キーワードで読む難経(その4)

澤田和一

鍼の専門書である『難経』の69難及び75難の治療法則を中心に、過去3回に渡り講義した。最終回はこれらの内容を総合し、当会における解釈としてまとめた。

[1] 69難(母を補し子を瀉す治療原則)

(1) 外感病(自然環境の変化に起因)
外界の邪気の影響により、生体に虚または実の状態が生まれる。
1,虚の場合→原因の邪気を「母を以って補う」ことにより瀉す。
2, 実の場合→原因の邪気を「子を以って瀉す」ことにより瀉す。
発汗[汗法]・排泄[下法]に伴って病因の邪気が取り除かれる。

(2) 内傷病(身体における気血の状態の変化に起因)
  気血の流れの不足(虚)や停滞(実)により、臓腑経絡の均衡が崩れる。
1,虚の場合→「母を以って補う」ことにより、不均衡を正す。
2,実の場合→「子を以って瀉す」ことにより、不均衡を正す。
  臓腑経絡の調和が回復[和法]して、病的状態が解消される。

 上記のように、汗法・下法・和法等から適切な方法を選択し、「母」ないし「子」を用いて実施する治療法を提示している。

[2] 75難(肝虚肺実に補水瀉火法を応用する原理)

(1) 木実せんと欲せば、金当にこれを平らぐべし。= 外感病
陽に向かって上がろうとしている状態を、「金剋木」の性質により直接的に陰へ向かって下げる。すなわち、病態におけるエネルギー分布の偏重を、相剋関係を用いて逆方向に向かわせて調整する。

(2) 肝実肺虚、瀉南補北、金をして木を平らぐ。= 内傷病
血実気虚(木実金虚)という気血の不均衡状態を、
1,火を瀉す
あるいは 
2,水を補うことにより、間接的に改善する。すなわち、五臓の生理作用を整え、気血の状態を正常化する。

[3] 治療法のまとめ
(1) 外感病
「外感病」は自然環境の変化に起因し、身体各部の経絡変化は同一である。したがって、病因の判別は下記の項目に注目して行う。
1,脈状(四季の旺脈・病脈)
2,の状態
  ★病因である邪気を瀉すことが最終目標となる。

(2) 内傷病
「内傷病」は五臓の変調に起因し、身体上の経絡変化には上下差や左右差が見られる。したがって、病因の判別は下記の項目に注目して行う。
1,脈差(左右、前後、浮沈)
2,五主の尺膚診
3, 部分症状(経絡症状)
4,腹診
5,候背診(兪穴反応)
6,手足の切経(色艶、温度、栄養状態)
★病因である五臓の変調を整えることが最終目標となる。