ガリバー旅行記の生物学

 「ガリバー旅行記」は、スイフトの長編小説です。日本では、もっぱら子供向け読み物として紹介されていますが、本当はかなり辛口のおとなの本です。

 ガリバーは、最初の冒険でまず小人国へ行きます。
 小人国では、ガリバーの身長は住人の12倍です。ここで問題となったのは、ガリバーへの食糧供給でした。ガリバーには12の3乗、1728人分の食糧を与えるべし、とあります(原文では1724になっています。スイフトは計算違いをしたんですね)。これは並大抵の量ではありません。小人国は大丈夫なんでしょうか?
 以前書きましたが、消費エネルギーは身体の表面積に比例します。恒温動物では体温の維持にもっともエネルギーを使います。外部との熱のやり取りは体表面を介して行われますから、おそらく体表面積に比例してエネルギーを消費することになるんでしょう。つまり、小人国は12x12=144倍の食糧が準備できれば、ガリバーを養ってゆけます。めでたしめでたし。

 次の冒険で、ガリバーは巨人国に行きます。
 巨人国の住人は、ガリバーの12倍程度です。大きい以外はすべて人間と同じとあります。本当に、ガリバーはそんなところへ行ったのでしょうか?
 身体の構造が同じならば、身長が12倍になると体重は12の3乗(1728)倍になります。この体重は、最終的には足の裏、つまり面で支えられます。体重が身長の3乗倍に増えるのに対し、足の裏(ないし足の太さ)は2乗(144)倍にしかなりません。同じ体型ならば、巨人の足には普通の人間の12倍の力がかかります。これでは、辛うじて立てたにしても、ちょっと跳ねただけで、足は地面にめり込むか骨折するかしてしまうでしょう。残念ながら、巨人国は空想の産物のようですね。

 昔、身長57メートル体重550トンのロボットがでてくるマンガがありました。人間の標準を170cm、64kg(こういうのは大抵男性でしょうから)とすると、身長は33.5倍、体重は8594倍です。構造が人間と同じならば体重は37694倍になるはずですから、軽量化のための努力は相当のものです。しかし、足の裏は1124倍にしかならないので、それでも普通の人間の8倍程度の力がかかります。よほど丈夫で軽い材質がないかぎり、地球を守る大型ロボットには大きくて太い足が不可欠です。

 ここで紹介した話は、私のオリジナルではありません。その筋では有名な話なのですが、出典をすっかり失念してしまいました。御存知の方は作者までご連絡いただけると幸いです。


「くらしと医療」1997年10月号


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