表紙オカルト研究


陰謀論はなぜ生まれるのか
マイク・ロスチャイルド


2021出版

Qとは軍の情報将校を名乗る正体不明の人物である。
この人物は、ディープステートを襲う大粛清の日が近づきつつあることを故意に曖昧で暗号めいたメッセージにして、ネットの匿名掲示板に投稿するのだ。
Qは「アノン」と呼ばれる匿名のネットユーザーたちにそれらのメッセージについてリサーチして解読するよう促し、アノンたちが望むのであればどんな方向に向けてでも彼らを導いてゆく存在なのである。

すべては4chanの匿名の投稿者から始まった。

その投稿者はQクリアランスを持つ愛国者であると自らを名乗った。
クリアランスとは、合衆国政府機関が機密情報にアクセスする権限として実際に付与しているものであり、Qクリアランスはエネルギー省によって付与されるものだ。

彼らの任務は、膨大な眠れる大衆に気づかれることなく繰り広げられている秘密の戦争についての情報を広めることである。
この善と悪との戦争はもうすぐ終わりを迎えようとしていて、悪が滅び、児童人身売買のネットワークが滅び、ディープステートが滅び、真の自由が訪れようとしているからである。

Qは十人未満のチームであり、そのうち三人は軍人である。すなわちQとは、ネットの匿名系磁場を通して一般公衆に秘密の情報を提供する軍人・民間人混合のタスク・フォースなのである。
その秘密情報は誰でも自由に読むことができるが、「アノン」と呼ばれる選ばれたごく少数の人間だけが、暗号化された文章の真の意味を理解できるのである。

Qは一人ひとりのちっぽけな実人生に比して、何か大きな存在の一部になったような感覚を人々に与えた。

ディープステートとは単純明快にいうならば、民主党員、ハリウッドのエリート、ビジネス界の大物、裕福なリベラルたち、医学界、有名人、マスメディアが悪いやつらである。
これらの人々はムスリムの潜伏スパイであるバラク・オバマによって操られている。他にも血を啜る殺人鬼のヒラリー・クリントンやワシントンの権力者であるジョン・ポデスタがいる。
彼らはジョージ・ソロスや銀行業を営むロスチャイルド家から資金援助を受けているのだ。
これらの人物は、政府や情報機関、司法省に入り込んでいる多くの内通者や手下を動かしている。

Qアノンの始まり
2017年10月5日、トランプ大統領はホワイトハウスで軍人に囲まれ、「嵐の前の静けさかもしれない」と言った。
それが何を指すか答えず「そのうちわかるさ」と答えた。

ピザゲート事件は匿名者のフェイクニュースから始まった。
クリントンとポデスタがワシントンの人気ピザレストラン、コメット・ピンポンを拠点とした小児性愛者のための人身売買ネットワークに関与していると主張されたのである。

コメディアンのロザンヌ・バーがツイッターに書き記した内容はQ信者に大きなインパクトを与えた。
「トランプ大統領は、児童売春斡旋業者に捕まっている世界中の子供たちを数多く解放してきた。その数は毎月数百人にのぼる。そのことに気付いてほしい」と。

フーバーダム封鎖事件はQアノンの陰謀論と結びついた暴力行為が公然と行われた最初の例である。

Q信者は自分たちのことを「自閉症者」と呼んでいる。これは自尊心と自虐が相半ばする表現であり、他の人間が見ることのできないものを見通す力を持った発達障害者という含意がある。
彼らは権力者たちの「メッセージ」を解読し、権力者たちが「本当は」何を伝えようとしているのかを推測し、平凡な世界で眠り続けている羊たちには到底理解できない秘密の内容を解き明かすのが自分たちであると信じているのだ。

タンパ集会の後、Qと共和党主流派は切っても切れない関係になっていった。

レディットは、大いなる覚醒の掲示板にいた七万ものメンバーのアカウントを突如閉鎖した。


Q信者たちは、世界を変えるような奇跡的な出来事が起きる瞬間に自分たちが立ち会おうとしているのだと本気で信じていた。
暗闇から光へ。


「大いなる覚醒」というコンセプトは、Qが使用する以前は、この世の終わりにいくたびか現れる短期的で集中的な人々の熱狂を示す言葉であり、十七世紀や十八世紀の宗教復興を支えた考え方であった。

Qと最初の段階からかかわりを持っていたのは、人類がどうにかして罪を負わせようとしてきた集団、ユダヤ人であった。

ソロスとロスチャイルドの背後には、闇の邪悪な組織が控えていて、ほぼすべてのメディア、銀行、政治を裏からコントロールしているのだという。

血の中傷の現代版は「アドレノクロム」に対する誇大妄想という形を取って現れている。「アドレノクロム」は、生きている子供の副腎から抽出されるスーパードラッグであり、服用すると永遠の命が得られると考えられている。アドレノクロムはアドレナリンが酸化した化学物質であり、実際に血液の凝固を助けるために利用されている身近な物質だ。だが、大量のアドレノクロム接種が統合失調症の病状を発症させる引き金になりうるという学説が発表された。

国家経済安全保障経済回復法national economic security and recovery act 略してネサラの名前で知られる途方もない経済の大転換にかかわる提案を利用した。

九・一一陰謀論の最初であった。
三つの標的で、まさしくネサラによる改革が行われる予定だったという。

ドナルド・トランプ大統領がQアノンのコンテンツを初めてシェアしたのは2017年11月25日のことであった。
トランプ大統領の業績まとめサイトへのリンクをリツイートしてシェアしたのである。

Qアノン関連商品の中で、信者の新規獲得やメディアの注目を惹きつけることに最も貢献したのは、最初の大ヒット商品である書籍「Qアノン 大いなる覚醒への招待」であった。


三人の銃乱射事件の犯人はすべて、犯行声明を8chanの/pol/にアップロードしていた。
8chanは閉鎖されて「8kun」として復活する。

新型コロナウイルスのパンデミックがなければ、Qアノンは今日のような姿にはならなかっただろう。


人はなぜ陰謀論を信じるのか
人間の脳というものは、危険な状況を認識する必要があるので、一定のパターンを求め、混沌の中に秩序を見出し、何もないところにコントロールを働かせるようにできている。
陰謀論のもっとも基本的な主張は、自分たちが影の勢力から狙われているというものだ。

陰謀論は脳が生来持つバイアスやショートカット機能と共鳴し、人間の内面の奥深くにある願望、恐れ、世界や人々についての思い込みを利用する。

人は失敗が誰かのうっかりミスや偶然によるものだと信じたくないのだ。

人々が陰謀論を信じるのは、それが世界の「本当の」仕組みについて自分たちがすでに持っている偏見とぴったり合うからである。
信じることが危険なのではなく、信じない人たちを敵とみなすことが危険なのだ。


Qアノンの中にいると、自分が世界を救っているように感じるんです。そうやって最高の自己評価ができるんです。

秘密であるということが力を与えてくれるのです。他の誰もが知らないことを知っているという自惚れた満足感をもたらしてくれるのです。

コロナのパンデミックはデマであり、生物兵器に由来するものであり(陰謀論者が矛盾することを同時に信じるのはよくあることだ)、人口の大部分を絶滅させるためにビル・ゲイツとジョージ・ソロスが資金提供したというQアノン界隈で広まっていた陰謀論


ペンタゴン小児性愛問題タスクフォース
子どもたちが州の児童保護サービス機関に送られ、そこから性奴隷を扱う秘密組織に売られていると考えていた。

Q信者たちは、自分たちの仲間が引き起こした暴力行為について、Qを悪く見せるための偽旗攻撃だとみなした。


多くのQインフルエンサーがコロナ予防にMMSを推奨していた。

パンデミックと低迷する経済の責任をトランプに負わせて彼の責任を追及することで、トランプの再選を阻止しようとしているのだとQは主張した。

#子どもたちを救えのハッシュタグは2020年夏に何百万ものフォロアーをもつインスタグラムのインフルエンサーたちが、数多くの投稿をバズらせる中から出現してきたものだった。

Qアノンに影響を受けたデモ行進が2020年夏世界中で発生した。

ミームはインターネット上に拡散される冗談めかした画像や動画のことで、文化を共有しているか否かを見極める基準としても機能する。
トランプはQのミームやスローガンを定期的にシェアするようになっていった。
もっとも、トランプはQアノンとは何なのかをまるで知らないかのように振舞うことも多かった。


カリフォルニア州法145号法案「十四歳から十七歳までの年齢に該当し、年齢差が十歳以内の相手と合意の上で性行為をした場合、相手の年長者を性犯罪加害者リストに登録するか否かは判事の裁量に委ねられる」という法案が「小児性愛を合法化」しようとするものだとQアノン信者に非難され、議員は個人情報やアドレスをネットで晒されてしまった。


2020年7月にツイッター社はおよそ10万件にのぼるQ関連のアカウントを閉鎖し、Q関連のリンクを使用できないようにブロックし、検索結果にQ関連情報が多く表示されるブースト機能を解除した。
トランプはさしたる規制の圧力を受けることもなく、陰謀論やQのミームをツイートし続けていた。

襲撃事件を受けて、フェイスブックとツイッターはQアノンを厳重に取り締まった。

アシュリー・バビットが暴徒に加わったのは、ディープステートが2020年の大統領選挙を盗んだと信じたからである。

トランプがグリーンを支持していること、そしてグリーンがQを信仰していることについて質問だ出た。
トランプはほぼ三年にわたって自身のことを神と崇めてきた人たちのことについて次のように答えた。
「その運動についてはあまりよく知らない。彼らがわたしのことを非常に好きだということは理解しているし、それについては感謝しているのだけど、それ以外のことはよく知らない」
「Qアノンの人たちは、あなたが小児性愛者と人肉食者たちのカルトから世界を救うためにひそかに戦っていると信じているのです。あなたはQアノンの後ろ盾となっているのですか」
「もしわたしがそうした問題から世界を救うことができるというのであれば、わたしは進んでそうしたいし、そうすることを厭わないよ。実際に、わたしたちは世界を救っているのだから」

アメリカ中が眠っている夜中のうちに、大量に投函された偽の郵便投票が、激戦州の結果を共和党勝利から民主党勝利に変えてしまったのだ。それによってトランプは勝利を奪われた。

計画を信じよ。
われわれは勝利しつつある。
大量検挙は実施される。


Qアノンは心理作戦なのか、カルトなのか、ゲームなのか、
Q信者はQのことを、世界を救う計画であると考えている。
ドナルド・トランプと彼が厳選したアドバイザーたち、そして数百万ものデジタル兵士によって実行される計画であると信じているのだ。

アメリカ人の3人に1人は国際政治を裏から操る「ディープステート」の存在を信じている。
また、共和党支持者の23%が、「悪魔を崇拝するエリートたち」がつくる小児性愛者のネットワークが存在すると信じている。

未来が過去を証明する。これはQドロップで36回使われたフレーズである。

愛する人や友人をどうやってQから脱退させることができるかと尋ねてみた。すると彼は
「もし相手が金銭的負担を強いてくるとか、何か危険なことをしてくるというのでなければ、放っておけばいいのです」と述べた。
「対立を生むというマイナス面を正当化するだけのプラス面はないのです」。

カルト運動やヘイトグループに入るということは、中毒になるのと同じです。
信者の生活は、完全にその活動を中心に回ることになります。
したがって、こうした行動に入り込んでしまっている人自身が、変わる用意が出来ていない限り、家族も有人もほとんど手助けできることがない。


Qに夢中になっている人たちは、自分たちが収集した「秘密の知識」を欲しない人たちこそおかしいと考える可能性が高い。

Qアノンを生みだしたのが日本発の匿名掲示板文化であったということ。
4chan は当初日本のアニメ好きのオタクたちが集まる場所に過ぎなかった。
無法地帯化する匿名掲示板を管理人が野放しにし続けたことの責任。
Qアノンが誕生した当時の4chanの管理人であった「ひろゆき」こと西村博之氏の責任がいかに重いものかを清は徹底して問いかけていた。


ネットの普及は、陰謀論に関する情報へのアクセスを驚くほど容易にし、陰謀論を拡散させるスピードを劇的に速めた。
変わることのない陰謀論の発生パターンがある。
それは大きな事件や事故が起きた後に、事件や事故の背後に隠された「真相」を語るという形で陰謀論が生まれてくるというパターンだ。

不正選挙陰謀論のケースについては、ケーブルチャンネルでもっとも視聴されているフォックスニュースがこれを大きく取り上げて拡散させる役割を果たした。

近年、世界各地で民主主義国家の政治の不安定化を思わせる報告が相次いでいる。その原因のひとつにソーシャルメディアの普及を指摘する声は少なくない。
ポピュリスト的な指導者が台頭し、自らの政治的影響力を高めるために敵対勢力を悪魔化する言説を量産し、社会の分断をあおりたてる。

「アメリカは内戦に向かうのか」の著書で
内戦とは、必ずしも正規の軍隊が二手に分かれて戦場で戦うというものではない。
内戦とはテロやゲリラの形をとって勃発する可能性が高いという。
2028年11月のアメリカで、複数の州議会や裁判所が同時に爆弾テロの攻撃を受けるという架空の状況を描いている。

共和党支持者の六、七割が、2020年の大統領選挙を不正な選挙であったと一貫して考え続けているということだ。