気になる言葉 - 虫垂炎とタッチタイプ、そして援助交際

 この文章には、性格上、いわゆる差別用語が使用されております。あらかじめご了承ください。

 少し狭い意味の医学を離れて、言葉の話をしましょう。ライターまがいの仕事をしていると、やっぱり言葉には神経を遣います。すると、副作用として、いろいろ気になる言葉もでてきます。

 表題の虫垂炎やタッチタイプは、普段あまりお目にかからない言葉です。虫垂炎を「もうちょう」タッチタイプを「ブラインドタッチ」と置き換えると、ああそうか、と思いあたる方が多いのではありませんか? そう、通常はこのような表現で代替されます。しかし、この表現にはいささか問題があります。

 まず、これは正しい用語ではありません。
 「もうちょう」という名前の病気はありません。「もうちょう」は、漢字では「盲腸」で、これは内臓(大腸の一部)の名前です。盲腸に隣接して「虫垂」という臓器があります(もちろん大腸の一部です)。ここがはれるのが「もうちょう」すなわち「虫垂炎」です。つまり、「もうちょう」は盲腸炎でもないのです。病気ではれるのは盲腸ではなくて虫垂です。詳しくは下図を参照ください。
 「タッチタイプ touch-typing」とは、キーボードを見ないでタイプすること、という意味で、英和辞書にもある言葉です。日本ではなぜか「ブラインドタッチ」という表現が一般的ですが、これは和製英語です。当然、海外では通用しません。

 もうひとつの問題は、表現そのものにあります。
 お気づきの方も、あるいは不快を感じている方もおられるかと思いますが、これらの表現に含まれる「盲 blind」という言葉が問題です。上記の例では、「盲」は明らかに否定的なニュアンスで用いられています。しかも、同じ意味の正しい言葉がきちんとあるのに、なかなか改まる様子がない。日本というのは不思議な国ですね。

 最近、「援助交際」なる言葉が頻用されます。あれも、誰が誰に何を援助するんでしょうか? 私の感覚では、交際の対価として現金を受け取っている、つまりオジサンの資金提供は「援助」ではなくて「交換」ないし「報酬」に該当するように思うのですけど。そのうち、援助交際を「事業」にして税金対策をやる人がでてきたりして(給与所得者の場合、サイドビジネスの事業収入が赤字だと、確定申告で源泉徴収所得税の一部が還付されます。だからマンション経営が税金対策になるのです。)。日本は不思議な国ですね。


「くらしと医療」1997年8月号


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