「易の陰陽二元論的自然観を漢方医学基礎理論と臨床実践に展開応用」
(2013/09/15)
相原 黄蟹
index
はじめに
研究者・学生医療従事者の中でも煩雑難解と思われがちな漢方医学。 そのバイブルとされる『黄帝内経』・『難経』…の背景に流れる古代中国当時の自然観。 この自然観を哲学という俎上に載せて研究論じられてきた気・陰陽・五行思想学説。 これら思想学説の根底に埋設された礎石として貫かれているのが’易’の事象の見方考え方である。 この’易’思想である「陰陽二元論的自然観」を研究して行く内にふと腑に落ちた目から鱗の一つの抽象概念を基礎医学(生理・病理・治療)・臨床実践に応用展開してみた。 するとこれまで煩雑難解であった学術書の理解や臨床上の行為など様々な疑問点が一つまた一つと連鎖反応式に解消してゆくのに驚かされた。 以下、現時点まで私なりに理解納得し分類整理できたものをテーマ内容別に縷々論述して行く中でその中核を成す概念を明らかにする。 更に論末で漢方医学の現況・問題認識把握・対策方針についても一考することとする。
1.0 '易'の陰陽二元論の解釈展開
’易’とは、古代中国で生まれ育まれた森羅万象を陰陽二元論によって理解しようとする、最古の自然観である。 その思想の集大成ともいえるのが『周易』であり儒教の重要な経典の一つとなっている。 また『周易』は卜筮の経典としての方が有名であるが、今回は自然観についてのみ取り上げ、主要部の卜筮に関しては省略する。
1.1 ”易”の説く”道(tao)”と”器”
おそらくは”易”を源泉とし、道家や儒家によって説かれて浸透伝播していったと思われる”道”の思想。 その”道”は“易”の根幹を成す思想であり、この時空を構造し・森羅万象を統べる仕組みの真理であり本質であるとする。 がしかし、”道”とは見たり聞いたり触ったりできない茫洋なものでありながらあらゆる事象に存在するもので、人知では計り知れず認識は遠く及ばない。
『周易』 繋辞上伝 「形而上者謂之道 形而下者謂之器」
とある。
つまり真理である”道”によって生み出される”器”こそ我々が認識し存在する世界である。 この”器”に統べる仕組みを「陰陽二元論的自然観」という filter を通すことによって、ある種の整然たる秩序を見出すことができる。 その秩序について論述することにする。
1.2 ”易”の説く陰陽二元論
前述のように我々が存在する世界”器”は、 ”気”という要素によって構成されている。 その”気”という要素が、 ”陰陽”という性質能力を発揮することによって森羅万象が生み出される。 そして我々人間は、森羅万象の一つ一つをそれぞれ異なる存在として区別し認識している。 そこで、対象とした任意の事象とその他の事象とを区別するための必要な条件要素として、
の二つに大別する。
これはつまり、前者A.は、一つの任意の対象そのものの<性質・状態>についてのみ認識を向けられた構成条件要素であるのに対し、後者B.は、任意の対象と他者の両者との空間的・時間的な関係性・方向性に認識を向ける構造条件要素で有ることを意味している。 また、 A. を陰とするのは、存在点・静的・物性的な image であり、 B. を陽とするのは方向(vector)・動的・展開の image から理解できる。
1.3 ”易”の宇宙生成の概略
太易 - a. 太初 - 太始 - 太素 →太極 - b. 両儀 - 四象 - 八卦
(伏羲八卦次序) より)
上記のように起源要素が段階を経て分化し”八卦”という現象を生み出す性質の基本単位となる。 この基本単位を組み合わせることによって、更なる分化を経て六十四卦となり森羅万象が説明される。 この”八卦”は、陽爻(剛)-(一本線)と陰爻(柔)- -(二分線)の二種の何れかを選び下段(初爻)・中段(二爻)・上段(三爻)に積み重ねられた三層構造となっており、その現象の本性を司る。 つまり1の陽爻と2の陰爻の組み合わせによって3爻という現象の本性が形作られることになる。
この二つの視点
から重要な抽象概念である abstraction 1 2 3 が導き出される。
2.0 抽象概念 abstraction 1 2 3 の解釈展開
このabstraction 1 2 3 は、中国古典籍は無論のこと数物系から社会文化に至るまで広範囲な分野に渡ってものの見方・考え方の礎石として埋伏していることが理解できる。 以下に幾つか代表的な項目について例を挙げて説明する。
2.1 abstraction 1 2 3 の category 別構成要素( constituent )
abstraction 1 2 3 の総合一覧表( lateral viewpoint )
項目*系統 |
1 |
2 |
3 |
備考 |
イメージ・シンボル |
○(円) |
□(方) |
☆(星) |
系統のイメージを図案化したもの |
思想 |
気 |
陰陽 |
五行 |
東洋哲学において基本となる思想 |
爻 |
陽 |
陰 |
陰陽(下中上) |
abstractionの原点 |
展開 |
2 |
4 |
8 |
事象の発展段階 |
分数 |
4/8 |
2/8 |
1/8 |
事象の基本となる構成要素の単位 |
三才 |
天 |
地 |
人 |
宇宙を構成する三大要素 |
構成 |
気 |
形 |
質 |
事象を構成する基本要素 |
三宝(気) |
気 |
精 |
神 |
人間を構成する基本要素 |
人気 |
邪気(適応変化) |
正気(安定供給) |
神気(不変堅持) |
人の生理活動の基本機能、中心と成る気 |
構造 |
起点(素因) |
ベクトル(原因) |
結果(現象) |
事象が出現するまでの過程、段階構造 |
思考 |
一次元:線分 |
二次元:平面 |
三次元:立体 |
思考のベクトルや広がりを表現したもの |
abstraction 1 2 3 の category 別基本構成要素( constituents )一覧表( vertical viewpoint )
・ |
1 天円 |
2 地方 |
3 人星 |
1 天 |
十干 |
天気(寒暑燥湿風) |
気 |
2 地 |
十二支 |
地気(五香五味) |
精 |
3 人 |
九星 |
人気(喜怒哀楽) |
神 |
2.2 図表解説
上図の 1 2 3 は、abstraction(抽象概念)である故、種々の異なる理論・思考の視点・ category に対しても一貫して解釈しうる有効 tool であることを示した一例である。
この極めて汎用性の高い抽象概念は、横条件 lateral と縦条件 vertical の二種の異なる思考方法によって構成されており、様々なシュチュエーションにおいて無意識の内に運用駆使され、判断を下す規準となっている。
・横条件 lateral とは、数学における集合のように事象を一要素として取り扱うるもので、一つの視点を全体集合(U)とし、その集合を構成する部分集合 A B C を格差のない並立要素としてとらえる。 その並立要素は、一つの目的や役割を有機的にシェアしているものであって高低の位置づけや先後の順序視点は持ち込めない。(三位一体)
・縦条件 vertical とは、理数の entropy (S)理論の如く時空の進行方向に単純から複雑なものへと logical に展開するもので、その事象に至るまでの過程を三段階の役割ごとに異なった性質・機能や位置・方向における序列の視点を持つ。
これら縦横条件の視点はそれぞれ分離独立して存在機能しているものではなく、横条件の一つ一つに縦条件視点を包含している。 従って重要なことは、「現在対象としている事象を、果たしてどの思考法を用いて認識しているのか?」という視点を明確化しなくてはならない点にある。
注:上記の vertical ・ lateral は、巷間流布されている Logical thinking ・ lateral thinking とはその意味を異にする。
2.3 1 2 3 の fractal 構造
この 1 2 3 の系統構造とは全体を統べるもので、
1系の天円(circle)・2系の地方(Square)・3系の人星(pentagram)の三項目を最高の第一階層(素因・起点)とし、
その下位に第二階層(原因・展開)としてそれぞれの系統に1(2・気)・2(4・形)・3(8・質)の三項目を内包し
更にその下位に第三階層(現象・実態)としてそれぞれの系統に1(天・気の陰陽)・2(地・精の陰陽)・3(人・神の陰陽)の三項目
と下ってゆく fractal 構造をなしている。
(1/3 1/3 1/3 : 1/27)
そして我々が実際に現象として感知できるのはこの第三階層による表現系の<実>のみであり、上位の二階層は理法としての認識の仲でのみ存在しうる<虚>ということになる。 ただし注意しておかなければならないことは、樹形図に記された各項目はあくまでも思考の流れの中の可能性であって、実際現実に対象とするのは1/27の一つの項目のみに限定されることになる。
・ |
1 |
2 |
3 |
因果 |
素因 |
原因 |
結果 |
ベクトル |
起点 |
展開 |
現象 |
例:1-1-1 = 天-気-天_陽、寒邪による全身の発熱。
2.4 1系・2系・3系のイメージ・シンボル(image symbol)
1系2系3系は、イメージ・シンボル(image symbol)としてそれぞれサークル(circle)・スクエアー(Square)・ペンタグラム(pentagram)と表現される。 (以後、1 circle ・2 Square ・ 3 pentagram と表記する。)
注:これとは別に、正円に内接するそれぞれ1系は正方形・2系は正菱形・3系は正五星形とも表記される場合もある。
・ circle とは、文字通り円形・環状線であり一方向に無限(∞ infinite)に循環を繰り返すもので天文(時間)を示している。 ((線形)) これは時空における因果律が一次関数条件に支配されていることを意味する。 従って、現象は大過(+)・不及(-)現象として認識される故に異常現象・病症(症=証)は、その状態の順逆を改めること(迎随)によって正常を回復できる。 (難経六十九)
・ Square とは、文字通り方形・平面空間であり四方向に有限(limited)な広がりを持つもので地理(空間)を示している。 ((線形)) これは時空における因果律が二次関数(X・Y)条件に支配されていることを意味する。 従って、現象は呼吸(出入)・昇降(虚実)現象として認識される故に異常現象・病症は、その状態を引き起こしている因素である陰陽双方の虚実を改めること(補瀉)によって正常を回復できる。 (難経七十五)
・ pentagram とは、外宇宙という時空の諸現象を知覚・認識する存在であり、生命という他己を区別した小宇宙を内包している。 (人事・精神) 大小・外内宇宙の相似相関関係からその象徴として五芒星を用いている。 (非線形) 従って現象は、個人の人生すなわち生老病死として認識される故に異常現象・病症は、その人の先天・後天の原気の損耗を抑制し増強に努めることによって正常を回復できる。( 干支・九星)
2.5 2 4 8 の意味と 1 2 3 への応用展開
前述のように 2 4 8 とは、両儀・四象・八卦に由来するもので、陰陽の2を1乗・2乗・3乗したものでもある。 これは対象とする任意の事象を、その持つ構成要素数によって三段階の階層に分けてとらえるものでその本性因果を理解すると言うことは、1/2(4/8)・1/4(2/8)・1/8(に対象を絞り込んだことを意味する。
注:万物は八卦の展開の結果であるため分母数は常に8となる。
注:ここで取り上げられている数字は、考え方を象徴するものであってカウントされる実数ではない。
2.6 1 2 と 3 の異相性(toporogyと異質性(heterogeneously)
ここまで abstraction 1 2 3 の広範囲にわたる汎用性を示してきたが、このように異なる対象・外形・視点・ category であってもその枠組みの個々に内在する同質性が普遍であることは、数物系の異相性(同相写像)幾何学の視点を取り入れることによって証明される。 しかし、ここまで幾つか指摘してきたように 1 2 3 は、verchiclにしてもlateralにしても全く均一・均質ではない。 結論から言えば、 1 2 と 3 では根本的な点で異質である。
概説すると、
などのような異質性を有している。
故に種々の場面において情報や認識を、
ということになる。
このように異相性「一見異質に思えてもその本質は同質」と異質性「一見同質に思えても異質」は、表裏の関係にある。 従って、問題の本質を見誤らないためにも、観察・思考する対象をどのような視点(stage)に立脚しているのかを常に明確化する必要性を認識しておかなければならない。
注: 1 → 2 → 3 というように順序があるのではない。 また、 1 2 3 を明確に区別することもできない。 曖昧であることの正常性を許容することが求められる。
2.7 abstraction 1 2 3 からabstraction 1 2 へ
ここまで abstraction 1 2 3についての論を進めてきたが、 我々が実際に思考の process において行っているのは yes no 左右といった二者択一法、つまり陰陽論の仕組みによってである。 これは、関与する条件は常に三要素の可能性としてあるが、 ある任意の事象に対し何かの判断をしようとするとき、 その条件を指定することが abstraction 1 2 3 を陰陽二要素に絞り込むことになる。 これを abstraction 1 2 と呼ぶ。
この abstraction 1 2 は、指定条件によって同じ対象に対してその属性 1(陽) 2 (陰)が逆転する。 前項で述べたように abstraction 1 2 3 は 1 2 と 3 に類別されるのだが、 要素数の視点では前者が 2 であり、後者が 1 となる。 しかし、線形か非線形かの視点では前者が 1 後者が 2 となる。
更に要素数 2 も、 形質視点か機能視点かによって 1 2 は逆転する。 つまり、指定条件視点の 1 2 があり、更にその中に要素視点の 1 2 がある。 であるから、対象とする事象が何れの視点に立脚した物か明確にしておかなければならない。
3.0 全ての事象の元素となる三角形
三角形は円に次いで最も基本で安定した形であり、他の多角形はその組み合わされた図形であることから、全ての事象の根源を表した図形とされている。 これはつまり、森羅万象を構造要素・構成要素に再分化してゆくと最終的には、前述したabstraction 1 2 3 を根拠とした一陽二陰によって構成された三角形モデルに行き着く。 以下にその三角形の構造と構成について詳述する。
3.1 三角形(直角二等辺三角形)の構造と構成の意味
万物は、陽を意味する一(2点1辺)現象と陰を意味する二(2辺1点)原因の一対からなる三角形(直角二等辺三角形)を元素とし、それが複雑に組織化された結果構造体として表現されたものである。
この三角形は直角二等辺三角形 ∠ABC ・ 辺 a(BC) b(AC) c(AB) であり、 ∠A の対辺(斜辺) a(BC) は陽で’現象’、 ∠A (直角)と短い等辺2辺 b(AB) c(AC) は陰’原因’によって構成されている。
「1(2点間1辺)は現象の陽・2(2辺の交点1)は原因の陰」とあるが、これは、現象として感知しうる明確な実態現実である陽を意味する1、それに対し原因とは実態がなく思考認識の上にのみ存在しうるので本性の陰の陰であり、その内容は陰陽両者の偏傾に基づくことから2と表現される。 また、現象は感知した表現そのままをとらえるので陰陽どちらか一報を指すのに対し、原因は陰陽のバランスの偏傾状態双方を認識対象とするため両者を示すことになる。
更にその陰陽の偏傾を引き起こした切っ掛けとなる素因を起点 ∠A として、現象を意味する斜辺 a(BC) の対角となる。 つまり、前項では「現象=1、原因=2」と示したが、ここでは「現象=2、素因=1」と示していることになる。 何故このような相反対象が並存するかというと、前者は現象そのものの因果を説明するものであるのに対し、後者はその現象を規定する場の因果を説明するものであるからである。 つまり「現象=2」というのは、現象を現象として認識しうる時空の領域範囲を規定しなければならない。 それが ∠B ∠C の存在である。 更にその2点を規定する条件を設定している存在こそ対角である素因・起点の ∠A である。
陰: 1 → 2 = 場(対象) ・ 陽: 2 → 1 = 現象(変化)
注:前述2.のイメージ・シンボルとは立脚視点が異なり、1系・2系・3系はそれぞれこの直角二等辺三角形を基礎とした組み合わせた構造として論を進める。 ただし、これは思考モデルとして取り扱うものであり、現実は角度を異にする三角形によって構成されている。
3.2 折り紙によるモデルパターン
理解を容易にするため3枚の正方形の折り紙を用いて説明を試みることとする。
注:シンボルイメージは、1系- circle ・2系- Square ・3系- pentagram であるが、ここではいずれも Square を基本形とし、それぞれ1系を正方形・2系を正菱形・3系をその複合形として取り扱う
<手順>
A.=気・B.=形・C.=質は、前述の1系・二2系・3系それぞれ同様に当てはまる。
紙片を折りたたむという行為が何を意味しているかというと、対象とする事象を陰陽1/2何れかに要素を絞り込むことに他ならない。 つまり A.は気の陰陽何れかを、B.は形の陰陽何れかを、C.質の陰陽いずれかを絞り込むことである。 ここでいう気・形・質とは、対象とする現象の構成要素について着目したものであり、浅深軽重の意味は持たせない。
前述のように直角二等辺三角形が直角点・等辺・斜辺と三つの要素からなることを説明したが、これは、素因を起点として→それが陰陽の偏傾を生み出し→その結果現象として認識される仕組みについて述べたものでもある。 このことを踏まえた上で、紙片の折りたたまれ方を観察すると、次のようなことが理解できる。
当然のことながら折りたたまれる以前の正方形には直角二等辺三角形は存在しない。 それを対角線上で1/2におりたたむと、対角線を斜辺に持つ二つの直角二等辺三角形(A.)ができる。 素の正方形に展開すると対角線を軸にした線対称の直角二等辺三角形が確認できる。 これは二つの異なる素因が共通の現象を示していることを意味している。 更に素因起点が外周に存在するのに対して現象は内部に展開していることが理解できる。
次に、更に斜辺の両端を重ね合わせるように折りたたむと、素の正方形の1/4の直角二等辺三角形(B.)ができる。 これはA.の斜辺の1/2の等辺を持った直角二等辺三角形であり、A.の現象が陰陽いずれかの状態に二分されたことを意味する。 また内部に同一の素因起点を持ち、外周にある現象は異なった様子を示すことが理解できる。
ここまでは、折り目線が素の正方形の対角線上を軸に回転してできた直角二等辺三角形であり、時間や空間の軸・電磁波の波動軸のように互いに直交(90度)している関係性がある。 それに対し、次に述べるC.の直角二等辺三角形は、その性状背景を異にする。
同じようにB.の斜辺の両端を重ね合わせて折りたたむ。 そして素の正方形に展開するとユニオンジャック(英国旗)の様な中心から8条の放射線が視認できる。 それを中心点を規準にA.=180°B=.90°C=.45°であるととらえる。 この45°とは、1系- circle ・2系- Square の図形の差異と等価である。 (正方形を45°傾けると菱形となる。) 即ち categorise の境界領域であることをも意味している。
また、現象の場を規定する斜辺の両角は、A.の因素起点Bの因素起点.であり内外を結ぶ線ともなっている。 つまりA.B.両者を踏まえ更なる第三の視点を持つ必要性を示している。
以上、折り紙を用いて解説を試みたが、これはあくまでも思考方法を視覚化しただけのものであって何かの答えを出すための tool ではない。 発想の転換の切っ掛けであるとか、ブレーン・ストーミングなどの素材として役立てば良いと考えた。
4. 結論
以上、各項目ごとに論を展開し積み重ねてきたが、以下の如く集約できる。
これらの要素は、abstraction 1 2 3 の視点や考え方を tool として運用する上で押さえておかなくてはならない重要な項目である。
この論文の本旨であるabstraction 1 2 3 は、1項目目にあるように”易”の陰陽二元論的自然観から派生展開してきたのであるが、その適応範囲は極めて広く無限と言っても過言ではない。 なぜならばまさに「自然観」というように現実世界の現象を観察してきた先人の知恵の結晶であるからにほかならない 我々の眼前で繰り広げられる現象に、刻々と揺れ動く情動に、思考の過程にと気付かなければ意識しなければその存在が知り得ない共通の秩序。 その秩序の一つが abstraction 1 2 3 である。 この秩序を理解して更に通暁することができれば、 様々な局面でその問題の本質を理解するために必要な 視点 angle の確保・ 解答にたどり着く思考の process に役立つ有効な tool となるはずである。
従って、我々が日々研究する漢籍の読解や、研鑽を積み重ねる医療現場においても問題解決や理解を助ける有効な優れた tool として機能することが期待される。 以下に、学問・医療それぞれの分野においてどのように有効に機能するかを項を設けて概説する。
5. 漢籍に散見されるabstraction 1 2 3 の応用記述例
ここでは、我々が接する機会の多い典籍の中から『黄帝内経:素問』・『難経』を代表とし、 ”abstraction 1 2 3 ”の思想がどの様に取り入れられ、単語・文章・説や論の配置・配列などの文書構成に反映されているかを幾つか取り上げてみる。 そして、その様な配置・配列が、著者編者のどの様な意図に基づいて成されたのかを推察してみる。
5.1 用例の概説
用例1
これまで述べてきたように”abstraction 1 2 3 ”には、 lateral・verticalに関わらず異相性と異質性の二つの視点がある。
特徴的な例としてA.「天・人・地」とB.「天・地・人」の区別が挙げられる。
用例2
同じように、2.3 image symbol で詳述した中の circle と square の違いによる陰陽の二つの視点がある。
特徴的な例として
の違いが挙げられる。
用例3
用例1で示した A. B. は、記述の仕方や文章そのものが異なっていたのに対し、ここで示す用例は、同じ本文においても読み手側(受け手)側の視点の違いによって浮かび上がる理論背景が異なる。
特徴的な例を挙げると、王冰の編纂による『黄帝内経』:素問の冒頭からの十一論篇は、次のように三巻にまとめられている。
この巻一・巻二・巻三を視点の違いによって
- |
巻一 |
巻二 |
巻三 |
視点A. 三宝から |
精: 人の定命と自然 |
気: 事象の変化の仕組み |
神: それぞれの個性の素となる性質 |
視点B. abstraction 1 2 3 |
circle: 回り続ける無限の環 |
square: 四方の空間に展開 |
pentagram: one andonly 性質 |
のように内容の解釈が変わってくる。
用例4
同じ一つの要素名でありながら、背景となる文章の consept が異なると categorige も異なる。
・ |
1 |
2 |
3 |
構造要素(素材視点) |
気 |
精 |
神 |
構成要素(能力視点) |
精 |
気 |
神 |
前者は天地の視点から人を三要素に分けているのに対し、後者は人の生命活動の役割により三要素に分けている。
以上、紹介したのは極一部だが、色々な場面で新しい見方・解釈を促してくれる tool として有用である。
5.2 abstraction 1 2 3 で解釈
2.4 image symbol の項で述べたように、些かの粗暴感はぬぐえないが、 circle を六十九難的視点 square を七十五難的視点 pentagram をその他(先天精・原気)の視点と整理し直してみた。 理由の一端を前項にて既に述べたが、論拠となる幾つかの注目点について概説すると次のようになる。
・ |
六十九難 |
七十五難 |
その他 |
原文 |
虚者補其母.實者瀉其子.當先補之.然後瀉之.不實不虚.以經取之者.是正經自生病.不中他邪也.當自取其經.故言以經取之. |
東方實.西方虚.瀉南方.補北方.何謂也. |
省略 |
要約 |
母 → 其 → 子 事象が時系列 |
東西 = 左右; 横 ・ 北南 = 上下; 縦 事象の関係性が空間的 |
- |
image symbol |
circle |
square |
pentagram |
挙動 |
一方向 円運動 |
二方向 往復運動 |
不定 |
揺らぎ |
先後 + 大過 - 不及 |
出入 昇降の偏在 虚実 |
寿命 老化 |
手法 |
迎随 |
補瀉 |
滋養 強壮 |
ある程度 image できただろうか? おそらく違和感や抵抗感を持つ人もあろうが、ここで用いられている用語は限定的な意味合いで使用してはいない。 例えば「迎随・補瀉」であるが、鍼の用い方を意味する単語としてではなく、問題の事象の発生機序に対し「どの様な解決姿勢で臨むべきなのか?」という観点から用いたものである。
「如何にして鍼灸治療を向上させるのに有効な文章を見つけ出し読み解くか?」ということに止まらず、このように全体の構造や文字の配列などに組み込まれた秩序を abstraction な観点から取り組むのも新たな発見があると思う。
最後に一言説明を加えておくと、上記の難経六十九・七十五は、二律背反ではない。 あくまでも考え方・視点の違いであって、一つの事象や人体に置いてさえ共存しうる。 というより仕組みは厳然として機能していることを付け加えておく
6. abstraction 1 2 3 の臨床への適応と実践例(SDDM)
一般的に経絡治療による臨床現場では、
の様な手順で行われるのが普通であると思われる。
しかしここでは”簡易鑑別診断法(Simple Differential Diagnosis Method)"(以後SDDMと略記する)による手順とその仕組みについて論述する。
6.0 総論 general remarksan outline
”SDDM”とは、四診法(望診・聞診・問診・切診)内の切診法を特化させたものであり、一般的な弁証論治の手法とは異なる。 観察対象を上肢・下肢・躯幹に大きく三区分し、その部位に対する接触反応(呼吸・五主・脈状の改善)に従って治療対象経絡経穴を決定施術する方法である。 従って症状を観察分析し証を立て経絡経穴を選択する必要手間がなく、膨大な知識や長年にわたる技の錬磨も不要と言うことになる。 良いことずくめのようであるが、重要な問題点はこのような生体反応を引き起こす機序について思考理解を深めることである。 その根拠となるのが abstraction 1 2 3 であり、この consept の習熟こそ運用展開の鍵を握ることになる。 誤解を招きかねない表現を用いたが、豊富な経験や知識を全面否定しているのではない。 実際に眼前で起きている現象の改善変化を通じて”生体生理がどのような状況にあるのか?”を認識するという”現象から仕組みへ”の発想の転換が必要であることを述べたものである。
注:巷間言うところの「反応点療法」とは全く意味を異にする。
6.1 手順 process
SDDMの手順の概略は以下の通りである。
※checkpointの呼吸・組織・脈状は、漢方医療におけるvital signsであり、どのような病名が宣告されていたとしても・どのような症状を呈していたとしてもそれらに影響されることなく忠実に正確な生命活動状況を反映していることから SDDMでは重要な役割を果たしている。 のみならず、漢方医学上重要な意義を持つfactorであることは言うを俟たない。
6.2 分類 classificationgrouping
SDDMでは、観察する対象の左右の上肢と下肢・躯幹をそれぞれ組み合わせ方によって、
の三つのCategory typeに類別する。
このCategory typeは、切診部位は勿論・施術対象経絡経穴・反応様式・予後経過などの違いに現れる。 同じような病名・症状であっても三種類のapproachがあると言うことは、それだけの生理活動の仕組みに違いがあることを意味している。 そのような仕組みの違いを理解・把握・運用することで、現在「生理活動の仕組み状況はどの様になっているのか?」・「どの様な生理活動の仕組みを利用して調気しているのか?」がより一層明確になる。
分類表
- |
× |
+ |
○ |
type name |
diagonal |
cross |
periphery & core |
pattern |
左脚右腕・右脚左腕 |
脚左右・腕右左 |
四肢・躯幹 |
connection point |
五行穴 |
五行穴 |
募兪穴 |
陰陽 |
判りやすい |
判りにくい |
どちらともいえない |
reaction |
迅速・顕著 |
緩慢・充実 |
どちらともいえない |
check point |
五主 |
五華 |
五官 |
purpose |
邪気(病院)の除去 |
正気の充実 |
神気の調整 |
注:SDDMの三分類は、 1 2 3 のabstractionを一部用いた≒であって=ではない。
6.3 仕組み system
SDDM は、 lateral condition の三つの category と vertical condition の三つの comstituent の system を用いて現象・反応を把握している。
哲学視点の lateral condition の 3 category は、
abstraction |
1 |
2 |
3 |
symbol image |
circal |
square |
pentagram |
三才 |
天円 |
地方 |
人星 |
構成要素 |
気 |
形 |
質 |
三宝 |
気 |
精 |
神 |
担当 |
真理 法則 |
時空 現象 |
感覚 認識 |
である。
それに対して現象視点では、その現象を引き起こすsystem の各 category に加え 更に vertical condition の 3 comstituent が必要となる。 個別の事象を取り扱う臨床実践を例示すると、
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|