[外因内因からの証の考察] 加藤秀郎

病(やまい)とは心身に不快を感じる事です。その不快とは,原因があったうえで症状と言う結果を体が表現したものです。病の原因を東洋医学では病因と言い,この病因を観念的に想定し取り除こうとする外的行為を‘治療’といいます。
 しかし治療には症状軽減という効果の有無が求められます。治療行為の結果判断の一つとして症状軽減を術者も,特に患者は求めますが,治療後の患者の治癒力と養生意識に依る部分が多く,術者の直接行為だけではありません。つまり治療後の生活指導は学問の域を超えた術者の人としての幅が必要になります。
さて,治療の進め方ですが,

“病因とは邪気である”そう定義付けしています。そして
“治療とは証である”この場合はそう定義します。
      また,

証を建てるために情報収集することを‘診’といいます。診とは病体の状況把握と性質を認識するための各要素を分析する事です。要素という条件付けで陰陽分解をします。

“分析手段は五行”で行い状況を把握します。
“分析結果は陰陽”で行い性質を認識します。

術者が患者と対面してから鍼をするまでの間に,分析して結果を認識して行く要素は,様々な形で存在します。〜が(で)(陰陽),〜だ(した)(陰陽)の二×二元論で展開します。

 

1.原因(外因内因)と病勢(虚実).....何が どうした か

つまり病因な訳ですが,全て邪気に起因します。邪気の発生(種類)と傷害(人体の受け止め)を分析します。

分析手段

分析結果

橈骨動脈拍動部の六部定位の証と、尺膚部の五主の証が

一致していると‘外因で陽’

不一致の場合は‘内因で陰’

これで邪気の発生つまり外環境から受けたものか,内的な感情からかで,陰陽が把握出来ます。

外環境なら外因,内的な感情からなら内因です。

 

また,六部定位と尺膚部が一致している場合で

解り易いのが‘外因外感’

解りにくいと‘外因内傷’
   

これで外因という陽性の邪気が体の表面(つまり陽)に反応を起させたのか、それとも体の内側(つまり陰)を傷ったのかが解ります。

 

また六部定位の証と尺膚部の証が不一致で,

尺膚部と腹診の一致は‘内因外感’

六部定位と腹診の一致は‘内因内傷’

これで内因という陰性の邪気が体の表面(つまり陽)に反応を起させたのかそれとも体の内側(つまり陰)を傷ったのかが解ります。 

外因が外感した。外因が内傷した。内因が外感した。内因が内傷した,の4通りです。

外感は実であり,内傷は虚であると定義します。

これで原因は外因か内因か,病勢は実か虚かが把握できます。

2.傷害部位(気血)と病性(寒熱).....どこが どうだ か

分析手段

傷害部位(気血)は六部定位,尺膚部,腹診のいずれかの五行配当の一致した反応部位により,把握します。例えば六部定位の左手関上・木-肝と尺膚部の筋・木-肝に反応の一致が顕著に診られれば木-肝の病です。
また病性(寒熱)の把握ですが,外因の場合は問診により邪気症状を五行に配当します。

木-風は実であれば痛みを伴い,虚であれば運動麻痺。
火-暑は実であれば火照ったり熱をもって腫れた状態で,虚であれば日射病や熱射病の様に発熱して卒倒や意識の混濁等が伴う。
土-湿は実ならだるさや関節症状,虚は腕や脚が重く動かせなくなったり全身の皮膚や粘膜から不正な出血。
金-燥は痒みや痺れ,皮膚のかさつき。
水-寒は虚実を問わず悪寒や知覚麻痺,運動麻痺,下痢。

内因の場合は,六部定位,尺膚部,腹診のいずれかの五行配当の一致した反応部位がそのまま邪気分析として五行配当されます。

木-怒,火-喜,驚,土-思,憂,金-憂,悲,水-恐,驚

分析結果

六部定位,尺膚部,腹診のいずれかで一致した五行配当の反応部位が

金-肺,土-脾で有れば

‘気で陽’木-肝,水-腎で有れば‘血で陰’

これで傷害部位の陰陽を気血の形で把握できます。

 

また邪気の五行配当が

木と火は‘熱’

これで病性の陰陽を寒熱の形で把握できます。

気が熱だ。
気が寒だ。
血が熱だ。
血が寒だ,
の4通りです。

これで傷害部位は気か血か,病性は熱か寒かが把握できます。

熱は機能抗進であり,寒は機能衰退あると定義します。

これで

原因(邪気の陰陽:外因内因)と

病勢(傷害の陰陽:虚実)そして

傷害部位(病んでいる場所の陰陽:気血)と

病性(病んでいる状態の陰陽:寒熱)

を認識しました。邪気と病体の関係が解ります。
各要素の陰陽認識を元にして,病体への術者のアプローチの具体性が必要になります。

 

3.病位(表裏)と治療目的(主客)

*目的-動き出す前,目標-動き出してから
 

原因が外因と認識して,

外因による病位の区別は症状部位。

胸部,腹部に症状が有る場合は‘裏’それ以外は‘表’

顔面に限り五根に症状が有る場合は‘裏’それ以外は‘表’ 

原因が内因と認識して,

内因による表裏の区別は気血。

傷害部位が血であれば‘裏’(裏=内因の血)。

気であれば‘表’(表=内因の気)。 

 

病勢が実と認識して,

実による治療目的の設定は表裏。

表で有れば‘客’(客=実表)。

裏で有れば‘主’(主=実裏)。

 

病勢が虚と認識して,

虚による治療目的の設定は寒熱。

熱で有れば‘客’(客=虚熱)。

寒で有れば‘主’(主=虚寒)。

 

4.治療目標(補瀉)と相対認識(治療の陰陽)

治療目的が客と認識して,

客の治療目標の設定は虚実

実で有れば‘瀉’(瀉=客実)。

虚で有れば‘補’(補=客虚)。

 

治療目的が主と認識して,

主の治療目標の設定は表裏

熱表で有れば‘瀉’(瀉=主熱表)。

寒表と裏で有れば‘補’(補=主寒表,補=主裏)。

 

治療目標である補瀉が相対認識である治療の陰陽になります。

瀉で有れば‘陽’。

補で有れば‘陰’。

これで陰の治療か陽の治療かが決定出来ます。

 

5.証の決定

外因は金-肺から,不内外因は土-脾から,内因は木-肝から反応すると定義します。

また気血の関係から金-肺と木-肝,

後天と先天の関係から土-脾と水-腎が

相対する組み合わせであると定義します。

 

実もしくは外感と認識した場合,

外因の証は,肝虚証ー腎虚証ー脾虚証ー肺虚証の順でたつ可能性が有ります。

不内外因の証は,腎虚証ー肝虚証ー肺虚証ー脾虚証の順でたつ可能性が有ります。

内因の証は,肺虚証ー脾虚証ー腎虚証ー肝虚証の順でたつ可能性が有ります。

 

虚もしくは内傷と認識した場合,

気の証は,肝虚証ー腎虚証ー脾虚証ー肺虚証の順でたつ可能性が有ります。

血の証は,肺虚証ー脾虚証ー腎虚証ー肝虚証の順でたつ可能性が有ります。

 

使用経穴は

陽の場合,栄火ー兪土ー経金ー合水の順で使う可能性が有ります。

陰の場合,合水ー経金ー兪土ー栄火の順で使う可能性が有ります。

結論

六部定位の脈UとT尺膚Uの証が明確に一致して,

邪気症状が四肢,胸腹部以外の体幹,五根以外の頭部に有るものと,

T腹部UとT尺膚Uの証が土-脾と金-肺で一致したものは

陽証として瀉的反応を目的とする。

それ以外は

陰証として補的反応を目的とする。

 

ただし,T六部定位の脈UとT尺膚Uの証が不明瞭に一致した場合でも,

邪気症状が木と火に限り,

四肢,胸腹部以外の体幹,五根以外の頭部に有るものは

補的反応を目的としながら,

陽証として治療を開始する。

そして,診察部位の変化に殉じながら,

ドーゼには特に細心の注意をして場合によっては使用穴を代えるなどの方法をとる。