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 「城のある町にて」 梶井基次郎 梶井基次郎全集(筑摩書房)


      

 城のある町に住む姉の家へ峻(たかし)は死んだ妹のことを考えてみたいと思いやってきた。
 
 「ほんの些細なことがその日の幸福を左右する」迷信に近い程そんなことが思われた。
 
 「つくつく法師が鳴いた。文法の語尾の変化をやっているようだな」ふとそんなことを思ってみて
 
 あちらでは女の子が米つきばったを捕らえては「ねぎさん米つけ、何とか何とか」と云いながら米をつかせている。
 
 例えばそれを故のない淡い憧憬と云った風の気持ち、と名づけて見ようか。
 えたいの知れない想い出が沸いてくる。
 「あゝかゝる日のかゝるひととき」
 「あゝかゝる日のかゝるひととき」
 何時用意したとも知れないそんな言葉がひらひらとひらめいた。
 
 「ハリケンハッチのオートバイ」
 「ハリケンハッチのオートバイ」
 
 いつもの癖で、不愉快な場面を非人情に見る−−そうすると反対に面白く見えてくる。
 その気持ちがモノになりかけてきた。
 
 一緒についていながら孫を川に流してしまったお祖母さんがぼけたのはそれからだった。
 峻にはそのお祖母さんの運命がなにか惨酷な気がした。
 
 「はあ、来るな」と思っていると、えたいの知れない気持ちが起こってくる。
 −−これはこの頃眠れない夜のお極まりのコースであった。