インサイド介護保険 その12

介護保険のもう一つの問題は、杓子定規な「全国一律」です。

在宅サービスにしても施設サービスにしても、所かわれば品かわるで、その基盤にはもともとかなりの地域差がありました。早い話、隣同士の前橋市と渋川広域圏でさえ、利用可能な介護サービスは全然違います。もーのすごく違います。知っている人はもちろん知ってますけど、フツーの人はあまりご存知ない。だからこういうのを見たときに判断を誤ります。

Aさんは半寝たきりの生活をしています。食事の支度や洗濯、買物などは一人ではとても無理なので、毎朝・晩のヘルパーさんが欠かせません。しばしば体調を崩すため、看護婦さんが毎週訪問しています。お風呂は週三回のデイサービスと週一回の入浴サービスで入ります。現在でも毎月の負担額は10000円近くになり、家計を圧迫しています。さて、Aさんの要介護度は「要介護1」でした。介護保険になると、Aさんは同じサービスを受けるのに毎月なんと101804円支払わなければなりません。

どーです、介護保険ってひどいでしょー……というのが今回の趣旨ではありません。実は、この手の問題が深刻となるのは、そもそものサービス基盤が充実している地域に限られます。残念ながら、われらが渋川広域圏はまだその水準にありません。

早い話、渋川広域圏でこれだけの介護サービスを受けている方はまずいないんです。利用したくったってそれだけの枠がない。利用しているサービスが少なければ、当然利用料も低く抑えられますから、極端な利用料アップもありません。そういう内部事情を知らないと「ああいっていたけど、そんな話聞いたことないよね。マスコミがただ騒いでいるだけじゃないの?」ってことになります。

もっと困るのは、本当の問題がマスクされてしまうことです。ここまで極端ではないにしても、一般に介護保険下では利用料の自己負担は増えます。五割増くらいになった人はざらですし、倍近くになった人だって結構います。しかし、ここで件の十倍の人と比べられて「もっと大変な人も大勢いるんだからがまんしなさい!」とやられてしまうと、ちょっとね。


「くらしと医療」2000年5月号


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