古典研究
キーワードで読む難経(その3)

澤田和一  

鍼の専門書である『難経』の治療法則について、これまでに様々な解釈が試みられてきた。しかしながら、内容を混同したり、矛盾する理論を用いるなど、その正当性は疑わしい。当会としては難経全体を見渡しながら、その解釈を独自にまとめていきたい。

前回に引続き、75難をさらに詳しく分析した。

75難の中に「東方は…」という方角に関する記述が2ヵ所見られることを指摘した。
1.東方は木なり
2. 東方は肝なり
そして75難の中に2つの病型(@時間的変化及びA空間的変化)が存在する可能性を提案したので、この問題点について検討したい。

東洋思想における「気・形・質の理論」
 天地の陰陽の気が交流する → 形あるものとなる → 質(存在目的)を持つ
これを人体に当てはめた場合、気の変化には次の2通りある。

1.時間的変化(全体的変化):人間の身体は時間とともに変化する。
⇒春夏秋冬の気が春夏秋冬の身体を作る。
2.空間的変化(個別的変化):個々の臓腑が協調して身体を構成する。
           ⇒五臓六腑の気の働きは気血津液精神を生み身体を養う。

まず、「東方」というキーワードを含む15難に注目する。
 ●15難(四季の脈象及びその病型)
  自然界の気が生体にどのように作用して病気が起きるか?
   四季の旺脈(弦・鈎・緩・毛・石)が病を発する場合
1.太過:邪気を受けて脈が実強を現す。
2.不及:邪気を受けて脈が虚微を現す。
3.病・死:邪気と関係なく、胃の気が減少

(1)と(2)は「外感病」であり、その治療法は病因となった自然界の邪気を瀉すことである。「外感病」は環境の変化に起因するため、その進行は?理及び五主に表れ、身体各部(前腕部・下腿部・腹部など)は同一の経絡変化をとる(@の変化に相当)。

次に、15難と対称的な性質の49・50難に注目する。
●49・50難(正経自病及び五邪)
 五臓の気が乱れたとき、気血津液精神がどのように影響を受けるか?
 五邪(中風、傷暑、飲食労倦、傷寒、中湿)が、五臓(肝、心、脾、肺、腎)に入って病を生じ、その反応が五役(色、臭、味、声、液)に現れる。

 これらは「内傷病」であり、異常が出ている状態について、五臓と五役を分析して病因となった邪気を推定し、治療法はその邪気を瀉すことである。「内傷病」は五臓の気を弱らせる因子(生活習慣や心理状態)が五臓の変調をもたらし、その結果五邪が発生する。気血津液が侵されるので、身体上の経絡変化には上下差や左右差が見られる(2の変化に相当)。

75難の治療法則は、以下の2通りに分けて考えることができる。

(1) 木実せんと欲せば、金当にこれを平らぐべし。
これは15難の病型(外感病)を指している。
(2) 肝実肺虚、瀉南補北、金をして木を平らぐ。
これは49・50難の病型(内傷病)を指している。

最終回は69難と75難の関係性について述べ、それらの治療法則をまとめる。