バイアスということ

 俗に、逃がした魚は大きい、といいます。しかし、実際は逆です。研究は成功したから発表され、失敗に終われば、それは報告されることなく葬られます。このような傾向は、学術研究のみならず、例えば、週刊誌で民間療法が取り上げられる場合にも見られます。紹介記事には、すごい効果があった誰々さんの話は載りますが、やっぱり効かなかったその他大勢は無視されるのが普通でしょ?

 このように、情報にはしばしば偏りが入り込みます。このような偏りは「バイアスbias」と呼ばれ、それなりに研究されています。代表的なものには名前もついています。例えば、ここに示した、報告例には成功例が多い、というバイアスは「発表のバイアスpublication bias」です。もうひとつ紹介しましょう。

 治療法が進歩すれば、治療成績はよくなります。しかし、診断技術が進歩するだけでも、生存率を伸ばすことは可能です。有効な治療法が存在しない病気では、早くみつかっても疾病の経過そのものは変わりません。しかし、早く診断できたぶんが加算されて、みかけの余命が伸びるのです。これを「先行バイアスlead time bias」と呼びます。このバイアスは、集団検診や、難病の治療法の有効性の検討でしばしば問題とされるものです。

 具体的には「検査法○○で早期診断可能になって5年生存率が改善しました」「治療法○○が登場してから余命は1年伸びました」などとある場合、それをそのまま鵜呑みにしてはいけません。本当にそうなのか、ただのバイアスなのか、ちゃんと考えてから結論を出すべきです。そして、そのような批判的吟味に耐えないデータは、そもそも信頼に値しないといってよいでしょう。


「くらしと医療」1996年11月号


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