表紙あらすじで読む文学作品>天地静大


  天地静大 山本周五郎 

 東北の小藩、中邑藩。杉浦透は親の決めた相手と形式的に結婚し、そのまま江戸へ学問するために出る。幼なじみで出戻りの房野なほという女性といつか結ばれることを心に決めていたのだ。
 江戸には、藩主の弟の水谷郷臣(もとおみ)が佐幕派から命を狙われていた。政治には関心がないといって酒食におぼれてみせていたが、何度も暗殺されそうになる。郷臣は透に援助をおしまなかった。
 透は郷臣の世話で昌平こうへ入り、西洋の力の源泉である学問に一生をかける決意をする。特に数学、物理の必要性を感じていた。透は一度藩に戻り、父と話し合うが物別れとなり、藩籍を抜かれる。
 江戸に戻った透は儒学の出稽古でわずかな金をとり、仲間の内藤伊一郎にやっかいになって学問を続ける。
 伊一郎の妹ふくは透に好意をもち、透を主人公にした日記までつける。
 安方は脱藩して攘夷を決行しようとしてつかまる。藩の重臣たちは安方を藩に護送する途中、わざと脱走させて暗殺する計画だったが、安方は逆に暗殺者を殺して逃げる。
 房野なほは親に無理やり結婚させられるが、そのまま江戸へ逃げる。施薬所にたどりつき、そこで自分を必要とする人々に会い、一生の仕事はこれだと決める。
 郷臣は人妻となったかつての恋人と会い、思いを遂げる。それを罰するかのように、青龍組に切られ、施薬所に運びこまれる。なほは一目で郷臣にほれる。
 郷臣は兄の藩主と会見するが、物別れとなる。郷臣の居所が漏れ、房野なほの兄の手引きで5人の刺客が送り込まれる。郷臣は自害する。なほと兄は絶縁する。
 透はふくと婚約する。ふくはなほに会いに行く。透の母から父の死の知らせが届く。
 透はふくを連れて母のもとへ向かう。

〈たとえ時世がどう変わろうとも、この山河は動かない。・・おれは自分の学問を守りぬいてゆくぞ。たとえ世の中がどう変わろうとも、自分は自分の道を進んでゆけばいい。あの山があのように在る如く、この川の水が流れやまないように、と彼は思った。〉