漢籍における数字の古代中国哲学理論からの考察

2005/08/21 相原黄蟹

はじめに

洋の東西を問わず<自然数>(1から始まり、1につぎつぎと1を加えて得られる数の総称。0を自然数に加えることもある。)には、 順序数・序数・オーディナル数という物の順序を示す機能と、 濃度・基数(基礎として用いる数。十進法では0から9までの整数。)・カーディナル数という物の個数を示す機能とがあり、 更に、その地域における自然観・宗教観・文化・風習などから一つ一つの数字に、<特定の意味>を示す機能を持たせて使用されるものがあります。
今回は、私たちがバイブル的テキストとして重視している黄帝内経や難経などが編纂された、古代中国の自然哲学に根差した<特定の意味>を持って使用されている<自然数。について考察してみることにしました。

総論

<数>を広辞苑(第五版)で引くと、 <数とは>一つ、二つ、三つなど、ものを個々にかぞえて得られる値。この概念(自然数)を拡張した抽象的概念(普通には「すう」と呼ぶ)をもいう。
<数とは>物の多少に相当する観念。
<数とは>物が幾つあるかを表す観念。(特に「量」と対比して使うこともある)
<数とは>沢山であること。「数日すじつ・数行すこう・数珠じゆず」
<数とは>2〜3あるいは5〜6の少ない数を漠然と示す語。「数日・数人」
<数とは>〔数〕狭義には自然数のこと。これを拡張して零、正負の整数・分数を併せて有理数と称し、さらに無理数を併せて実数という。また、さらに負の実数の平方根を表すための虚数を導入し複素数にまで拡張して、これらのすべてを数と総称。
<数とは>事の成行き。運命。「勝敗の―ここに定まる」「数奇・命数」
<数とは>はかりごと。「権謀(臨機応変のはかりごと。)術数(陰陽家・卜筮家などの暦数の術。)」
とあり、いわゆる数字に表される概念の他に 人為を超越した<運命>や 天文暦法などの時空(宇宙)の<法則>という概念をも含んでいる語であることが判ります。

古代中国哲学では、万物は「天の時」と呼ばれる日月星辰の天体運行周期によって産み出される複雑にして精緻なアンサンブルの影響下にあると理解し、 無形な意志・性格・本能・運気などの要素には(光)(五色)が、有形な物性・外形・運動・変化などの要素には(音)(律呂)が作用すると理解しています。

また、重要な視点として<時間>と<空間>の要素に2分してとらえることが必要になります。
これらの理法を基礎とした上で、私たちは、気・陰陽・五行などで理解し運用しています。

このような自然哲学を抽象化させた概念として<数>の存在がクローズアップされてきます。
例えば、この気・陰陽・五行を抽象化させた数の概念で表すと、気=一・陰陽=二・五行=五などとなります。
それでは、古代中国哲学における基数である一から九までの解説に入ることにしましょう。

基数の性質
基数
陰陽
生成 生数 成数

太極
根本
全個
陰陽
性質の
発動、
変動、
偏傾、
離合。
性質の
具現。
気形質
三才
三宝
2×2
性質変化の
分割対比。
四方
四時
西
五行
属性の分類に
よる関係性。
天円方地
1+4
3+2
中央
2×3
3+3
三陰三陽
個別の
事象変化。
六気
天の数
聖数
2+5
北斗七星
七神
対象への
作用影響。
4×2
2×2×2
八卦
八風
八方
3×3
至数
全体
相関
九宮
九州

古代中国哲学では、一から九までを基数としており(零十は含めない)、 奇数を陽数・偶数を陰数とし、 更に、一から五までの数を生数(現象の元となる数)とし、六から九までの数を成数(現象変化の数)としています。

漢籍では、数を表す文字は一つではありません。 用法や解釈などについての詳細は、 加藤秀郎氏の「字源」を参照してください。

「1」とは・・・
始まり・存在・基本などの意味から 絶対基準や根本原理として易学では太極 道家では、道(天)などを差し、 世界を構成する要素としての気を示します。
また、五行属性から、水行・北方・精・腎臓などの意味をも包含しています。
「2」とは・・・
異なった要素に2分される・合わせると言う意味を持ち、 根本原理が発動され、気が変動偏傾変化し陰陽の法則が機能していることを示します。
以降、全ての事象変化はこの陰陽の法則に準拠します。
「3」とは・・・
「第三者」と表現されるように、変化(2)を把握するために基準(1)を加えた数(1+2=3)で、 天地自然の変化を体感する人の存在がこれに該当します。
更に、天の太極としての<気>気形質・地の空間としての<形>天地人・対象としての<人>気精神というように <具現>を要素や場・目的の違いによって三分する考え方を示します。
三つの文字のうちの二つを組み合わせて、変化の方向性やそのものの性質などを把握
天+地=上下 地+人=左右 天+人=前後 (作用に対する反応の方向性)
形+気=原理 形+質=起因 質+気=現象(性質の発動内容)
「4」とは・・・
前項の(三)に時空の概念を加え、 テーマ別に2×2=4の二つの陰陽条件を規定して、観察対象を特定します。
例・・
時間の陰陽(遅い早い等)と空間の陰陽(大きい小さい等)・自然原理の観察
四方・南北(観察方法)東西(観察内容)・空間の観察
四時・春夏(太陽光照射量の増大)秋冬(太陽光照射量の減少)・自然現象の観察
「5」とは・・・
森羅万象を5つのタイプに分類する五行論を示し、一般的には、「天の五行」と呼ばれます。 以下に、示すように目的やテーマによって1+4=5・2+3=5などの違いがあります。
<天円方地>・・
<天円>は、時間・循環五行を指し、絶対五行と呼ばれ、相生・相克関係の規則性によって平衡状態が保持されています。
<方地>の五行は、1+4五行と2+3五行に分けられます。
更に1+4五行は、寒熱燥湿陰陽五行と四正四隅五行に別れ、 2+3五行は、縦軸(南北)五行と横軸(東西)五行に別れます。
「6」とは・・・
前項の「天の五行」に対して「地の三陰三陽」の6が対を成しています。 前表でも示したように、ここからは具体的な事象の変化を示す数となります。 3+3=6(時間)・2×3=6(空間)があり、 天地人・気形質によって循環型ペアリング型が異なります。
また、気(気形質)が寸刻も遅滞することなく出入律動変化をしているアクティブな要素を多分に包含した数と言い得ます。
2×3=6・・
卑近な例で、六祖脈(表裏・寒熱・虚実)は、精気神(気形質)の3条件の陰陽傾向を表現したものです。
また、三次元の上下・左右・前後も同様です。
「7」とは・・・
北斗七星や七神など霊妙な聖数イメージが強く、神事・祭事・死生吉凶などの際に表われます。
5+2=7は、七神・七情けなど土水の部分が重複しており、先天・後天の精の持つ形態的要素が内包する神と共鳴現象を起こすと推測されます。
これは、総論で触れたように形体に作用する<律呂>の考え方から来るもので、 神事・祭事に際し、ボディペインティングや彩色は、 邪霊の排除や神に対する表現であったのに対し、 音、つまり太鼓や楽曲は、内なる神を呼び出し天道と交流する性質を持ったものとして理解されています。 ちなみに陰旋法・陽旋法共に七音階で更正されています。
「8」とは・・・
4×2=8。対象に作用する要素を8分割したもので、易の八卦・時間の2至2分4立や空間の8方位などを示します。 これらの時空の条件に置いて対象が受ける八風の邪影響を判断します。 他に、2の3乗、陰陽が三次元化してできる立方体。
「9」とは・・・
具現の数3の2乗で、全体、至数とされます。 天の九宮・地の九州・人の九星など、そのエリアが持つ性質とそこに存在する対象との関係を法則性によって判断することができます。 以下に、九星の図表を示します。

<九星>とは、

時間のスケールとして五行属性を加味してその性質を9分割した考え方で、 「天の九宮」・「地の九州」・「人の九竅」というように空間を九つのエリアに分割する考え方とくみあわせて、 現象を、特に人を理解するのに用いられる考え方です。

仮に、天地の環境条件が規定されてもその環境下で影響を受ける人側の条件が異なれば、実際の現象は、様々に異なったものとなります。 ですから、<天の十干>・<地の十二支>・<人の九星>の3つの条件が整ってこそ性格に現象の分析把握が可能となると考えられています。

<九星>は、<一白水星>・<二黒土星>・<三碧木星>・<四緑木星>・<五黄土星>・<六白金星>・<七赤金星>・<八白土星>・<九紫火星>の性質に別れており、人の肉体や精神の性質を規定すると共に、天地間との関係性において、正邪吉凶を判断する材料にもなります。 誕生時に規定され一生その性格を維持する<天盤九星>と、年月日などの時間条件・方位の空間条件によって流転する<人盤九星>があり、これらを対比させながら状況分析や予測を行います。

八方位図
東南 西南
中宮 西
東北 西北

中宮に該当する星が、八方位からの影響を受け、
の方角から吹く風を八風といいます。
この中宮に配される星は、年月日の移動に逢わせて流転します。(右図参照)

<人盤九星>の流転図
基盤
2盤
3盤
4盤
5盤
6盤
7盤
8盤
終盤

まとめ

この先更に、十干・十一脈・十二経・・・と数の持つ意味は拡大してゆきます。 しかし、基本となるのは、今回取り上げた一から九までの基数と言うことになります。 背景となる各種理論を更に掘り下げ習熟することで、現象を単純化して把握できるようにしてゆきたいと思います。