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長寿の秘訣について考える


 巷にはたくさんの長寿の秘訣とやらがまことしやかに喧伝されている。
今日はテレビで、ココアがいいということを聞いたらしく、夕食の席で親父がさかんに喧伝していた。
その親父というのが、もうすぐ91歳になるという、長寿の見本のような人間である。
一瞬私は、「この人は何を考えているのだろうか」とわけがわからなくなった。
91歳になる人が、これからさらに長寿の秘訣を試してみようというのはいったいどういう気持ちなのだろうかと。

そこで私はこう言った。
「お父さん、91歳になるまでこんなに健康で生きてこられたということは、お父さん自身が長寿の見本ではないですか。
今さら、他人から長寿の秘訣などを教わる必要はないのではないですか。
むしろ、お父さんこそが、長寿の秘訣を世間の人々に教えてやる立場にあるのではないですか」と。

すると、父は、
「いや、何でも試してみたい」と言った。

これを聞いて、私は、もしかして、この貪欲な好奇心こそが長寿の秘訣なのかもしれないと思った。

それはそれとして、参考までに父の日常をここに列挙して、長寿の秘訣について考えてみたい。

○父は今も老人会の副会長として、週2回グランドゴルフをしている。これが長寿の秘訣だろうか。

○父は常に趣味を持ち、好奇心旺盛である。今までにやった趣味を列挙してみる。
パチンコ、ボーリング、カメラ、ゴルフ、DVD鑑賞、ゲートボール、グランドゴルフ、書道、山水画、古物商、仏像彫刻、山車のミニチュア制作、パソコン、カラオケ、何でも修理、
現在夢中になっていることは、いらなくなった書き損じのA4版のノートを小さく切ってA5版のメモ帳に作り替えること。表紙を印刷して、製本用テープを使って張り直して作っている。百冊以上つくって、近くの公民館などに無料配布している。これが長寿の秘訣だろうか。

○毎朝、畑仕事をして汗だくになってから朝飯を食う。今年はメロンを作ったといって楽しみにしていたが、どこをどう間違ったのか、メロンだと思って植えた種からキュウリが生えてきてがっかりしていた。これが長寿の秘訣だろうか。

○父は、定年退職前に歯を全部抜いてしまい、総入れ歯にした。これが長寿の秘訣だろうか。

○父は、毎日寝る前にアイスクリームを一つ食べる。これが長寿の秘訣だろうか。

○父は、卵を食べると下痢をすると言って、卵を食べない。これが長寿の秘訣だろうか。

○父はアルコールを受け付けない体で、コップに5ミリほどつがれたビールを飲んで真っ赤になって気持ち悪くなるので、全く酒を飲まない。これが長寿の秘訣だろうか。

○父は、新聞やテレビで見たことを食事の席で全部言わないと気が済まないらしく、「今日の新聞じゃねえけど」「今日のテレビで言ってたけど」というのが口癖で、無理やり家族全員に聞かせようとする。これが長寿の秘訣だろうか。

○父は辛いものがだめで、カレーその他、ちょっと辛いものが入っているともう食べない。これが長寿の秘訣だろうか。

○父は食い物の名前を覚えない。いつも食べているものなのに、毎回、「これは何だ」と聞く。キャベツと白菜の区別ができない。これが長寿の秘訣だろうか。

○まだまだつづきます。

○近所の動向に常に目を配っていて、「今日は誰それさんの家は車がないからどこかに行ったかな」とか、「誰それさんは退職してから朝あっちの方角に歩いていくけど、どこか再就職したのかな」など、常に気にしている。これが長寿の秘訣だろうか。

○お墓を立てる土地はもう30年も昔に確保してあるのだが、石塔を建てると死ぬからと言って、絶対に石塔を建てさせない。俺が死んでからお墓の石塔を建てろと言う。これが長寿の秘訣だろうか。

○血圧が180とか200とか異常に高くても、運動しないからだなと言って気にしない。運動してきて測ると確かに血圧が下がる。これが長寿の秘訣だろうか。

○あと十年生きればいいかな、と70歳のときから言っている。これが長寿の秘訣だろうか。

○定年退職ころから、腹囲が異常に大きく、身長155センチくらいなのに、90センチ以上の太い腹のままずっと生きている。これが長寿の秘訣だろうか。

○父は根っからの医者嫌いで、血圧が180を越えていても、運動しないとこうなると言って絶対に医者に行かない。腰が痛くて歩くのに苦労していたときも医者には行かず、おばさんの家に行った帰りに玄関で転んで尻餅をついたところ、奇跡的に直ったことがある。これが長寿の秘訣だろうか。

○そういえば、若い頃、ヘルニア(脱腸)の手術をしたことがあるそうだ。これが長寿の秘訣だろうか。

○父は新聞の広告などを見て、面白そうな商品を家族に内緒でこっそり注文するのが好きである。たいていの場合、安物買いの銭失いという結果になる。たとえば、小さなリモコンのヘリコプターとか、一台でCDもテープもUSBもSDカードもレコードも聴けるという商品とか、一枚千円のポロシャツとか、小さなプロジェクターとか、それはそれは数え切れないくらいの安物を買っている。高いものは買えないらしい。すべて一、二回使うと飽きてしまうらしく、どこかにしまいこまれるというパターンをくり返している。これが長寿の秘訣だろうか。