表紙江戸怪談集京東洞院、かたわ車の事


 諸国百物語 
 
京東洞院、かたわ車の事
 

京の都、東の洞院(ひがしのとういん)通りに、昔、片輪車(かたわくるま)という、化け物があったというが、夜な夜な下京から上京に上るという。日暮れになると、みな人は怖れて行き来することはない。
 ある人の女房は、これを見たいと思って、ある晩、格子戸の中からそっと覗いて見ていたところ、思った通り夜中過ぎに、下から片輪車の音がしたのを見ると、車を引く牛もなく人もないのに、車の輪が一つ回ってやってくるのを見ると、人間の股が引き裂かれてくっついている。
 その女房は、驚き恐怖に襲われていると、その車が、人間のようにものをしゃべっている。それを聞くと、「どうした、そこの女房よ、私などを見るよりも、部屋に入っておまえの子どもを見ろ」と言う。女房は恐ろしいと思って、部屋に駆け込んで見ると、三つになる子を肩から股まで引き裂いて、片方の脚はどこへ取って行ったのか、見えなくなっている。女房が嘆き悲しんでも返ってはこない。
 あの車に引っかかっていた脚は、この子の脚であったということだ。女の分際で、やたらにものの正体を見ようなどとするからだ。