(ぶんげんでん)」、「説卦伝(せっかでん)」、「序卦伝(じょかでん)」、「雑卦伝(ざっかでん)」の計10部である。これらの中で繋辞伝には小成八卦についての記述なく、繋辞伝が最初に作られた「伝」と推測される。
    ・道
    道(どう・タオ・Tao・みち)とは、中国哲学上の用語の一つ。人や物が通るべきところであり、宇宙自然の普遍的法則や根元的実在、道徳的な規範、美や真実の根元などを広く意味する言葉である。道家や儒家によって説かれた。
    老子によれば、道とは名付けることのできないものであり(仮に道と名付けているに過ぎない)、礼や義などを超越した真理とされる。天地一切を包含する宇宙自然、万物の終始に関わる道を天道(一貫道ともいう)といい、人間世界に関わる道を人道という。
    孔子は天道を継承し、詩経、書経で人道についても語り、「子曰 朝聞道 夕死可矣」や「子曰 參乎 吾道一以貫之哉」(『論語』 巻第2 里仁第4)といった名句に道義的真理があり、天地人の道を追究した孔子の姿勢が伺える。
    道教における「道」の概念は、神秘思想の上に取り入れられ、道家のそれとはかけはなれた概念となっているとされていたが、近年はフランス学派の学者たちを中心に道家と道教の連続性を認める傾向が多くなってきている。
    『中庸』では「誠者天之道也 誠之者人之道也」と「天之道」、「人之道」が「誠」であるとし、それに基づき孟子も「是故 誠者天之道也 思誠者人之道也」(『孟子』 離婁 上)と「天之道」、「人之道」と「誠」に言及している。
    ・太極: 古代中国の宇宙観で、万物を構成する陰陽二つの気に分かれる以前の根元の気。南宋の朱熹(しゅき)は、太極は天地万物の根拠の理であると考えた。
    ・両儀: 陰と陽。また、天と地。
    ・四象: 少陽(春)・太陽(夏)・少陰(秋)・太陰(冬)。
    ・八卦(はっけ、はっか)は、易における8つの基本図像。すなわち、乾(Ken 兌(Da 離(Ri 震(Shin 巽(Xun 坎(Kan 艮(Gon 坤(Kon の八つ。卦は爻と呼ばれる記号─陽(剛)と--陰(柔)を3つ組み合わた三爻によりできたものであり、その爻の組み合わせの違いによって八卦となるなお八爻の順位は下から上で、下爻・中爻・上爻の順である。また八卦を2つずつ組み合わせることにより六十四卦が作られる。
    ・展開構造: 伏羲八卦次序は繋辞上伝にある「太極-両儀-四象-八卦」の宇宙の万物生成過程に基づいており、陰陽未分の太極から陰陽両儀が生まれ、陰と陽それぞれから新しい陰陽が生じることによって四象となり、四象それぞれからまた新しい陰陽が生じることによって八卦となることを、乾(Ken 兌(Da 離(Ri 震(Shin 巽(Xun 坎(Kan 艮(Gon 坤(Kon の順で表している。
    ・爻(こう)は、易の卦を構成する基本記号。長い横棒(─)と真ん中が途切れた2つの短い横棒(--)の2種類がある。経では前者を剛、後者を柔と呼ぶが、伝では陽、陰とする。陽爻と陰爻は対立する二面性を表し、陽爻は男性・積極性などを、陰爻は女性・消極性などを表す。これらを3つ組み合わせた三爻により八卦ができ、六爻により六十四卦が作られる。このように陽爻と陰爻を組み合わせることにより事物のさまざまな側面を説明する。なお朱子学系統の易学、宋易において爻を2つ組み合わせてできるものを四象といい、それぞれ太陽・少陰・少陽・太陰と呼ぶ。経には六十四卦の爻ごとに爻題と爻辞が付されている。爻題は必ず2字で構成され、1字は爻の順序を表し、もう1字は爻の性質、すなわち剛(陽)か柔(陰)かを表す。爻の順序は下から上であり、1番下の爻から「初・二・三・四・五・上」と名付けられる。一方、爻の性質は数字によって表され陽爻には九、陰爻には六が用いられる。そして爻辞にはそれぞれの爻が示す占いの言葉を書き記している。例えば、乾卦の初爻であれば、「初九、潜龍勿用」というように書かれており、「初九」が爻題、「潜龍勿用」が爻辞である。なお爻題は初爻と上爻では順位・性質の順番であるが、二爻から五爻では性質・順位の順になる(例えば六二、九四というように)。
    エントロピー (: entropy) は、熱力学および統計力学において定義される示量性状態量である。当初は熱力学において、断熱変化の不可逆性を表す指標として導入され、後に統計力学により、系の微視的な「乱雑さ」を表す物理量という意味付けがなされた。 更に、系から得られる情報に関係があることが指摘され、情報理論にも応用されるようになった。 物理学者の E.T. Jaynesのようにむしろ物理学におけるエントロピーを情報理論の一応用とみなすべきだと主張する者もいる。一般に記号 S を用いて表され、統計力学におけるボルツマンの公式
    S=k\,\log W
    がよく知られている。ここで、W は系が定められたエネルギー・体積の下でとりうる状態の数、k はボルツマン
    logical thinking(垂直思考)とは、「筋の通った(理路整然とした)論理的な思考」(thinking that is coherent and logical)のこと。
    Lateral thinking(水平思考)は、問題解決のために既成の理論や概念にとらわれずアイデアを生み出す方法である。エドワード・デ・ボノ(英語版)が1967年頃に提唱した。デ・ボノは従来の論理的思考や分析的思考を垂直思考(Vertical thinking)として、論理を深めるには有効である一方で、斬新な発想は生まれにくいとしている。これに対して水平思考は多様な視点から物事を見ることで直感的な発想を生み出す方法である。垂直思考を既に掘られている穴を奥へ掘り進めるのに例えるのなら、水平思考は新しく穴を掘り始めるのに相当する。(ランダム発想法・刺激的発想法・挑戦的発想法・概念拡散発想法・反証的発想法などがある。)
    fractal (フランス語: fractale)は、フランスの数学者ブノワ・マンデルブロ が導入した幾何学の概念。図形の部分と全体が自己相似になっているものなどをいう。
    ・ペンタグラム(pentagram)は、五芒星形・五角星形・五線星型・星型五角形・正5/2角形は、互いに交差する、長さの等しい5本の線分から構成される図形で星型正多角形の一種である。正五角形に内接し、対称的である。一筆書きが可能。 5つの要素を並列的に図案化できる図形として、洋の東西を問わず使われてきた。
    ・線型性
    線型性(せんけいせい、英語: linearity)あるいは線型、線形、線状、リニア(せんけい、英語: linear、ラテン語: linearis)とは、直線そのもの、または直線のようにまっすぐな図形やそれに似た性質をもつ対象および、そのような性質を保つ変換などを指して用いられている術語である。線型性をもつことで、物理学や工学においては初期値を与えてやればその後の挙動の予測が単純化できるという利点がある。
    ・非線形性(ひせんけいせい、Non-linearity)あるいは非線形(ひせんけい、Non-linear)は、線形(線型)ではないものを指すための用語。・非線形性は、仮にとある予測に基づいて初期値を設け展開したとしても期待する結果にたどり着けず、単純な因果律が成立しない性質状態。(かおす)

    位相的性質位相幾何学では、例えばドーナツ(円環体)と取っ手のついたコップは同一視される。これはドーナツを「連続」的に変形して取っ手のついたコップにすることができ、その逆もできるからである。ここで、「連続」という言葉を強調することには意味がある。連続性は、まさしく位相幾何学の存在理由となる概念であるからである。連続性を、より厳密に定義するために用いられるのが、近さを測る距離の概念を抽象化した位相と呼ばれる概念である。位相(これもまたトポロジーと呼ばれる)とはなんであるかということについて、その基礎づけを与える学問は点集合トポロジー、一般位相あるいは位相空間論と呼ばれ、そこでは位相空間の内在的な性質が浮き彫りにされる。外形や属性が異なっていても内在する性質が同じであれば同一視する。位相幾何学の基本的な考え方として、連続的変形によって変わらないような性質を見出すことがある。この「連続的変形」を数学的にきちんと定式化したものが同相写像あるいは位相同型写像と呼ばれる概念であり、同相写像によって保たれる性質は位相的性質であると呼ばれる。また、同相写像によって互いに移りあう 2 つの図形は互いに同相であるといわれる。例えば、冒頭のコップとドーナツの例では、どちらも 1 つのつながった図形(連結性)であり、また穴が 1 つだけ空いている(種数)。位相的性質のうち定量的に扱うことのできるものは特に位相不変量と呼ばれる。
    ・異質性(不均質性)(heterogeneously)
    異質の性質・異質な成分からなる。外啓挙動は同一性を示すものの、素となる本性原理を異にする性質をいう。
    参考文献(順不同)
  35. 署名
  36. シリーズ名
  37. 著者名
  38. 出版社名
  39. 発行年
  40. 周易本義
  41. (中国古典新書続編)
  42. 中村 璋八, 古藤 友子
  43. 明徳出版
  44. 19920901
  45. 太極図説
  46. -
  47. 周敦頤
  48. wikipedia
  49. 1017-1073
  50. 難経解説 南京中医学院篇
  51. 戸川芳郎(東大教授)監訳
  52. 東洋学術出版
  53. 1987
  54. 現代語訳 黄帝内経素問 上・中・下
  55. 南京中医学院
  56. 石田秀実
  57. 上海科学技術出版社
  58. 19911115

  59. その他参考資料
    論文掲載中の単語の意味・用例・スペリング・時代的学術的背景などの性格・適切さを担保するため wikipedia.jp を頻繁に利用した。
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