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楽しみの中へ


 楽しいことをしていないと人間は堕落する。
本当に楽しいことはたぶん選ばれた人間にしか与えられない。
たとえば、F1レーサーが時速300キロを出す瞬間は本当に楽しかろう。
ワールドカップを実際に現地でみることも最高に楽しかろう。
本当においしいワインはわれわれが一生かかっても買えないだろう。
知識としての情報は本を読めば手に入る。
しかし、甲子園に行った人間にしたわからないことがある。
それこそが本当の情報なのだ。
金では買えない情報だ。
そうした情報は最高の楽しみの中にしか存在しない。
絶対に苦しみの中にはない。
苦しみはわれわれを欺く。
苦しんでいるというだけで自分が特別な人間のような気分になる。
しかし、苦しみには何の価値もない。
苦しみの中に逃げ込んではいけない。
逃げるなら楽しみの中へ逃げなければいけない。
最高の楽しみの中へ。

 ここで僕は「苦しみには何の価値もない」と言い切ることが必要だった。「苦しみを通して人は学ぶのだ」などというおためごかしにはうんざりだ。そういう甘言に乗って人はみな堕落していくのだ。だからこれは決して逆説ではない。楽しみにこそ真実がある。安逸ではない、最高の楽しみを求めたいと思った。
 「逃げる」というマイナスの言葉を逆転させた詩は多い。たとえば次の詩。

逃げる  山田かまち

僕は逃げる
どこへでも逃げる
そして自由になっている。
そして本質をつかむ。
きっとまた もどって くるだろう。
しかし今は逃げる どんどん逃げる
どこまでもどこまでも逃げる
逃げて逃げて逃げまくる