「異常あり」の意味

胃ガン検診を受けたら要精密検査!ドキドキしながら胃カメラ飲んだら異常なしでホッ、あなた自身、あるいはあなたの周りでそういう話って結構耳にしませんか?

実は、一次検診で異常と言われた方の大半は、精密検査では異常なしになります。検診とはそういうものです。例えば次のような場合、あなたはどのくらいの確率を考 えますか?

ある病気の発生率は 1%。ある検査はこの病気の人なら 99%、そして正常な人でも 5%で陽性になります。
さて問題。あなたが検査を受けたら陽性だった!
あなたがこの病気にかかっている確率はどのくらい?

詳しい説明は後まわしとして、答は16.7%です。もっと大きな数を予想した方が多かったのではありませんか?

この問題のカギは、そもそもの病気の発生率が低いことです(もっとも病気としては発生率1%はかなり高いほうですが)。つまり「病気である」ということが比較的稀なことなので、検査結果も、本当に病気があって陽性になる場合より、正常なんだけど何かの間違いで陽性になってしまった場合のほうがずっと多いというわけです。検診とはそういうものです。ですから必要以上に怖れることはありません。

こういうことを書くと、「な~んだ、検診で引っかかっても心配ないんじゃん」という方が出てきそうで困るのですが、その判断は誤りで、絶対に精密検査を受けるべきです。検査陽性が即病気というわけではありませんが、病気である確率が高くなったのは事実です。先の例では、フツーの人なら 1%のところ、陽性者では 16.7%、つまり病気である確率が16.7倍に増えたというわけですね。


以下の数学的な説明は、内容が一般向けとしては難しすぎるという理由で、「くらしと医療」への公開版からは削除されています。


数学的にはこんな説明になります。「条件付き確率」の練習問題です。受験生諸君はノーヒントでどうぞ。

病気:B 正常:N 検査陽性:+ 検査陰性:-とし、おのおのの確率を P()と書く。特に P(B+)はBかつ+である確率(ある人が病気かつ検査陽性である確率)、P(+|B)はBである時+である確率(ある人が病気であるとき、検査が陽性になる確率)を意味する。
問題は P(B)=0.01, P(N)=0.99, P(+|B)=0.99, P(+|N)=0.05の時、P(B|+)、つまり、ある人が検査陽性であるとき、その人が病気である確率を求めたいということである。
条件付き確率の定義から P(B|+)=P(B+)/P(+)、および P(B+)=P(B)P(+|B), P(N+)=P(N)P(+|N)。さらに P(B+)と P(N+)は同時には起こり得ないので P(+)=P(B+)+P(N+)。
以上に数値を代入すると P(B+)=0.01*0.99=0.0099, P(N+)=0.99*0.05=0.0495, P(+)=0.0099+0.0495=0.0594。よって、P(B|+)=0.0099/0.0594=0.166666...。すなわち確率は16.7%。


「くらしと医療」1998年9月号


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