表紙文学と昆虫>枕草子と昆虫 第1回


文学にでてくる昆虫 古典編2



「枕草子」に出てくる昆虫 第1回

『虫は鈴虫。ひぐらし。蝶。松虫。きりぎりす。はたおり。われから。ひを虫。螢。』(第41段)

 
 「枕草子」はさまざまなテーマをかかげて、そのテーマごとに定番を列挙するという、いわゆる「ものづくしの段」というのが大きなウェイトを占めています。「笑っていいとも」に「定番クイズ」というのがありますが、「枕草子」はまさしくその元祖というべきでしょう。この「虫」の段もその一つで、まずは定番の虫を列挙する。このように列挙された名前を「枕」といったのようです。詩に詠まれる名所の定番を「歌枕」といいます。
 さて、ここに出てくる虫の名前は現在の虫とはずいぶん違っています。たとえば、鈴虫は今の松虫のことで、きりぎりすは今のコオロギのことで、ひを虫は今のカゲロウをさすといったぐあいです。だからといって、ひを虫をカゲロウと訳しても何の意味もない。ひを虫はひを虫です。
 「われから」という虫が一番問題で、実はこれは昆虫ではなく、海藻に住む奇妙な生き物で、エビなどの仲間である。何でこれが虫の定番かというと、「われから食わぬ上人なし」ということわざがあるくらいに、海藻を食べていると知らずに一緒に口に入ってしまうくらいよくいる生き物であるということと、もう一つ「われから=我から=自分から」という言葉を連想させるためによく歌に詠まれたからです。
 たとえば次の歌、
 「あまの刈る藻に住む虫のわれからと 音をこそ泣かめ 世をば恨みじ」
 「自分からまねいたことだとあきらめて泣いてしまおう。相手を恨むまい」という意味になります。
 いずれにせよ、昔から人は定番が好きなよです。個性よりもまず定番で安心したい。その後で、徐々に個性を発揮する。というわけで、次回は清少納言の個性、本領が発揮されるところを紹介します。
 
 おわり