自分の頭で考えよう

最近、解熱鎮痛剤とインフルエンザ脳炎・脳症との関連が話題になっています。厚生省の研究班が「インフルエンザ脳炎・脳症の治療に際して、ある種の解熱鎮痛剤を使用したケースで死亡率が高かったので、症状の重症化に関与している可能性がある」という調査報告をまとめ、それを受けて厚生省が「緊急安全性情報」通称イエローカードを出したのが発端です。

ある病気が起こることと、その病気が悪くなることは、本来全然別のことです。しかし、どうも世間様にはこれを同一視する傾向があります。糖尿病の人が砂糖を摂り過ぎれば、もちろん病気は悪くなります。そして悪化したことが発見のきっかけとなることもあるでしょう。しかし、だからといって砂糖を摂り過ぎたから糖尿病になったわけではありません。この区別はすごく大切なのですが、どうもいささか怪しい。だから、某週刊誌の新聞広告はこうなっちゃいます。曰く「インフルエンザで『解熱剤』を飲むと『脳炎』になる」

厚生省の名誉のために言いますと、イエローカードには「発症には関与しないが重症化を招く可能性がある」ときちんと断ってあります。要は、インフルエンザ脳炎の人が解熱剤を飲むと脳炎が悪化する恐れがあるが、飲んだからなるってわけではないってこと。だから、件の広告は明らかに売らんかなの誇大表現です。

しかし、実はここからが問題です。医療関係者はこうして「何言ってんだ、けっ」と一蹴できるわけですが、この新聞広告を目にする人の大半は、緊急安全性情報を直に目にする機会はまずありません。では、そこでどうするか。鵜呑みにして不安になるか、まあ話半分に受けとめるか、あるいは無視・黙殺を決め込むか、いずれにしても、記載の真偽を確かめることなく、そそくさと態度を決めてしまうのではありませんか?

世の医療情報のええかげんさは、もちろん医療現場では格好の笑い話になります。しかし、誰かがこんな風に口にすると、そうそう笑ってばかりもいられなくなります。曰く「その道のプロが見れば『なんじゃこりゃ』っていうのは、きっと医療関係に限った話じゃないぞ」

サメの脳みそはアイテーアイテーとはしゃいでますけど、あてにならない情報の氾濫は、ないのと同じかむしろ有害です。そもそも、アイテーカクメーを待つまでもなく、マスメディアからの大量の情報は、個人の処理能力なんぞとっくの昔に超えています。だから、あわてて光ファイバ敷いて、この上さらに情報を増やしてもしょうがない。今必要なのは、立ち止まって自分の頭で考えること。つまり、情報を正しく理解し判断するゆとりと力です。

ポケットの道具で成功を確信するのび太君へ向けた、ドラえもんの忠告はこうでした「どうかな、道具を使うのは結局人間だからね」


「くらしと医療」2000年12月号


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