表紙あらすじで読む文学作品スピリチュアルズ 「わたし」の謎


 スピリチュアルズ 「わたし」の謎  橘玲


      

対面の人には暖かい飲み物を出した方がいい。
甘いものを食べながら聞いた言葉は甘く感じる。
それは比喩ではなくて、実際に脳の味覚に関する部位が活動しているのだ。

バーチャルリアリティーの人気アトラクションに「高所恐怖SHOW」がある。
エレベーターで地上200メートルまで上がり、ドアが開くといきなりビルの外で、空中に一本の細長い板が据えられている。その板の先に猫が座っていて、プレーヤーは板を歩いてその猫を救出し、戻ってくるのがミッションだ。
このアトラクションは意識と無意識(スピリチュアル)の関係がとてもよくわかる。

エレベーターのドアが開いた瞬間、無意識は全力で警報アラームを鳴らす。それは、「こんなところを歩いたら死んじゃうよ」という叫びだ。それに対して意識は、目の前にあるのがただの板だと「知って」いるので、無理やりその警報を押さえつけようとする。

案内役がついていないでテストしたところ、バランスを崩した途端泡を吹いて失神してしまったという。


体内でオキシトシンの適切な分泌がなければ、母性本能などというものは生まれないのだ。

恋愛や親密さのようなポジティブな社会刺激によってオキシトシンの分泌が促されると、ドーパミンやセロトニンの分泌が誘発される。ドーパミンは目標志向行動や衝動、強化学習にかかわり、セロトニンは不安を減らして気分を良くする。この組み合わせによって、特定の相手への愛着が形成されるのだ。
テストステロンにはオキシトシンを抑制し、共感や信頼を引き下げる作用があるのだ。

共感が相手の気持ちを感じることだとすれば、メンタライジングは相手のこころを理解することだ。
これを情動的共感と認知的共感と区別することもある。

自閉症はメンタライジングの能力が欠けている。

メンタライジングの四つの機能
意図の検出動きから目的を推測する
視線の検出目の動きから相手が何に注意しているかを推測する
注意の共有相手が見ているものを自分も見ることができる
こころの理論相手のこころを推測する

ドナルド・トランプは明らかにサイコパス傾向がある。共感力が欠落しているがメンタライジングの能力はすぐれている。

依存症というのは、もたらされる快感が大きいからではなく、いったん味わった報酬への欲望を抑えられないことから生じる。報酬系の制御をつかさどるのが前頭葉で、ここを損傷するか、生得的に前頭葉の働きが弱いと、ブレーキが壊れたり利きが弱くなったりしてしまうのだ。

意志力は筋力と同様に消耗する。
努力すればするほど意志力がなくなる。

ダイエットすると身体は飢餓の危険を察知し、できるだけ脂肪細胞を手放すまいとする。このリバウンド効果によって、ダイエットを試みれば試みるほど太っていく、という残念なことになる。

意志力そのものがストレスを生む。すると交感神経が活性化し、血中のストレスホルモンが増えるので、脳=スピリチュアルはそれを逃走・闘争状態だと誤認する。これが続くと、ストレスを筋肉の疲労と「帰属エラー」して、実際に疲れ果ててしまうのだ。

日常的な幻聴が問題にならないのは、それが自己に属するとわかっているからだ。だが統合失調症では、この自己主体感が損なわれてしまうらしい。そうなると、内言語を自分の思考ではなく、見知らぬ誰かがささやきかけているように錯覚する。同様に、自己と他者の境界が曖昧になると、他者の言語が直接、自分の脳の中に入ってくるように感じられる。

統合失調症とともに生きるのは夢の中で生きるようなものというショーペンハウアーの言葉

言語運用能力が低いと世界を脅威と感じるようになり、その脅威から身を守ろうとすることが「移民排斥」や「国民ファースト」のような内集団バイアスにつながる。それに対して言語運用能力が高いと、ほとんどのことは脅威にならない(適当に言い抜けられる)から、外国人や性的少数者など、自分と違うひとたちとの交友を楽しむようになる。

知能と経験への開放性の四類型
Tリベラル(知能と経験への開放性がともに高い)
U保守(知能と経験への開放性がともに低い)
V成功した保守派(知能は高く、経験への開放性が低い)
W陰謀論者(知能が低く、経験への開放性が高い)

芸術は性淘汰で進化した
芸術家が一生のうちにかかわる性的パートナーの数は、文化活動に興味のない人より明らかに多いという傍証がある。

日本は世界でもっとも「自己家畜化」された民族。
日本人の特性、内向性、高い神経症傾向、低い経験への開放性から日本社会を説明できるのではないか。
残酷なムラ社会を生き延びるために、日本人は他者のささいな表情や言動に敏感に反応し、楽観よりも悲観的に考え、冒険をせずにリスクを避けるように「進化」して、それが保守的で権威主義的な社会を生み出した。
その結果、新型コロナでも「自粛警察」のような強い同調圧力によって感染を抑制しようとしたのだろう。

わたし=スピリチュアルの8つの要素
1外交的・内向的
2楽観的・悲観的(神経症傾向)
3同調性
4共感力
5堅実性
6経験への開放性
7知能
8外見

自尊心を高めても効果はないことがわかった。
自尊心は原因ではなく結果だ。

闇の三角形はモンスター
マキャベリズム権力欲
サイコパシー共感性の欠如
ナルシシズム自己愛
この三つが揃うとモンスター的人格だ。
ドナルド・トランプにぴったりなタイプ