2018-4/15&5/20 老齢問題 70代への衰え認識 加藤秀郎 S17生 75歳女性 若くから廃品回収業を営み廃車の解体やリユースの会社を営む。ぎっくり腰 S18生 74歳男性
若くからスキーインス トラクターの指導員や昇級審査を行い、今でもワンシーズンに 20回以上のスキーをこなす。腰痛-臀部痛-両大腿背面痛 S23生 70歳女性 不動産業の傍らの占い師を高度成長期のころから続けている。耳鳴り、肩こり。 S24生 69歳女性 見るからにパーキンソンの動きと表情だが病院には行かず、肩こりと腰痛の治療でパ ラメディカルを回っている。 S18生 74歳男性 40年以上ガス会社を営み猟友会に所属し山を歩いている。両大腿前面の拳上痛により 歩行困難。脊柱管狭窄症の手術を受け一時悪化。 ここに挙げた人たちは基本的に70代で、自分の症状は一度の治療で寛解する方法があ るはずだと来院された方々です。施術後イメージを堅固に抱き、イメージ通りでなけ れば即セカンドオピニオンという発想です。 これは医療サイドから見た場合に自己中心的な発想ですが、その自己の中心というも のも体の状態ではなく気分やつもりに依るものが多く、饒舌でありながらも論理的で はないのです。また、衰えという言葉は知っていますが、自分の体の状態は不変であっ て、たまたま発症した不具合を何かしらの外的作用で解消できると信じています。 ところが他者が腰などを傷め、一度や二度医療機関を回っても改善しなかったこと を嘆くと、年なんだから当たり前と説き伏せます。 兼ねてから70代の方に多くみられる傾向と観ていしたが、特にこの数年は増えた感 じがします。受診意識を変えてきちんと施術を受けることで、この方々がまだ長い余 生を快適に過ごせるか、その対応と対策を考えてみようと思いました。 世代として、 第一次ベビーブームは現在70歳前後の人が生まれた、1947年(昭和22年)~1949年(昭和24年)。この年代を 団塊世代と言う。人口ピラミッドで 最も人口が多い。 急に人の増えたこの年代層は、独特の特徴があるといわれている。 ●マイホーム主義で主関白 ●クレーマーが多い ●基本的にせっかちで待てない ●権威や主従に敏感 ●苦労が美徳 ●「流行」や「若さ」に強い価値観を待つ 老いとして、 アメリカの心理学者スザンヌ・ライチャードの「高齢者の性格タイプ5分類」 1. 適応型;円熟型(元気で、できることを楽しみながら行っていくタイプ) 自らの老いを自覚しながら活動意欲を低下させることがないタイプ。自分の現状を受け入れ 、未来に現実的な展望を持つ。老いによる能力低下があっても、新しい現実の中で満足を得られるタイプ。周囲のアレンジがなくても自分で人生 を進められるので、負担が少ない。スマホのような新しい技術も、面白がって使える面もある。 2. 適応型;安楽椅子型(依存型;気楽な隠居タイプ) 消極的に老いを受け入れて、他人に依存しながら自分はのんびりというタイプ。生活を不活性にしないよう、物事への活動的な取り組みをうながす必要がある。スマホのような新しい技術も、便利さが理解できれば使いこなせる。 3. 適応型;装甲型(自己防衛型;衰えることに抵抗し続けるタイプ) 老いへの不安と恐怖からトレーニングなどを積極的に行い、若い時の生活水準を守ろうとするタイプ。スマホのような新しい技術は使いこなせないと恥ずかしいという心理から、受け入れようとする。責任感が強く様々な活動を続けようとして、怪我などのリスクが増える。本人の「まだまだ現役」という自尊心を傷つけない注意が必要である。 4. 不適応型;自責型(内罰型;愚痴と後悔で自分の人生を呪うタイプ) 過去の人生全体を失敗とみなし、その原因が自分にあると考え、愚痴と後悔を繰り返すタイプ。典型的には仕事に一生懸命だった反面、現在は家族から相手にされない状況にあることを嘆く。うつ病になりやすく新しい技術にも適応しようとしない。いつまでも過去にとらわれることなく、新しい関係性などを築いていく必要がある。 5. 不適応型;攻撃憤慨型(外罰型;老いを受け容れず、しかもそれを周囲のせいとする) 自分の過去のみならず、老化そのものも受け入れることができないタイプ。過去を失敗とみなし、その原因を自分ではなく、環境や他者のせいとして責任転嫁する。不平や不満が多く、周囲に対しても攻撃的にあたり散らすため、トラブルを起こす。周囲としては、どこまで献身的に対応しても感謝されることもないため、サポートすること自体が困難。 衰えとは、 勢いが弱くなること。できていたことの水準が下がること。状況が低下すること。 では、衰えは老いか?老いが衰えか? 中高生時代の部活動競技を30代で久しぶりに行えば、同じようにこなせることはありません。しかし学生時代ではできなかった別の能力を身につけています。もし成人以降、年齢を重ねることで一律に体の持つ機能が衰えるのならば、定年退職後に新しく何かを始めることはできません。つまり人は転職や生活状況の変化などに、対応しながら生きていくことが出来るのです。 だから「衰え」と「老い」は、同時に推移するものではありません。 一度や二度の治療で結果が出ないことへの対処を、セカンドオピニオンと唱えて医療機関を変えていく。こんな行動を「衰えを老いと決められることから逃げている」と考えたとき、医療サイドの対応が試されます。 個々の状態 S17生 75歳女性 わずかではあるが右ひざが外曲し、触診では下腿骨頭が外側にズレて いる。伴って足関節に変形があり、足尖が外開気味。そのため立位では 脊柱が右側に曲がっているが、伏臥位では正常。 膝は20年ほど前に痛かった時期があったが、現在は 正座もできて特に問題は無い。膝の曲がりは労働環 境と肉体状況からの後十字靭帯の損傷があったかと 思われる。
長年の膝の状態の影響から脊柱の曲がりがあって、その曲がりが局部への負荷となりぎっくり腰が発症したと考えられる。
しかしこの方はこれまでに何度もギックリ腰の経験があって、そのつど整形外科や柔整で対応して来た。我慢しているうちに治ったケースもあったが、今回のように一ヶ月近く経っても状態が軽減しないのは初めてで、営業で来ていた介護施設のケアマネから連絡を受け往診することとなった。この方はこれまでの経験から、今回のぎっ くり腰も捻挫のような一過性の外圧損傷と考えていた。適切な処方があれば、即座に治癒すると思い込んだのである。 とりあえず治療を施し痛みの軽減は見られたので、翌日の往診をその場で予約された。ただすぐに動きたがってしまうので、安静を守ることをお願いし、腰への負荷が軽減すると言う理由で足関節を固定的にテーピングした。しかしこの意味を忘れて腰が痛いのに関係のない足首にテープを巻いたと外し、さらに一ヶ月間気になっていた片付けを行い、翌朝の起床時には完全に動けなくなってしまったため断りの電話があり、救急搬送された。 S18生 74歳男性 背部から下腿にかけて贅肉のない筋金の体で、スリムで引き締まっていながら硬くない筋肉が連なる。両膝の内側 に年相応の変形性の骨蕀が見られる程度で、特に変わった箇所は見受けられない。痛みはL5から両上後腸骨棘にか けてと、それに伴った大腿後面の放散痛である。時に左は激痛を伴い、来院時期は秋であったが、50年近く通った スキーを今シーズンは諦めなければならないと話されていた。 痛みを訴えるL3から大臀筋上部の仙骨周辺にかけては、弾力のある他の筋肉に比べてかなり硬い。しかし押圧して も痛快とはなるが、激痛にはならない。ただ仙骨から大転子にかけてで鋭く痛いと言う箇所があったため、伏臥位 膝伸展で両脚を内旋させ大転子周辺を押圧したところ、大転子先端の後部に同じ鋭い痛みを感じた。主訴とした傷 みの発端は梨状筋の痛みと思われる。梨状筋は脚の外旋動作であるが、スキーでは負荷のかかる所と考えられる。 ところが逆に外旋させた時に、左の内腿に時折感じる激痛が起こった。仰臥位で診察すると、恥骨筋と思われる箇所にその激痛のポイントが有った。 今回の主訴の痛みは今までに感じたことがなく、二週間ほど前に急に起こり、何箇所かの整形外科を受診した。知人から話を聞いて来院したが、恥骨筋への押圧で痛みを再発させてしまい、治療後は何の改善も診られなかった。 ただ腰部の痛みは鈍くなり、歩行は楽になったと話された。後に聞いた紹介者からの話では、その晩に激痛が起こり眠れず、翌朝早々に整形外科に行って内股の麻酔をお願いしたが、その箇所への注射は危険ということで飲み薬を処方された。真面目に服用していたが痛みは一週間ほど続き、急に消失したという。 S23生 70歳女性 小柄できゃしゃだが声が大きく、顎を突き出して吐き出すように話す。小刻みに頭部を横に振る仕草が多く、特に話すときは必ず動く。顎や頸部周辺の筋肉の負担が予想された。また肩こりは頭痛や吐き気が伴うこともあり、触診では僧帽筋の上縁はワイヤーのように硬い。姿勢が猫背気味で背中の筋肉全体が一枚の板のようになっている。 以上のようなことを説明したが、ほとんど受け入れる感じはなく、ご自身が長くされている占いの観点からの解釈で肩こりや耳鳴りは「障り」が原因だが、医療がどの程度できるか観に来たのだという。 仕方がないので原因は目の場合もあるという視点から読書について聞いてみたところ、本人も首に悪い姿勢で本を読んでいると話された。頸部周辺を細かく触診すると乳様突起の下に圧痛箇所があり深く探ると頚板状筋や肩甲挙筋、顎二腹筋後筋の位置が硬く 押圧痛が強い。こういった胸鎖乳突筋や僧帽筋の下層にある筋群の炎症が、間接的に頸静脈孔などを通じて内耳のリンパ や血液の流れに影響する。その表れとして耳鳴りが考えられ、 可能性としてめまいや難聴の発症もありうる。 施術の前と後に背後から指先を擦らせる音を鳴らし、聞こえますかと声をかけたが、前後とも聞こえませんと言われた。 ただ後の時は鳴らした瞬間にピクっという対反応を見せたが、常に小刻みに頭部を揺らしているので、どうも本当は聞こえたようだという確証にはならない。 肩や首なども施術後は柔らかくなり、イカリ肩とみられた肩は下がり自然に顎も引け背筋も伸びた。 しかし状態は全く変わらないと話されていた。 S24生 69歳女性 小柄で小太りで動作が緩慢であり、言葉は聞き取りにくく表情の変化がほとんどない。問診票の記載をややためらったが、微妙に手を震わせながら記入された。初め治療室に入ってきたときソファーにスネを当てて止まったため視覚異常を考えたが、問診票の記入ができたことから動作の問題と考えた。主訴は肩こりと腰痛だが、触診では筋肉は緩くどちらかというと皮下に硬さが診られた。 腰痛と肩こり以外に何かツラさはあるかと尋ねたが、他は問題がないがこの二つだけが極端に辛いため、様々な治療院を回っているが改善できるところがないと話す。 病院には行っていない。硬結や筋張った箇所がないため筋原性の痛みではないので、内臓性の可能性もあると話したが、特に関心はないようであった。 皮下の硬さとは真皮の網状層から皮下脂肪にかけてで、弾性繊維の比率が多くなってしまっていることを想定させる手触りである。推察であるが、この状態はかなり強い長時間のマッサージを何度も受けた形跡と思われる。膠原繊維が押しつぶされてしまっているようである。 この方はネットの紹介サイトを見てこられたのだが、後日レビューに物足りない治療と書かれていた。 S18生 74歳男性 50歳代まではプロパンガスを運んで交換する仕事が多く、体にはかなりの負担をかけて働いていた。そのため腰椎には椎間板ヘルニアの持病がある。また畑や山狩りなど休日でも体を使うことが多い。 畑でのトラクター作業の後に両側の大腿前面に痛みを感じ、次第に畑仕事以外でも痛むようになり歩行に不具合を感じるようになる。時々近所の整形外科に行き、痛み止めの注射を受けていた。 しかし注射がほとんど効かなくなったため来院。一度の治療でその他の腰痛や背部痛も含めてほとんどの症状が改善し、一ヶ月ほど大腿の痛みも無かった。二度目の治療では一週間ほどしか保たなくなるがその後、数回の治療をする。 長年の腰痛症からの気遣いで、上半身の姿勢は良い。だが腰に負担がかからないようにガニ股で脚の力だけで歩く。 その歩行法から股関節炎を想定しその話をしたが、整形外科では変形性、リウマチ、感染症の全てが陰性と判断され 、 胸椎に狭窄が見つかったため原因除去手術となった。ただ胸椎と下肢では関連が弱く、大腿前面のしかも両側という 症状は狭窄症では診られない。 触診では内側広筋が特徴的に硬い。しかし無理にガニ股にして歩く動作などから、内側広筋と同じ大腿骨粗線内側唇に付着する長内転筋が傷んでいるのではないかと推察する。長内転筋は恥骨上枝を起始とするため股関節周囲筋群の影響を受けやすい。仰臥位では膝は真っ直ぐなので、膝を真っ直ぐにして歩くことで痛みは防げると話したが、手術 踏み切ってしまい、術後すぐに歩行訓練を受けるはずが一週間ほど車椅子になってしまった。 今では完治の希望を持てなくなりながら、日々の諸事をこなし回復への訓練としている。 「衰えを老いと決められることから逃げている」 つまり「もう歳だからダメですね」とは言われたくない。自分の体はまだ衰えていないという意識でいたい。 しかし年齢的にはすでに不可逆的な状態にあって、それまでのような多少ツラくても我慢をしたり、なんらかの対処法で元に戻るということはもう無いと、思いたくはないのです。 ですから今現在の身体の状態を、きちんと伝えることが大切です。痛さやツラさでの身体機能の低下を「老いがベー スにある衰え」ではなく「長い年月からの間違いを含む状態」と話すことで、その間違った部分は特異なクセであり、そのクセを正せれば本来の体調に戻れると、治療に希望を持つことが出来ます。 今回あげた症例は治療的には難しいものではありませんが、それでもやはり老化はありますので、患者への細かい配慮は必要です。対話の時の言葉の選び方もそうですし、触診や手技、運動療法時の力加減も重要です。ただ自分の体の使い方に長年蓄積したクセがあるというのは、相手が長い人生を歩んできているだけに、伝わってしまえば簡単に納得してもらえます。治療家側の他者の人生への理解の深さと普段の活動から培った対話能力で、この治療院だったら自分を衰えた年寄りと決め付けずに、症状や自分自身に向き合ってくれると信頼を向けていただけます。 そのためには正確な状態把握と、誠意ある伝達の心掛けが大切です。