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 「春の道標」 黒井千次 (新潮社)


      

 明史(あけし)には文通する幼なじみの慶子がいた。物を届ける用事で彼女の家へ行き、初めて口唇を重ねる。その後の彼女の手紙に、彼女の口唇を押した便せんがあった。明史はこのまま彼女と深みにはまるのが怖かった。漠然としたあこがれの少女がいたのだ。明史は慶子に親友になろうという手紙を書く。
 その後、明史は通学途中にみる少女が棗という名であることを知る。思い切って声をかけ、逢瀬を重ね、帰りに丘に上り口唇を重ねる。
 明史の父は検事で、明史の友だちに左翼の集まりに誘われていたが、父の仕事とのせめぎ合いで決しかねていた。友だちに朝ビラを配るから手伝ってくれと誘われた時も、棗との逢い引きのことを口実に避けてしまう。
 棗を自分と同じ学校に入学させて、自由な恋愛を夢見ていた。気になるのは、棗の家庭教師をしているという男の存在だった。棗の家にもしばしば泊まっているらしい。
 棗の入学が決まった春休み、慶子が今までの明史の手紙の束をそっくり送り返してきた。
 明史は棗の乳に口唇をつける。その翌日の棗は家庭教師の男の家に泊まる。親が決めた許嫁だという。
 棗は明史に親友になろうという。
 明史は棗を残し、一人あの丘に向かう。