難 経 要 点

〜脈〜

<第一難>

  1. 脈診では、ただ手の太陰の寸口を取るだけでよい、という原理を説明している。これは「難経」が切脈法においてなした一大発展である。また、寸口が営衛血気の循行する発着点であり、五臓六腑と非常に密接に関係することから、「ひとり寸口にのみ取る」根拠を述べている。
  2. 営衛が人体を運行する回数を説明している。つまり、日中25回、夜間にも25回、合計50回まわり、その運行の初めと終わりはともに手の太陰経である。

<第二難>

  1. 尺寸部(気口)と経脈の密接な関係。
  2. 寸、関、尺の三部の位置の区分と陰陽の属性。
  3. 寸、関、尺の三部の長さ。

<第三難>

  1. 尺寸の脈の太過不及による、覆溢という異常について論述する。
  2. 覆脈溢脈の病理のメカニズムを説明している。人体の陰陽の気が内外の閉ざされまれることから生じ、臨床上こうした脈象が現われたら非常に危険であると指摘している。

<第四難>

  1. 脈象の陰陽を識別するには、二つの面に注意すべきである。
  2. 尺寸の部位。
  3. 脈象における浮・沈。

<第五難>

  1. 軽くおさえたり、重くおさえたりして脈をとることで、心・肺・脾・肝・腎の五臓の反映状況を候うことを説明している。
  2. 菽の数で脈を診る時の指のおき方の強さを説明している。

<第六難>

  1. 陰盛陽虚、陽盛陰虚とは、複雑な疾病には複雑な脈象が伴うことを、示したものである。
  2. 複雑な脈象を診る時には、浮・沈の両手法を同時に併用しなければならないことを述べている。

<第七難>

  1. 健康な人は脈象の面でも各季節の気候の変遷に合わせて、異なった反映の仕方をすることを説明している。
  2. 脈象の変化を指摘し、冬至の後の甲子の日から始まって、少陽の脈がまず旺んになり、その後60日ごとに一経ずつ変化するのが、三陰三陽の脈が旺んになる一般法則であるとする。

<第八難>

  1. 腎間の動気の生理上の重要な役割を説明し、それは元気の根本で、生命の関わる場所であるとしている。
  2. 本難で述べている脈の変象と、第一難の「独り寸口に取って死生を決する」とは、それぞれ指している所が異なる。第一難で述べている「寸口は脈の大会たり」とは、穀気が盛んに充ちて、寸関尺の三部にあふれ出ていることを広く指していったのである。本難では、人の根本として、原気が盛んな時には生き、原気が絶えた時に死ぬことを説明し、単に尺部と寸部のみを対比させて述べたにすぎないのであり第一難と混同してはならない。

<第九難>

本難では遅脈か数脈かを診て、病が陰に属しているのか陽に属しているのか、臓にあるのか腑にあるのかを導き出す基本原理を説明している。

<第十難>

  1. どの臓も、病変過程での疾病の変化に伴って、脈象にそれを反映する多種多様の変化があらわれる。
  2. 心臓疾患を例に挙げて、五臓にはそれぞれ剛柔の邪とそれらが侵犯しあう脈象があることを説明している。剛柔によって臓腑を分け、臓が臓を犯すのを柔とし、腑が腑を犯すのを剛として、剛柔によって脈象をも分けると、脈が甚だしい場合が柔となり、脈が微かな場合が剛となる。

<第十一難>

脈搏が 50回で1回止まるのは、臓気が衰えて尽きてきたことの、脈象における反映であり、その原因は、腎気が衰え尽きて、諸所の臓気に随って上に行かないことによる。したがって、 50回の脈搏で1回止まるのである。

<第十二難>

  1. 脈が内で虚している時に、医師が反対にその外を補って実してしまい、脈が外で虚している時に医師が反対にその内を補って実してしまうのは、内外の虚実の状況に基づかないためであり、治療において、「その虚するところを虚し」、「その実するところを実する」原則的誤りを生ずることを述べている。
  2. 指を軽くそえる手法で心肺の気を候い、重くおさえる手法で肝腎の気を候う。心肺は外を主り、肝腎は内を主るので、脈診から内虚、外虚の病的状況を知ることができる。

<第十三難>

  1. 診断のときには、必ず色・脈、尺部の皮膚を照合し「その常態を知って、変化を推測」してそこから疾病の軽重や予後の良否を分析しなければならない。
  2. 五臓の色・脈と尺部の皮膚を照合するにあたっては、更に五行の相生相剋理論と結びつけて、予後を分析する助けにすることができることを指摘している。
  3. 診断にあたっては、五臓がつかさどる声・臭・味とも結びつけて、全面的に病状を理解しなければ、最終的に正確な診断を下すことはできない。

<第十四難>

  1. 診断上における損・至の脈の区別について説明している。
  2. 損脈の病気は、上方から下方にくる。第一に肺を損い、第二に心を損い、第三に脾を損い、第四に肝を損い、第五に腎を損うという具合である。それに対し、至脈の病気は下から上に来る。
  3. 五種類の虚損病に対する治療法則を示している。
  4. 脈診から、病状の軽重と疾病の経過の長短を知り、かつ予後についての吉凶・生死について決定することができることを説明している。
  5. 脈診中の尺部の脈搏の重要性を指摘している。

<第十五難>

  1. 四時の気候の変化は生体に大きな影響を与えており、脈象もこれにしたがって変化することを述べ、四時の脈象の正常と異常を指摘している。平脈はその季節に応じた脈であり、同時に胃気があるものであり、病脈は胃気が減弱し、死脈は胃気の無い真臓の脉であるとする。
  2. 四時の弦・鈎・毛・石の脈は必ず胃気を帯び、脈の来かたが和やかで緩やかである。なぜなら、四時の脈は、いずれも胃気が基本になっているからである。このことは予後の良し悪しを決定する重要な鍵である。
  3. 胃気と脈象がこうした密接な関係をもっているのは、胃が水穀の海で、全身をめぐり養うための源泉だからであり、したがって、人間は胃気を基本とすると述べているのである。

<第十六難>

  1. 脈診にはいろいろな方法があるが、ある脈に現れた脈象には、必ずそれに相応する内外の証状が見出されるはずである。これを診なければ、その病巣の所在を決めることはできないとし、診断上の「脈を捨て証に従う」原則を提起している。
  2. 五臓の病変における内外の証状を、具体的に説明している。

<第十七難>

  1. 本難では「脈象が病証と一致」すれば予後は良好、[不一致]ならば不良であることを全般的に説明している。
  2. 予後不良のメカニズムを主に五行の相克と、陰陽虚実の理論によって分析して、予後の診断を下すことを説明している。

<第十八難>

  1. 五行相生の法則により、両手の寸・関・尺を臓腑に配分する意味、すなわち金から始まり循環往復しながら、たがいに生み育ててゆくことを説明している。
  2. 気口の三部九候の意味を説く。
  3. 三部を臓腑に配分し、上中下の三焦の病変を診察する。
  4. 結脈の主な疾病について略述している。

<第十九難>

  1. 男女の生理面における相い異なる脈象について説明し、かつ陰陽によって、そのメカニズムを分析している。
  2. 男に女脈が、女に男脈が現れるのは、ともに異常現象で、病変の反映である。

<第二十難>

  1. 陰が陽に乗じたり、陽が陰に乗じたりする脈象は、陰陽が片方だけ盛んになったり、衰えたりしたしるしであるが、しかし、陰陽がたがいに乗じても、その中には(もとの)陰陽が潜伏する脈象のあることを説明している。
  2. 陰だけで陽のない重陰の脈と、陽だけで陰のない重陽の脈は、癲症、狂症の主な脈である。

<第二十一難>

 本難では、肉体と脈の二者の病態と予後との関係を説明し、その中では脈が主要であることを明らかにしている。つまり肉体の上では病象があっても、脈や呼吸が比較的正常ならば、すべて助かるが、脈が病的であれば肉体が正常であっても死ぬというのである。

○○

〜経絡〜

<第二十二難>

  1. 是動病と所生病の意味を解説し、経脈の二種の病変において、気が先に病むのが是動病で、血が後に病むのが所生病であるとしている。
  2. 気血の人体における正常な生理作用として、気は温めることをつかさどり、血は潤すことをつかさどる。気が先に進んで、血はその後に従うため、気血の発病には時間の前後があり、かつ関連している。

<第二十三難>

  1. 十二経脈と奇経(脈・任脈・督脈)の長さの合計は十六丈二尺である。
  2. (1)手足の三陰、三陽の経脉の循行方向を概述している。

    (2)手の三陰は胸から手に行き、手の三陽は手から頭に行く。

    (3)足の三陽は頭から足に行き、足の三陰は足から胸に行く。

  3. 十二経脈の相互の連絡流注の関係と、十五経絡がになう連係作用。
  4. 人迎・寸口の診断上の価値を説明し、とりわけ予後診断と十二経脈の気の関係を明らかにしている。

<第二十四難>

主に十二経脈の経気が絶えた時に現れる証状について説明すると共に、予後を診断しており、重篤になる期日と死亡する日を予測している。

<第二十五難>

 十二経脈の数を説明し、五臓六腑にさらに心包絡一つを加えている。

<第二十六難>

本難では十五絡の数について説明している。すなわち十二経には十二絡があり、さらに陰陽二絡及び脾の大絡を加えて十五絡としている。

<第二十七難>

  1. 奇経は十二経の範囲に属さないことを指摘し、同時に奇経八脈の名称を具体的に述べている。
  2. 経脉の生理機能における全体性〔について述べる〕。
  3. 奇経八脈と十二経脈の、生理上における主な区別を説明している。

<第二十八難>

  1. 奇経八脈の起止点と循行路線。
  2. 奇経八脈と十二経脈の生理機能上の区別。
  3. 奇経八脈の病候及び治療上の特徴を説明している。

<第二十九難>

 本難は、奇経八脈の病変の概況を、個別的に説明している。

〜臓腑〜

<第三十難>

  1. 営・衛の来源と水穀の精気との密接な関係について説明している。
  2. 営・衛の生成と五臓六腑の内の気化の関係について概論している。
  3. 営・衛の実体と運行の回数、および循行部位をはっきりと示している。

<第三十一難>

 本難は主に三焦の位置、機能を論じ、かつその主治穴を指摘している(上焦は中、中焦は斉旁、下焦は斉の下一寸)。

<第三十二難>

  1. 心肺が膈上に位置することの原理の説明。
  2. 心肺と気血営衛の関係の説明。

<第三十三難>

 遠くは外界の物質に、近くは自分の体を例に挙げ、分類比擬する考えによって、肺と肝それ自身の陰陽の属性と、両者の相互関係を説明している。

<第三十四難>

  1. 五臓と声・色・臭・味の関連について、概括的に説明している。
  2. 五臓と七神の関係に注目することにより、人間の精神活動が、内臓の働きを基盤としていることを身をもって知ることができる。

<第三十五難>

  1. 心と肺は膈の上にあるが、その腑である小腸と大腸は膈の下にある理由を、生理上の機序から解説している。
  2. 臓腑が相応する状況を述べ、同時に五腑の生理機能を説明している。
  3. 五臓と五色の配合の規律から、推し進めて五腑に五色を配している。

<第三十六難>

  1. 腎には二つの臓がある理由を説明している。
  2. 命門の主要機能は、男子では精を貯えること、女子では胞〔子宮〕と係わることであると指摘している。

<第三十七難>

  1. 五臓の精気と九竅の関係を指摘し、特に五臓の精気の、九竅の機能活動に対する重要性について強調している。
  2. 邪気が人体を犯した際に、陰陽の異なった部位に異常の脈象として反映されることを説明し、病理機転の上から陰陽の失調が重篤な結果になる事を強調している。
  3. 精気が人体を運行し、営養する部位を簡略に述べている。

<第三十八難>

  1. 腑が六つある根拠を解釈している。
  2. 三焦の生理上の機能を説明している。

<第三十九難>

 本難では、五臓六腑に対する当時の数字上の二種の異なった見方を説明している。同時にその中の主要な問題を指摘している。つまり六臓というのは腎臓を二臓に分けたからであり、五腑というのは、五臓と対応しない三焦を除いたからであるという点である。

<第四十難>

  1. 五臓は、声・色・味・臭・液をそれぞれ管轄しており、これは五臓の生理機能の特徴である。
  2. 「五行長生」の説によって内臓の相互資生の関係を説明し、それによって鼻が臭を知り、耳が声を聞く生理を明らかにしている。

<第四十一難>

本難では主として五行の理論を用い、形の類似したものに例える方法によって、肝臓が解剖上で二葉を発生させている原理を解説している。

<第四十二難>

 本難は五臓六腑および口、舌、咽喉、肛門などの大きさ、重量、容量などを詳細に述べている。これは古代解剖学ともいえる内容である。本難は『霊枢』胃腸篇の記載と近似している。

<第四十三難>

  1. 人間が絶食によって絶命するまでの期間を示している。
  2. 絶食によって死亡するカギは、主に水穀、津液が尽き涸渇することによると説明している。

<第四十四難>

本難の七衝門は古代の解剖部位の名称であり、これによってまたその生理上の作用を知ることができる。

<第四十五難>

  1. 臓、腑、筋、骨、血、脈、気、髄と、太倉、季肋、陽陵泉、絶骨、膈兪、太渕、中、大杼などの経穴との特殊な関係を説明している。
  2. 八会は生理上、臓、腑、筋、骨、血、脈、気、髄と特殊な関係があるので、治療(針灸療法)上でも特殊な効果がある。

<第四十六難>

 本難では、老人の不眠と若い人の熟睡という対照的な事実を比較し、これらの相反した状況を解く主要な鍵は、営衛の運行と気血の盛衰にあることを説明している。およそ気血が旺盛で、営衛の運行が失調しなければ、夜は熟睡して目がさめないが、もし気血が虚弱で営衛の運行が渋滞すると、夜も眠れなくなるのである。

<第四十七難>

本難では顔面が寒さに耐えられる原理について検討し、主として、手足の三陽経が頭や顔に分布していて、経気が充ちているので顔面は他の部位に比べて寒さに耐えられるものであるとしている。

〜疾病〜

<第四十八難>

 本難では、三方面から例を挙げて虚実の証の概念を説明している。脈象の虚実、疾病の虚実、診察所見の虚実である。ただし実際には脈象及び診察所見の虚実も、すべて疾病の虚実の中に属するものである。またここで虚実対にして挙げているが、これらは、すべて相対的にいっているのであり、もしもっと細かく分析すれば、虚実の中にさらに虚実の区別があるのである。

<第四十九難>

  1. 正経が自ら病む場合と、五邪に傷られて病む場合との区別を明らかにしている。その要点は、五臓に所属する病邪が直接に当該臓器を犯すか、あるいはその他の臓器を犯して、同時にその属する臓器にも波及するかである。前者が正経自ら病む場合であり、後者が五邪に傷られて病む場合である。
  2. 心病を例に挙げて、五邪に傷られて病む場合の、それぞれの特徴、病理、証状および脈象の違いを説明している。

<第五十難>

  1. 疾病の病因を来歴の違いによって、虚邪、実邪、賊邪、微邪、正邪の五種類に区分し、同時に五行理論によって分析して説明している。
  2. 心病を例に挙げて、五邪伝変のそれぞれ異なる状況を説明し、それによって五行学説を用いて疾病の伝変を分析することができるようにしている。これは病変の実際の状況を根拠にしたものである。

<第五十一難>

本難では、臨床診断に際して、患者の好むことと嫌うことを根拠にして、臓腑疾病の陰陽を弁別する一種の方法を説明している。

<第五十二難>

 疾病の証状上から、臓腑の陰静陽動の性質を根拠にして、臓に属するか腑に属するかを区別している。この種の区分は、主として積聚病をさしていっているのである。

<第五十三難>

本難では、疾病の伝変状況をもとにして、五行の相生相剋の規律によって、五臓の疾病の予後の良し悪しを説明している。一般に、相乗の順序の伝変は予後が悪く、相生の順序の伝変は予後がよい。これは臨床診断と治療の上で、一定の参考になる。

<第五十四難>

 臓病は治し難く腑病は治し易いことの原理を説明している。基本的には疾病が伝変する時の相乗と相生の区別によるものであり、一般に相乗により伝わるものは治し難く、相生により伝わるものは治し易いとしている。

<第五十五難>

 本難では積聚病の鑑別を提示し、要点は証状の違いであるとしている。それが臓に属しているとか腑に属するとかいっているのは、その陰陽の属性を区別しているにすぎない。

<第五十六難>

  1. 五臓積病の証状を列挙し、それぞれが鑑別できるようにしてある。
  2. 五臓積病がいつまでも治らないために、続いて引き起こる続発病変をも分析している。
  3. 五行相乗の規律によって、五臓積病の伝変状況を説明し、同時に時日と結び合わせて、五臓積病形成のメカニズムを説明している。

<第五十七難>

本難では五泄の証状と内臓の連係を説明し、同時に証状によって鑑別している。実際上は腹瀉と痢疾の二種の類型の疾病を包括している。

<第五十八難>

  1. 広義の傷寒には、中風、傷寒、湿温、熱病、温病等の疾患がふくまれていることを説明している。
  2. 前述の五種類の疾病の脈象を詳細に分析し、臨床鑑別の便宜をはかっている。
  3. 傷寒の治療方法を例としてあげ、その陰陽表裏の盛衰にしたがって、適切に汗法あるいは下法を用いて治療をおこなうことを説明している。
  4. 外感の寒熱症には、皮毛、肌肉、骨の三つの層の違いがあることを説明しており、またそれぞれの証状をあげることによって、鑑別にたいしていっそうの便宜をはかっている。

<第五十九難>

本難は、証状から難病と狂病とを区別している。難病は静を好むので陰に属しており、狂病は動を好むので陽に属している。しかしながらここで述べている癲病の証状は、おおむね癇病に属しており、これは癲、癇が、当時ある場合には一つの疾病とされていため、明確に区別がなかったからである。

<第六十難>

発病の原因と証状の軽重から、頭痛・心痛について、それぞれ二種類のタイプに分類している。すなわち頭痛を厥頭痛と真頭痛に分類している。これらは発病時の証状の違いがあるだけでなく、その予後についても区別がある。

<第六十一難>

  1. 神・聖・工・巧の四者を用いて、診断における四診の技術の高低を述べている。
  2. 四診に包括されている内容および診断価値を簡潔に述べている。

〜兪穴〜

<第六十二難>

  1. 臓の五穴、腑の六穴の区別を論じており、また腑には原穴がさらに加わっている理由を論じている。
  2. 腑における原穴と三焦の気との関係を説明している。

<第六十三難>

 本難は比喩によって、人体の井穴が五穴の始まりであることを説明している。そこで井穴を1年の初めである春にたとえているのである。

<第六十四難>

 本難では陰陽剛柔に五行を組み合わせて、井・榮・兪・経・合穴の属性を区別している。また陰経と陽経の井穴を例としてあげ、陰経の井穴は木に属し、陽経の井穴は金に属するとしてその中に陰陽剛柔の道理があるとする。

<第六十五難>

 本難では、経絡中の経気の運行が井穴から流れ始め、合穴にいたった後に内に入ることを説明している。また季節の移りかわりの順序にもとづき、春と冬にたとえて、経気が五穴の範囲を循行する状況を説明している。

<第六十六難>

  1. 十二経の原穴の名称をそれぞれ述べている。
  2. 「五臓六腑に病のある者は、すべてその原穴を取る」道理を説明している。

<第六十七難>

  1. 五臓の募穴は、胸腹部にあって陰に属しており、五臓の兪穴は、腰背部にあって陽に属していることを説明している。
  2. 陰病は陽に行き、陽病は陰に行くとは、病の気に陰に行くものと陽に行くものとの区別があることを説明したものである。したがって募穴への刺鍼は陽病を、ユ穴への刺鍼は陰病をそれぞれ治療することができる。このようにして邪を取り除いて正気を回復させ、陰陽を調整して、その平衡を回復させるのである。

<第六十八難>

  1. 井・榮・兪・経・合五穴のそれぞれの意義を説明している。
  2. 例をあげて五穴と五臓の病証との関係を述べている。

〜鍼法〜

<第六十九難>

 本難は、「内経」における、虚は補い実は瀉すという原則に、五行の相生法則を結合させて、「虚の者はその母を補い、実の者はその子を瀉す」という治療法則を提起したものである。この観点から主として、

という三つの治療方法を述べている。

<第七十難>

  1. 刺鍼のさいの手技を説明して、春夏には浅く刺し、秋冬には深く刺す道理を述べている。
  2. 春夏には浅く刺し、秋冬には深く刺すという基礎のもとに、さらに「春夏はそれぞれ一陰に致り、秋冬はそれぞれ一陽に致る」という具体的な手技を説明している。

<第七十一難>

 本難は営、衛の病に対する刺鍼の手技を説明したものである。刺鍼の深浅は、疾病の具体的な状況にもとづいて決定されることを説明しており、また同時に「営を刺して衛を傷つけず、衛を刺して営を傷つけない」ことにより、不必要な医療過誤をさけるよう強調している。

<第七十二難>

  1. 迎随補瀉法の使用にさいしては、まず経脈における営衛の循行方向を知っておかなければならず、その後に疾病の状況にもとづいて随補・迎瀉という異なった方法を運用することについて説明している。
  2. 迎随は調気の方法であるが、その要は陰陽を区別し、病状の内外虚実等の状況を把握することにあり、調節方法を運用して平衡を回復させるのである。

<第七十三難>

  1. 各経の井穴は、すべて手足の指端にあるが、その部位の肌肉は薄いので気は少なく、瀉法の使用には不充分であることを説明し、さらに肝病を例としてあげてその取穴方法を説明している。
  2. 補法を使って疾病を治療する場合には、誤って瀉法を使ってはならず、また瀉法で治療する場合には、誤って補法を使ってはならないことを指摘している。臨床にあっては必ず補瀉をはっきり区別しておかなければならない。

<第七十四難>

 井・榮・兪・経・合の五穴と、1年の季節とを関連させている。また五臓の病それぞれが一定の時期に発病するという法則、および各臓の主っている声・色・臭・味・液などの異なった証状から、治療方法を考えうることを述べている。

<第七十五難>

  1. 本難は五行の相生相剋法則によって、肝実肺虚の病証と瀉火補水の治法を説明しており、またその機序の分析をおこなっている。
  2. 五行の相剋の意義を説明している。五臓の間には必ず相生、相剋の関係がはたらいて平衡を維持している。その平衡が失われると病態となる。

<第七十六難>

  1. 刺鍼補瀉法における取気と置気の手法を説明している。
  2. 虚を補し実を瀉す手順を述べている。例えば陽気が有余で陰気が不足していれば、先に陰気を補い、その後に陽気を瀉し、陽虚陰実であれば先に陽気を補して、その後に陰気を瀉す。

<第七十七難>

上工、中工の疾病に対する処理方法について、上工は未病を治し、中工は已病を治すという違いを指摘している。上工は病を見ると、その根本原因を知って症状が軽微であるうちに適切な処理をおこない、それが微かな内に防止するという予見性をもっていることを主として説明している。また肝病が脾に伝わることを例としてあげ、上工、中工の医療技術における優劣の差異を明確に指摘している。

<第七十八難>

  1. 刺鍼手技を説明しており、得気後に鍼を内に推し入れるのが補であり、ゆり動かして鍼を引き上げるのが瀉であるとする。これは補瀉法の一種であり、呼吸とあわせて鍼を刺抜する補瀉法とは異なるものである。
  2. 押手を使った刺鍼の操作法を述べている。
  3. 候気の重要性を説明している。鍼下に得気があらわれるのはよい現象であり、刺入後に気が至らなければ、雀啄法をおこなって得気をえることができる。一定時間が経過しても反応がまったくあらわれないのは、経気が内で絶えているためであり、これは死の徴候である。

<第七十九難>

  1. 本経における子母補瀉法を提示しており、また心経疾病の治療に心包経の井穴とユ穴を取ることを例としてあげて、補母瀉子(母を補い子を瀉す)による取穴を説明している。
  2. 刺鍼後に鍼下が堅固にして実していると感じられるものを得気といい、鍼下が脆弱で虚しているように感じられるものを失気という。ここではその意味について説明している。

<第八十難>

 気の至るのを待って刺入し、気の尽きるのを待って抜鍼するという方法を述べている。これは臨床において重視されるべき内容である。

<第八十一難>

  1. 治療にあたっては、まずその病の虚実をはっきりさせ、その後に虚であればこれを補し、実であればこれを瀉すという原則にもとづいて治療をおこなう。誤ってその実を補しその虚を瀉すことは、決してしてはならないということを説明している。
  2. 肝実肺虚、肺実肝虚を例としてあげている。肝実肺虚の者に対しては、肺を補して肝を瀉さなければならない。反対に肺実肝虚の者に対して肺を補し肝を瀉すならば、肺はいっそう盛んとなり肝はいっそう虚となる。これは虚をさらに虚させ、実をさらに実する、という誤りを犯したことになり、悪い結果をひきおこす。