由香のOL日記1

  <由香のOL日記 2>


   由香のOL日記2    新しいサーバー

「由香君、東村山の大森さんが来たんだ。いつもの頼むよ」
 営業部から伝票を貰ってあたしが戻って来ると、課長があたしを見つけるなり言った。
 部屋の片隅にある応接セットの方を見ると、お客さんが二人居た。
「はい」
 あたしは伝票を大塚さんに渡すと、自分の席に戻った。

 あたし、大崎由香、二〇歳。この春短大を卒業して、この会社の総務部経理課に勤めることになったの。

 あたしの居る経理課は、会社が小さいせいか、女の子はあたし一人だけ、あとは男の人ばかり。それでも、今年は新入社員が二人も配属されたから、凄いんだって。いつもは二年に一人配属されればいい方だって言うから、やっぱり今年は大収穫よね。
 なんと言っても、あたしが配属されたんだもん、それだけで収穫よ。

 あたしはパソコンに向かうと、ホストにログインした。

 ホストと言っても、ホストクラブじゃなくて、沢山のパソコンを繋いで効率よく仕事をするための、中心になるパソコンのこと。つまり、パソコン通信の親玉みたいなヤツ。ホントはパソコン通信の親玉じゃなくて、LANと書いて『ラン』って発音する、『ろーかる・えりあ・ねっとわーく』のことで、ホストのことは『サーバー』って言うらしいんだ。だけど、『ろーかる・えりあ・ねっとわーく』には『なんたらサーバー』って言うのが他にも沢山あって紛らわしいから、あたしはホストって呼んでるの。
 それで、あたしが課長に頼まれたのは、この『なんたらサーバー』って言うのにアクセスすることなの。

 でも、あたしはまだパソコンに慣れてないから、パソコンを使ってなんてやりたくない。今のあたしなら、自分でやった方が遥かに速いと思う。
 それにパソコンを沢山繋いで使うから、使いたい時にこのサーバーが空いているとは限らないの。もし空いてなかったら、空くまで待たないといけないから、余計に時間がかかっちゃう。

 第一、あたしがこれからアクセスしようとしているサーバーは、ついこの間うちの課にも入ったばかりのサーバーで、誰も使い方をよく知らないの。だから、余計あたしは使いたくないんだ。

 余り気が乗らないけど、あたしはキーボードを叩いて命令を打ち込む。でも、応答が返って来ない。多分、誰かが使ってるんだ。

 あたしは部屋の中を見回してみたけど、それらしい人は居なかった。
 課長はお客さんと話をしてるし、大塚さんはさっきあたしが渡した伝票の決算をしてるし、上野君は隣の席でワープロを叩いてる。その他の人達も、それぞれの仕事をしてて、ホストにアクセスしている人は見あたらない。そもそも、パソコンに向かって仕事をしてるのは、あたしと上野君の他は、目黒さんと神田さんだけ。
 その上野君はワープロを使っているし、神田さんは表計算をやってる。目黒さんのディスプレイは見えないけど、新しいサーバーを使うとは思えないし……。

 それから三〇秒程したら、やっと応答が返って来てメニュー画面が現れた。

 あたしはメニュー画面に沿ってキーを打つと、サーバーに指示を出した。
 すると『5分ほど、お待ちください』って表示が出た。

 この五分って時間は、待つには長いし、何かやるには短い。出来ることと言ったら、せいぜいコピーを二、三枚取ることぐらい。ホント、中途半端な時間なのよね。やっぱり、自分でやった方が待たされない分、気が紛れるし安心できるのよね。

 これで大体五分経つと『用意が出来ました、サーバーからお取り下さい』って表示が出るから、それから取りに行けばいいのよね。

 でも、一分程したら、『ペーパー切れか、またはペーパーが詰まっています。もう一度確認してから、実行してください』っていうのが表示された。

 やだ、もう。紙切れじゃない。こんなんだったら、自分でやった方がよっぽど早いわよ。

 あたしは席を立つと、サーバーの置いてある所へ行った。
 会社が小さいから、このサーバーのために特別な部屋がある訳じゃなくて、あたし達の課の部屋の隅に置いてあるから、そこへ行くだけ。ただ、一応埃とかには気を使っているから、衝立で囲ってあるの。

 あたしはサーバーに紙をセットしなおすと、自分の席に戻ってもう一度実行させた。

 今度は本当にキッカリ五分後、画面に『用意が出来ました、サーバーからお取り下さい』と表示が現れた。

 あたしはもう一度サーバーの所に行くと、サーバーに用意させた物を取って応接セットの所へ行った。
「失礼します」
 あたしはそう言って小さく会釈をすると、お客さんの前にコーヒーを置いた。

 まったく、なんでたかがコーヒーを淹れるくらいで、パソコンを叩かなきゃいけない訳? ホント、面倒臭い。
 なんでもかんでもみんなパソコンにやらせるんだから、『コーヒーサーバー』ぐらい自分で使ったって、罰が当たらないと思うのよね。


                Fin


  作者のコメント:柳あきら

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