表紙あらすじで読む文学作品シンセミア


  シンセミア 阿部和重
 東北のかつて進駐軍のいた神町、UFOの目撃の多い町、パンパンの町と呼ばれたこともある町、そこで町を裏でしきっていたパン屋の田村と議員の笠原、ラブホテル経営の麻生。その子どもの代になり、田村は抜けようとしたが、笠原は許さない。その孫の代は、盗撮を楽しむクラブをつくって夜な夜な集まっていた。そのクラブの中で奇しくも田村の孫もクラブを抜けようとした。そのことでパンの田村は中傷ビラをまかれ、商売ができなくなる。
 パンパンの町と呼ばれ風紀が乱れたのを憂えた自警団にリンチされた娼婦が郡山橋から身投げするという事件が起こった。その犠牲者の孫にあたる隈元が母、祖母の仇をうつ。
 虚弱児として育ち、いじめをうけていた金森は働きもせず、盗撮サークルに入り、屈折した欲望を満たすことだけを生き甲斐にしていた。


 1953年アメリカは余剰小麦を日本に売り込むため、米の過食は日本人の寿命を短くしているなどのデマをとばしたり、学校給食にパンを出すことを文部省に持ちかけたりして、裏で政治が操作していた。NHKで放送。

奥羽山脈 中央南 北村山地区 楯岡 神町 パンの田村
田村は進駐軍のコックとして働きコネをつくる。
麻生繁蔵というヤクザと親しくなり、地元の物流を支配する。
田宮は女遊びとギャンブルで金を蕩尽した。学校給食でもりかえす。

母と祖母の仇をうつ殺人が行われた。その拳銃をひろった少年がいた。
高校教諭、広崎正俊(38)の自殺。産廃処理場反対運動の中心人物だった。
自動車整備工、会沢光一(27)衝突事故死亡。急性心筋梗塞。幽霊が出た噂。
星谷影生(ほしやかげお)新聞拡張員。情報通。
松尾孝太失踪。
青年団。珍場面ハプニング映像番組を楽しむ。衝撃映像を撮るためには受身ではなく、仕掛けるしかないと考える。
フィストファックを撮りたい。笠谷保宏。
青年団は会沢光一の事故現場を目撃していた。
田宮彩香(さやか)は家族のことをプロフにアップした。
麻生繁芳は息子繁彦の逮捕で気力をなくし、モルヒネに頼っていた。
金森年生は青年団の一員となった。
中山正は少女愛のために警察官になった。
失踪した松尾孝太はUFOの写真を撮り続けていた。
田宮博徳は家業のパン屋をさぼってラブホテルの入り口を盗撮していた。
中山正が中学生とラブホテルに入った。少女の肛門の臭いを愛していた。
隈元はラブホテルの受付ですべてをモニターしていた。
田宮和歌子はかつての友人から「お砂糖」を送られた。
深夜、民家が放火された。
中山正は佐藤百合にあこがれていた。
星谷は世の恐ろしさを実感することに喜びを見出していた。
松尾孝太の失踪はビデオ店を営む松尾丈士の保険金殺人ではないかと噂された。
金森年生は虚弱児として育ち、社会性を養う機会に恵まれず育った不幸な息子を一生面倒見る義務があると言い立ててわがまま生活をしていた。
松尾丈士は盗撮をエスカレートさせ、依頼を受けて対象を絞り込む案を出した。
メディア社会の進捗する今日、用便中の性器と絶命の場面さえあれば、他は何も要らぬとでもいうかのごとく、秘所は暴露されねばならないし、遠くのものは引き寄せられねばならない、という合理化と単純化は避けがたいことであった。
家を焼かれた営団の末田の爺さんが笠谷建設の社長に面会を求めた。
星谷が爺さんをけしかけて、笠谷を強請るように言ったのだ。

地下の賭博場で笠原宗太と森善行と田宮明が会談した。放火は笠原ではないという。
森は何かに怯えていた。
三沢次郎はパンの田村に入った。強請を生業としていた。笠屋建設の不法投棄をネタに強請るつもりである。
広崎妙子は夫正俊と正反対の松尾丈士と愛人関係にあった。
担任の生徒がビデオを万引きして松尾に呼び出され、自身も万引きしたという罠にはまったのだ。おむつプレイをして、そのおむつを夫に見られ、夫は自殺した。
松尾とラブホテルにいたところ、自然発火してカーテンが燃えた。外に出たところを写真にとられた。
田宮は和歌子と東京に出かける前の日、和歌子がいやがらせ電話をしているところを盗み見る。
東京で和歌子を尾行し、文化村でダンプカーが人をひき殺し百貨店に突入するところに出くわす。その後、和歌子は昔の男と会っていた。博範は尾行してそれを目撃してしまう。
ホテルに帰り、ショックで幻覚を見、小便をもらし、嘔吐する。
「偸安、怯懦、卑屈」という一節を思い出す。
和歌子が部屋に帰ってきたとき、顔にアザをつくっていた。
田宮彩香は隈元と大麻を吸いながらセックスする仲になっていた。
三ヶ月前、本屋で隈元が突然金を貸してくれと言ってきたのだ。広辞苑を買うためだという。代わりに三省堂の国語辞典を渡して、電話番号を教えた。
裸で車を走らせて郡山橋で彩香は発光体をみた。
松尾孝太の失踪から二週間たち、息子夫婦の仲は悪くなった。娘の千恵が仲を取り持とうとしたが駄目だった。星谷が入り浸ってUFOなどについて熱心に語った。
星谷は孝太がアメリカの工作員だという。
会沢慶子が自分は何ものかにつきまとわれているという訴えを中山正にする。
中山はビデオサークルを疑い、田宮博範にかまをかけたところ、松尾に気をつけろと言われる。

松尾は神町の住民の裏のデータベースをつくろうとしていた。
中山正は巡回中、花火している篠田潤らをみとがめ、ぼこぼこにする。トルエンをリポビタンDの瓶の中に入れていた。
市議会議員の村西が公然猥褻現行犯でつかまる。
梨香は中山のお目当ての佐藤百合は親に虐待されているという嘘をつく。
中山博範は松尾にグループを抜けると言った。会沢慶子や家族に何かあったらぶっ潰すとも言った。その隙に中山のトラックの中にあった盗撮テープを金森が盗んだ。
本間昌治は臆病で、グループがエスカレートしていくのを懸念していた。
放火したのは金森だった。
隈本は彩香にしつこくメールしてくる阿部和重を呼び出しリンチする。
台風がくる。
博範は妻の麻薬を見つける。
ノアの箱船のイメージ。
星谷はHAARP(高周波活性オーロラ調査プログラム)のせいだと言った。
田宮明は麻生未央と不倫しており、未央は三度も堕胎していた。妻に責められ別れを口にすると未央はあっけなく応じた。
台風で避難した学校で、博範は妻に麻薬のことを尋ねる。妻は逃げる。
若木(おさなぎ)山で博範は本当の夫婦になりたいと訴える。
警官と消防員がボートで警戒していると、木箱に入った白骨死体が流れてきた。
背の高い男が松尾孝太を殺し、郡山橋に埋め、電器屋の物置に隠した。
背の高い男は隈元光博だった。
強請屋の三沢を殺したのも隈元だった。ペニスを切り取った。
その死体を入れた箱も大水で流されて出てきたのだった。
ちょうど盂蘭盆の時期であった。
顔面溶解の霊が歩き回っているという噂まで流れた。

町に自警団を組織しようという話が出た。書店主は反対した。かつての頽廃した時代を思い出したからだ。郡山橋事件は1951年一人の売春婦が地元民とトラブルを起こして投身自殺した。夫をもてあそぶ女をなんとかしてくれという妻の訴えを、妻を寝取られた夫たちが報復する心理から行ったことであった。そのころ台頭した新興勢力が闇商売でのし上がり、自警団らに恩を売り、さらに地歩を固めていった。
娼婦をリンチするとき、全身が黒く煤けたようになったので「熊女」と呼び、罪悪感を消していったという。今でも罪悪感はない。快楽の記憶だけがある。
この話を聞いたJA職員は松尾に話して自警団が暴走しないように説得しようと提案した。
盆踊り大会が悪気を払うように催された。博範の弟が学生時代金森をいじめていたことが確認された。
中山は盆踊りを巡回しながら、佐藤百合一家を見つけ、父と似ていないことで継子いじめされていると想像する。
博範と妻は一緒にコカインを始め、一緒に盗撮ビデオを見ようとしたが、ビデオが空だった。盗まれたことに気づかなかった。
中山は佐藤百合の家を巡回連絡し、家の中を見回っているときに百合が帰ってくる。
松尾園子のUFO信仰は幼女時代のトラウマだった。全裸で神社境内で見つかったのだ。宇宙人の正体は進駐アメリカ人だと結論した。
中山が会沢慶子宅に不審者を認め、自転車を急がせたとき、角材が投げられ転がされた。
慶子の家の風呂場に盗撮カメラの入る程度の穴が開けられていた。
不審者は本間昌治だった。本間は菅田英規が会沢の事故を撮影したテープをダビングし、会沢慶子の郵便受けに入れた。
田宮明の暴行場面の写ったチラシがばらまかれた。
パンの田村は中学生のやりたい放題され客が途絶えた。
商店会は除霊師に除霊を依頼、火の中にスプレー缶があり、爆発して除霊師は大火傷を負った。町中が狂ってしまったと博範は思った。家の周りに鼠等の死骸が満ちていた。物置の隅にスミチオン剤の袋があった。
若木山で巨大な赤瑪瑙が発見され、星谷、松尾夫婦らで極秘裏に掘られた。
田宮明は下痢に苦しんでいた。窮状を救うために麻生未央を頼った。
未央は田宮を決して許していなかった。区画整理事業が始まればパンの田村はつぶれるという。しかも、隈元は娘の彩香に手をだしていることを思い出す。
村西の件も未央の仕業とすれば全てつじつまが合う。失踪した電器屋の跡地も区画整理事業後に道路の通る場所だった。
三沢次郎のペニスが田宮明に送られてくる。
博範は公園で本間に会う。本間は股間にカメラを設置し盗撮をしていた。本間は博範のテープが松尾の手に渡っていることを教えた。いじめられた子が拳銃をもって逆襲していった。
本間は会沢慶子の盗撮する特権を松尾にとられたことを根に持ち、博範が松尾を追い詰めることを期待したのだ。
中山正は佐藤百合の虐待を従姉妹の佐藤春美から聞き出した。野島梨佳は自分と佐藤百合とどちらをとるのかと迫った。
中山の車は中学生にぼこぼこにされていた。
苛立った中山は博範に松尾の女が広崎の妻であることを教えた。代わりに、村西事件の目的が信用失墜であり、首謀者は市議会議員の笠原と麻生未央であり、実行犯は隈元と不動産業の森、それに警察官の二人がかかわっていると教えた。
彩香は隈元の子を妊娠した。
大鼠は金森の小屋で全裸の本間の尻に齧り付こうとした。本間は田宮に何をちくったかと責められ拷問されていた。
博範が広崎の妻を呼びだして本間との関係や盗撮に荷担したことをボイスレコーダーに録音したあと、殺された。
中山は中学生が自転車のタイヤをパンクさせるのを見てすぐ追いかけた。そこに佐藤百合が泣いているのを目撃し、逆上して家の中で水戸黄門をみていた義理の父親をぼこぼこにした。中山は無線で高田を呼び、高田は垣田と一緒に博範をパトカーに乗せた。そこで博範は全てぶちまけると強迫したので、垣田は博範をニューナンブM60で殺した。
松尾は会沢慶子の風呂を覗いた。慶子は用意していたとおり、熱湯を浴びせ、そのまま全裸で外へ出てさらに金属バットで殺した。
本間をこらしめるため、グループは本間を乗せて郡山橋に向かった。本間が抵抗したため、怒った笠原は金森から拳銃を借りた。警告のつもりが暴発して前面のガラスを割り、運転を誤った車はそのまま崖下に落ち、四人即死。金森だけ助かった。運がよかった。
田宮明は妻が自分に毒を盛っているところを目撃する。
田宮明は保健所が検査に入るという偽情報を彩香に伝え、隈元をおびきだした。やってきた隈元を棒でめったうちにしたが、隈元は生きていた。火をつけた途端爆発した。小麦粉が舞い上がって引火したのだ。
星谷らが赤瑪瑙を掘りだしていると、園子が不発弾をみつけた。山肌を削りすぎて崩れだしたのだ。
不発弾は爆発した。その時、若木山の上に赤い光が見えた。
中山は自殺として処理された。
郡山橋事件は無謀な運転が原因とされた。
会沢慶子は過剰防衛で三年の刑罰。
広崎妙子は自殺。
隈元は刑務所で麻生繁彦と知り合った。
隈元の母光江は郡山橋事件の犠牲者となった娼婦の娘だった。
一緒にいた田宮涼子に育てられた光江は旅館で仲居をしていたころ隈元博と結婚して隈元光博を生んだ。博が死んだあと、その旅館に現れたのが松井孝太だった。
松井孝太を殺したのは母と祖母の復讐だというが星谷の話だ。
田宮智子は夫が死んで土地の売却代金と火災保険も手に入れて満足だった。
彩香は子どもに光明と名づけて隈元を偲んでいた。
阿部和重を名乗る男が彩香に接触してきた。実は整形した金森だった。