平均寿命って何?

先月号の紙面はどこもかしこも介護保険でした。そうするとへそを曲げたくなるのがホットタイムということで、今回は別の話題を取り上げます。

テレビというのは実にいいかげんです。プロにとっては、病院を舞台にしたドラマなんて大半はアホらしくて観てられません。ドラマはそれでもフィクションですから「まあ御勝手に」で済みますけど、一見知的・科学的を装った番組も結構いいかげんなので、これはちょっと困ります。

先日の某トーク番組でのひとコマ。江戸時代?の平均寿命は四十歳以下だったということについて、ゲストの某曰く「これってすごいですね。私もあなたも、ここにいる人ほとんどがあと二三年で死んじゃうってことでしょ」「そうだよねぇ」オイオイ、そうじゃねえよ。

平均寿命とは、正確にはゼロ歳平均余命といいます。読んで字の如く、ゼロ歳の人が平均してあと何年生きられるかという指標です。ポイントは、平均寿命四十歳という場合、余命四十年なのはあくまでゼロ歳の人だってこと。四十歳の人の残り何年ならば、あくまでも四十歳平均余命で考えなければなりません。つまり、単純に引き算して四十歳の人は余命ゼロとやるのは大間違いです。

乳幼児死亡率のきわめて低い現代日本においては、死亡年齢のピークは高齢期に集中しています。実は、この場合に限っては、単純に引き算してもあまり問題ありません。現に厚生省の資料では、平成十年における女性の平均寿命は84.01歳、四十歳平均余命は45.01歳です。

しかし、江戸時代ではこうはいかない。この時代の乳幼児死亡率は現代に比べて非常に高かったので、そもそも大人になるまでが大変でした。平均余命は少なくともその年齢まで生きていた人を対象に計算します。だから、江戸時代であっても、大人の平均余命ならば平均寿命ほど低い数字にはならないんです。残念ながら江戸時代の資料は入手できませんでしたが、昭和二十二年における女性の平均寿命は53.96歳、それに対して四十歳平均余命は30.39歳です。

トーク番組なら、このくらいの突っ込みは入れてくれないとね。


「くらしと医療」2000年6月号


次のを読む
前のを読む


Indexにもどる
トップページにもどる