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 「蟹の横歩き」  ギュンターグラス 池内紀訳(集英社)


      

ヴィルヘルム・グストロフ号事件

1945年1月30日、グストロフ号がロシアの潜水艦に沈められた。
乗員6000〜10000人とも言われる。生存者は900〜1300人とも言われる。
その中に、母、ウルズラ・ポクリーフケがいた。そして、その母から、その日に誕生した私がいた。

グストロフは、シュベリーンで保険会社で働き、後、スイスでナチ党指導者となる。そこで、ダヴィト・フランクフルターというユダヤ人に暗殺される。
フランクフルターは後、恩赦で9年で釈放され、イスラエルへ渡り国防省で働く。ナチはグストロフをユダヤ人狩りのきっかけにするため、豪華客船の名前につける。グストロフ号は階級のない船で、だれもが格安で娯楽を味わえる「歓喜力行団」の目玉として活躍し、国家社会主義の幻想をうえつけ、ヒトラー台頭の道具となった。
 母はしかし、スターリニストとして行動する。父を知らない私は中途半端な立場で新聞記者として働く。息子コンラートは優秀で、インターネットの中で、グストロフ号事件を追う。息子の論敵ダヴィトはユダヤ人のふりをして挑む。二人はオフで会い、息子はダヴィトをグストロフの復讐として殺す。息子が牢から出るころには、インターネットの中で、息子を信奉するホームページがつくられていた。
 1月30日はグストロフの誕生日であり、また、ヒトラーが権力掌握した日でもあった。