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「花鏡 奥段」


    

 然れば、(それにつき)当流に、萬能一徳の一句あり。
 初心不可忘
 此句、三ヶ條口傳在。
  是非初心不可忘。時々初心不可忘。老後初心不可忘。
 
 一、是非初心を忘るべからずとは
    初心へかへるは能の下る所なるべし。
    今の位を忘れないために、初心を忘れないようにするのだ。
    初心を忘れてしまうと、初心へ戻ってしまうという道理。
    初心のつたない芸を忘れると、上達する際がわからないということ。

 一、時々の初心を忘るべからずとは
    その時その時に稽古して身につけた芸を時々の初心という。
    それを忘れず保持していけば、十體にわたりて能数尽きず。
 
 一、老後の初心忘るべからずとは
    老後に合う芸を、老後に初めて習うのが老後の初心である。
    結局そう考えていくと、一生が稽古であり、一生が初心であるということになる。
    そうなれば、一生、能は下がることがなく終わるということだ。