表紙文学と昆虫>虫撰


虫撰の事


 「嬉遊笑覧」より

源氏物語(野分)
わらはべおろさせ給ひて虫のことにも露かはせ給ふなりけり・・
四五人ばかりつれてここかしこの草むらによりていろいろのこ(籠)ともをもてさまよひ虫を飼ふさまなり。虫をえらみて奉ることは堀河の御時などに起これるか。

著聞集
嘉保二年八月十二日殿上のをのこども嵯峨野に向ひて虫を取て奉るべきよしみことのりありてむらこの糸にてかけたる虫の籠を下されたりければ貫首已下みな左右馬寮の御馬に乗てむかひける蔵人弁時範馬のうへにて題を奉りけり。野徑尋虫とぞ侍ける。野中に至りて童僕をちらして虫をばとらせけり。十余町ばかりはをのをの馬よりおり歩行せられけり。ゆふべにをよんで虫をとりて籠に入て内裏へかへり参り萩女郎花などをそ籠にかざりたりけり。中宮の御方へまいらせて後、殿上にて盃酌朗詠など有けり。歌は宮の御方にて講せられける。簾中よりも出されたりける。やさしかりける事なり。

また、「年中行事歌合」注に撰虫といふはあながち式ある事にはなけれども殿上人の逍遥とて嵯峨野などへ向ひて虫籠にむしを撰み入て奉りけるなりとみゆ。(年中行事歌「いろいろにさかののむしを宮人の花すりころもきてそとりぬる)