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オノマトペ鑑賞講座


 オノマトペとは「さらさら」とか「ごおごお」とか、音をまねて作った言葉のことである。これを擬音語という。ここでは擬態語も含めてオノマトペと呼びたいと思う。擬態語とは、「にやにや」とか「いそいそ」とか、ある感覚的印象を言葉にしたものである。擬音語と擬態語は本質的には区別できないものだと思います。私たちはいつも自分の気持ちをうまく表現したいと思っています。でもぴったりした言葉がなかなか見つからなくていらいらします。でも、その時その時の気持ちをなんとか出来合いの言葉にのせて日々を暮しているわけです。心と言葉がぴったり一致したらどんなにすばらしいでしょう。そうなればきっと人は精神病にもならずに健やかに生きることができると思います。オノマトペはそういう人々の知恵が作り出した言葉なのです。このシリーズではすばらしいオノマトペの数々を紹介し、皆さんと鑑賞していきたいと考えております。

 

1 ガーン

 これは、非常に激しい精神的ショックを受けた時の状態を表現したものです。もう今や、この言葉なしに生きられる人はいません。にもかかわらず、この言葉は「広辞苑」にも載っていない。辞書を作る人々の頭の固さがわかろうというものです。この言葉を初めて用いたのは、「巨人の星」の川崎のぼるではないかと言われている。もちろん、この言葉は不治の病としての「癌」と無関係ではない。あの手塚治虫でさえ、「ブラックジャック」の中で、次のような会話をさせてしまった。
 患者「先生、私の病気は何ですか」
 医師「癌です」
 患者「ガーン」
「巨人の星」の中では、主人公星飛雄馬の恋人、美奈さんがやはり癌で亡くなるのだが、その時のショックを表現するのに、この「ガーン」を都合六つ余りも一コマの中に書込んでいる。新記録だった。

 

2 るん

 これは、楽しく浮き立つような気分を表現した言葉だ。端的に「るんるん気分」という時もある。太川陽介がこれを少し変形して「ルイルイ」と歌い、流行らそうと試みたが失敗に終わっている。やはりルイ似品は売れない。これはかわいい女の子の顔の横に「るん」と書き込むとたいへん効果的である。
 

3 たわば

 これはあまり聞き慣れないかもしれないが、「北斗の拳」で敵が死ぬ直前に出す、いわゆる「断末魔」の叫びを写したものである。人が死ぬ時の、この世の最後の声であるから、ここには恨みと苦しみと悔いと、様々な怨念がこもっており、とても普通の表現では言い表せない。そしてまた、一人として同じ叫びはありえない。以下に「北斗の拳」に出てくる叫びを列挙してみる。

 「あおおえ」「ひでぶっ」「ひゃぶ」「へげええ」
 「ブベベ」「ほげ」「はがが・・」「あべし」
 「てはっ」「ひべべ」「ぶぎゃあ」「あろっ」
 「あわびゅっ」・・・

なかなか壮観である。「たわば」は不覚をとって意識が遠退いていく様子がよく出ている。「あべし」には、あっというまの出来事だったが、当然来るべきものが来たという一瞬の悟りが感じられる。

おわり